第三十三話 それは、君の気持ちなのか
翌朝、二人は向かい合って朝食を食べた。
こはくは普通にトーストを食べている。
直人だけが、昨夜の抱擁を意識していた。
「直人、目合わせない」
「合わせてる」
「今、壁見た」
「見てない」
「見た」
こはくは少し笑ったあと、言った。
「今もくっつきたいよ」
直人の手が止まる。
「昨日みたいに苦しくはない?」
「ない」
「身体が熱い感じも?」
「ない」
「それでも?」
「うん」
直人はカップを置いた。
「俺にくっつきたいっていうのが、撫でてほしいのか、抱きつきたいのか、それとももっと近くにいたいのか、自分で分かる?」
こはくはすぐには答えなかった。
「昨日は身体が勝手に直人のほうへ行きたくなる感じだった」
「今は?」
「昨日みたいに苦しくない。でも抱きつきたいのは残ってる」
「撫でてほしいのとは違う?」
「うん。撫でてほしい時は頭触ってほしい。今は、直人に触りたい」
直人の胸が強く鳴る。
「俺だから?」
「たぶん」
「たぶん?」
「美咲にはしない。知らない人にもしたくない」
こはくの人間としての世界は、まだ広いとは言えない。
直人はそのことを理由に、簡単に恋だと決めたくなかった。
「怖いんだ」
「直人が?」
「ああ。あとで、お前が『昔から一緒にいたからそう思っただけだった』ってなるかもしれない」
「それが嫌?」
「嫌だよ。でも俺が嫌だから決めるのも違う」
こはくは答えを探すように黙った。
「分かんない」
「そうだよな」
「でも、分かんないから今の気持ちが嘘になるわけじゃないよね」
直人は迷わず頷いた。
「ならない」
午後、二人はソファへ並んで座った。
肩が触れる。
こはくが手を伸ばす。
「つなぎたい」
直人は手のひらを上に向けた。
指が重なる。
「これも今の私の気持ち?」
「それは俺が決めることじゃない」
「じゃあ私が決める」
こはくはつないだ手を見た。
「今は、そう」
直人はその答えを否定しなかった。




