第21話 おいでませ塩のダンジョン
「ルーちゃん、交替だ。後は頼んだよ」
「うん! えっと、初めまして、塩のダンジョンのダンジョンコア、ルトです」
俺に代わってルーちゃんが話し出すと、今度はダンジョンコアと聞いてざわざわとし始めた。
「おい、だんじょんこあってなんだ?」
「ダンジョンを創るモノだってばっちゃがいってた」
「だんじょん? ってひとがつくってんのか?」
「よく見なさい、あれは、人ならざるものよ……」
「いわれてみれば、すごいまりょくをかんじるな……」
魔獣や魔族も知識はピンキリのようで、ダンジョンを知る者、知らない者と様々だ。
「ルーちゃんね、昨日がんばって森の階層を作ったんだ。みんなもルーちゃんとお友達になってお引越ししてくれませんか?」
驚き、戸惑いざわめく森の住人たち。
ここですかさず俺の秘策がインターセプトだ!
「ルーちゃん……これを読み上げて」
「え? あ、うん。あのね、一階層はね、湿原なんだけど、あっちにある沼の子たちが引っ越してきたんだ。住んだ感想を聞いてきたから、教えるね……ええと」
俺が渡した紙束をもち、キリっとした顔で読み上げていく。
「死なへんので安心して生活ができますわ タルット 十二歳」
「元の沼より魚が美味しくてうれしいの シャクシャーク 三歳」
「ここの水お肌にいいのよ。潤うわあ アラモーナ 年齢未記入」
「ここはいいぞ! 強くなれるし新たな力も得られた! モルモル 四十九歳」
次々に読み上げられるアンケートの回答文の効果は絶大だ。
先程まで微妙な反応が多かったのに、手のひらを返したかのように好意的な言葉が聞こえてくる。
ようし……今なら俺が喋ってもビビられねえだろう……ここでひとつ、追撃を入れておくか。
「タルットの感想にあったが、ダンジョンに住むと寿命が来るまで死なねーんだって、凄くね?」
「しななくなる……だと?」
「ああ、怪我をしたり、毒にやられたり、病気になったりして死にかけてもすぐ元気になるんだ」
「本当なの?」
「ほんとうだよ。あとな、ダンジョンでは住人を狩るのが禁じられてるからさ、ここに居るよりずっと安心して暮らすことができるぞ」
「ソレハ、ホントウカ? ワレラモ……カラレヌノカ?」
不安げな声で言ったのは……ずんぐりむっくりとした鳥だ。
アレだわ、カカポだ……カカポだわこれ……鑑定してみよ……まんまカカポじゃねえか!
パンさんさぁ……あ、目をそらした。
さてはカカポ気に入って、そっくり同じの作ったな……。
「ああ、意識がハッキリしていて、ルーちゃんと契約できる者が住民登録の対象だからな、お前も大丈夫だよ」
「じゃ、じゃあさ、うちらも大丈夫ってことよね? たまに齧られて嫌なんだけど……」
サワサワとでっかい花びらを揺らしながら言うのは……おお……アルラウネとかそういうあれか? ギャルっぽいお花のお姉さんだ。
スラスラ喋れてる辺りからして……ああ、やっぱ魔族か。魔族さんなら余裕で登録可能ですわ。
「ああ、勿論さ。住民登録ができないのは、言葉が通じず、唸り声しか上げられないような連中だけ……言い方は悪いが、そういう連中は狩りの対象としてダンジョンに住まわせることになるな……」
ざわめきが広がっていく。
「つよくなるんだって」
「死なないのいいよね…」
「イイ……」
「オレタチヨリ、バカナモノハ、カラレルカ……」
「まあ、あいつらはな……」
「ショウガナイナ……アレハ、ワレラモカルシナ……」
「うちらを齧るし、いい気味よ」
……よし、なんとか上手くいきそうだな。
後はもう、サクサクと契約が進みそうだったので、この場はルーちゃんに任せてクロベエと狩りに向かう事にしました。
この流れで狩りとかサイコパスかよって? いや……流石の俺でも普通の狩りはしねえよ……生け捕りだよ、生け捕り。
自我が薄い連中をさくっとストレージにぶちこんでダンジョンへ強制的にお引越しさせちゃうアレをするんですよ。
つっても、小型の奴らね。
ヒッグホッグみたいな大型の動物的な連中は今回は無し。
アレらを生け捕りするのはキツそうなので、住民たちから要望が来たら考えることにする……。
じゃあ、小型の魔獣なら楽勝かといえば、そうでもないよな……。
陸生生物だと、湿原でやったみたいに水ごとソォイができないわけじゃん。
捕まえたいのは、虫や小鳥、ネズミなんかの意思が弱い小型の生物たち。
一応、虫取り網は持ってきたけれど、流石にこれでどうにかなるとは思えない……。
……こういう時は。
「パンえも~ん……どう考えても無理ゲーだよお……」
「しょうがないなぁ、ユウ太くんは……そう言うと思って用意してたわよ。はい、【女神式重力罠】ゥ……」
「うっわ、旧の声やん……親近感わくわあ」
「新も好きだけど、最初に見たのが旧だから……って、声にくいつくな! そこは道具について聞きなさいよ!」
「それはそう。それで、こいつはどんなブツなんで?」
「これはね……ま、使ってみたらわかるわ」
「ズコー!」
というわけで、パンさんの指示のもと実際に使ってみたのだが……これ、端的に言ってアカンやつですわ。
その道具の見た目は、両手で持てる箱……そうだな、大きめのミカン箱を想像したらいい。
蓋は開いているが、中は真っ暗でなにも見えない。
そう、まんまちっこいアイテムボックスのような感じだな。
そいつを地面に設置して十メートルほど距離を取る。
いつの間にかスマホにインストールされていた専用アプリを使って起動すると……妙に美味そうな香りが辺りに漂い始めたんだ。
何系の匂いと例えるのは難しい……パンさんが言うには、全ての者が美味そうと感じる香りを発するらしいのだが、この時点で俺はもう「あ、これヤベエ道具だ」って思ったよ。
間もなくして、厳つい顔をしたネズミのような動物が現れた。
キョロキョロと周囲を警戒しながらも、匂いに抗えず箱に向かって行き……シュっと姿を消した。
『……今のって』
と、パンさんに聞いたら――
『収納されたのよ』
――と、なんてことない顔でおっしゃった。
あの箱は、見た目だけじゃなく、アイテムボックスの類らしい。
ただし、パンさんがカスタムした特別仕様で、ターゲット指定された条件に一致する魔獣が近づくと自動で収納するやべえ道具らしい。
まあ、箱の口を通るサイズしか無理っつう話だから、ヒッグホッグとかは対象外らしいがね。
それに、住民登録できるような魔獣は、誘われないし吸い込まれないらしい……んだけど、さっきからクロベエのやつがチラチラ、チラチラと箱を見ては舌なめずりしてるんだよな……。
クロベエがあほなのか、パンさんだからさりげにやらかしてるのか……二重の意味で疑わしいぜ……。
つうか、普通に考えてよ、俺すら美味そうって思う香りなんだから、多少賢いやつでも『なんか変なのあるな?』って、近づいちゃうと思うんだよな……。
ウッサロップは地味にデケエから平気だろうが、向こうでリスみたいなやつが喋ってんの見たんだよな……。
間違えて捕獲されたりしねえよな?
条件に一致しないから大丈夫? ほんとだよな? 信じるからな……。
こうして俺が頭を悩ませている間にも、虫やら鳥やら小動物やらが、シュポシュポ、シュポシュポと吸い込まれていく……。
まあ……アカンのが混じったら……その時はその時だ。
巻き込まれてたら、めっちゃ謝って許してもらおう……。
しかしこれ、やべえな。
なにがやべえって、虫やら鳥やら小動物やらが、ぞろぞろと列を成すようにやってきて、どんどん吸い込まれていくんだよ。
つうかこれ、停止ボタン無くね? どうやって止めたらいいんだ?
パンさんは……居ねえ。ルーちゃんとこ戻ったか……。
まさか、停止ボタン付け忘れたとかねえよな? このまま無限に吸い込み続け――
『規定の量になりましたので、作業を終了します』
止まったァアア!
よかった、謎の音声が聞こえて匂いが止まったわ。
森の小動物、全てを吸い込んでも止まらねえとか、面倒なイベントが始まるかと思ってヒヤヒヤしたぜ……。
……これ借りるのはもうやめとこ。
これからこういうのはパンさんにお願いしよっと……。
ヤベエ箱を回収し、ウサギの集落に戻ってみると……丁度森の仲間たちとのお話が終わったところのようだった。
「みんなー、明日呼ぶから、まっててねー」
ルーちゃんがにっこにこしながら魔獣たちを見送っている。
この様子だと、また多くのお友だちができたっぽいな。
「あ、ユウ! おかえり! あのね、みんな来てくれるって!」
「みんなかよ! スゲエな、さすがはルーちゃんだ!」
「えへへ……ふああ……がんばったらちょっと眠くなっちゃった」
「ようし、今日はここでお昼寝をして、お弁当を食べて帰ろっか」
「わ、いいね、いいね! クロベエ、ちょっとルーちゃんの枕になって!」
「しょうがないなあ……妹だからとくべつだぞー」
ごろりと横になったクロベエにもふりとルーちゃんが飛びついて。
そのまま、あっという間にスゥスゥと寝息を立て始めた。
今日はいっぱい頑張ったから、疲れたんだろうな。
……って、パンさんやヒカリもクロベエ布団で寝てるじゃねえか。
俺もなんだか眠くなってきたし、みんなでお昼寝するかあ……おやすみ。




