第4話 食品加工のお時間です
クロベエを丸洗いしたルーちゃんは、パンに手を引かれてお風呂へ。
丸洗いされたクロベエは、さっぱりして気持ちが良くなったらしく、リビングで丸くなって寝息を立てている。
それで、俺はと言えば。
外の水道でささっと汚れを落とし、キッチンへ。
そうだよ、お疲れ様会の準備だよ。
今この家で料理ができるのは俺だけだからな、こうなるのは仕方がないことなのよ。
パンさん? ああ、あいつはだめだよ。
神界学校の家庭科で『調理実習以外は優秀』って言われたらしいから。
いわゆるメシマズではないらしいのだが、包丁を握らせると見てて怖いんだと。
まあ、あいつだって、ルーちゃんに手料理をと思うところはあるだろうから、頼まれたら教えてやるつもりだけどな。
さてと……下準備をしていこうか。
今日作る料理に必要なものは小麦粉、そして醤油と味噌だ。
粉はなにかしの穀物を加工すりゃあ、作れるだろうなって想像がつくよな。
リプラシルなら、ミーンがそれに該当するから、それを調達して挽いたらできるだろうと、誰だってなんとなく思いつくはずだし、ガッツがあれば自分で作ることだってできるだろう。
けど、醤油と味噌……こいつらは知識と気合だけじゃどうしようもできねえんだよ。
異世界系のノベル読んでるとさ、日本から異世界に転生なり転移なりした主人公が醤油や味噌を求めるシーンってのが出てくるじゃんか。
大抵の場合さ、極東にある謎の島で作られてるのをみっけたり、謎に日本っぽい国で作られてるのをみっけたり、なぜか醤油っぽい液体が内側に満たされた実をみっけたりと、調達手段がだいたい外部の力に頼る感じになるんだよ。
たまに、自作する強者もいるが、ほとんどの主人公がそれをしないのはなぜだろうか?
それは、材料を揃えるのがマジで無理だからだ!
醤油と味噌は材料やざっくりとした作り方を知っているやつは多いだろう。なにせ、俺だって知ってるくらいだからな。
けど、割と入手が無理ゲーな材料がひとつあるんだわ。
そう、麹さんだ。こいつの調達が難しいんだ。
さっきAIのシュロップに聞いたんだけどさ、ざっくり言うと品種改良の結果、現代人が知る麹になったんだとさ。
つまり、俺が自力で麹を調達すんのは無理ゲーなわけじゃん?
普通にやろうとすれば、味噌や醤油を醸造するのは無理なんだけど……その辺うちの【製作】さんはずるいんだよなあ。
ダイズとミーン、それに塩と水があれば『作成』ボタンが押せちまうんだよ。
そう、最大の難所である麹さんがいらないんです。
問題は、この世界の連中が作るときなんだが……どうすっかな。
【製作】で麹を必要としていないから、もしかするとリプラシルでは勝手に醸される仕様なのかもしれんが、あのアプリは錬金術めいたところがあるからな……。
まあ、最悪パンさんに相談しよう。
あれでも管理神なんだし、きっとどうにかしてくれるはず……できるよな?
つーことで、味噌に醤油、小麦粉、ついでに豆腐のクラフトが完了したぜ。
いやあ、これで和食をモリモリ作れるようになったわけですが……こうなると、作りたくなるよな、酒をよお!
日本でやったらとっても怒られちゃうやつだが、ここはリプラシル。誰も怒る人はおらんのや!
そんで、調べたら、今作れるのは麦焼酎の甲類・乙類の二種だけだったんだが、あんまし飲まねえ奴なんよな。
イモならロックで飲むのが好きなんだけど、麦はあんまし飲まねえんだよな……。
甲類ならまあ……炭酸とラッツで割ればチューハイになりそうだが、肝心の炭酸水を【製作】さんが作れねえみたいだからな。
これはきっと、炭酸の泉かなんかを見つけなさいってことなんだろうな。
あ、ビールがあるじゃん! いいねいいね、作っちゃお……って、作成ボタンがグレーアウトしてる……なんで押せねえんだ?
……ああー、そういうことか。
詳細画面みたら原因が判明したわ。
なんか『マリハナ』とかいう、香り付けのハーブが必要らしい。
マリハナって、毬花、つまりホップじゃんな。
ストレージに無いってことは、未知の素材かよお……。
うぐぐぐ……作れないと飲みたくなる……パンさんに頼めば買ってきてくれそうだが、そうじゃねえんだよ。
今の俺の口は、自分で作ったビールになってるんじゃい!
たぶん、うちの近所に生えてるカラハナソウみたいなノリで見つかりそうな気がするんだよな。
そこらの里山に雑に生えてんだよな、あれ。
ワンチャン魔獣の森にねえかな? 女神の森も遠いが……そこなら集落のついでに探せるよなあ。
スパイス的なのも増やしたいし、パンさんを煽てて採集ポイント聞き出すとするか……。
これやるとしばらく調子こいてめんどくせーんだが、背に腹は代えられんのよ。
◆◇
一通り支度を終えたところで、ルーちゃんたちが風呂から上がってきた。
「ユウー、お風呂あがったよー!」
「あがったわよ……あら、御飯の支度してたのね。ごくろうさま。いいお湯だったわよ、先に入ってきたら?」
ほこほこに湯気を立てたパンがご機嫌な顔で言う。
くっ……こんなんでも女神様だからな……中身は残念だが、ガワが整っているだけに無駄な破壊力だわ。
そうだ……女神様には貢物をしとかねえとな。
「どうぞ……ウェルカムトーフです。ルーちゃんにはラッツ水をどうぞ」
ルーちゃんには甘酸っぱいフレーバーウォーターを、パンには豆腐に刻んだジャンニを乗せたものと、小瓶に入れた醤油をそっとテーブルに置いてやった。
「ありがとー、ユウ! わ、おいしい!」
「ふふっ、なによウェルカムトーフって……って、冷奴じゃない! ありがとう!」
こいつ、ノーモーションで冷えたビール取り出したぞ……。
「パンさんにはいつも世話になってんで……へへ、じゃあ、あっしは風呂をいただいてきますわ!」
「な、なによ……またなにか企んでいるんじゃないでしょうね?」
「そんなわけねーだろ。ただの気持ちだよ、気持ち」
「そ、そう……ならいいのよ」
ふふ、単純なやつで助かったぜ……。
こうしてご機嫌をとっておけば、後々お願いごとをしやすくなるってわけさ。
さって、お言葉に甘えて、調理前にさっぱりしてくるとしますかねえ。




