第18話 フロアマスター決定戦
というわけで、決定戦を始めようと思うわけだが、今回の主役であるモル丸さんの姿はまだここにはない。
彼には、一番いい時に一番かっちょいい方法で現れてもらいたかったので、パンさんとルーちゃんといっしょに遠くで生態調査をしてもらってたんだ。
ポヒュ!
『パンさん、通話にしとくから、聞いてタイミングを測ってくれ……そうだな、俺のセリフが終わったタイミングで頼むわ』
ポコン!
『オッケー。あ、ルーちゃんなら大丈夫よ。こっちまでアホどもの声は届いてないわ』
ポヒュ!
『お、そりゃ良かった。んじゃヨロ。 【通話▶️】』
流石に今回の件は教育に悪いからね。ルーちゃんには声が届かないほど遠くに居て貰ってるのさ。
なら家に置いてきたら良かったじゃんって? そう思うんだけど、ルーちゃんが居ないと魔獣の言葉がわからねーからしゃあないねん……。
ここはルーちゃんの本体みたいなもんだろ? だから塩のダンジョン内に限っては、どこに居ても全域で【自動翻訳】が効くんだってさ。
だから、せめてダンジョン内には居てもらわないとダメなのよね。
「モル丸……出番だ。アホ共に思い知らせてやれ!」
ポコン!
『先に演出出るけど、ビビらずドヤ顔でね』
演出? 聞いてないんだが!?
……って、これか! かっこよ!
「な、なんや!? 光が……!?」
地面に光の円が描かれ、それに沿って謎の文字列が浮かび上がっていく。
光る文字列は、ぐるぐると周り、その内側にさらなる円が描かれ、中央には星が描かれた。
「これ……ルー様が使う召喚じゃねえか?」
「ほんまや! でもなんかちゃうんちゃう? それに、やたらとでっかいで!」
そういや、ルーちゃんが召喚する時も似たような陣が現れるんだったな。
あの陣は対象の数、又はサイズによって大きさが変動する。
そう、数が多くなればなるほど、単体であれば、体が大きければ大きいほど陣は大きくなる。
「出てくるの……モルモルのはずワニな? おかしくないワニかー!?」
ワニくん、良い反応だな。そう、明らかにモルモルのサイズじゃねえよなあ!
光の柱が立ち上り、中央に影が現れた……と、同時に辺りにふわりと良い香りが漂いはじめる。
「なにさ、めっちゃいい匂いするんですけど!」
ククク……フローラルな香りに癒やされるがいい。
「なあ、ユウさん。出てくるのってほんまにモルモルなん……って、なんやねんこれ!」
光が収まり、姿を現したのは魔鉄のモルモルこと、ガンメタに輝くモル丸だ。
アホどもが口をポカンと開けて驚いている……。
いや、この場にいる全員が驚いている。
この姿……お前らが想像していたモルモルとぜんぜん違うよなあ?
……色や大きさだけじゃなく、外見も大分変わっちまったからな……。
ビール缶で大進化を遂げたモル丸に盛り上がり『もっと強くしましょう』と、アホなことをいい出したのがパンとかいう馬鹿女神。
ユウとかいうアホがそこで止めればよかったのだが、すでにいいくらいできあがっていたため『よっしゃ大将、生おかわり!』と、一緒になって盛り上がってしまった。
アホ二人が飲みまくって追加しまくった空き缶、350ml缶で一箱分。
どっちがやったのかは忘れた……いや、二人でやった気がするのが『つまみだよ』と、食わせてしまったラウベーラの牙にヒッグホッグの牙。
それによってLVは34に上昇し、大きさも二人用のドームテントくらいと、やたらデカくなってしまった。
……そして、頭から何故かツノ状のものが生え、どこからどう見ても『モルモル』とは呼べない、角が生えたメタルまんじゅうに変化してしまったのである。
だが、変わらぬものもあった。
そう、愛らしいつぶらな瞳だ。
クリクリとした瞳で辺りを見渡し、状況を把握したモル丸が打合せ通りのセリフを言った。
「ユウ様……喚んで下さり感謝する! さあ、我のチカラを見たいのはどの若造だ?」
低く、渋い声で静かに威圧し、若造共を睨み付けるモル丸。
もう既に、この時点で大半の連中は戦意を消失していた。
しかし、全員がそうではない。
今日、もうずっとイキりっぱなしの連中がモル丸の前にずいと歩み寄り、ギロリとガンをつけた。
「な、なにさ! 黒光りしてデカくなっただけじゃないのさ! タケ、ここは手を組むよ。モルモルなんかになめられてたまるか!」
「なんや、チアキも同じこと考えとったんか。ススムとマサもええよな?」
「もちろんワニよ! 先にあいつをやっつけて……」
「サメザメ!」
喋らんのかい! そこは「残った奴らでテッペンきめようサメ!」とかいっとけよ! さっき喋ってたのなんなんだよ!
……っと、ずっこけてる場合じゃねえ。
演出……演出しねえと……ごほん。
「一人じゃ敵わねえと四人で挑むか……まあ、それも強さの見せ方……か。モル丸、やれるな?」
「若造が何人来たところで今の我には敵わぬよ……来るがいい!」
「……なめやがって! 行くよ、あんたたち!」
モル丸の言葉に激昂したアホチームがわっと飛びかかっていく。
何か武器のようなもので殴りかかったのはタルットの若造、タケだ。
なるほど……アホでも魔族、道具を使う程度の知恵はあるらしい。
つうか、意外とやるじゃん。斥候タイプってやつかね?
素早い動きでモル丸の背後に回り込み、手に握った何かを振り下ろして背中に向けて強烈な一撃を入れた。
ボキン!
しかし、ダメージは通らない。
それどころか、武器らしきものはポッキリと折れてしまった。
「そ、そんな……わいのキウリーブレードが……何て硬さなんや……!」
道具じゃなくてキウンバじゃねえかよ! そりゃ折れるよ!
「先走ってんじゃないよ……この、アホが!」
タルットを呆れた顔で睨みつけ、ぴょんと飛んだのはチアキの姐御だ。
髪の毛のように頭に生えている水草が、ずもももっと、ありえんほど量を増やしてモルモルに向かっていき、その体をギュッと掴んで縛り付けた。
「よし、ススム、マサ、今だよ!」
声に合わせ、水の中から飛び出してきたのは鮫の若造マサだ。
パニック映画で主役を張れそうなその迫力ある身体はモル丸にも負けない巨体……なのに声からして、どう考えても女の子だよな……。
マサってあれか? もしかしてマサコとか、マサエなん?
「俺もいくワニ!」
マサに続いてススムも水の中から現れ、サメとワニ、二体同時の噛みつき攻撃だ!
うーん、どこぞのZ級映画にありそうな恐ろしさだ!
「ええぞ、ええぞ! がんばえー! モルモルなんぞ、食ってもうたらおしまいや!」
タルットのタケが、折れたキウンバをバリバリと食いながら呑気に応援をしている……アホや、マジでアホやこいつ。
「いっけー! ススム! マサー!」
チアキの姐御の歓声が飛んでいく! モル丸……大ピンチ!
ガリッ!
ガリリッ!
ご飯食べてるときにさ、予期せず固いものを噛んでしまったときって結構辛いよね……きっと、ワニくんとサメちゃんは、今そんな気分になって……ほらね。
「アグッ! いっでえ! 硬いワニー!」
「うわーん、痛いサメー! ウチの歯がガリッといったサメー!」
サメちゃんはよほどがっつりいったのだろうな……ぼろぼろと大粒の涙を流しながら、ヒレで口を抑えてさめざめ泣いている……なんかかわいそうになってきた。
、口を押えてシクシクと泣くサメちゃん、蹲るワニくん……そして折れたキウンバを美味そうに頬張るタケ……。
そんな仲間たちを見て戦意が怪しくなっているのがチアキの姐御だ。
モル丸は既に水草の拘束から抜けている……いや、ショックの余り、しおしおになって外れてしまったようだ。
これが試合ならば、この時点で『続けるか?』と、声をかけ、首を横に振ったら棄権と見做して勝負終了、モル丸の勝ちとするところだ。
けれど、これはフロアマスター決定戦だ。
そして、ここは塩のダンジョン、死ぬ思いをすることはあっても、死ぬことはない。
当然、モル丸もそのことを理解している……つまり。
モル丸が勝負を決めに行った。
ゆっくりとアホたちに近づいていく。
「ちょ、なにさ! やめ……た、たべないでえ!」
「わいはうまくないんよ!」
「ワ、ワニー!」
「サ、サメー!」
大きく身体を膨らませつつ、形を変えてアホの若造たちを包み込むように……けれど、内側はきちんと空けつつ内部に取り込んでいく。
中からガンガンと音が聞こえている。
それはきっと、鋼の牢獄から出ようと足掻いている音だろう。
金属を叩く音が内側から響くたびに、ギャラリーたちがびっくりした顔でモル丸を見上げている。
わかるよ……どう考えてもモルモル叩いて出ちゃいい音じゃないもんね。
そしてその音も暫くすると静かになって……代わりになにか声が聞こえてきた。
「スイマセンでした……わいたち、ちょうしこいてました……」
「許してください……もうしないよ……おねがいだよお……」
「ごめんワニ……モル丸さんにしたがうワニ……」
「ユウさん……モル丸さん……ごめんなサメ……」
うん……めっちゃ謝ってるな。
思ったより普通に謝ってるわ……。
ほら、謝ってるよ? どうすんの? ねえ、ユウさんどうすんのさ?
そんな顔で俺を見つめる住人たち。
わかってるよ、わかってるってば! 今から綺麗にまとめっから、待ってろい!
「お前たち、モル丸がフロアマスターだと認めるか?」
「「認めます……」」
「この場のみんなもいいな?」
「「認めます!」」
全員の同意が得られたので、アホたちをモル丸の中から解放してやると……うっわ、サメちゃんめっちゃ泣いてるし、チアキの姐御が慰めてるし。
なんかちょっとごめんねって感じだわ……つうか、お前らめっちゃいい匂いするな……。
「……マスター選定勝負はこれにて決着! 改めて宣言する! 今日からこの階層の責任者、フロアマスターとして皆をまとめ上げるのはこいつ、モル丸だ!」
「「「ワアアアアア」」」
「モル丸は強者だ。けどな、こいつは困ったことがあれば助けてくれるいいやつだ! 今後なにかあったら、モル丸に相談するといい。きっとお前らの良い味方になってくれるはずだ!」
「我がフロアマスターに選定されたモル丸である。我はルー様とユウ様、そして女神様に誓い、本日よりここの守護者となり、皆の力となって護りぬくことを宣言する!」
盛大な歓声が上がり、住人たちがわっとモル丸に駆け寄っていく。
今まで割を食っていたやつらは勿論、さっきまで泣いていたアホたちも、キラキラとした顔でモル丸の元へ行ってペタペタと触りまくっている……。
観光地の仏像かなんかかよ……。
妖怪たちから上がる『フロアマスター』コール。
モル丸はそれに応えるように、嬉し気に身体を伸ばし、ポヨポヨと揺らしている……っと、〆る前に呼ばねえとな。
ポヒュ!
『ぜーんぶ無事に終わったよ。サメちゃんがちょっとかわいそうだった(泣いてるサメの絵文字)』
ポコン!
『誰よサメちゃんって……まあ、無事に終わって何よりだわ。んじゃ、ルーちゃん連れてくわね』
ポヒュ!
『おお、こいこい。なんかモル丸が観光地の仏像みたいな扱いされてて笑う』
「マジだわ! ペッタペタペッタペタ触られてるじゃないの! あはは、おかし」
「きゅ、急に現れてんじゃねえよ……びっくりしただろ……」
「あっはは……だって、気になること言うから……ね、ルーちゃん」
「気にしてたのママだけでしょ……わ、みんながいつもより仲良しだ! ちょっと行ってくるね!」
デカいモル丸に群がり、楽しげにペタペタしている住人たちのところに、タッタカタッタカとルーちゃんが駆け寄っていく。
「みんな仲良しでいいね! あ、モル丸がフロアマスターになったんだよね、みんな、ルーちゃんが居ない間はモル丸がマスターだからね!」
「「はーい!」」
ほんとこいつら……ルーちゃんには素直だよなあ。
きっと、ダンジョンコアだから、ダンジョンマスターだからっていう理由だけじゃねえんだろうな。
「あ、ユウ。モル丸のステータスがちょっと変わってるわよ」
「おん? おお、マジだ」
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名前:モル丸
職業:魔鉄モルモル(塩のダンジョン)
称号:塩のダンジョン 一階層 フロアマスター
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「称号ってのが増えてる……なんかいいな……」
「あんたも見てみたら? なんかおもろいの生えてるかもよ?」
「やだよ……どうせ『スマホが本体』とかついてんだろ? 見ねえってば」
「ふふ、なによそれ……あら、ねえ、ユウ。みてよ、あれやばいわよ……」
「うん? おお……」
ルーちゃんが、でっかい花の冠をモル丸に被せている……うお、戴冠式かよ……エモ過ぎてやべえ。
ダンジョンマスターに認められし、フロアマスターモル丸。
心優しきモル丸が居る限り、一階層の秩序は護られることだろう……マジで頼むぜ、モル丸……妖怪たちの相手はきっついだろうけど、がんばってくれよな。
頼りにしてるぜ。




