第20話 森でスカウト
出来立てのゲートを潜ると、そこは生まれたての森だった。
さわさわと爽やかな風が横をすり抜けて、ふわりと新緑の香りを残していく。
ああ……癒しのフロアだわ……。
ここは一階層よりもやや広く、様々な性質の森がエリアごとに広がっているらしい。
森の中には泉があったり、豊富な植物が茂っていたりと、草食系の方々にとっては天国のような環境なのではないでしょうか。
まずは魔獣の森でウッサロップたちを誘い、そのついでに他の魔獣やら、魔族やらにも声をかける。
女神の森の連中も誘う予定なので、多種多様で賑やかなフロアになりそうだな。
そうなると、広くてエリアが分かれてるとは言え、別々の森の連中が同じフロアに同居することになるだろ?
一階層のアレを思えば、先にフロアマスターを選定しとくのが丸いよな。
けどなあ、付き合いがある住人って、ウッサロップとヒカリしかいねえんだよな。
……選択肢はねえか。
ここはヒカリにしておくか。
うちからの通勤だって言えば、嫌だとは言わねえっていうか、きっと食い気味に了承するだろうし、最近フラフラと居着かねえクロベエもヒカリと一緒に帰ってくるようになるはず。
クロベエにもたせてるお弁当が効いてるのか、ぐんぐん賢くなってるし、適役だと思うわ。
よし、後でルーちゃんとヒカリに提案してみよっと。
それではさっそくスカウトに……と、行きたい所だが、地味に結構良い時間なんだよな。
そもそもよ……クリスマス大作戦をやった直後だぞ?
イベントの密度が濃いってレベルじゃねえだろ……。
だから……続きは明日にしよう……な?
◇◆◇
一夜明けて。
早朝から目を覚ましたルーちゃんが、元気いっぱいに――
「ほら、ユウ、まーま! 起きて起きて! 森に行こうよ、お友達を誘わなきゃ!」
――と、元気いっぱいに起こしてくれたので、予定より二時間早く森に向かうことになったのだが、まあルーちゃんが言うならしかたがない。
つうわけで、朝から元気よく出発し、ウッサロップたちが居る広場に来たのだが……。
なんか、白いモフモフと黒いモフモフがぴったりくっついて転がっているんだよな……。
なんかこれ見覚えがあるわあ……ありすぎるわあ……こんなところに居たのかよ、お前よお。
「おはようクロベエ……最近帰ってこねえと思ったら、ずいぶんと仕事熱心なんだな」
黒いモフモフがビクッとした。
「……ちょ、ちょっとね……予感がして泊まり込んでたんだ」
「そうか、予感か。まあ、今日は面白いことをするから正解かもしれんな」
「え……」
「む……親父殿ではないか」
「おう、ヒカリ。起きたんなら、お前も向こうで話を聞くといい。ルーちゃんが大事なことを説明してっからよ」
「ふむ……心得た。クロベエ、私は少し向こうに行ってくる」
「え、あ、うん……いけば」
「いいのかぁ? ヒカリにあんな態度しちゃって」
「別に。あいつとはそんなんじゃないって言ってるでしょ」
お前の尻尾は正直だからなあ……しょんぼりと垂れ下がってるから丸わかりだっつうの。
ああ、ほんと愉快な猫だよ、お前はよ。
「ちょ、ユウ……やめれ、腹をくすぐるなー!」
「わはははは、なんだか久々な気がするぜ! おりゃおりゃ!」
「やめれー」
クロベエときゃっきゃうふふと遊んでいると……背後からわあっと声が上がった。
声の方を見れば、ウッサロップたちがルーちゃんを取り囲み、歓声をあげていた。
「ほ、ほんとうに……われらをあんじゅうのちに?」
ウサギどもがぴょんぴょこぴょんぴょこ跳ねている。
「ほ、ほんとうに クロベエと住めるのか?」
ヒカリもウサギどもと混じってぴょんぴょこ跳ねている。
どうやら、ここを護っているうちに仲良くなったらしい。
……クロベエが混じりたそうに見ている……行けばいいのに。
「そうだよ。私と契約すればね、ダンジョンの中だと死ななくなるんだ」
「おおお……まさに、われらのあんじゅうのち……」
ルーちゃんからダンジョンルールを聞き、ピョコピョコが激しくなっていく……。
死なないってだけで、死にかけることはあるんだが……大丈夫かな? あ、ちゃんとその説明をしているわ。
「われらには、それくらいがちょうどいい」
「そうだ、そうだ! ぬるまゆにつかりすぎるとだめになる」
「くわれぬだけで、じゅうぶんありがたし」
「ありがたし! ありがたし!」
「だんじょんのあるじ るーさま!」
「るーさま! るーさま!」
……はじまっちまった。
わいのわいのと盛り上がり、合唱を始めたウッサロップを楽しげにルーちゃんが見ている。
まあ……コイツラの勧誘は終わったようなもんだからいいか。
続いて他の住人たちの勧誘に移りたい所だが……これは一度俺にやらせてもらうよう、ルーちゃんにお願いした。
この森にはさ、俺もクロベエも散々お世話になってるわけじゃん。
そう……捕食者として、散々お世話になってるわけじゃんか……だから、最初は俺から挨拶をして、筋を通そうかなって……。
不幸中の幸い……つって良いのかはわからんが、一番気にしていた連中、ヒッグホッグとレッグコッカ、あとウルッグは、ルーちゃんのお友だちの対象外、つまり言葉が通じないタイプの魔獣らしくってな。
ルーちゃんのスキルで話せるようになったら気まずいなあって思ってたから、ほっとしたわ。
パンさんから聞いて納得したのがさ、言葉を話せるほど賢く、意思がはっきりしてる連中は、そもそも俺やクロベエの前に現れないんだってこと。
どおりで、魔獣の森も、女神の森もいつも似たようなのばっかり出るなあって思ってたんだよ。
まあ、パンさんだから各マップ三種類くらいしかポップ登録してねえのかな、くらいに思ってたら、沼地の連中、多種多様すぎるくらいにいっぱいいたじゃん。
なんで? って聞いたら、そう教えてくれたんだよね……。
これは俺の予想でしか無いが、意思がはっきりとしていない魔獣って、もしかすると動物枠として配置したのかもしれないな……。
……という話は、あくまでも俺たちからみた視点の話だ。
意思が弱く、話が通じない魔獣でも、森の住人にとっては、共に暮す魔獣でしかない。
つまり……俺やクロベエは、住人たちから見れば立派な捕食者であり、侵略者だ。
あちらこちらから、気配を感じるから、きっと俺らの様子を見ているんだろう。
……よし、まずはご挨拶からだ。
「ルーちゃん、限界まで範囲広げてちょうだい」
「おっけー! むむむむーん!」
最近だと、家からだいぶ離れたところでもモル助と会話できるからな……日常的にあんくらいの広さを維持できてるなら、今の限界って俺の予想よりもだいぶ広いかもしれん。
……まあ、今回は広くて困ることはないからヨシとしよう!
「毎度お世話になっています、森のはずれのユウ、ユウでございます! 本日は皆様により良い環境のご提案に参りました!」
森のあちらこちらからザワザワと声が聞こえてくる。
「お、おい! くろきしにがみがきたぞ!」
「かりとりしものも、いっしょにいる!」
「おれたちにかたりかけてるぞ! おしまいだ! おしまいだ!」
「こんどは、おれたちが、かられるばんだ!」
「くっ……にげてもにげてもこえがする……もうだめだ!」
……俺達そんな恥ずかしい名前で呼ばれていたのか……。
「お前らは狩らないから、出てきてくれよ。来ないならこっちからいくぞ?」
ざわざわ、ざわざわと声が聞こえる……やべえ、予想以上に怯えられてんだけど……。
間もなくして、ガサガサと音を立てて、ゆっくりと住人たちが姿を現した。
「こ、こどもだけは、おたすけを……」
「ほんとうに……くわぬのですよぬ?」
「ワレラマズイ……ユルシテユルシテ……」
うっわ、マジで見たこと無いやつらばっかだわ。
シカっぽいのにサルっぽいの、フクロウみたいなのに、虫っぽい方々もいらっしゃる……向こうの緑のお姉さんは魔族かな? チアキの姐御とちょっと似てるな……。
うーむ、魔獣の森とは、こんなにも多種多様な方々が住んでたんだなあ。
ルーちゃんが居なかったら、一生会えなかったかもしれんな……。
「俺らは言葉が通じるやつは襲ってないし、これからも襲わねえよ」
「ほんとうか? ほんとうにおそわないか?」
「ああ、襲わねえし食わねえよ……これからは仲良くしようぜ?」
……これ、普通に暮らしていたら一生言わないセリフだよなあ。
森で散々暴れといてこれだぜ?
我ながら、ただのやべえやつだわ。
ほらみろ、訝しげな眼差しで見てるぞ……やっぱ一度染み付いた印象は直ぐにどうにかなるもんじゃねえわ。
いいさ、挨拶できたし、伝えたいことも言えたからな。
ここから先はルーちゃんにお任せだ。




