第14話 ダンジョンのなやみ
クリスマスという、重要ミッションを終えた瞬間、思い出したかのように疲れがどっと噴き出してきた。
ここんとこ、クリスマスに向けて必死に準備したからなあ……。
でもさ、あのルーちゃんの喜びようを見ると、やってよかったな、報われたなあって思うわ……。
思えば、今日まで毎日なにかしらやってたよなあ……。
最初は生きるためにって感じだったけど、だんだんと自分だけじゃなくて、みんなのためになんかやってるような感じになってたわ。
別にそれが嫌なわけじゃないんだけど……なんか、最初はもっとゆっくりする予定だったのになって、ちょっとだけ思わんでもない。
つーわけで、今日は何もせずダラダラすることにしたんだ。
ほら、クリスマスってさ、イブの晩にパーティをしてさ、朝になったらプレゼントイベント……って感じで、当日は別になんもしねえって人が多いだろ。
俺もそう、っていうか、俺の実家でもそうやって過ごしてきたんだんだよ。
だからもう、我が家のクリスマスは朝でおしまい。
普通の一日の始まりなのです。
というわけで、ルーちゃんはパンさんと二人で畑に、クロベエはヒカリんとこに遊びに行ってしまったわけですよ。
そう、今この家に居るのは俺だけ……モルモルたちもいるが、それはまあ、置いといてくれ。
この、実質一人っきりのまったりタイムが俺へのクリスマスプレゼントってこった。
あー……静かだ。
なにをするでもなく、適当にスマホを弄って時間を無駄に浪費する。
ああ……この感覚、久々だなあ……。
うちの会社はさ、土日祝休みだからさ、土日になったらアレをしよう、これをしようって、水曜辺りまで考えたりすんだよ。
で、蓋を開けてみると、こうしてダラダラして無駄に土日を消費しちまうと。
もったいないような気もするが、それで気分がリセットされんだからいいんだよ。
やっぱ土日祝休みは大切だよ……たまにはこうして休まねえと、やってらんねえって……マジでマジで。
……そうだよ、人には休みが必要なんだよ。それも、ある程度決まった休みの日があるのがいい。
だって『あと◯日働いたら休みじゃ!』って、自ら飴を提示してやる気を出すことができるからな。
そう考えると、この世界に日時の概念が存在しないのは大問題だ。
『明日』や『明後日』という概念はかろうじてあるし、朝昼晩という、ざっくりとした時間の概念は流石にあるんだ。
だから、集落で交流したときにそこまで困らなかったけど、暦がないと長期的な予定を立てらんねえし、なんかこう……メリハリがねえっつうかさ。
リプラシルって季節もないだろ? だから、何回季節が巡ってみたいな考え方もできないから、時間の流れを感じにくいっつうか、毎日同じ日が来てる感じがするっていうか……。
とにかく、なんか気持ち悪いんだよな。
そもそもさ、暦がねえとイベントやりにくいんだよ!
なぜか『収穫祭』みたいな概念はあったけどさあ、そんくらいのもんだろ?
年齢の概念がないから誕生会もできねえし、成人のお祝いなんてのもできないわけじゃん。
つーかさ、日本の暦で言えばもうすぐ年越しだぞ? めっちゃでっかいイベントじゃん。
なのにさ、キンタたちには年が変わるって言う感覚なんてないんだぜ?
肉の集落の連中はいつも通り寝て、いつも通りの朝を迎えるんだ。
それってさあ、やっぱ面白くねえよなあ……!
キンタやリットちゃん達と一緒に新年を迎えてさ、あけましておめでとう、今年もよろしくねってやりたいじゃん?
あー、だめだ。
どうにかして暦を実装しよう、そうしよう。
新年まで日がねえからグダグダしちまうかもしんねえが、これはやらないとだめだ。
そうと決まればさっそくパンさんを呼びに――
「主の主よ、少しお時間を取らせて貰って構わぬか」
――と、畑に行こうとしたら、モル助がぴょこぴょことやってきた。
こいつとは、夜に風呂場でよく語らってるけど、昼間っから話しかけてくるのは珍しい。
何か困ったことでもあったのかな?
「別に構わんけど、なんかあったん?」
「ダンジョンについて相談したいことがあってな」
「ルーちゃんじゃなくて俺に?」
「うむ……これは主の主に話すべきであると判断した」
モルモルはルーツが同じ個体限定では有るが、念話のようなことができる。
なので、モル助とモルゾウは、家にいながらダンジョンのモルモルたちと情報交換をし、向こうでなにか要望があればルーちゃんに報告をし、対処してもらうということをしている。
まあ、だいたいが魚を増やしてほしいだの、こういう草が欲しいだの、細々とした生活のアップデートを求める要望で、聞いてて微笑ましいなって思ってたんだが……。
わざわざ俺に話を持ってくる辺り、今回の相談は穏やかではなさそうだ。
「詳しく聞かせてくれ」
「ダンジョンの治安が悪くなっているらしいのだ」
「は? 治安が悪い?」
「うむ……主のお陰であのダンジョンは快適だろう? それに甘え、我が儘なことを言う連中や、暴れる連中がいるらしいのだ」
「おいおい……マジで穏やかじゃねえな」
バグのせいで、お花畑みたいな世界になってたわけだから、それが解消されたと思えば……その点だけではよろしいが、そのせいで治安が低下してるっていうのはよろしくない。
「詳しい話は現地の者から聞いたほうが良いだろうと、先ほど、主に頼んで同胞を呼んでもらったゆえ、話を聞いてやって欲しい」
モル助がぴょこりと跳ねると、キッチンからにゅるりとモルモルが現れた。
「あるじのあるじ はなしを きいてくれ ぬまのれんちゅうが――」
ああ……モルモルって、最初はこんな感じだったよな……なんか懐かしいな。
「よし、まずはひとっ風呂浴びようか」
「あ あるじのあるじ いったいなにを――」
ダンジョンモルモルを小脇に抱え風呂にダッシュ! からの……
「ソォイ! よーし、俺が呼びに来るまでこの水浄化しててくれ」
「なぜ みずの じょうかを あるじ われは じょうかより はなしを」
「まあ、今は騙されたと思って浄化しててくれ。話は後で聞くからよ」
「……わかった」
◇◇
三十分後。
風呂からあげたモルモルは……なんか顔つきまでかわってんな?
「主の主の行動に驚いたが、なるほどこういうことか……」
「よし……見た目だけじゃなく、中身にもしっかり効いたようだな!」
「ああ、これは凄いな! 頭が冴えわたり、スラスラと言葉が出てくるぞ! 主の主よ、感謝する!」
これで話が聞きやすくなった。
カタコト系キャラには取りあえず祝福の湯ってのは大正義だわ。
「話しやすいように、先に名付けておこうか。俺からの名付けで申し訳ないが、お前は今からモル丸だ。後でルーちゃんに設定してもらいなよ」
「おお……名前まで! 主の主ならば問題ないぞ! それで、ダンジョンの話なのだが――」
と、イケボのモル丸が語った塩のダンジョンの話は……なかなか厄介だった。
快適な環境に旨い飯、そして質がいいマナ。
そのおかげで、以前と比べて大幅にパラメーターが強化され、いつしかダンジョンの魔獣たちは身体を持て余すようになったらしい。
特に好戦的な連中はそれが顕著で喧嘩三昧。
おらおらかかってこんかいと、周りを巻き込んでの大喧嘩をしばしば繰り広げているらしい。
この時点で俺は頭が痛かったのだが、続けて話された内容を聞いて頭を抱えてしまった。
問題なのは、それによって生じた縄張り争いなのだという。
そう、平和だったリプラシルは過去の話。
塩のダンジョンは、外界に先立って戦国時代に突入したようだ。
血の気の多い連中が、それぞれ縄張りを主張し、場所がかち合えば喧嘩になる。
勝ったほうが土地を占拠し、負けたものは新たな縄張りを求めてさまよい歩く。
そのうち、暴力によって縄張りを奪うようになり、今では日々勢力図が変わる無法地帯になっているとのことだ。
これで困ったのが、戦闘力が低い魔獣たちだ。
いい餌場には、近づくことができなくなってしまったため、連中に見向きもされないような、小さな水場を見つけては、なんとか食料を見つけ、ほそぼそと暮らしているらしい。
戦国時代、それ自体は悪くない。
停滞した世界が動き出している証拠だからな。これも、またひとつリプラシルが正常に近づいている証拠だと言えよう。
けど、これはやりすぎだ。
そもそも、塩のダンジョンはルーちゃんのダンジョンだぞ。
ダンジョンマスターであるルーちゃんの『みんな仲良く』の信念に背いているじゃないか。
モル丸も俺と同じことを思い、流石に目に余ると、先日ルーちゃんに進言したらしい。
『わかった、ちょっと見に行くね』
と、すぐにルーちゃんが視察に来てくれたらしいのだが……。
魔獣……いや、沼地の妖怪どもは狡猾だった。
ルーちゃんが現れた瞬間、ピターっと喧嘩をやめ、仲良しごっこを始めたらしい。
ああ……目に浮かぶぜ。
ニッコニコと笑顔を浮かべ、肩を組んで仲良しアピールをする妖怪どもの姿が……。
『あかん! ルー様が来たぞ! 一時休戦や!』
タルットか誰かが感付いて喧嘩を止め、僕たち平和ですよーってニッコニコ誤魔化す光景が俺には見える……。
ルーちゃんは首をかしげながら『喧嘩してるってきいたよ? みんな、なかよくだよ!』なんて注意をしてさ、妖怪どもも『はーい』とか仲良く言ったらしいんだ。
そして……。
ルーちゃんが帰ってから暫くすると『再戦や!』と、また元通り。
どうすればいいのかわからなくなったモル丸は、モル助に助けを求め、それならばと、俺に話を持っていくよう勧めたそうだ。
まあ、こういうのはルーちゃんには向いてないからな。
戦国時代を終わらせる鍵は、天下統一だ。
妖怪どもをねじ伏せて、上位者として睨みつけ、平定する存在が必要だ。
……けどなあ。
「今の混沌とした状況を打開するには、全てを叩きのめして睨みつける存在が必要なんだが……沼地の連中はみんなアレっぽいからなあ……」
「今の我ならば、あの階層を平定する事も出来ようが……我にはこの屋敷を守護するという命がある故な……モルゾウも然りだ……」
悔しそうにプルルンと震えるモル助。
賢くなったし、運動能力も桁違いに強まっているような気はするけど……あの妖怪どもを叩きのめせる程なのか……?
「主の主よ……その顔を見るに、我の力を疑っておるな? ここでの暮らしは日々我の力を増しているのだぞ? その光る板で我の力を見てみるといい」
「そこまで言うなら……どれどれ」
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名前:モル助
職業:屋敷の守護者(塩のダンジョン(ユウの家))
LV:18
体力:429
魔力:680
スキル:溶解 吸成長 水流操作LV2 水魔法【水鉄砲 壱式】
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オイオイマジかよ……。
やたらレベルが上がってるのと、水魔法覚えてんのはまあいい、よくねえけどいい!「吸成長」ってなんだこれ。なんだこれえ!
「おおおい! パンさん、パンさあああああん! ちょっと、ちょっとこっちきてええええ! モル助が、モル助がすごいのおおお!」




