第18話 沼地の妖怪
カッパのおっさん……もとい、タルットのコータのせいで、無駄に漫才イベントが発生しちまった。
いい加減やめてえんだが、ボケられると突っ込んじまうし、パンちゃんのやつはケラケラ笑って止めようとしねえんだ。
なんだかもう、一周回ってちょっと楽しくなってきちまって、今日はこのままグダったまま終わりかなあ……と、あきらめかけた時。
思わぬところから助け舟が入った。
「たるっとよ こぞうをからかうのは もうやめろ」
モルモルである。
……つーか、小僧? ああ、俺のことか。
って主の主だから主だって言ってたくせに小僧呼ばわりかよ。しかもそれをルーちゃんに言わせるって言うね。
「ん? お嬢ちゃんどうした? あ、なるほど、モルモルの代弁かいな。ちゅーか、モルモルて、声をだせんちゅーだけで、喋れたんやなぁ……」
「われらのことは おいておけ あるじのだんじょんは すごいぞ このちより ちからみなぎる よきところだ おまえたちもこないか」
「力がみなぎるぅ? どういうこっちゃねん」
「あたまがさえ ちからもます いまのわれらなら おまえにもかてるだろう」
「なにおう! よっしゃ、スモウで勝負や! かかってこい!」
お、喧嘩か? 喧嘩か?
……あれ?
「なあ、パンちゃんさん。リプラシルの連中って、喧嘩とかしねえんじゃなかったの?」
「うーん……この反応は明らかにバグが取れてる感じがするわね」
おお……魔族さんたちのバグも取れ始めてんのか。そりゃいいことだわ。
「俺が降り立つだけで影響があるってマジなんだな……」
「そうね……あれよ、バタフライ効果みたいなもんよ。知らんけど……」
知らんのかい!
……おっと、勝負がついたようだ。
「くっそう、なんやモルモル、でっかくなれたんかいな!」
「これが だんじょんでえた あらたなちからだ」
ビーズクッションみてえなサイズになったモルモルが、タルットを押さえつけている……すげえな、いつの間にあんなことをできるようになったんだ。
「あれは……!」
「知っているのかパンちゃん!」
「わからないわ……」
「わからんのかい!」
「うーん……ルーちゃんの魔力で変異してるのかしらね? ダンジョンにいる子たちも強くなってると言うなら、多分そういうことかもしれないわね、きっと」
相変わらずフワッフワしたこといいやがって。
「ブーちゃんとこのダンジョンとベースは同じなはずなんだけど、ルーちゃんという存在自体がイレギュラーだからね……わかんなくてもしょうがないじゃない」
それはそう……つうか、モルモルが押さえつけたままコータに語りかけてんの……なんかピロートークみたいで嫌なんだけど。
「ちからもます めしもある みずはうまいし かいてきだぞ」
「コアの嬢ちゃんとこ、そんな凄いとこなんかあ……興味出てきたわ。ほんでほんで?」
めっちゃ乗り気になって話を聞いてるな……モルモルもさあ、いい加減、寝技解除してくんね? 絵面がホント嫌すぎんだけど……。
つうか……。
「なあ、パンちゃん。なんでモルモルはあんな熱心にスカウトしてんだ?」
「うーん、多分だけど、モルモルは湿原エリアにこの沼地も再現したいんじゃないかしら」
「あー、モルモルだけだとやっぱ寂しいみたいな?」
「寂しいっていうか……ルーちゃんに使役された影響で、防衛の意思に目覚めたのかもしれないわね……他の魔獣や魔族は訓練相手として欲しいのかも……」
「なるほど……ダンジョンを守るぞー的な意思が芽生えたと」
「……まあ、元々そういう性格だったのが、知能レベルが上がって顕著になったとも考えられるけどね……」
またしてもフワついたこと言ってるが、これに関してはあってそうな気がする……。
コータとか、使役されても「わいたちのダンジョンや! 絶対に守るんやでー!」とかぜってえ言わなそうだもん……。
つまり、モルモルたちはああ見えてなかなかの武闘派だと……見た目ポヨポヨして可愛いのに……やべえ奴らなんだな……。
あー、コータが来るってなったら、他のタルットもきっと来るよなあ……。
他の奴らもこのノリなのかなあ……だったら最悪だぞ……。
「なんや兄ちゃん、めっちゃ嫌そうな顔しとるな? わかるんやで? ワイ、こう見えてセンチメンタルなおっちゃんやからな!」
「センチメンタルなおっちゃんってなんやねん! お前はポンチメンタルやろがい!」
「だれがポンチやねん! がっはっは、やっぱ兄ちゃんおもろいわー」
くっそ……またやっちまった……またコータと絡んでしまった。
だめだ、もう俺は暫く口を出さねえぞ。話がいっこも進まなくなっちまう。
ここはパンちゃん達に任せて口を閉ざす! 絶対にこのおっさんとつきあわねえ!
お口チャーック!
「たるっとよ くるなら なかまをつれて くるといい」
「そうねえ……ワイってこう見えて人気者なのよね。同族は何人か連れてこ思っとるんやけど、マイニーンの娘達とか、ドリューンの連中とか、声かけたい子達が沢山おるんやけど……ええかな?」
マイニーンの娘……これは、モン娘の気配がする……! まだ見ぬきゃわわな種族には興味があります!
「ねえ、ゆう いいかな? ルーちゃんね たるっとがさそってくれる子 みんなつれていきたい」
おっと、ルーちゃんからパスが来たぞ。
ルーちゃんならしかたないな、お口チャックは解除しよう。
「ルーちゃんのダンジョンなんだ、ルーちゃんがいいならそれでいいよ」
「やったあ! ありがと、ユウ」
ぎゅっと抱きついてきた! めっちゃきゃわわ!
そうさ、塩のダンジョンの管理者はルーちゃんなんだ。ルーちゃんがこうしたいって決めたなら、やってみたらいいのさ。
よっぽどまずいことを言いだしたとしても、パンちゃんがついてるから……大丈夫だよな?
……ちょっと不安だけど、まあ大丈夫だろう。
コータたち、タルット一族が来るのは嫌だが……他の魔獣や魔族が来るなら、くどさも薄まるだろう。
……つうか、タルットはギリいけそうだが、他の連中ってダンジョンまで行けるのか?
「なあ、パンちゃん。今ちょっと思ったんだけどさ、こいつらダンジョン着く前に干物にならねえ? おっさんの干物なんて誰も得しねえんだけど」
「おっさんの干物て……わ、わらかさないでよ……大丈夫よ、無事につれていけるわ」
「でたよ、運営サイド特有の謎焦らし。思わせぶりに言わんでスパンと教えんかい!」
「運営サイドて。まあ確かに……ユリカゴシステムは地球のゲームみたいなとこあるけどさあ」
「だろうね。俺ってスマホアプリに関わったこともあるから、ちょっとわかるんだわ」
「へえ、なんのアプリ? ねね、あんた絵が描けるからやっぱイラスト担当とか?」
「キャラデザもしたし、システム周りのアドバイザーもやったぞ。だからちょっとだけならお前の相談にも乗れるかもしれん」
「まじかー。もう、そういう事もっと早くいってよねー」
なんて、ついつい横道にそれまくって盛り上がってると……なにやら周囲がやたら騒がしくなってきた。
……っつか、フェス会場かよってくらいうるせえんだけど。
うわあ……嫌な予感がするぅ……。
ゆっくりと後ろを振り返ると……そこには沢山の魔獣に魔族たちの姿が。
スタンピードみたいでわろた……いや、笑えねえレベルでわさわさしてんだけど!
その中心にいるのがコータとルーちゃんとモルモルだ。
どうやら、ダンジョンの説明会をしているらしい……。
「てなわけなんやけど、このルーちゃんについてくでー! って連中はどんくらいいるかなー?」
「私たちは行くわよ。マナが濃くてお肌によさそうだもの。ねー」
「ねー。いかないわけないじゃないのー」
きゃっきゃと話すこの魔族はマイニーンというらしい。
口調だけ華やかで、見た目がおっさん……というひっかけもなく、普通に綺麗なお姉さんが、トップレスでいらっしゃるので直視することができない……つうか、パンちゃんらしき手が俺の目をがっつりと隠している……。
でえじょぶだよ……あれをガン見できる度胸なんてねえからよ……。
目を覆われる前に一瞬だけ見えたが、金髪にピンク色の肌と、上だけ見れば普通のセクシー姉ちゃんなのだが、下半身はでっかい巻貝にすっぽりと収まっていた。
「目隠しされてっから鑑定もできねえ……パンちゃん、あのお姉さんたちはなんの魔族なの?」
「なんの魔族っていい方はあれだけど、マイニーンは淡水巻貝がベースの魔族よ」
つまり、タニシのお姉さんか……あれだな、目の毒だから服は着てもらうことにするとして、是非とも割烹着的なのを着てもらいたいよな。
タニシ女房とかそういう感じの妖怪みたいでいけると思うんだよ。
「何バカなこと言ってんのよ……」
「やっべ、つい口から出ちまった」
マイニーンたちがどっかいったらしく、もういいわよと解放された俺の目に飛び込んできたのが、クソデカイザリガニと途中から二つに分かれて顔が二つあるでっかいドジョウだった。
ザリガニがドリューンで、ドジョウはバイジョウというらしい。
バイジョウって、あれだろ、ドジョウの顔が二つあるから、そうつけたんだろ?
パンちゃんが目を合わせない。
他にも、なんかデケエだけでまんまヤゴな魔獣、妙に旨そうな匂いがするエビの魔獣、ごついワニガメの魔獣と、池の水抜いたら出てくるような連中がわいわいと話している。
そう、話しているのだ。
「パンちゃんよ、カッパのおっさんやタニシの姉ちゃんは分かるんだが、他の妖怪たちまで話してるんだけど……」
「うん……? 賑やかでいいじゃないの。ていうか妖怪って言うな!」
「……エビやヤゴの妖怪に……ほら、あれみろよ。モルモルたちまでやたら渋い声で喋ってんだが……どういうこと?」
「えっ? ああ! まじだ! あいつら発声器官なんて無いはずなのになんで?」
絶対にそんな反応すると思ったわ。
ほんっと、管理神が知らねーことばっかり起きて飽きねえなあ。




