第三十四話 好きになる理由
日曜日、こはくは美咲と出かけた。
夕方に帰ってくると、小さな焼き菓子の箱を直人へ渡す。
「美咲が、おいしいって」
「俺に?」
「甘すぎないから好きそうだと思った」
直人は少し嬉しくなった。
自分と別の時間を過ごし、その途中で自分を思い出した。
「何話してた?」
「恋愛」
「嫌な予感するな」
「好きになる理由って、後から考えることもあるって」
美咲は昔の恋人を好きになった時、最初から理由があったわけではないという。
一緒にいると楽しい。
会いたくなる。
他の人と親しそうだと少し嫌になる。
そういうものが先にあったらしい。
「直人は?」
「俺?」
「誰か好きになった時、理由あった?」
直人は考えてから答えた。
「最初から理由を並べて好きにはならないかな」
「いつ分かるの?」
「その人を他の人と同じ扱いできなくなった時とか」
会えれば嬉しい。
返事が来なければ気になる。
他の誰かと親しそうだと嫌になる。
口にしてから、自分にもかなり当てはまると気づく。
「直人、それ私にしてる」
「……してるかもな」
こはくが嬉しそうにする。
「でも、お前はまだ人間になってから時間が短い」
「またそれ」
「これから他の人を好きになる可能性も」
「直人は、私に他の人好きになってほしいの?」
「それは嫌」
こはくの眉が納得できないように寄った。
「じゃあ嫌って言えばいいのに。自分が嫌なことまで、私のためみたいに言う」
図星を突かれ、直人は返す言葉を失った。
反論できない。
「……そうかも」
こはくは目を瞬いた。
直人は続ける。
「お前の世界は狭くしたくない。でも、他の男好きになったら嫌だ。両方本当」
「私も似てる」
「何が?」
「美咲は好き。でも直人と美咲が恋人になるのは嫌」
「佐伯さん巻き込むなよ」
気まずさが少しほどけ、二人で笑った。
やがて、こはくが真面目な顔へ戻る。
「私、理由考えた」
直人だから安心できるし、帰ってくると嬉しい。
手をつなぎたいし、抱きつきたいとも思う。
直人にかわいいと言われると、美咲に言われるより嬉しい。
「これ、恋?」
「俺が決めたら意味ないだろ」
「またそれ」
こはくは考え、やがて言った。
「たぶん、直人のこと好き」
直人の胸が強く鳴る。
「たぶんなんだ」
「まだ分かんないことある。でも前より分かる」
こはくは一拍置く。
「猫の時は、直人の家が私の場所だった。今は一人で外にも行けるし、美咲とも遊べる」
「うん」
「それでも、直人のいるところへ帰りたい」
それは、昔とは違う選び方だった。




