第二十一話 初めての喧嘩のあと
ある夜、こはくが言った。
「美咲、今度ここ来たいって」
直人はすぐ眉を寄せる。
「耳と尻尾あるだろ」
「隠す」
「家の中でずっと帽子は不自然だよ」
「でも来てほしい」
「危ないからやめたほうがいい」
こはくの表情が変わった。
「また直人が決めるの?」
「そういう意味じゃ」
「教えるのと、決めるのは違う」
直人は言葉に詰まった。
こはくは自分の部屋へ入り、ドアを閉めた。
一人になってから、直人は考えた。
猫だった頃は、窓を開けるか、病院へ行くか、何を食べるかまで、危険に関わることは全部飼い主の自分が決めるのが当然だった。
その癖を、人間になったこはくにも続けている。
しばらくして、直人はドアをノックした。
「入っていい?」
「うん」
こはくはベッドに座っていた。
「さっきは悪かった」
「何が?」
「俺が怖いからって、お前の答えまで先に決めた」
こはくは何も言わない。
「美咲を呼ぶなら、どう隠すか一緒に考えよう。最後に呼ぶか決めるのはお前でいい」
「直人は怖い?」
「怖いよ」
「耳見られるの?」
「それも。でも」
直人は言うべきか迷ってから、口を開いた。
「お前が一人でできること増えたら、そのうち俺いらなくなるんじゃないかって思う時もある」
こはくが目を丸くする。
「何でそこ一緒にするの?」
「俺にも分からない」
「一人でできること増やしたい。でも直人いらないとは思ってない」
「うん」
「それ、別」
直人は肩の力を抜いて笑った。
「そうだな」
こはくが手招きする。
「直人」
「何?」
「これは私が好きだから」
そう言って隣へ座るよう促した。
意味を理解し、直人は頷く。
「分かってる」
こはくが頭を預ける。
「知ってるよ」
今度は、猫だったからとは言わなかった。




