第22話 ルーちゃんの説明会
朝礼台の上に立ち、ぐるりと妖怪たちを見渡すルーちゃん。
ルーちゃんは満足そうに頷くと、パンちゃんから手渡されたマイクを片手に説明を始めた。
……まったく、にくい小道具を用意しやがって。どっからどう見ても可愛い校長先生だわ。
「まず、いっこめね。元のおうちにいきたい時は、わたしにお願いすること! 今はまだ勝手に外に出ちゃだーめよ! ふたっつめは……えっとえっと……」
ルーちゃんがなにやらごそごそとポケットを漁っている……あっカンペ取り出したぞ……。
「えっとね、わたしとけいやくしたみんなはー、ダンジョンにいるあいだは、しにません! 大けがとかして、システムから、しぼうはんていをうけたら消えるけど、ちりょう部屋で……なおしてもらってからダンジョンに戻されるんだって。
えっと、だから、わたしとけいやくしている魔獣はご飯にはできないし、できても禁止だからね!」
「なあ、パンちゃん。あの子、たどたどしくすげえこと言ってるんだけど……」
「ああ、あれは元々のダンジョンアセットに含まれてる仕様ね」
「そうなん?」
「ダンジョンには死亡判定というのがあってね、まあ……致命傷の一歩手前くらいの状況になったら、そう判定されて、回復部屋に収納後、五体満足でポップポイントに戻されるの」
「ははあ……それがダンジョンでいうリポップにあたるわけか」
「そういうことね。ダンジョン運営の難易度を下げるための仕様らしいんだけど、正直助かるわよねー」
たしかに。
この世界を動かしているらしい、ユリカゴシステムにも魔獣のリスポーンが仕様として存在している。
ただし、そちらの場合は「死亡判定」ではなく、ガチの死だ。
システムが個体の死を確認すると、一部の記憶を引き継いだ若い別個体としてリスポーンするらしいんだが、その理由は通常の繁殖と違って親が居ない状態で放たれるため、ある程度の知恵がないとリスキルされるからである、とのことだ。
よく考えられた仕様だなと感心したけれど、ダンジョンでも同じ仕様だったらキツかったろうな。
だってさ、いくら記憶を引き継いで転生するつっても、最低限だけだし、前の体を引き継げるわけじゃないんだぜ?
例えば、コアが丹精込めて育てた中ボスが居たとするじゃん。
ユリカゴシステムに沿ったルールでも、そいつはリスポーンするけれど、それは同一種族の別個体。
数々の激戦で培った経験という名の記憶はほとんどが失われ、若返っちゃうから鍛え抜かれた体も失われてしまっているわけだ。
コアからすれば大事なユニットが、がっつりデスペナ貰った状態なわけじゃん。
そうならないように保証されてるってだけで、よっぽど楽ちんだよな。
「死亡判定を受けたら回収されて回復……リスポーン扱いってことは、完全回復する感じだよな?」
「そうね。腕の一本や二本どうにかなっちゃったとしても、きっちり元通りになるわ」
「ほーん……良いこと聞いた」
これはやりようによっちゃあ、おもしれえことできそうだ。
……じっくり計画をねって、後でちゃんと相談しよっと。
「あ、ちなみに寿命が来たらきちんと死ぬからね」
「きちんと死ぬて。まあ、そらそうだよな、だって、ダンジョンに使役されてるって言っても、普通に交配できるんだろ?」
「こ、ここ交配って! やらしーわね!」
「変に意識すんじゃねえよ、俺まで恥ずかしくなるだろうが。不老不死のタルットが、ダンジョンで無限に増えたら嫌だよなって話をしたかったの」
「あ、ああ! そういうことね。たしかに、塩のダンジョン生まれの子とかもいずれはでてくるでしょうねえ」
「運営が上手く行ったら、ここも手狭になりそうだな」
「その頃にはルーちゃんも成長してるでしょうから、階層をもっと広くできるはずよ」
「それもそうか」
ざわざわ……ざわざわ……。
……パンちゃんと話し込んでて気づかなかったが、ルーちゃんの説明に妖怪達がざわついている。
どうやら、さっきルーちゃんが言った『契約されてる魔獣はごはんにできません』が原因のようだな。
「しーーずーーかーーーに!!!! おはなしをーー!!! きいてっ!!!!」
>< こんな顔で両手をブンブン振って、妖怪達の混沌に対抗するルーちゃん。
必死なルーちゃんを見た妖怪共が、和みきった顔をして大人しくなった。
ふふん、可愛かろう。あれ、うちの子なんですわ!
「ふう。みんなが静かになるまで10びょうかかりました。 ここには、ルーちゃんとけいやくしていない子たちもいます!」
おおお……と、声が上がったが、ルーちゃんに睨まれてピタリと止んだ。
うける。
「こほん! ルーちゃんとけいやくしてない子たちはお外にいるのと同じです! お魚や虫さん、エビさんなどはご飯にできますが、食べたらいなくなります! でも、お外のよりふえやすくなっています! みんなのたいせつなご飯です! たべすぎないでね! たべすぎたらユウがおこるよ! ユウをおこらせたらこわいんだから!」
「きいたか、魚食い放題やって!」
「ばっかお前、増えやすいけど加減しろって言ってただろ!」
「誰がバカやねん!」
「こらこら、喧嘩しちゃダメよ、ルー様に怒られるわ」
「ここは草や苔ですらマナが満ちて旨いぞ。タルットよ、キウリを育ててみたらどうだ? 旨いものができるかもしれないぞ」
「ほんまかいな! あのユウとか言うやつにやらしたろうかな?」
「やめろ。ユウは……ああみえて強い男だ。素手で岩を砕いているのを見たことがある」
「ヒェッ……せやな、ルー様の親やもんな……逆らわんとこ……」
いちいちざわざわうるさい妖怪どもだ。
つーかモルモルめ、ああみえてってなんだよ。言わせてもらうけどな、強いのは俺じゃなくてスマホなんだぞ!
俺は見た目通りのスペックしかねえっつうの!
「説明はだいたいおしまいです! あとはお外と同じ感じで暮らしていて下さい! 困ったらルーちゃんになんでも言ってね! じゃー、かいさん!」
『解散』の声と共にザワザワと妖怪達が散っていく。
ああ、息がしやすくなった……。
これから、ここに妖怪達の新たな生態系が産まれるのだろう。
どんな魔窟になるか楽しみなような怖いような……。
……なんかどっと疲れたな。
ルーちゃんは……まだまだ居たそうにしているな。
「わりい、先にクロベエと帰ってるわ」
「わかったわ。ルーちゃんは私が見てるから、帰ってゆっくりしてなさいな」
「おう、そうさせてもらうぜ。行くぞ、クロベエ……クロベエ、クロ……こいつ、寝てやがる」
「あはは、よっぽど退屈だったのねえ」
◇
自宅に帰り、ちょっと休んだら妖怪たちに奪われていた心の余裕が回復した。
ふむ……夕方まではまだまだ時間があるな。
そうだ、風呂だよ風呂! せっかく作ったのに、タオルがねえからってお預けにしてたんじゃん。
ルーちゃん達が戻るまでにタオルやら着替えやら作っておこっと。
まずは服から行くか……つっても、ルーちゃんの服はパンちゃんが揃えてくれたから、クラフトする衣類は俺のだけでいいんだよな。
ルーちゃんの服を日本で買ってきたと聞いたときは、羨ましく思ったんだけど、パンちゃんに『ほら、あんたのパンツよ』って渡されたら、それはそれで嫌だったよな……。
んで、パンちゃんはアホだからさ、渡す時になって、やっと自分がなにやらかしてんのか気づくんだよ……。
ぜってえ互いに気まずくなるやつだったと思う……。
うん、やっぱ自分のことは自分でやらねえとな!
というわけで、アプリを立ち上げてタオルを選ぶ。綿のタオルが作れるようになってたので、取りあえず……そうだな、十枚作っとくか。
タオルのクラフトは、一枚あたり五秒程度かかるようだ。十枚で五〇秒か……タオル十枚のクラフト時間が家より遅いってどうなんだ?
……後で運営さん言いくるめて改良してもらおっと。
さて、次は俺の着替えだけど……やたらと色があるなあ。
好きな色を選べるのはいいんだけど、色ごとに染色用素材を調達しないと色付きは選べないわけ。
つまり、今作れるのは白と生成り、あとショア由来のカーキだけなんだけど、作れない色違いまで個別のマスに収まって並んでるんっすよ。
色違いで七十二色くらい、ズラッと並んでんだよ……。
うおおおおおおお! めんどくさい! スクロールするのが、次ページボタンを押すのがめんどくさいんじゃあああ!
ぜってー改良させてやる! プルダウンメニューからカラー選択出来るようにさせてやるんだから!
……
…
クソみたいなUIにぼやきながら、綿の下着上下にシンプルなジャケット、そしてズボンを作った。
クラフト時間よりもページ移動の時間のがなげえとか、マジで笑えねえんだけど……。
ちなみに、下着は白と生成り、ジャケットとズボンは生成りとカーキにしたよ。
生成りも選べるようにしてあるのだけはマジグッジョブだし、ショアでカーキが作れたのも助かった……。
もしも白しか作れなかったらきつかったろうな……。
下着は別に白でもかまわねーけどさ、白のジャケットにズボンってさあ……ねえ?
あ、よく見たら紺色も選べんじゃん……材料は女神の森で採った良くわからん草か……ジーンズ風のズボンも作っとこっと。
……紺色使えんなら、ボクサーパンツもその色のが良いな……よし、作っちまえ、作っちまえ!
あ、そうだ! 布団も作らねえと! あーもう、忙し忙し……やることだらけでたいへんだぞい!
……
…
そんなこんなで……気づけば夕方だ。
そろそろルーちゃん達が帰ってくる頃だな……。
風呂でも沸かして出迎えてやるとすっかね。




