第12話 一方その頃 パンちゃんは その2
◆◇SIDE:リパンニェル◇◆
どれどれ……。
おー……ユウが描いたイラストたちと……こっちは資料用に撮った写真かしらね? ふふ、ちっちゃなクロベエちゃんも居るわね、可愛い。
しっかし……ユウの絵ときたら!
なかなか良いご趣味をもっていらっしゃるようですわね。
甘々でロリロリな可愛らしい少女のイラストに、綺麗なお姉さんのイラスト……うーん、キャラデザもだけど、服のセンスが私好みなのよねえ。
……叡智なイラストを描かないところも、あたし的には高ポイントなのよね。どうやらこのカードにも叡智なのは無いようでほっとしたわ。
推し作家の裏の面を見ちゃったーとかなってたら、マジで顔合わせらんないもの。
うん? だったら見なきゃ良いのにって? ばかねえ、見ないと調査にならないでしょうが!
うーん、結局これに入ってたのは、健全な画像データだけだったようね。
まあ、メモリーカードが影響を及ぼすなんてありえないからね。結果は見えていたけれど……で、でもほら。
何があるかわからないでしょ? 例えば、スマホに加護を授けた時に、ケースに入っていたメモリーカードにも加護が……。
まさかね?
な、無いとは思うし、ぜんっぜん関係なさそうだけど……念のために私の影響がないかチェックしておきましょう。
……あっ。
カードから私の加護を感じるわね……やっぱりスマホと一緒に加護を受けちゃってたのね……。
ふぇ……? お、おかしいわね? 加護の感じが妙よ……ああ、なるほど。メモリーカードだけじゃなくて、データにも加護の影響が出ている……だと?
……ええと、データをチェックしてみましょうか……あれ、このフォルダから……ものすごい勢いで神気を感じるわ……嘘でしょ……。
えぇ……? 加護ってデジタルデータにまで影響を及ぼすの? 聞いたこと無いわよそんなこと……。
スマホのアプリ? ああ、アレは違うのよ。スマホに授けた加護の力を、ユウが直感的に使えるように私が組んだプログラムでしかないんだもの。
かなり高度なことをしてはいるけど、あれは地球のプログラムとほぼほぼ同じもので、別に超常的な力を使って作ったわけじゃないのよね。
……と、取り敢えずどんなデータが入っているのか、フォルダを開いてみましょうか。
あっ。
……私、また何かやらかしてしまいました?
それは『冬のお祭り原稿用設定画像』というフォルダだった。開いた瞬間、目に飛び込んできたサムネを見た時点で、やらかしを感じたんだけど……開いてみて、確信したわ。
うん、やらかしてたわ……。
フォルダに入っていた画像データは……薄青のロングヘアに水色の目をした少女のイラストだったのよ……。
「うっわぁ……これ、まんま少し成長したルーちゃんじゃん……」
そして……その絵の少女は服を着ていなかった。
センシティブでアウトな書き込みがない辺りからして、別に叡智な絵を描こうと思って描いたわけではないのでしょうね。
あ、左上に『設定画(案)』って書いてるわね。これはおそらく、冬のイベントに出す予定だった同人誌のキャラクター案だったのね。
まだ描きかけみたいだし、きっと服はこれから描く予定だったのでしょうねえ……。
ああ、なるほど、だからか。
それであの子、出会った時に全裸だったのね……。
これで全て理解したわ。
ユウは夏冬のお祭りの常連。
私がさらわな……連れてこなければ、今頃は冬の原稿に必死になっていたはず。
この資料を見るからに、今回の作品も力を入れていたっぽいわね。
……このイラストにもたっぷり想いが込められていたんでしょうね。なんたって、私の加護が引き寄せられる程なんだから。
まとめると……。
・私がユウのスマホに加護を与えた。
・ケースに隠されていたメモリーカードにも加護が浸透した。
・保存されていたデータの想いに加護が引き寄せられた。
『神気を帯びたデータの完成!』
……からの。
・ユウが岩山に洞窟を作った。
・よりによって狭くて深いところにメモリーカードが落っこちた。
・メモリーカードから神気が滲み出て、周囲に充満していく。
・それにマナが引き寄せられていった?
・クソ狭いので、マナが凝縮され、メモリーカードの神気とヤベエ反応をした
『ルーちゃんの素の完成!』
ってなって……。
・ユウが岩山の穴を拡張して洞窟にした。
・メモリーカードはまだマナを集め続けている!
・ルーちゃんの素はそれを吸い込んでいる!
『ルーちゃん爆誕!』
……ってことかしらね? 知らんけど! もう全てがイレギュラー過ぎて、正確なところはまったくわからないわ……。
これはきっとブーちゃんに聞いてもわからないと思うっていうか、すっごい怒られそうだから秘密にしておきましょう……。
カードは……触媒として作用しただけみたいだし、回収しても良さそうね。
……そうね、洞窟に落ちてたわよとか言って、しれっとユウに返してあげましょう。
「まーま! まーま!」
「……うん?」
はっと気づくと、ルーちゃんが袖を引っ張って必死に呼んでいた。ああ! ごめんごめん!
「モルモルね、はやくダンジョンかえてくれーっていってるのよ」
そうだった。
目的はルーちゃんが産まれた原因を探るだけじゃなかったわね。
生まれたてで、まだゴツゴツとした岩の洞穴でしか無いこのダンジョンをモルモル向けにカスタムしなきゃならないんだったわ。
「そうね、モルモルたちのおうちを作ってあげなくっちゃね。ねえ、ルーちゃん。今日みんなで行ってきたところ、モルモルと会った場所覚えてる?」
「うん、おみずたくさんあるところねー」
「そうね、お水がたくさんあるところよね。じゃあ、ルーちゃん。あそこのことを強く思い浮かべて、ここにでてこーいって念じてごらん?」
「うん! ここにでてこーい!」
ふふ、声に出しちゃって。本当に可愛いわね。
ルーちゃんが頭に浮かべているのは、あの湿原そのものでしょうね。
でも、ここは洞窟がベースになっているダンジョンだからね。
おそらくは、高湿度で、水たまりがアチラコチラにあるような、苔むしたダンジョンに変化するはずよ。
と、グラリと地面が揺れダンジョンがまばゆく輝いた。
「きゃっ……」
ダンジョンが変化するときって光るもんだっけ? なんかこう……もっと地味な感じに広がったり、草やら苔やらがポコポコ生えるだけだったと思うんだけど……おかしいな。
ようやく光が収まったわね……どれどれ……どんな感じに……はぁ?
目を開けると……そこにはとっても立派な湿原が広がっていた。
え、ええ? 待って、ちょっと待ってよ!
開放型の環境型ダンジョンってのはあるけど……それって、元々森や海だった場所がマナでダンジョン化したものなのよ?
洞窟が湿原に変わることはないっていうか……明らかにユウが掘った穴より広くなってるじゃないの!
「な……なによこれ……擬似的な空まで有るの? えぇ……しゅごい……」
「わーい! できたよ、すごい? るーちゃんすごい?」
「凄い凄い! ルーちゃん凄い! えらいえらい! 可愛い!」
抱っこして頭をぐしぐしやるとキャッキャと喜ぶルーちゃん。
ああ……かわい……私の娘かわゆ……。
いいの。ルーちゃんがかわいい、それで全てが解決するの……。
みなさいよ、モルモルたちだってぴょんぴょこ跳ねて満足そうじゃないの。
いいのよこれで……。
上り階段どこかしら? って調べたら、ちょっと怖い情報見えちゃったし、もう何もかもがわからなくなったけど……考えたら負けなやつだわこれ。
あとでユウにも共有して同じ思いをさせてやりましょう……。
「モルモルたちね、きにいったって。ここにすむっていってる!」
「ルーちゃん頑張ったもんねー。えらいえらい!」
「きゃっきゃ」
ふむ……用事は済んだけど、早く帰ると、作業中のユウを焦らせちゃうかもしれないわね。
せっかくだし、ルーちゃんと二人少しダンジョンを散策してから帰りましょうか。
データを取っておけば、後からゆっくり調査もできるでしょうし……なにより、ルーちゃんもまだ帰りたくなさそうだからね。
「まーま、こっちだよー」
「はいはい、いまいくわよー」
モルモルたちを引き連れ、楽しげに歩くルーちゃんの後を追う。
しっかし、ほんと凄いわよね、これ。
完璧に湿原が再現されているどころか、あちらこちらに沼まであるんだもの。
あっちの沼なんてかなり深そうだし、これなら魔獣どころか、魔族もウッキウキで住み着いちゃいそうね……。
……そういえば、ユウのやつ、どさくさに紛れて鉱石拾ってこいっていってたわね。
うーん、この階層はもう湿原になっちゃったから外に出ないと無理ね。
めんどうだわね……。
うん、覚えていたら、帰りに岩山から適当に抽出してくことにしましょうか。
……覚えていたらね。
◇◆
映像記録よし、各種パラメータ取得完了……ま、今日のところはこんなとこかしらね?
ルーちゃんもダンジョンも、ひたすらに規格外っていうか、全てにおいて私が知らないことばかりってだけで、別にヤバげなところは見受けられないし。
とりあえず、暫くは様子見ってことでいいでしょう。
「よーし、ルーちゃん、今日はもう帰るわよー。ユウも待ってるだろうしね」
「うん、かえってユウのごはんたべる! まーまもいっしょにたべよねー」
ユウの事はユウと呼び、私の事はまーまと呼ぶ……ふふ、ふははは……フゥーッハハハハハ!
やっぱり最初の教育って大事よね! しっかり『ママ』と教えておいてよかったわ!
……助かったわ。
もしもユウがパパ呼ばわりされてたらなんかこう……あ、アレみたいで……その、あれだもの……ね?




