第20話 ようこそ、第一階層へ!
妖怪たちとの邂逅から一夜明けた。
コータたち、カッパのおっさん軍団が夢に現れ、スモウ百本勝負とかいい出したもんだから、今朝の目覚めときたら最悪だ……。
やっぱ、エセ関西弁で話すカッパっぽいキャラって、ろくなもんじゃねえよ……。
もう、こういう時はクラフトしかねえ! 気分転換にタオルや服を作っちまおう!
……と、思ったところで、ルーちゃんが「ねえね、ダンジョンに行こう! お友達をおひっこしさせなくちゃ!」と……せがむんですわ。
そうだった。
使役をして終わりじゃないんだった!
俺はまだ、ルーちゃんが生み出したダンジョンを見ていないわけですよ。
かわいいルーちゃんのはじめての作品だぞ? そう考えると、そらもうワックワクするわけなんですよ。
悪夢のせいで落ちていた気分がちょっと上がってきたぞ。
「ユウ、ダンジョン凄いからね。クロベエもね、楽しみにしててね! きっとびっくりするよ! ほら、はやくいこ!」
みろよこのウッキウキな可愛い子……この、純真なルーちゃんを見ていると、俺の心を蝕んでいたタルットたちが、パァアアっと、浄化されていくのを感じるぜ……。
スキップしながら俺の手を引っ張ってるんだぜ? 自分の成果を俺に見せようと、見せたらどんなに驚くのかと楽しみにしてるんだぜえ?
「ようし、ルーちゃん、クロベエ、ダンジョンにいっくぞお!」
「おー」
「いくぞー! ほら、ママもママも!」
「ふふ、わかったわよ。おー!」
◇
つーわけで、塩のダンジョンが爆誕したという、例の岩山に到着したわけですが……最後にここに来たのってどんだけ前だったかな……?
もう既に懐かしい感じがするんだよな。
慌ただしい日々が続いたから、日にちの感覚がおかしくなっているけど……攫われてからかれこれ二週間くらいは経ったのか……。
まじか、思ったより結構経ってたわ。そりゃ懐かしいわ……。
久々にやってきた塩の洞窟は……あれ? 俺が掘ったままじゃねこれ?
本当にここが噂のダンジョンなのか?
なんか思ってたんとちゃうな……。
ルーちゃんやパンの話だと、ワーッと凄い光景が広がってるってことなんだけど……どう見ても前に来た時と同じ状態のまんまなんだが。
これは一体どういう事なんだろう。
「なあ、パンちゃん……――」
「ふふ、見ればわかるわよ。ほら、こっち来なさい」
説明を求めようとしたのだが、来なさいと言ってさっさと先に行ってしまった。
このまま進んだところで、俺が掘った穴の奥に着くだけじゃねえの……?
まもなくして、俺が採掘していた場所についた。
おお……壁はそのままだが、床は石畳になってるな。こうしてみれば、なるほどダンジョンっぽい。
壁のアチラコチラに顔を出している岩塩の結晶が、ここは塩のダンジョンですよと語りかけているかのようでちょっとおもろいな。
けど、どう見てもここで終わりだよな? どっかに通路があって、湿原エリアにつながってるんかな?
「ユウー! クロベー! こっちだよ、こっちきて!」
ルーちゃんが広間の奥から呼んでいる。どうやら秘密はあそこにありそうだな。
「きたぞー……って、おおー!」
「おー あなが ひかってるぞ」
広間の最奥の壁が綺麗に四角く切り抜かれていた。
ぼんやりと光を放つ空間を覗いてみると、地下に向かう階段が見えた。
うおおお……ダンジョンだ、ダンジョンへの入口だ!
なるほど……今いる場所はきっとダンジョンのエントランスなんだろうな。
ダンジョン都市なんかだとさ、こういうスペースにギルドがあったり、提携ショップがあったりするような感じでさ、冒険者なり探索者なりが、ワイワイとパーティ募集とかしてるんだよな。
ほんで、あの階段の前に見張りの人が居てさ、ギルドカードをチェックしてから階段を下りるんだよ。
ごくろうさんです! これ、カードです! なんつってな。
さあ……階段だぞ……この階段を下りると……そこは洞窟ではなく、湿原――あれ?
ウッキウキで階段を降りると……そこにあったのは湿原ではなく、やや広めの部屋だった。
ダンジョン特有の謎の光でぼんやり光る部屋は、ちょっとした会議室くらいの広さしか無い。
「階段を降りたら湿原じゃなくて会議室についたんだけど……」
「すずしくて おひるねにいいね ここ」
「あはは、ここはまだ一階層じゃないわよ。ダンジョンへの入場――階層間の移動は転移門を使うのよ」
「ゲート? 門ってわけじゃねえよな……あ、これあれだ! ルビ振ってあるやつだろ!」
「流石ユウね。その通りよ! 転移門って書いて、ゲートと読むのよ!」
うおおお! ちょっと恥ずかしい感じが逆にいい!
「ほら、こっち来なさいよ。これが転移門よ」
パンちゃんの足元がぼんやり光ってるなとは思ってたんだよな。
これ……床全体に大きな魔法陣のようなものが描かれてんじゃん……!
その中心に、石でできたATMみたいな物体があって、画面に当たる部分に何か円のような物がぼんやりと光る線で描かれている。
……完璧すぎんか、このシチュエーション!
「これ……もしかして、手をおいて行きたい階層を念じると飛べるってやつか?」
「よくわかったわね。各階層に同じ装置があってさ、それに触れて認証させると、ここと相互に行き来ができるようになるのよ」
「その手の奴はラノベやゲームで嫌ってほど出てくるからな。ルーちゃんこんなの良く思いついたな」
「ううん、流石にルーちゃんにはまだむりよ。これは私がお手伝いして作ったの」
「なるほどね。管理神だもんな、ルーちゃんの権限を越えて干渉できるってわけか」
「正直に言うと、ちょっとだけできなかったらどうしようって思ったけどね。普通のダンジョンとほぼほぼ同じ感じで弄れそうだから、今後もサポートしていくつもりよ」
「そっか、それを聞いて安心したよ」
……ぶっちゃけ、パンちゃんはやらかし癖がありそうなんで、怖いところが無いわけではないんだが、ルーちゃんの知識を補うという点では強いからな。
ダンジョンに関しては、今のところ俺が手伝えることは雑用以外にねえから、マジでパンちゃんが居てくれてよかったわ。
「それでね、足元に魔法陣みたいのがあるじゃない」
「ああ、かっちょいいなこれ。随分と広いけど、演出のためなん?」
「ふふ、違うわよ。この転移フロアと一階層の入口だけは特別仕様でね、一度に三十人くらいまとめて転移できるよう、陣を広くしてるのよ」
今後、階層が増えた場合、そこに設置される転移門は、ここのよりもだいぶ小ぶりの、六人程度が転移できるサイズのものにするそうだ。
ダンジョンを今後どう使っていくかはまだ決めてないけど、入場自体はスムーズにしたいからという理由らしい。
たしかにもっともらしい理由だが……。
「魔法陣はでっかいほうがかっこいいもんな!」
「そう、そうなのよ! わかってるわね、ユウ!」
やっぱそれが一番の理由か……まあ、俺もそう思ってるからさ、突っ込まないでおくよ。
しっかし、転移か……憧れの転移を、この俺が体験できる日が来るとはね。
SFも大好きだからさ、ワームホールやら、テレポートやら、ジャンプやら……そういう恒星間移動的な物は大好きなんだよ。
転移門の仕組みってどのパターンなんだろな?
まさか……分子にまで分解されて飛ばされたりしねえよな……?
……飛んだ先で再構築された俺は果たして俺なのかな?
俺の意識的なものをコピーして、再生成した肉体にインストールしただけの「ほぼ同一人物」だったりすんじゃねえの?
本来の俺は、分解された時点でお亡くなりになってるとかいうパターンのやつぅ……。
「なに怖いこと考えてるのよ……そんなのあたしだって嫌よ……」
「あ、良かった……ちがうのね」
「簡単に説明すると……最初に転移対象者をユリカゴのセーフスペースに収納するの。そして、選択されていた転移先に配置するってだけよ」
「んん……システムが俺を収納して、別の場所に出す、そういうことだよな?」
「そそ。なにかと座標が被らないよう、安全装置も付いてるから安心よ」
「それは助かるけど……収納先ってストレージの中みたいな感じではないんだよな?」
「そこは大丈夫。滞在時間は感知できないレベルだから、なにも怖いことはないわ」
怖いことはない、って言われると、逆に怖くなってくるんだけど……ルーちゃんがワクワクとした顔で俺を見てるな……くっ、父親として男を見せなきゃならねえな!
……でもやっぱりちょっと怖いので、ビクつきながら手を置いた。
すると……淡く輝いていた輪っかの光が台座を伝って床に向かって伸びていき、床の模様に広がっていく。
魔法陣から立ち上る光に包まれて何も見えなくなったが、ゆらゆらと青や緑に変わる光がとてもきれいだ。
「うおおお……上がるわこれ……」
「でしょう? ルーちゃんと二人で一生懸命デザインしたんだから。ねー?」
「ねー! ユウ、きれいでしょ、きれいでしょ!」
「ああ、すっげえいいわこれ……――」
……って、あれ? 光が……消えたけど……どういうこと?
見渡しても、見えるのはさっきと同じ部屋だ。隣にはクロベエがいて、その横にルーちゃんとパンちゃんが立っていて……台座があって……もしかして、今のは演出を見せるためだけの仮起動ってやつ?
「ようこそ、第一階層へ!!!」
「えっ?」
「ふふ、その顔が見たかったのよ! ほら、ユウ、クロベエ来なさい。それで全てわかるわ」
ルーちゃんから「ようこそ」と言われたけれど、マジで困惑しか無いぞ……パンちゃんはついてこいと言うが……。
二人の後に続き、階段を登ると……――
「うおおおおお! なんじゃこりゃ!!!」
「おおおおお! すごい!」
階段を登った先は……やたらとだだっ広い湿原だった。




