第10話 クロベエのステータス
パンと二人、ニヤニヤしながら『つがいの戦士』なる、ウッサロップたちの合唱を聞いていたのだが……なんかこれ、全然終わる気配が無いんだわ。
「なあパンさん……無限ループって怖くね?」
「そうよね、これループしてるわよね……」
いい加減飽きてきたっつうか、なんか辛くなってきたので止めることにした。
「クロベエ、クロベエ……ちょっとこっち来て」
「なんだよ……」
クロベエがちょっと拗ねてておもろ。
「この歌止めてえだろ?」
「止めたいよ!」
「だったら、ちょっとウッサロップどもんとこいってさ、このスマホ見せながら……って言ってこいよ」
「それで止まるの?」
「ああ、止まる。なんたって、黒き戦士のお願いだからな」
「もう、それやめてってば!」
クロベエがもふっと尻尾で俺の顔を叩き、モコモコとウッサロップたちの方に向かっていった。
この歌を止めるには、恩人からのお願いしかあるめえ……って、うるさ! クロベエが近づいたら、合唱がヒートアップしたぞ。
「あーもう、うるさいな。ちょっとそれやめて! ねえ、これみたことない? おれたち、これを探しに来たんだ」
クロベエが差し出したスマホに表示されているのは、ホップの写真だ。
パンが『マリハナの見た目はまんまホップと同じよ』って言ってたから、さっき画像検索したんだ。
「おお……くろきせんしのさがしもの!」
「これは、かおりたかきくさ!」
「かぐわしいくさ!」
「ひとかみすれば、こころさわやか!」
「かぐわしき くさ」
「かぐわしき くさ」
くっそ、また歌が始まった! なんなんこいつら、歌わないと生きていけないのかよ。
「まてまて、歌は後だ。知ってるんなら、そいつが生えてるとこまで案内してくんないか」
「せんしのちちのためなら」
「かぐわしきくさへー」
だめだ、こいつらいっぱい居るとすぐに合唱はじめちまう!
だったら……こうしてやる!
「くさへー……ひゃあ!?」
「とりあえずお前だけこい! 後は留守番だ!」
うるさいウサギさんをヒョイッと抱え上げ、我らルーちゃん探検隊は幻のハーブ、マリハナを求めて森の奥へと向かったのでありました……。
◆◇
ヒカリちゃん、君、ウッサロップの護衛をお願いしたよね? なにちゃっかり着いてきてんのよ。
まあ、今日は捕食者が近くにいねえっていうか、クロベエとヒカリちゃんの気配を察知して逃げてったみたいだから別にいいんだけどさ。
そんなヒカリをチラチラとみてるのがクロベエだ。
めっちゃ意識してんのバレバレだかんな?
『つ、つがいじゃないし! うさぎたちの見張りで仲間にしただけだし!』
なーんて言いつつも、ヒカリをチラチラチラチラ見てるし、尻尾をブンブンブンブン振ってるし。
その様子をニチャニチャとみてるのが俺とパンさんだ。
どう見ても即落ちしてた彼の初々しい反応に、我々もうニチャニチャが止まらねんだわ。
そんな俺達の気配を察したのか、思い出したかのようにシッシと前足をヒカリに振るクロベエ。
その様子に、また愉悦が加速する俺たちなのでありまし……うん? あの動き……
……そういや、こいつソ○ックブーム撃ってたな……。
「なあなあ、クロベエ。ヒカリとじゃれ合ってるとき手からなんか出してただろ? あれなんなん?」
「じゃれ合ってたとか言わないでよ! あれは戦い! 戦ってたの!」
「なになに、なんの話? ラブなの? ラブの気配なの?」
「ちげーよ……って、そっか、パンさんあの時いなかったっけ……クロベエ、例の技、見せてあげなさい」
「うっわ、なにそのドヤ顔。どうせまた、しょうもない……」
えいっと、前足を振りソニックブー○を撃ち出すクロベエ。
うっわ、パンさんなにその顔、めっちゃおもろ! 写真撮っとこ!
「……な、なななななな! なななななな……あ! そうよ、ユウ! 鑑定しなさい! この間つけてあげたでしょ!」
「わかってたけど、やっぱパンさんもしらねえのな……」
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名前:クロベエ
職業:ネコチャン LV:8
体力:580 魔力:243
元は普通の猫だったが、この世界に召喚された際に加護を受け魔獣へと進化した。
本名は『黒田官兵衛』という、とんでもない名前だが、そのせいで動物病院で爆笑されていた。
スキル:ねこぱんち ねこきっく 気配察知 言語LV2 遠吠え 風魔法『疾風鎌鼬 壱式』
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「なあ……この、俺の恥ずかしいエピソード消してくんね? もう擦らんでええやろ……」
「シ、システムがやってることだし! あたしじゃないし!」
「前に神はなんでもお見通しとかいってたじゃねえかよ……ってそうじゃねえんだわ。パンさん? なんでしょうね、このラノベくさいルビがついたスキルは」
「あ、そうだった! って、これこそあたしじゃないわよ! なんでクロベエちゃんに風魔法が生えてんのよ! ねえ、ユウ! どういうことなの!?」
「それを知りたいのは俺なんよ……魔法使えるやつがいないって設定はどこいったん?」
「設定って言わないでよ……ほんとおかしいわね? システム上、できるようにはなってるし、まぐれでできたケースはあったけど……ちゃんと身に付けないとスキルは生えないはずなのに……」
前に誰か言ってたな、婆ちゃんが指光らせたとかって……。
もしも、リプラシルのスキルシステムが、緩い仕様なら、一度できればそれだけでスキル欄に生えるんだろうと思う。
閃きシステムみたいな感じでさ。
でも、意外なことに、リプラシルはそうじゃない。
どうすればできるのかを最低限理解し、再現できなければスキルとして身につくことはない……パンさんが言っているのはそういうことらしい。
……いやいやいや!
「クロベエ、なんで魔法使えんだよお前!」
「まほー? なにそれ知らないよ」
「その手からビュビュって出る緑のアレだよ!」
「あー、これ? おれにも良くわからないんだけどさ、ほら、デカい鶏狩ってきた事あったでしょ?」
「あー……レッグコッカか……」
「そうそれ。あいつ素早くてさあ、どうにかして当てたいって、がんばってたらなんか出たんだよねー」
「出ちゃったかあー……」
「うん。便利だからさ、その後も、何回か練習してたら普通に出るようになったんだ」
「そっかあ……頑張ったんだな、クロベエ……って、いやいやいや……なあ、管理神様よぉ……魔法ってがんばって覚えられるようなもんなんすかぁ?」
「うーん、何らかのきっかけから自然と魔力の使い方を覚えるってのはあるかもしれないわね。必死になって猫パンチをしてるうち、当たれ当たれと前足を振っているうち、前足に魔力が流れ集まる。そしてそれが空を切って微量に生まれた大気の流れに干渉して生まれた新しい魔法……練習でそれを再現し、システムに認めさせたってとこかしら!」
「早口で一気に言ってるあたり……なんかこう、察することもあるが、管理神様が言うならまあ、そうなんだろう」
これ絶対になんもわからんかったやつですわ。
「あ! 適当に言ってると思ってるでしょ!」
「思ってねーよ。ほら、あれだろ? 自転車みてえなもんだろ? 最初は乗れねーけど、何かの拍子に転ばずに乗れた瞬間、こう身体が乗り方を覚えるっつうか、文字通り身につくって言うか……なんかそんな感じのアレなんだろ……知らんけど」
「またフワッフワな……まあ、でもだいたいそんな感じのアレなんでしょ」
ソレな。
「ちなみにパンさんは魔法使えるん?」
「おん? 我リプラシルの理を握りし管理神ぞ? ほーら」
手からゴウゴウと炎を立ち上らせドヤ顔のパンさん。
「あっ、ふーん」
「え……それだけ?」
「……思ったよりすごくねーなって思っただけだよ」
「あ、悔しかったのね? そうでしょ? そうでしょー!?」
くっ……予想以上にすげえの見せやがって……あーくそ、このドヤ顔よ!
「ほーれほれ、こっちの手は氷、こっちの手は炎! 両手を合わせると……」
「よしなさい!」
ノリで対消滅魔法使おうとしてんじゃねえよ……って、アレは漫画のお話か。
リプラシルじゃ対消滅とかしねえよね? おいこらパンさん、目をそらしてんじゃねえぞ?
冗談だ? ったく、ほんとしょうがねえ管理神様だな……。
◇
「くろきせんしと、そのちちたち。ここがかぐわしきくさの、はえるばしょ」
うおっ 居たのかウッサロップ! って案内させてたんだったわ。
ルーちゃんはといえば、クロベエの背中ですっかり寝落ちしているんだなこれが。
何か静かだなあって思ったら、そらもうぐっすりよ。クロベエのモフモフに抗えなかったんだね……かわゆ。
ルーちゃんをそっとクロベエから下ろし、ふたたびクロベエに託す。寝そべって丸くなったクロベエはフワフワのぽかぽかで良い寝具になるだろう。
「ほら、これこれこれだ。これがかぐわしきくさだ」
ウッサロップがぴょんこぴょんこと示した先には、マリハナが生えていた。
マジでまんまホップで笑うわ。
こんなん、見かけてたら『ホップじゃん!』って取ってるはずだ。
今日まで存在を知らなかったってこた、きっとこの辺りの固有種なんだろうな。
「せんしのちちよ」
「どしたん? うお、それって……」
「これもかぐわしきもの。いるか?」
「要る要る! めっちゃ胡椒じゃん! でかした! 胡椒でかした!」
「そうか、ならば、それもあつめよう」
ウサギと一緒にマリハナと胡椒を集めつつ、チラリとルーちゃんの様子をみてみると、ちゃっかりヒカリもクロベエにくっついて眠っていた。
クロベエくんって結構神経質だからさ、ほかの猫にくっつかれるとパッと起きてパンチ喰らわせるんだよ。
なのにさ、ヒカリの事なんてなーんも気にしねえでぐっすり寝てんの。
クロベエが一緒に寝るのはムギちゃんだけだと思ってたけど……ほんと、わかりやすいよな、こいつ。
クロベエくん、やっぱりお嫁さんにする気満々じゃん。




