第二十三話 手を貸さなくてもできること
直人が仕事へ戻る頃には、こはくは家のことをかなり自分でできるようになっていた。
朝、買い物のメモを見せる。
「牛乳、卵、ティッシュ、鶏肉」
「鶏肉は生だから――」
「直人」
「何?」
「行ってきて」
直人は口を閉じた。
「分かった。何かあったら連絡して」
「うん」
昼休みには、洗濯物の写真が送られてきた。
同僚に画面を見られ、「彼女ですか」と聞かれる。
「違います」
反射的に答えた。
その速さが、自分でも少し気になった。
帰宅すると、台所から匂いがする。
こはくが鶏肉と野菜を炒めていた。
「手洗った?」
聞きかけて止まる。
まな板は分けてあり、生肉を触った道具も洗われている。
「何?」
「いや。何か手伝う?」
「これはいい。味噌汁お願い」
二人で並んで夕食を作った。
炒め物は少し塩辛かった。
「濃い?」
「ちょっと」
「次減らす」
こはくは落ち込むでも、直人の評価を待つでもなく、自分で味を確かめる。
食後、直人が言った。
「今日はあんまり確認しなかった」
「うん」
「任せたから」
こはくは満足そうに笑った。
「明日も作る」
「成功しても失敗しても写真送って」
「何で?」
「見たいから」
こはくは頷いた。
手を貸さないことは、放っておくことではない。
その違いを、直人もようやく覚え始めていた。




