第22話 森のダンジョンの奇跡?
一夜明けて。
予告通り、本日は二階層へのお引越しが行われ……ました。
そう、早朝からささっと始めて、先ほど全部終わったところだったりする。
いやほら、二度目だからさ、なんもかんもスムーズに行くわけよ。
ダンジョンの仕様や注意点を改めて説明して、フロアマスターとなるヒカリの紹介も無事に終わったよ。
森の連中、最高だわ。
沼の連中と違って民度が良いからさ、グダグダ言われることもなく、妙なバトル展開になることもなく、スムーズにサクサクとことが進んだよ……。
ヒカリは主役ということで、パンさんたちと一緒に風呂に入れ、綺麗に磨いてもらったのだが……また、知能が上昇しちゃいましてね……。
『親父殿、クロベエ、今後とも我……いや、私をよろしく頼みます!』
なんか、一時期武士系統に行きかけてたのが、また女騎士さんに戻ってきたっつうか……メシのせいでだいぶ賢くなってはいたけど、まだちょっと言動にブレがあったのが安定した感じっつうのかな。
なんかこう……息子が嫁を連れてきたぞ感が増して、ちょっぴり複雑だったのは内緒だ。
というわけで、引っ越しと説明会は九時前に全部終わっちまってさ、ああ、民度が高いとこんなにもスムーズに行くのか、なにも事件が起きないのはそれはそれでちょっと寂しいな……なんて、いらんこと考えたのがダメだったんだろうね。
そう、起きちまったのさ、想定外の大事件が。
……この件に関しては俺は勿論、パンさんもルーちゃんもみんなびっくりの大イベントだったよ。
「ユウ様、ユウ様!」
そう……事件を起こしたっていうか、その爆心地はこいつらだ。
「ユウ様、新たな集落ですが、明後日にはなんとか形にできるかと思います!」
「このダンジョンは素晴らしいです! 見慣れた樹木でも品質が段違いだ!」
「きっといい集落が出来ますよ! 楽しみにしててくださいね、ユウ様!」
「あ、はい。よろしく」
想定外とは、こいつら、ウッサロップたちの進化……いや、大進化だ。
何が起きたか、微妙に察していることでしょうが、まあ、話を聞いてくださいよ……。
ウッサロップを鑑定した時に書いてあった説明を覚えているだろうか。
>集落を形成するほど知能が高い
そう、こいつらは集落を形成するれっきとした魔族だ。
広場に穴を掘って暮らしているとばかり思っていたんだが、引っ越してからちゃんと話を聞くと、地下にちょっとした小屋を作ってたらしいんだ。
本当は広場に作りたかったが、しばしば襲撃を受けたため、いつしか地下に巣作り……もとい、住居を作るようになったのだと……。
そういうことならばと、二階層のはずれに集落を作る許可を出したんだ。
もう完全にウッサロップ専用スペースにしちゃってさ、他の邪魔が入らんから好きにせよーって。
まあ、柴犬サイズとはいえ、こいつら見た目はうさぎじゃん?
ピョンコピョンコと、ミニチュア集落に暮らす姿は見てて癒されるだろうなと、ダンジョンの癒しスポットとしていいんじゃないかなーって思ってさ、軽い気持ちでルーちゃん経由で許可を出したのだが……。
まあ……さ。
俺たちって、たまにやらかすじゃん?
具体的に言うと、俺とパンさんがやらかすやん?
いやね? 引越しイベントが早めに終わって暇だったからさあ、ちょっと手伝ってやるよと、アプリで簡単に整地をしたらさ、凄い凄いと言うわけじゃん。
そんなこと言われたらさ、気持ち良くなるだろ?
まあ、調子に乗ってしまって、最初に決めたスペース以上に整地しちゃってルーちゃんに叱られたりしたんだけど……さ。
そんな事をしたせいなんだろうね。
元々、ルーちゃんとクロベエの父って事で、それなりに崇められていたんだけど、輪をかけて崇められるようになっちまってな。
「ゆうさま、われらのとちを、すべるものを、きめてください」
なんて、めんどくさい事を頼まれちまったわけ。
なんでも、ルーちゃんの演説で土地を統べる者の存在の大切さを知ったとかでな。
フロアマスターとしてヒカリをきちんと認めてはいるし、敬うけれど、それはそれだと。
集落の代表として、ウッサロップを代表する者を決めてほしいとか言うんだわ。
キラキラとした目でウサギさん達からお願いされてみろよ、断れるわけねーだろ?
ちょいちょいうぜーけど、基本可愛いからな……まあしゃあねえ、俺に任せろって言っちまったわけ。
とはいえ、選べと言われても困ったわけです。
ウッサロップは、名前のとおり……って言っちゃって良いのか知らんが、ロップイヤー、つまり垂れ耳なウサギさんなんだよ。
そんで、これがまた、色々な模様のやつが居てな、白いのやら黒いのやら、茶色やら……まあまあたくさんいるから、流石に見分けは付けやすいんだよ。
でも、どの顔を見ても等しくウサギさんなんだよ……人みたいにさ、賢そうとか、バカそうとか……年配だの、若いだのがわからねえわけ。
だからまあ、もう適当に選ぶしか無いわけじゃん?
そしたら、ちょうどキラキラしたウサギが一羽、ぴょんこぴょんこしてきたわけよ。
金毛ぽくてなんかゴージャスだし、こいつが代表でいいやろと『お前が代表ね』と、雑に指名してさ、代表なら名前が必要だよなって思ってさ『ジャック』とつけてやったんだが……。
なんか知らんが、大進化を果たしちまったんだよな……。
なんでえ? ってパンさんに聞いたら、最初首を傾げてたけど、ジロジロ、ジロジロと俺をみてさ、アイタァ! みたいなポーズを取ったわけ。
なにこいつ、俺を小馬鹿にしてんのか? やんのか? って思ったら、とんでもねえことを言われたんだよ……。
「ユウ……あんた……うーん」
「なんだよ、はっきり言えよ……」
「ざっくり言うと、ちょっぴり神気が使えるようになってるわね」
「は?」
神気。
そう、神様から滲み出ているようなアレのたぐいだ。
雑にしてくれた説明によると、パンさんから貰った加護、不老不死(ただしリプラシルに限る)がいい具合に馴染んで、微妙に神っぽい感じになっているらしい。
そうかあ、俺も神様に片足突っ込んだかあ……って言ったら、変な顔されたから、たぶんそこまでじゃないんだろうな……。
んで、この神気とやらが問題でさあ……。
なんか知らんが、俺の名付けに力がこもるようになったんだと。
「わかりやすく言うと、あんたに名付けられるとユニークモンスターになるのよ」
この説明、すっごくわかりやすかったわ。
つまり、ジャックと名付けられたウッサロップはユニーク個体となり、ウッサロップの上位種に進化したらしいんだ。
「んじゃ、お前は今日からジャックね」
って言った瞬間、ピカーーーっと光るからびっくりしたよね。
光の中から現れたのは、俺が知ってるウッサロップじゃなかったからもっとびっくりしたよね……。
つうかこれ、俺の名付けだけが原因じゃねえと思うんだわ。
俺みたいななりそこないじゃなくて、ガチの神の力が大いに働いたと思うんだわ。
そう、パンさんだ。
あいつもあいつでさ、やらかしてんのよ。
俺がせっせと整地をしている時に聞こえてきたわけよ。
「この辺魔獣来なくて良さげだけど泉が無いわねー。ルーちゃん作っていい?」
ってね。
二階層にはあちらこちらに泉があったり、川も流れているのだが、確かにこの辺には水場がない。
パンさんにしては気が利いてるなあって、気にもしなかったわけ。
「うん、ウッサロップたちもその方が楽だろうしね、おねがいママ」
ルーちゃんもさ、そうだね、必要だよねと同意してるから、微笑ましいなあ……なんて思ってたわけ。
パンさんもさ、ルーちゃんにいいとこ見せたかったんだろうなあ……。
むむむむーっと、念じた後に現れたのは、妙に神々しさを感じる、キラキラとした泉でなあ……なんか気になって鑑定したら、女神の泉【真】とか書いてあるわけ。
あ、こいつやったなーって思ったよ。
ダンジョンシステムじゃなくて、ユリカゴシステムで介入したなって。
女神の力がふんだんに込められた、清浄すぎるほど清浄な、ガチの聖域みたいな場所を作りやがったぞと。
つまり、うちの風呂場の水と同じか、それ以上の効果がある泉ができたわけじゃん。
でもまあ、あれって普通に使ってる分にはさ、多少力がついて、賢くなるくらいのもんだから、まあ、会話しやすくなっていいかくらいに思ってたわけだが……。
その泉がさあ、俺の名付けと合わさってとんでもねえ奇跡を起こしやがったわけよ……。
テキパキと働きながら、ウッサロップたちは水を飲んでたわけだ。
ジャックも勿論そうだったし、ジャックの姿をみて『わたしにも名を』『うちにも』『私にも』と、ピョコピョコやってきたウサギさんもそうだ。
なんという事でしょう……名付けと泉の合わせ技で、愛らしいウサギさんたちが……こんなことに……。
「パンさん……俺の目にはウサギの垂れ耳生やしたお兄さんとお姉さんが居るように見えるんだが……」
「……あ、もしもし? そう、あたしー、リパンニェルー。うん? え? ああ、大丈夫ーそれでねーこの間さーあ?」
「こらこら、電話してるふりして誤魔化してんじゃねえぞ! どういう事なのか説明しなさい!」
「……えっと、クリスマスが生んだ奇跡?」
「なるほど……そういう……って、クリスマスはとっくに終わってるやないかい!」
「わかんないものはわかんないんだもん! 管理神だって何でもは知らないんだもん!」
こいつ……逆切れしよったわ……。




