第二十六話 夜の発作
廊下へ出ると、こはくの部屋のドアが半分開いていた。
「こはく?」
返事がない。
中へ入ると、スマートフォンが床に落ち、その少し先でこはくが壁に手をついていた。
立っているというより、身体を支えているだけに見える。
「どうした?」
「……分かんない」
額に汗が浮いている。
顔色も悪い。
直人は腕を支え、ベッドへ座らせた。
「息苦しい?」
「少し」
「胸は痛い?」
「違う」
「吐きそう?」
こはくは首を横へ振った。
その直後、身体が大きく震える。
「寒い?」
「分かんない。身体、変」
直人はスマートフォンを取った。
「救急車呼ぶ?」
こはくが服をつかむ。
「待って。尻尾ある」
病院へ行けば、身体を診られる。
隠し通すのは難しい。
それでも、危険ならそんなことを気にしていられない。
「もっと苦しくなったら呼ぶ。今は横になれる?」
こはくが頷く。
横になると、今度は背中を押さえた。
「痛い?」
「尻尾の近く」
尻尾が不規則に動いている。
直人は以前猫耳があった頭の辺りを気にする様子にも気づいた。
「そこも変?」
「中から引っ張られてるみたい」
猫耳が消えた翌日に起きた発作なのだから、無関係とは思えなかった。
直人は救急相談へ電話できるよう準備しながら、意識や呼吸を確認する。
「十分だけ様子を見る。それで良くならなかったら病院行く」
「分かった」
こはくは不安そうに手を伸ばした。
「直人、手」
直人は握る。
指先が冷たい。
「怖い?」
こはくは一拍置いて頷いた。
「うん」
「俺も怖い。でも、ここにいる」
「うん」
直人は自分の呼吸をゆっくり見せ、こはくに合わせてもらった。
数分すると震えが弱くなり、呼吸も少し落ち着く。
十分を過ぎる頃には、顔色も戻り始めた。
「病院は?」
「今は、もう少しここにいたい」
「また悪くなったらすぐ行くからな」
「うん」
直人はベッド脇に残った。
夜明け前には、こはくは眠っていた。
朝六時頃、肩を叩かれて目を覚ます。
「直人」
こはくがベッドの上から見ていた。
「大丈夫?」
「うん。お腹すいた」
その一言で、直人はようやく息を吐いた。
朝食を食べながら、こはくが自分の頭へ触れる。
「耳なくなったからかな」
「俺も考えてる」
「人間になってる途中?」
直人は答えられなかった。
こはくの身体の中で何かが進んでいる。
耳が消えたことを、もう単なる便利な変化とは思えなかった。




