第7話 念願のアレを聞けたわ
白いモッフモフの長毛種が、ギロリとクロベエを睨みつけている。
口調と言い、声と言い。目を瞑って聞いていれば、敵国の女騎士さんのセリフにしか聞こえねえ……。
ちょっと目を瞑ってていいかな? だめ? そうだよな……。
「獲物をうばう? なにいってんだ? おれはユウに言われてここにきただけだぞ」
「せんしさま! あいつ! われらをおそうわるいやつ!」
「やっつけて」
「やっつけて」
「あいつをやっつけて」
「せんしなら、あんなやつこてんぱん!」
「ざーこ! ざーこ!」
「なんだとこの! ちいさいくせになまいきだぞ!」
クロベエの後ろに回り込んだウサギどもが、ぴょんぴょこぴょんぴょこやかましい。
こいつら、クロベエの背中に隠れて白猫さんに言いたい放題だ。
ほんと良い性格してるよ。
ピョコピョコザコザコとうるせーし、バトルになったら邪魔になるのは目に見えてるので『ここはクロベエに任せて先に行け』と言ったら、これ幸いと広場に向かって逃げていった。
ほんとおまえら……。
「こら! かってにえものにがしたな! くろいのとひょろいの! ゆるさぬ!」
ひょろいのって俺かよ? うっわ、めっちゃ俺たちを睨んでらっしゃるし……。
うーん……話が通じる魔獣を狩ってしまうってのはどうもなあ。
よく見りゃ可愛い猫さんだし、声の感じからしてメスなんだろう? 甘いことを言うようだけど、俺にはこいつを討伐すんのは無理だわ……。
こういう時はアレだ、ほどほどに痛めつけて撃退すんのが一番丸いな。
「クロベエ、やりすぎない程度に遊んでやれ。けど、無理はすんなよ」
「うん。でもだいじょうぶだよ。あんな奴、手加減しても余裕」
「ごちゃごちゃとうるさいやつだ!」
先手となったのは、耐えきれず飛びかかってきた白猫だ。
大きな猫ちゃんたちの喧嘩が始まったぞ! ヒャァ! こいつぁ中々に大迫力だぜ……ってここに居ると巻き込まれちゃう!
慌ててクロベエたちから離れる。
ふう、これで一安心だぜ。いくら死なねーとはいえ、ケガはするからな。クソデカキャッツ共の喧嘩に巻き込まれたらどんなに酷い事になるか考えたくもねえ……。
「む、おまえ……速いな! でも俺には通用しないよ!」
なんとかクロベエの間合いに入ろうとする白猫が、右に左に飛んでクロベエを翻弄しようとしている。
……この猫ちゃん、なかなか速いな。
スマホランスがあっても、敵わなかったかもしんねえ……アレに当てるの無理っぽいわ。
だが、クロベエのほうが上手のようだ。白猫の攻撃をひょいひょい、ひょいひょいと躱しながら……っつか、クロベエくん? 君、なにをしてはりますのん?
クロベエがよ……なんか……格ゲーの遠距離攻撃みたいな何かを放ってんだが……?
某有名格ゲーの軍人さんが放つ衝撃波みたいなやつ、それがクロベエくんの前足から出てんだけど……なあにいあれえ!
クロベエくんが前足をシュシュっと振るたび、ぼんやりと緑がかった風の刃的なアレがシュバシュバっと白猫に向かって飛んでいく……。
ええ……? まじでなんなんあれ。
「くっ この! なんだそれ! ずるいぞ!」
そうだ、ずるいぞ! 俺もそれ撃ちたい! 後で教えてくれ!
うわーこれ、格ゲーでやられたらムカつくやつだわ。
クロベエのやつ、もくもくと左右にシュバシュバと風の刃的なアレを撃ち続けてんの。白猫ちゃん、もう避けるしかねーの。
距離なんてつめらんねえの。
「ぐぬにゃごろおおん! あったまきたぞー!」
あっ……白猫ちゃん……やってしまいましたなあ。
じれた白猫が取った行動は余りにも愚かだった。
風の刃を飛び越えて、クロベエ目がけて飛び込んでしまったのだ。
その時……クロベエの目がギラリと光った(気がした)
待ってましたとばかりにヒラリと宙返り。
後ろ足が白猫の顎に突き刺さり、相手の勢いも利用した大ダメージを与えたのである……。
「って、おいこら、やっぱまんま待ちガ○ルじゃねえかよ!」
「ナゴロァッ」
白猫はそのまま背中から地面に落ちた……が、直ぐにフラフラと起き上がって、なんとかクロベエから距離を取ろうとがんばる。
けれど、その隙を逃すクロベエくんじゃねえんだよな。
素早く白猫に覆いかぶさると、首の付け根を強めに甘噛みして口の脇から唸り声をあげる。
「ぐおろおおおおおおにゅおおおおおん!」
ああ……懐かしいなあ、一緒に飼ってる猫たちとじゃれ合ってこんな真似してたっけ。
見た目は完全に交尾のアレなんだけど、雄猫同士でやるのは文字通り『マウントを取る』って感じの行動らしくてな。
これは『強いんだぞー! 我に従えー!』ってやってるだけらしい。
なんとか抜け出そうと頑張る白猫だったが、体格差がそれを許さない。
クロベエくん、モッフモフの毛で嵩が増してるだけに見えるけど、実は結構筋肉質だからな。抱っこすると腰に来るんだわ。
それがそのままデカくなってんだから……ね。
白猫はしばらく抵抗を続けていたが、やがてあきらめたのか足掻くのを止め、悔し気な眼差しでじっとクロベエを睨み付けた。
これは……このシチュエーションは……!
くるぞ、くるぞ……絶対に言うぞ……あの声の感じ、性格からして……言うぞ、こいつは言うぞー!
「くっ……! ころせ!」
うおおおおおおおお! やったぜ! いただきました! くっころ!!
生くっころだあ! ひゃあああ! くっころきたわあ!
「ユウー? こいつとどめさせっていってるけど、いいのー?」
「って、だめだめ! そいつもう戦えないだろ、許してやりなよ」
クロベエは『まあそうよね』という顔をして、顎の力を緩めて白猫を解放した。
「良かったな、お前。ユウもああ言ってるし、逃がしてやるよ。ほら、どこへでも行け。ここはおれの縄張りにするからもう来るなよ」
解放された白猫はフラフラと起き上がると、なにか言いたそうにクロベエの背後をウロウロしていたが……クロベエにガルルと唸られ、どこか寂しげな顔でそのまま森の奥に消えていった。
……クロベエにフラグが立ったような気がするのは気のせいだろうか。




