幕間 気候もある意味バグってんじゃねえかよ
季節はめぐ……めぐ……いや、あんまり巡った感じがしねーんだけど、家族が増えたあの日から……そこそこ経った。
いやあ、びっくりしたよな。集落から戻ったら、空堀になにか居るんだもん。そして、それが俺とパンの子だっていうんだから……マジでびっくりだった。
そんな衝撃の出会いも今や昔。
ママ、ママと慕われ、すっかり骨抜きになった女神様は天に帰ることを忘れ、下界に居座って俺と日々やり合う始末。
なんかもう、すっかり心の壁なんてぶち壊されちまって、今では「ユウ」「パン」と呼び合う仲になっちまった。
……まあ、なんかついつい『パンさん』って呼んじゃうことのが多いけどよ。
『ちゃん』より退化してないかって?
あれよ、あれ。
芸人が相方をさん付けで呼ぶじゃんか、そのノリよ。
我ながら、妙な関係になっちまったなと思うが、ルーちゃんが嬉しそうだから……いいのさ。
そのルーちゃんも、スクスクでなあ……。
育ちが早いとは聞いてたが、日に日に見た目も中身もグングンと成長しちまってさ、今ではリットちゃんと同じくらい、七歳前後くらいになったよ。
こりゃ、気づいたら年頃の娘さんに……と、一瞬だけオロオロしちゃったけど、パンのやつが呆れ顔で「ここからは人族と同じ成長ペースになるから、そんな心配はまだ先よ」と教えてくれたので助かった。
最終的に二十歳前後で成長が停止し、以後は不老になるそうな……。
マジかよすげーって言ってたら『あんただって今は不老不死じゃない』って言われちゃったわ。
それはそうなんだが……俺のとは違くね?
しっかし、マジで月日の流れってやつぁ、はええよなあ……今って何月何日なんだろう……忙しすぎて、ここんとこ日付なんて気にもしてなかったわ……。
うお……まじかあ……ロック画面見てびっくりしちゃったわ。
知らん間に、十二月も半分まで来てるじゃねえかよ……十二月十五日だってさ、まじかよ……。
てこた、ルーちゃん来てから一ヶ月に少し足りないくらいか? あっという間だなあ、おい。
裏山から召喚されたのは、十一月の頭くらいだったか。
今年はいつまでも暑いね、なんて言ってたのに、急に寒くなりやがったんだよな。
家から出て、歩き始めたところで冷たい風が吹いてきてよ、コートを着ないでクロベエの散歩に出たことを心底後悔したっけな。
あのままあっちに居りゃあ、今頃初雪が降るの降らないのって、会社でわあわあいってた頃かあ……。
雪……雪ねえ……リプラシルはそんな気配なんざひとっつもないわ。
相も変わらず、肌を撫でる風は優しくてさ、どこからか花の香りを乗せて来るんだ。
そう、それはまるで春のような……なんて、油断していると、時には汗ばむほどに気温が上がる日もあったりすんだよな。
森の木々は青々としてっから、春って感じじゃねえんだよな。
この感じ……この絶妙な心地よさは。春から夏に変わり始めた初夏……!
なんかもうずっと初夏の空気が続いてるんだよ。
比喩じゃなくて、マジの話なんだよな、これ……。
この間さ、ふと何気なくパンさんに言ったんだ。
『良い時期に召喚してくれて助かるわ。晴天が多くて気温もほどほど。作業がしやすいからめっちゃ助かるわ』
ってね。
そしたら何て言ったと思う?
『良い時期って言うか、良い場所というべきね。この辺りは大陸のちょうど真ん中でね? 各地方の気候がちょうど合わさって最強に……じゃなくって、丁度いい具合になってる場所なのよ。強いて言えば『夏の大地』に近いから、たまに暑い日があるわねー』
どうやら、俺が家を建てた土地は、大陸の真ん中にあるらしいんだ……いや、そうじゃねえよな。
そんくらいの情報なら『へえ、そうなんだ』で済ませられるよな……。
問題は『各地方の気候がちょうど合わさってちょうどいい具合になってる』『夏の大地』このあたりだ。
流石に聞き逃がせないだろ? どういうことなんだい、って詳しく聞いてみたわけじゃん。
……聞いたのを後悔してるよ、ぼかぁ。
知りたくなかったよ。頭が痛くなっちまったよ……マジでやべえぜ、リプラシル。
いいか、よく聞け。パンさんいわく、だ。
この世界には四季というものが無い……そうだ。
無い、ない、ありません、だ!
地球でも熱帯や寒帯みたいに、明確な季節が存在しないような土地はあるよ?
けどさ、リプラシルはそういうレベルじゃないのよ……。
『この大陸は四つ葉のような形をしているんだけど、それぞれの葉に春夏秋冬が割り当てられてんの』
『え? なんでそんな真似をって? 育てやすいからに決まってるでしょ。夏の大地なら暑いの好きな子を、冬の大地なら寒いの好きな子をってやったらスクスクじゃないの』
なんて事を言いやがるんですよ。
公式で季節の仕様までバグらせてるじゃないですか! もうやだ!
『だったら春の大地と秋の大地はどうなんだよ?』
って聞いたらなんて言ったと思う?
『春が好きそうな子と秋が好きそうな子を配置してるわよ……』
だってさ。
フワッフワじゃねえかよ……。
ちなみに、キンタ達が住んでいる集落は『春の大地』で、狩りと農業に適した土地らしいんだが、キンタたちの祖先は別に狩りをするよう設定して配置されたわけじゃないんだと。
基本となる最低限の知識を与えて、地球で言うところの石器時代からスタートさせ、ゆっくりゆっくりと時間をかけてあの集落レベルまで成長し、後はずーーーーーっと停滞して今に至ると。
パンさんがいうには、ちょっとした実験をしたかったところもあるのだという。
四つに分けられた大陸は、それぞれ、その季節に適したバイオームが配置されているのだという。
春の大地なら森と草原、夏の大地なら砂浜とジャングル、秋の大地なら草原と山、冬の大地なら森……みたいな感じで。
そして、ほぼほぼ同じ知識を与えた上で、それぞれの気候に適応できる人族や魔族、魔獣などを配置した。
これは、多種多様な文化が生まれるのを期待したことであり、一応成功はしたらしい。
まあ、ある程度パンさんがテコ入れしたうえでの話らしいんだけど、それぞれの大地で気候に合わせた生存術みたいなもんを身に着け、今日に至るまでなんとかかんとか生き延びられる程度には文明が発達したんだってさ。
……つまり、俺が知らない種族? がまだたくさんいるってこったね。
それに関してはちょっとわくわくしてる。
けどなあ、バグとか関係なくさ、季節固定も文明の発達を妨げる原因になってるよな。
「なあ、パンさんよ、この間言ってたじゃん。季節を固定してるって」
「言ったけど……なによ?」
「俺が好きなゲームにさ『けして飢えないで下さい』という名前のものがあるんだ」
「なにそのド直球なタイトル……」
「ウケるだろ? これがまたタイトル通りの作品でな、孤島に送られたプレイヤーが現地調達でサバイバルをするって内容なんだ」
「ふむふむ、面白そうなゲームじゃないの。今度買うから詳しく教えてよ」
「おう、後で教えるから一緒にやろうぜ……それでな? そのゲーム最初の難関が『如何に冬を越すか』なんだよ」
「冬かあ……しんどそうね?」
「ああ、しんどいぞ。なにせ食糧があんま取れねえからな、冬に向けて保存食を作っておいたりしなきゃねえし、防寒具を作っといて凍死しないようにしたりしなきゃねえんだよ」
「凍死まであるんだ……本格的ね」
「がっつり準備して冬に挑むわけだが、そこまでやっても目論見が甘かったり、イレギュラーが起きるとあっさり死んでしまうわけ」
「あー……配信で良く見るやつだわ……」
「でよ、それ味わうと次回からは冬に備えるための様々な工夫をするようになるわけだ」
「やられた原因を考えて、それを潰してくのがまた楽しいのよねー」
「そうだね。そうやって、色々やってるうちに学んで、安定して冬を越せるようになるんだよ」
「そうそう、あたしもそんな感じ……あっ……そ、そうね……」
「だが、例えばそのゲームで季節をオフにする設定を使ったらどうなるだろう?」
「ど、どうなるのかしらね?」
「春と秋を交互に繰り返すだけの設定にしたらどうだろう? 生活は安定して死のリスクが極端に減るだろうけど、それってプレイスキルは上がらないし、結果的にゲームの寿命を短くしちゃうよね? はい、ここまでいったら僕が何を言いたいかわかるかなー? 助手くんー?」
「はいー……ここはぁ完全にぃ……四季がないからぁ……この世界の住人をぬるま湯につけてしまっていてぇ、生き抜く知恵を芽生えさせるきっかけを極端に少なくしてしまってぇ、結果として発展を妨げていたのかなあって思いましたぁー……」
なんだよそのインタビュー受けた小学生みたいな反応は。
ちょっと笑っちまったやないかい。
「でもさ、不思議なんだよな」
「不思議? なにがよ」
「いやさ、バグがあったにしろさ、例えば冬の大地に住む人族なら、暖房器具とか、防寒具とかさ、僅かでもそういう発展を見せてもいいと思うんだよな」
「あー……初期設定の時にさ、なんか寒い所で苦労するの可哀そうだなって思っちゃってね? もともと寒さに強いパラメータにしちゃったんだよね……」
「ま、まあ……そこはほら、地球人だって世代を重ねながら地域に適した体質に変化してると言えなくも無いしさ、いきなり配置する以上は仕方ねーんじゃねえの?」
「実は……ね。吹雪の中にさ、ぽっと配置したら死んじゃうじゃん? だからね、大きな洞窟の中にね、配置したんだけどさ……もうずっとそこから住処を移さないで暮らしてるんだよ……」
「ええ……ま、まあ。死んじゃうからね、仕方ないよね。でもいくら洞窟だって、外が吹雪いてるような環境ならクッソ寒いことにはかわりなくね?」
「それがね、なんかね、洞窟があるのが……火山帯でね? 天然の床暖ばっちりだから意外とそこまで寒くはないみたいでね……あの子たち、寒いところに住んではいるけど、特に苦労はしてない……と思う……ます……」
「だめだこりゃ!」
「うわーん! だって厳しくして全滅しちゃったらかわいそうじゃないのよー!」
気持ちはわかるけど、だめだわ、こいつ。
チートコード入れねえとシミュレーションゲーム進められない系のダメな人種だわ。
「で、でもさ、あそこの子たちって洞窟ぐらしで鉱物に恵まれてるおかげでさ、近接武器がある程度発達してるんだよ! ふふん! どうよ、悪い事ばかりじゃないでしょ!」
「そういうのがさ、他所に流れてこそ世界全体が発展すんじゃねえの? 交易とかそういうあれでさあ……」
「あっ」
「もっとこう……うまくやってれば、バグが有ってもも少しマシだったろうし、下手すりゃ俺を呼ばなくても自力でデバッグできてたかもしんねえなあ」
「うわーん! そんなに言うなら今度は冬の大地に行ってテコ入れしてよお……! チラッ チラッ」
こいつ……ウソ泣きが下手くそすぎる……!
まあ、遅かれ早かれあちこち見て回りたいと思ってたからそのうち旅行がてら見に行くのも悪くないかもしれないがな。
キンタたちが居る集落だと、武器といえば弓だからな。『ヤリってなんだ』って言われた時はマジでびっくりしちゃったもんよ。
斧やナイフは存在してるし、使われてはいるんだが、それらはあくまでも道具らしくてな。
『斧とかナイフで戦わねえの?』
って、キンタたちに言ったら、すっげえ変な顔されたもんよ……。
変なのは俺じゃねえよ、お前たちなんだよって言いたかったわ。
キンタたち、春の大地の住人と、近接武器を使うらしい冬の大地の住人を交流させたら、なんかおもしれえことが起きそうだよな。
やっべ、ワクワクしてきたぞ。
いくか? 冬の大地……いや、まだまだ忙しいから、当分は無理だな。
焦らずゆっくりまずはキンタ達の生活基盤を整備してからだ。
あいつら、俺が出した宿題ちゃんとできてんのかなー……いや、大丈夫だろうな。
あの日、集落から帰る時にみた住人たちの顔は、やる気に満ち溢れてたからな。
きっと、俺の置き土産を糧にして、前よりかなりいい集落に育ってるはずだ。
けど、まだ足りないんだよな。
そろそろ、またあの集落に行って『次の種』を蒔いて次の段階に進めないといけないな。
また、新しいことを教えて、身に付けさせて。
そしたら、後はしばらく放置しても大丈夫。
俺の力を借りず、あいつらがどこまで発展させられるかの、見守り期間に入るだろう。
そこまでいったら、次の土地、冬の大地を見に行こう。
パンとルーちゃん、そしてクロベエとの家族旅行だ。
はー、楽しみがいっぱいだな。
なあ、パン……パン? パ……寝落ちしてる……。




