第11話 クリスマスイブのために
光陰矢の如しとはよく言ったもので。
品種改良だ、収穫だ、ルーちゃんとかくれんぼだーと、やいのやいのと忙しく過ごしていたら十二月も虫の息になっちまってね。
なんと今日は十二月二十四日、クリスマスイブなんですわ。
ここらは相変わらず初夏の陽気が続いているけれど、俺のスマホの暦がそう言ってるんですわー。
パンさんに召喚されてなかったら、きっと例年通りに仕事帰りに酒屋寄ってさ、ちょっとだけ良いワインを買ってたと思う。
んで、オカンが買ってきたオードブルをつまみに、クリスマス配信を見ながらワインをぐいぐいと流し込んでいって……気づいたらクリスマスの朝……みたいな。
寂しくも楽しい、けれど割としょうもない過ごし方をしてたと思うんだ。
だが、今年の俺は違う。
一緒に過ごす相手が居るから?
ば、ばっかルビがちげえだろ! そこはかわいいかわいい愛娘『ルーちゃん』ってつけとけよ!
そうさ、今年はルーちゃんが居るんだ!
俺って独身じゃん? だから、クリスマスっつう、キッズが大好きなイベントを、パパ目線で見ることができなかったわけじゃん。
ルーちゃんを見て秒で父性に目覚めた俺ですよ?
こんな大イベント、張り切らないわけがないだろ!
……けどさ、生まれたばかりのルーちゃんは、クリスマスというものを知らないわけじゃん。
俺が……いや、俺たちが正しいクリスマスを教えてあげないといけない。
そう……サンタさんとの邂逅という素敵なイベントを……いや、会っちゃ駄目なんだった。
……サンタはひとまずおいといて、だ。
クリスマスの目玉はサンタだけじゃない。
そう、美味しいディナーも楽しみの一つだ。
そのために、クロベエにちょっとした依頼を出してたんだ。
先日クロベエが獲ってきたレッグコッカとかいうデカい鶏がいたじゃん。
あれ、めっちゃ美味かったし、日本のクリスマスって言えば謎にチキンだよねーってことで、昨日こっそりとお願いしてたんだ。
ついでにウッサロップのとこに寄って、ヒカリにも手伝わせるようにと、今朝方、二頭分のお弁当をくくりつけて送り出してやったんだけど……。
ちょうどさっき、十五時を過ぎたくらいに帰ってきたんでさ――
「どうだった?」
――と、戦果を聞いたわけよ。
だというのに、このモフモフオジサンときたら……。
「え? まあ別に?」
とか言うわけよ。
なにが別になんだか、わけわからねえからさ『いや、別にじゃなくて、どうだったんだよ?』って言ったんだよ。
そしたら、なんか知らんけど、すっげえ動揺してさ。
「ど、どうもこうもないよ。ユウが言うからさ、仕方なく連れてっただけだし。まあ、ヒカリも狩りは下手じゃないからね。おかげで楽ができたよ」
なんて言うわけじゃん。
ああ、じゃあ狩りは上手く行ったのか、楽ができたなら良かったなと思ってさ。
「そっかそっか。上手くいってよかったなあ」
って、狩りが成功して良かったなって褒めてやったんだよ。なのに、こいつときたら。
「なななな、なにも上手く行ってないよ! 思ったより早く終わったからって、ウサギたちの巣で一緒にゴロゴロしたりしてないし、森の泉で一緒に水を飲んだりもしてないよ! あいつとはただ、狩りをしただけだし!」
なんて、聞かれても居ないことをベラッベラと言うわけですよ……なんなんだろうな、この可愛い生き物は。
うちのクロベエちゃんだったわ。
ああ、狩りの成果はもちろん上々だったよ。
話を聞いた後、レッグコッカを二羽しっかりと受け取ったもの。
おかげでクリスマス料理はバッチリ用意ができそうだわ。
うん? 主役のルーちゃんはどこに行ったかって?
あの子は今、パンさんと二人でダンジョンの様子を見に出かけているんだ。
ルーちゃんにとって、塩のダンジョンは半身だからさ、離れていてもある程度なら内部の異常をざっくり感知できるし、スキルを使えばちょっとした対処くらいなら家からできるらしいんだよ。
だから、内部で厄介事でも起きない限りは、わざわざ様子を見に行く必要なんてないんだけど……ほら、サプライズ的なアレがこれでソレだからさ……。
パンさんに頼んでルーちゃんを連れ出してもらったわけ。
まあ、ここんとこずっと家で俺の手伝いをしてくれててさ、ダンジョンの様子もあんまりチェックできてなかったらしいから、ちょうどよかったみたいだ。
そんな俺がなにをやっているかと言えば、そらもう、クリスマスディナーの準備よ。
チキンか? チキンなのかって? チキンも作ってるが、もうオーブンの中だぜ。
今やってるのは、チキンさんにオーブンを譲ったお姫様のメイクアップさ!
「ほんと、はじめてにしてはよく焼けてくれたよなあ……」
みろよ、このきれいに焼けたスポンジケーキ……まるでお店に売ってるらくらくケーキキットのスポンジみたいだろ?
俺が誰か知ってるか? そうさ、数々の魔獣たちを虜にしてきた、料理チート系主人公だ!
スイーツ作りくらい軽いものなのさ!
「ユウー、おかわりまだー? さっきのは焦げて無くてよかったよー」
……嘘です、何回か失敗しました。
俺にそんなすげえチートなんてありません。ぺちゃんこにしてしまったり、焦がしてしまったりと、もう、完全に手探り状態でした。
何度もがんばってようやく満足いく結果を出せた感じです。
失敗作はクロベエちゃんが美味しく召し上がってくれました! 虫歯には注意しろよ、クロベエ!
いやさ、実はスポンジケーキって【製作】で作れるんだよ。
けど、せっかくのクリスマスだろ? やっぱ自力で作りたいじゃん。だからめっちゃがんばったんだよ……そらもう、時間的に超ギリギリになるまで頑張った結果、報われたんだよ……。
ほんと頑張ったよな、俺……!
つーわけで、マジで時間が無くなってきたので、サクサクと仕上げていくぞ!
スポンジにそおっとそおっと刃を入れて……慎重に三分割……ふう、今年一番緊張したかもしんねえ……。
今から作るのは、イチゴ(品種改良で作った)のショートケーキだ。
ケーキと言う字を見て、俺が最初に思い浮かべるのがこれだからね。ルーちゃんが初めて食べるケーキも、やっぱこれがいいかなって。
あ、ショートケーキって聞いて『生クリーム』どしたん? って思っただろ?
そもそもの話さ、スポンジケーキを焼くのにタマゴとバターと牛乳が必要なんだぜ?
タマゴはまあ……クロベエたちに頼めば、森のどっかでレッグコッカのが見つかるかも知れない。
でも、牛乳とバター、ついでに生クリームは用意できない。そう、結構前にパンさんがフラグを立てたというのに、未だにミルクを出す魔獣と出会えてないからな!
つまり、現状では普通の手段でケーキを焼くことは不可能なんだよ。
……でもよ、ケーキがないクリスマスって……違うよなあ?
こんな時、俺は無力だ。
自ら願ったことだから、仕方がないことだが、俺にはチートがない。
けどよ……思い出したんだよ。
……存在そのものがチートで、本来ならばここに居てはいけないアイツの事をな!
◆◇回想シーン◇◆
「へへ……女神さま、ちょっとこちらへきてくんねえっすかね」
「……あんたが三下ムーブしてる時ってろくな事ないんだけど……」
「まあまあ、ちょいとお耳を拝借……じつはですね……」
「ひゃんっ! く、くすぐったいわね!」
「へ、変な声出すんじゃねえよ!」
「あんたがぽそぽそ喋るから!」
「……クリスマスでげしょ? ケーキを焼きたいんですがね……」
「聞き取りにくいから普通に話しなさいよ……ああ、なるほど、そういう……んっ……♥」
「だから、やめろって! へ、変に意識しちまうだろうがよ!」
「だ、だって……しょ、しょうがないわね……じゃ、後でストレージにいれておくわ」
「サンキューな、パンさん……」
◆◇回想シーンおわり◇◆
……なんか妙な記憶まで再生されたような気がするが、まあ気にしないでいただきたい。
つまり、ぬるっと地球に出かけられるパンさんにお使いを頼んだってわけ。
そう、頼んだのは牛乳に、生クリーム、バターとお砂糖だ!
どう頑張っても、現状作れないものを買ってきてもらったのさ。
いずれはこれらもリプラシル産のものを使いたい所だが、今は無理ってことで割り切ったんだ。
いいんだよ、世に放つわけじゃねえからな! 身内で消費して終わりだからいいの!
つーわけで、無事にスポンジケーキが焼け、腕の筋肉を犠牲にホイップクリームもできたってわけ。
ようし、やるぞう!
クリームぬりぬり……イチゴ置き置き……重ねて塗って置いて、また重ねておいて。
最後にぐるっと塗って、上面塗って。
……モルモルから貰った謎素材と魔鉄鋼で作った絞り袋でクリームをキュキュッと絞って……イチゴを置いて……。
……ふう。
ようし、ショートケーキの完成だ!
いやあ、マジで大正義だぜ、動画投稿サイト様はよお!
なんたって、プロの動きを何度でもじっくり見ることができちまうからな。
見たまま真似ができたとは言えないけど、素人が適当にやるよりだいぶマシにできたと思うぜ。
おっと、チキンも焼き上がったようだな。
ローストチキンにジャモサラダとクリームシチューにロールパン。
食後のお楽しみにイチゴのショートケーキだ!
パンさんのお使いのおかげでクリームシチューまで作れたし、いい感じにクリスマスっぽくできたと思う。
さあ、後はそれらしく飾り付けて……我が家の天使を待ちましょうか!




