第13話 そしてクリスマス
『目標の睡眠深度……レベル8を確認……判定ヨシ』
『OK、突入する』
ターゲットの熟睡を確認する怪しい女……リパンニェル。
それに続くのは、謎の大きな箱を持った男……ユウ ナルセ。
今回二人が受けたミッションは、ターゲットに正体を見破られた瞬間、失敗判定を喰らう難度SSクラスのものだ。
故に、ターゲットを起こさないのが鉄則であり、二人は念話でやり取りをしながら、慎重にターゲットへの距離を縮めている。
ターゲットは中々に鋭い人物である。
そのため、エージェントユウには、忍スキル【無音足】と【気配遮断】が限定付与され(イベント終了時に消滅します)今、この時のみ優秀な忍となっていた。
ただし、その身を包む装束は忍らしい目立たぬ暗色ではなかった。
この世界では未だ見ることが無い白と赤の暖かそうな服で、顔には白い綿のような面をつけ、潜入ミッションにはそぐわない非常に目立つ姿をしている。
だが、これは決して不適切な姿ではない。
これは今日、この日のみ有効なクリスマス迷彩なのだから――
『あ! やばい! ルーちゃんの睡眠深度が急激に浅くなってきたわ! 現在深度レベル3……2に下がったわ! はやくして!』
『……焦らせんじゃ……ねえ、よっと』
そっと物音を立てないよう、枕元に『箱』を置き、ベッドから遠ざかるユウ。
『ううん』と、可愛く寝息を吐いて寝返りを打つルーちゃんの様子を確認し、そっとリビングに帰還した。
「はー! 緊張した。サンタコスまじでクソゲーすぎるわ。動きにくいったらないぞ……」
「でもさ、あれを着てこそのミッションじゃないの」
「まあな、せっかくやるならあれを着ねえと盛り上がらねえわ」
現在、日本時刻で十二月二十五日深夜一時……そう、クリスマスの夜である。
おわかりの通り、我ら『ルーちゃんにクリスマスを楽しませる団』は、最終ミッションであり、最重要ミッションである『プレゼント設置』を無事終えたところだ。
「しっかし、パンさん。お前マジで地球の文化にどっぷりだよな。言われなくてもサンタ衣装用意しててわろたわ」
「地球ってさ、先輩たちが分割管理してるじゃない? 特に日本エリアは仲がいい先輩がいるからさ、ちょいちょい遊びに……研究に行ってたの」
「分割管理……ああ、神話がやたらと有るのはもしかして……聞かなかった、なにも聞かなかった!」
「別にそんな厄ネタじゃないわよ? 先輩のアマテラさんとか、ユウと話が合いそうだし、いつか紹介してあげるわね」
「……アマテラさんって、どう考えても天照大御神じゃねえかよ!」
「そうそう、そのアマテラさんからいいお酒貰ったんだった……ほら、あんたも飲みなさいよ……」
「神からの酒……不老不死になったりしねえ? って、もうなってたわ……つうかこれ、某VTuberがコラボしてるやつじゃんかよ」
「そう、アマテラさんの推しみたいでね、何本か買ったからって分けてくれたのよ」
「やべえ情報がどんどん入ってくる……」
こうして……二人仲良く寝落ちするまで聞きたくない神界のお話を聞かされて……。
……
…
……窓から朝日が差し込み、緊張の時が訪れた。
よく起きれたなって? いやあ、なんかパンさんが女神のスキルで無理やり起きられるようにしたんだよ。
なんか【覚醒】とかいう、かっちょいい名前のスキルでさ、指定した条件を満たした時に、指定した対象を強制的に目覚めさせるっつう、やべえスキルなんだと。
これだけ聞くと『ちょっと名前負けしてね?』って思うよな。
俺もそう思った。
けどよ、このスキルすげえんだよ。
今回は『ルーちゃんが起きる十分前に』『俺とパンさんを』起こす設定になってたらしいんだ。
そう、ルーちゃんが起きる十分前だぞ? 統計学的にこれくらいの時間だろうって頃に起こすんじゃなくて、きっちり未来予知をしたうえで起こすらしいんだよ……。
さすがは女神専用スキルだなとちょっと震えたわ。
ちなみにこのスキルは、俺にログボを配ってた頃に大活躍したそうだ。
あれ、毎回リアルタイムで言ってたらしいからな……ほんとしょうもねえことで無駄なリソースを消耗しやがってよ……。
というわけで。
スキルによって強制的に目覚めた我々は、無事に指定の位置にてターゲットの監視に着くことができたわけだが……おっと、そろそろパーティタイムだな。
『こちらジーク、こちらジーク、ターゲット覚醒』
『こちらビーナス、こちらビーナス、こちらでも確認、ターゲット動くぞ』
むくりと起き上がり、ふわあと、小さく伸びてベッドから降りようとしたルーちゃんだったが、お部屋の様子が少し普段と違うことに気がついた。
「なにこれ? なにこれー? ねえ! ユウー! まーま! 起きてー! なにかあるよー!」
『こちらジーク、突入する』
『了解、援護する』
我々特務部隊は、なにも知らないという顔でターゲットへの対応に取り掛かった。
むくりと起き上がり『何が起きたんだい? 俺は何も知らないぜ』といった顔でルーちゃんに問う。
「どうしたの、ルーちゃん。わ、その箱なんだい」
「わかんないの。朝起きたら置いてあったの!」
さも、今起きましたよという顔でそれに続くパン。
「ふああ……なんでしょうね? あ、そうだわ、ルーちゃん良いものがあるわ」
良いもの……? ちょっと? ビーナスさん? なんか打合せと違うんですけど、なにを……おいこらビーナス! マジでなにやってんだよ!
ベッドの上に立体投影されているのは、昨夜の映像だ。
クリスマス迷彩に身を包んだ俺が、ターゲットに忍び寄り、箱を置いて去って行くまでの一部始終が映っていた。
マジかよ……カメラ仕込んでるなんて知らなかったんですけど?
「この赤い人が犯人なの?」
犯人なんて、ひどい言い草を真顔で言うルーちゃんに思わず吹き出しそうになったが、腿をつねってぐっと耐える。
「ルーちゃん、私この人知ってるわ」
「本当?」
「あ、ああ、俺も知ってるぞ。あと、犯人って呼び方は良くないね。悪い人じゃないから」
「悪い人じゃないの? じゃあ……この赤い人が置いて行ったこの箱はなあに?」
「この人はサンタクロース。クリスマスの夜にね、よい子にプレゼントを置いていくの」
「サンタクロース……あ! 昨日言ってたサンタさん?」
「ええ、そうよ。サンタさんよ。ルーちゃんが良い子にしてたから、来てくれたのね」
「そっかあ……ルーちゃんとこに来てくれたんだ……」
「箱の中身はルーちゃんへのプレゼントが入ってるんじゃないかな? 開けてみな」
「うん! 開けてみる!」
すごく興奮しているので、バリバリと一気に行くと思いきや、丁寧に包み紙を剥がしている……お行儀がいいな、ルーちゃん。
包み紙を丁寧に折りたたみ、ゆっくりと箱を開けて……。
「!!!!!」
中を見たルーちゃんが、目を見開き声にならない叫び声を上げている。
箱と俺とパンを交互に何度も何度も見て。
ちょっとしてから、深呼吸をして、わーっと声を出した。
「ねえ! なんかね、可愛いのが入ってるー! なにこれー!」
「おっ! クマさんのぬいぐるみじゃ無いか。良かったなー」
「あら可愛い! 小さなお友達が出来たわね」
ルーちゃんが興奮しながら抱きしめているのは、モフモフのくまさんぬいだ。
実は、俺には隠しスキル【ぬいぐるみ製造】があるんだよ……といっても、元々持ってた自前の技術だけどな。
昔、なにかに影響を受けてぬいぐるみを作ったことがあったんだよ。
タオルを使って作るくまかなんかでさ、それがまた、楽しくって。
それ以来、たまにだけどプラモ感覚でぬいぐるみを作っててな、恥ずかしいからあんまり人には言ってないけど、密かな趣味として長年続けてんのよ。
パンさんと『それでルーちゃんに何をあげようか』って相談してた時にさ、わっとひらめいたんだよね。
……ぬいが作れるって、パンさんに打ち明けるのはちょっとだけ迷ったけど、おたく趣味がバレてるっつうか、なんか同士だったし、こうして一緒に暮らしてるわけだからな。
まあ、今さらかって打ち明けてさ、作例見せたら大好評で。
『私も作れたらな……』
なんて、しおらしいこと言うからさ、素材集め……目や鼻に使うパーツの材料を集めてもらって、作成に協力してもらったんだ。
ガワはヒッグホッグさんの毛皮を加工したもので、中身はフワフワの実、目や鼻はパンさんが採ってきてくれた鉱石を加工したもの。
これなら、一応パンさんも協力した形になるだろ?
けどさ、やっぱこれだけじゃ納得しにくいよなって思ったので、くまさんに持たせるカバンを作ってもらったんだ。
自分で『下手くそだから無理よ……』って言うだけあって、縫い方はてんでなっちゃいなかったけど、そこはつきっきりで教えてあげてさ、最終的にはいい感じにできたと思うよ。
ちなみに……『小さなお友達』と、パンさんは言ってるけどさ、じつはこれ、ルーちゃんより少し小さい程度の結構大きなぬいぐるみなんだぜ……。
こうしてみると、どっちが抱っこされてるかわっかんねえな。
あー、尊すぎて浄化されるわ……。
「ねえ、まーま、ユウ、さんたくろーすって魔族なの?」
「えっ? ち、ちがうわよ?」
「サンタは……パン……ママに近い感じの存在だと思うけど、どうしたんだい?」
「そうなんだ……残念だな、もし魔族だったら使役してお友達になったのに……」
「」
「」
子供ってやつぁ……さりげに恐ろしいことを言うよなあ。
さすがの俺もパンさんも絶句ですわ。
サンタクロースを使役って、やっべえぞ。
つうか『友達』とはなんなのかをちゃんと教えておかないとダメだな。
近いうちにリットちゃんと会わせてみるか……。
「……お友達になったらここに召喚してね、来年はユウとママの分もプレゼントちょうだいねってお願いしたかったの」
「「ル…ルーちゃん……」」
「わ、ユウ? ママ? わー!」
ぎゅっとルーちゃんを抱きしめる俺とパンさん……二人の顔は涙でぐちゃぐちゃだった。
だって、しょうがねえじゃん……ルーちゃんがかわいすぎて尊すぎて……なあ?
ちょっぴり物騒なことをいってたけどさ……ほんと優しい子に育ってくれて嬉しいよ……。




