第17話 治安が悪すぎて笑う
年末に向けて忙しいっつうのによお……マジでなにやってくれてんねんと、モル丸と共にさっそくダンジョンにやってきたのは、いいくらいできあがっているユウですけれども。
パンさんと二人でモル丸を鍛えまくったからなあ……まだ午後イチだっつうのに、だいぶ気持ちがいい感じだぜ。
しっかし……ほんと治安が悪すぎて笑ったわ。
ダンジョンに降り立ったときの空気ったら、もうね。
転移門ルームから外に出たらさあ、もうやいのやいのと、喧嘩する声が聞こえてくるわけよ。
お、やってんねえ! と、向かってみれば……。
『げっ、ユウさんや!』
『ルー様のパパやんけ!』
『おい、おまえらやめや、やめやめ!』
と、無駄に洗練された動きでピタリと喧嘩をやめやがったわけ。
ああ、ルーちゃん来た時もこれやってんのかあって。
あの子は今も、ここの連中は仲良しだと思ってんのに、隠れてこんなことしてやがるわけかと……思ったらもう、ムカムカムカァっときてガンギレですわ。
「おいこら、おまえらちょっとこっち来いや!」
……来た来た。
ビクついた顔してる連中は……たぶん無罪組。
やらかしてんのは、後ろの方に居る奴ら……若いタルットたちに、リザードマンみたいなやつら、サメに足が生えたようなやつらに、頭から水草生やしたヤンキー姉ちゃんたち……。
こいつら、目をそらして『ぼくら何もしてませーん』って顔してっけどよ……転移門ルームから出たとき、しっかりと見てんですわ……。
こういう連中をとっちめるときは、段階を踏んだほうがいい。
だからまずは……。
「おまえら……後ろで目をそらしてるおまえら、ちょっとこっちこいや」
「はあ? わいらがなにしたっていうんや」
「そうだぞ、あたいら仲良しだぞ?」
「そうワニ、そうワニ!」
「サメサメ!」
ちょっと、ワニとサメ、笑いそうになるから喋るのやめてくれんか。
……ふう。
「その仲良しごっこ、ルーちゃんや俺らが来たときだけしてるって……モルモルから聞いたぞ」
……と、あえて「こいつがやりました」と、ばらしてみれば……あいつと、あいつ……向こうの連中もか。
俺の目を免れてしれっとしていた連中、数人が忌々しそうな顔でそこらにいるモルモルを睨みつけている。
この手の連中って人も魔物も変わんねえんだなあ。わかりやすいリアクションしやがるから噴き出しそうになったわ。
「おい、そっちのお前とお前、向こうのお前らもここに来い!」
「は? わいらがなにしたっていうんや!」
「このダンジョンはな、嘘をつくと頭に花が咲くんだぜ」
「マジかよ!」
「え、うそ、ちょっと!」
アホが炙り出されていく……。
結局、クソガキは総勢十八名となりました!
嬉しくない豊漁だなあ!
アホどもを正座させ、軽く説教をしてみたものの、まあ、堪えてないっつうか、今耐えたらそれでええねんって態度がみえみえですわ。
「ちゃんと仲良くやれるんだよなあ? 俺が帰ってもちゃんと仲良くすんだよなあ?」
「へへ、ユウの旦那、そりゃあもう……より一層『仲良く』させてもらいますぜ……」
「へえ、そうかい。まあ、お前らが言う『仲良く』ってのは……俺が思ってるのと違うんだろうけどな? どうだぁ?」
ニヤニヤと笑いながら悪ガキどもの顔を順番に見ていく。
俺が前に立った瞬間バっと目をそらしてるけど、それもう自白してるようなもんじゃん。
「お前らは見張ってねえとすぐにやらかすから困るぜ。ルーちゃんだって暇じゃねえんだぞ? いい加減にしろよな」
「大丈夫やで、ユウさん。ワイ達なっかよしやから。なー?」
「そうよ! あたいらマブだし!」
「ケンカなんかしないワニ!」
「サメザメ!」
アホたちが肩を組んで仲良しアピールをしている……が、よく見ると足を踏んでいたり、背中をつねったりしている……ほんとアホやな。
「でよお、俺は思ったわけ。お前らテッペンがいねえから、いつまでもぐちゃぐちゃやってんだなって」
「……テッペン?」
「そうだ。お前らの中で一番強えやつがこの湿原フロアをまとめる、つまり俺やルーちゃんの代わりにフロアマスターとなって仕切るってのはどうだ?」
……と、言った瞬間、ざわついていた説教会場がシン……っと静まった。
「ワイの時代が来てしまったか……」
アホの声を皮切りに、再びザワザワと賑やかに。
声に耳を傾ければ『俺が立つ時が来たか……』『これからはウチらが』などなど、イキった連中が嬉しそうに俺やワイやと言い合っている……。
「でもよ、どうやってテッペンを決めるワニ?」
「そら、やっぱ拳やろ?」
「つまり全員ぶちのめしたらいいってわけね」
「サメメ!」
アホどもが荒ぶっている……って、まてまて、早速始めようとしてんじゃねえよ!
……結果的にそうなるだろうが、物事には順番ってものがあんだからよ!
「今見てわかったわ。お前らに代表決めさしたらダルいことになりそうだわ。しゃあねえから、俺が指名した奴に務めてもらう……文句はねえな?」
「なんやユウさん、ワイのこと、そんなに買ってくれてたんか」
「アホじゃね? ユウの兄貴はあたいをみてたじゃん」
「なんや?」
「なにさ?」
案の定、場の炎上ゲージがムクムクと成長を始めたぞ。
こういうアホな連中を相手にする時は、一度がっつり大炎上させるといいんだ。
大炎上させて、わっと盛り上げて……そのノリのまま一気に勝負をつける。
つうわけで……特大の燃料をぶちまけてやる!
「お前らが自信満々なのは良くわかった……じゃあ今から発表するから黙れ……」
シン……と、静まり、アホどもの視線が俺に集中する……ククク……驚くが良い!
「フロアマスターとなるのは……モルモルのモル丸! こいつが、この階層のマスター候補だ!」
この騒ぎを鎮める鍵となるモル丸には、転移門ルームを出た後、すぐに隠れてもらった。
ここの連中に進化後の姿を隠しておいて、サプライズをぶちかましたかったつうのが理由だが、こいつらの様子を見ていると、かなり面白そうなことになりそうだ。
こいつらは『モル丸』がどのモルモルなのかをまだ知らない。
だから、あちらこちらでピョコピョコしているモルモルたちをジロジロ、ジロジロと睨みつけ、ちっち、ちっちと舌打ちの大合唱だ。
まあ、そらそうだよな。
湿原エリアの中では、弱い部類に入るモルモルの名を挙げたんだ、そうなるのはわかってた。
「ユウの兄貴よぉ、兄貴が言うことに文句はいいたかねえワニけどよお、モルモルっておかしくねえワニ? わりいけど現実? ってのを理解してねーんじゃねえワニっすかねえ?」
仕込んだかのようにワニの若造が絡んできて腹いてえ。
燃えれば燃えるほど、反動がデカいから扇動してくれるのはマジ助かるぜ。
ほうら、タルットやら水草ねえちゃんやらも前に出てきたぞう。
「せやせや! 何がかなしゅうて、あんな水まんじゅうに従わなきゃならんのや!」
「どう考えてもウチがいっちゃん強いだろぉ?」
「いや、俺だけどな!」
「ワイや!」
「ウチや!」
「おめえらゴチャゴチャとうるせえんだよ!」
俺の後ろにあったデカい岩をぶん殴ると、バコンといい音を立てて真っ二つに割れた。
綺麗に割れた岩を見て、ヒェエと震えながら下がるタルットと水草姉ちゃん。
ちなみにこの岩は仕込みです。
ぜってえ騒ぐだろうと、予めストレージから出しておいた、割る用の岩です。
俺ってほら、ルーちゃんの親だから『ユウさん』だの『ユウの兄貴』だの『主の主』だのと、一応は敬われてはいるけどさ、名前と立場だけのお飾りって思われるのも面白くねえっていうか、後々舐めたことされそうじゃん?
つか、さっそく舐めたこと言われちゃったじゃん?
だから、ここぞとばかりに力を見せてやったわけ。
……まあ、俺じゃなくてスマホの力だけどな。
「よーし頭は冷えたな。俺は言っただろ? 候補だって」
「……コウホってなんなん?」
「ばっかお前、コウホってのは……あれがそれよ……」
「コウホワニ?」
「この場合の候補とは、選ばれる予定の者を指すサメ」
「ははあ……つまり、モルマルとかいうやつは、まだ決まりじゃないっちゅうわけか」
こいつら候補って言葉知らなかったのかよ……どこまで伝わるか全くわからんから困るぜ……。
……ていうか、サメ……お前喋れたんか……しかも急にめっちゃかわいい声で話しやがってよ……お前……女だったのか……。
「サ、サメちゃんが言ったとおりだ、まだ決まりじゃねえ。つーわけで、不満がある奴はこっちこい! フロアマスター決定戦をすっぞ!」
「きいたか?」
「ああ、きいたで……」
「「やってやるわ!」」
ここまで綺麗にシナリオ通りに進んでくれると嬉しくなっちゃうね。
この手のアホ共は、一度がっつり叩きのめしてやらねえと、いつまでもおんなじことを繰り返しちまう。
けど、それを俺がやってしまったら、こいつらは変われない。
こいつらを一段上に引き上げるためには、同じ住処の魔獣同士でキッチリ白黒付けさせるのが一番いいのよ。
それも、誰も文句を言えないレベルで圧倒的にな。
ククク……アホどもよ、モル丸の力をとくと味わうがいい!




