第8話 最初の夜
まいどどうも! 早くも一城のあるじとなった、わたくしユウでございますけれども!
なに? 竪穴式住居でイキってんじゃねえって? それはそうwww
まあさ、どうやら今は温暖な季節のようだからな。こんなんでも、しばらくは何とかしのげるんじゃね。
ただ、嵐なんて来ちゃったら秒で吹き飛んじゃうだろうし、本格的に寒い時期になったら毎日震えて過ごす羽目になりそうだからなー。
ワイルドすぎるこの小屋を拠点にして、さっさとまともな住処をどうにかするってのが当面の目標だな。
ストレージに素材を溜め込みつつ、コツコツ作業を進めてけば……きっと、そのうちまともな小屋も建てられるだろう……。
建築スキルなんて便利なもんはねえけど、誰かの建築動画でも見ながらコツコツやれば……うん、未来の俺頑張れ!
とりあえず面倒なことは先送りして、さっそく『草の小屋』に入ることにする。
「おお……これはなかなか……いいな!」
いやあ、俺も男の子だね。
こういう秘密基地的なスペースはワクワクするし、すげー安らぐぜ。
っと、これじゃまだ真の完成とは言えねーんだった。
スマホから大きめの石を取り出して小さなかまどを作った。
暖を取るのにも、煮炊きにも使う予定だが、最初の仕事はそうじゃない。
そう、煙で小屋の中を燻すんだ。
なんかな、こうすると防虫効果が増すんだって動画で見たんだわ。実際効くのかは知らんが、やって損はないっしょ。
ファイヤースターターを貰ったので、火起こしには苦労しないしな。
これはこれで難しいんだけど、使ったことがあるから大丈夫。なんかの動画見て感化されて買ったんだよなあ……三回くらい使って、どっかなくしてそのままだけど……。
「エンチャントファイア……」
……へへ、ついたついたっと。あんまり派手に燃やすと火事になるからな……火力は弱めにっと。
キャンプの醍醐味だぜーと、しばらくの間ぼんやりと焚き火を楽しもうと思ったところで、クロベエが『はらへった』とボヤいていたのを思い出した。
乗り物にしたり、穴掘りさせたりしたからな……ちゃんとご飯あげないとめっちゃキレられそうだわ。
そういや見てなかったなと、ログボの食糧セットを開けてみると、カロリーを摂れますよって感じのボソボソしたチーズ味とフルーツ味のアレが六箱、ドライフルーツがいくつか、そして何故かデカい生肉を真空パックしたものが二枚だけ入っていた。
いやいや途中まではなんとなく理解できますよ。サバイバルというか、山歩きの行動食として有能な携帯食料ですものね。
肉は……なんだこれ?
嬉しいけど、このラインナップだと浮いてね?
「普通さ、この並びならフリーズドライのスープとかじゃねえ? 肉を入れるとしても、そこは干し肉代わりのビーフジャーキーとかさー」
ポポコン!
『お肉は、初日の夜くらい美味しいの食べたいわよねって思ったから入れたの!』
『スープは、正直に言うと失念してました。あースープなー、なるほどなーって思ってます。シェラカップのおまけにつけても良かったですね。ごめんなさい』
パンちゃんもようみとる……。
まあ、わざとボヤいてみせたけど、ぶっちゃけ肉はめちゃくちゃ嬉しい。
パンちゃんが言う通り、最初の夜に食うのが携帯食料とかテンションだだ下がりだからなあ……いやあ、ありがとう、ありがとうパンちゃん様!
ポコン!
『エンチャントファイアwww』
うるせーな! 言ってみたかったんだよ!
……というわけで、早速ですが肉を焼きます!
塩も胡椒もねえから自然の味ってのが悲しいけれど肉を焼きます! 詰めがあめーんだよポンコツ女神って思ってません! お肉ありがとうございます、ポンちゃん様!
太めの枝に刺し、遠火でジワジワと炙っていく。しばらくして肉に火が通り始めると、脂が溶け出し、それがじゅわっと火に落ちた。
たちまち、ぶんわっと暴力的な香りが小屋の中に充満したからたまらない。
辛抱たまらなくなったクロベエが、よだれをダラダラと垂らしながら尻尾をブンブンと振りはじめてしまった。
おい、クロベエ……自分のサイズを忘れてねーか?
カス当たりしてる尻尾で小屋が壊れそうなんだが?
ブンブンチッ ブンブンチッ
「やめろ! 小屋がぶっ壊れちまう!」
「あ…… でも ほんのうには 逆らえないよ……」
ブンブンチッ ブンブンブンチッチッ
「うおおお! こら、まじやめろ! ああもう、ちょっと壊れてんじゃん! あーあーあー、焼けたから食って! 食っていいから尻尾を止めろ!!」
肉がうめえんだろうな……ますます元気になった尻尾が、壁材にしてる草を少しずつじわじわと削っていく……あっ壁に穴が……。
ちくしょう、食後の作業が決定しちまったぜ……。
「せめて柱には当てないでくれよ……」
「がんばる……うみゃみゃ……」
この巨体だから、柱に当てると倒しちまいそうだよ。つか、俺にも当てないで欲しい。
さっきから地味に痛えんだよ。
ワイルドな夕食を食べ、小屋を修復したり、だらだらと焚き火を眺めたり、スマホを弄ったりしているとやがて日が落ちてきた。
スマホの時計を見ると十九時。こちらも二十四時間なのかはわからんが、今を初夏と考えれば、大して違いがないような気がする。
……パンちゃんが作った世界だし、アセット使ったとか言ってたからな。
日本に先輩がいるつってたし、参考にしてる可能性は高いな。
……まあいちいち聞くのもめんどくせえし、同じくらいと思っておくか。
小屋から這い出し、ごろりと横になって星を眺める。
文化を発達させるために刺激を……か。
これって、俺じゃなきゃだめなんかな?
この世界の人間がバグってるっつう話だから、外部から連れてこなきゃないってのは、まあわかる。
たぶん、俺じゃない別の誰かを連れてきても良かったんだと思う。
でも、異世界由来の刺激でっていうんなら、パンちゃんが自分でやってもいいんじゃねえのって思うんだよな。
地球やらなんやら、よその世界見たことあるだろうしさ、その知識を教えりゃ良かったんじゃねえのかなあ……。
「なんか……神様的な制約とかそういうのでもあるのかな?」
ポコン!
思わず口に出したところでスマホが鳴った。
『私が直接的にあれこれするのは、初期状態と、よっぽどの時だけ許可されてるの』
「やっぱ聞いてたか……よっぽどの時なら良いってことはさ、いつでもオッケーなんじゃねえの? エブリデイよっぽどの時じゃん、この世界」
ポコン!
『悔しいけど、その通りだからさ、私もちょいちょい、神託を下してたのよ。それでも刺激になるかなって』
「神託って、念話みたいな感じでくるん?」
ポコン!
『うん。その考え方であってる。今はメッセでやりとりしてるけど、君なら念話もいけると思うってか、日本で呼びかけた時に反応してたわね。あんな感じよ』
「ふーん……それで、どんな感じでやったの?」
ポコン!
『誰でもいいから聞いてくれーって感じでさ、全体放送? みたいな感じでやったのよ』
「あー、もしかしてだけど、それで出力下がって誰にも届いてなかったとか無い?」
ポコン!
『うっ……た、確かに。範囲を広げると出力が下がっちゃうから、よっぽど感度が高い子じゃないと……届かない……わね』
「適当に若い女の子狙って神託出せばさ、きっと届いたろうし、巫女さんっつう概念が生まれて、も少しマシな感じになってたんじゃね?」
ポコン!
『うっ……(全身矢だらけになって辛そうな顔をする武者のスタンプ)』
そして、その日はもう返信が返ってくることはなかった……。
こいつがも少し賢かったら、俺が来なくても大丈夫だったのでは……。
そんなことを考えながら、俺はリプラシル初日の夜空を見上げた。




