第8話 はじめてのけいやく
モルモルは見つけた、見つけたが……肝心なことを失念していた。
見た目はポヨポヨしててとっても可愛らしいのに、うっかり抱っこなんてしちゃったら、じんわりと溶解液を出されて薄い本みたいにされちゃうわけじゃん。
つまりさ、連れて帰ろうと思ったら、なにか容器に入れなきゃならないわけじゃん。
けどさ、その容器も溶かされちゃったら……っていうか、浄化槽も溶かされちゃう可能性が大きいわけじゃん。
それもこれも、意思の疎通ができないからじゃん!
「なあ、パンちゃんさん……このスマホでモルモルを使役したりは……」
「できるわけ無いじゃないの……まさかあんた、魔獣をボールに入れて捕まえたいとか考えてるんじゃないでしょうね……」
「ちげえよ! 使役でもしないと、連れて帰れねえし、浄化のお願いもできねえだろって思ったの!」
「ああ……そういう。残念ながらそのスマホにそんな機能はないわよ。けど、忘れてない?」
「なにを……あ……ルーちゃん、か」
「そう。ルーちゃんの【勧誘】で解決するじゃないっていうか、それがなかったらモルモル使った浄化とか無理じゃないのよ」
そうだった! ルーちゃんはこんなにもかわいいのに、ダンジョンコアだ。使役的なスキル【勧誘】をもってるんだったわ。
……もしもルーちゃんと出会う前に『スライム的な魔獣で水回りを』なんて、パンちゃんに言ってたら『どうやってお願いするのよ。浄化槽溶かされて終わりよ』なんて、小馬鹿にされて心を痛めていたかもしれんな……。
「ルーちゃん、モルモルたちにもおうちに住んでほしいんだ。お話してきてもらえるかな?」
「うん! おはなしするー!」
たったったと、モルモルの群れに駆け込むルーちゃん。
見ていてとってもハラハラするんだけど、ダンジョンコアだけあって防御力はかなりのものらしく、並大抵のことでは体に傷ひとつつかないらしい。
そう説明されたところで、ヒヤヒヤするのには変わりねえんだけど、ぽよぽよ生物と、身振り手振りしながらお話する姿は見ていて可愛いな……。
パンちゃんと二人、ほんわかしながら眺めていると、ルーちゃんが困った顔をして戻ってきた。
「モルモルね、おまえじゃはなしにならんって、いってるのよ」
平和そうにポヨポヨしてんのに、そんなカスハラめいたこと言ってんのかよ……。
許せねえな……!
「よし、そういう事なら俺が一緒に行ってくるわ」
「うん、ゆう、おねがいなのよ」
愛娘をいじめるポヨポヨにムカっと来て出てきたは良いが……ゲル状の生命体と交渉した経験なんてねえんだわ……。
……よし、ノリと勢いと雰囲気でどうにかしちまおう。
「俺はユウ。あっちの方にある泉に住んでる」
なんだろな……水風船に向かって真顔でお話してるようで、とってもアレだなあ……。
モルモルは……ポヨポヨとしてるな……これ、伝わってんのかな?
「ルーちゃん、モルモルはなんていってんの?」
「モルモルはね、モルモルだー、っていってる」
モルモルって種族名じゃねえかよ……つうか、伝わってんのか。
「ユウ、あんた忘れたの? 私の加護で万能翻訳みたいな感じになってるじゃないの」
そうだった。
一定の知能を持ってる魔獣とお話できるっつう、便利なんだかそうじゃねえんだかわからねえ加護を持ってるんだった。
加護のおかげで俺が言う言葉はモルモルには伝わると。けど、こいつらには発声器官がねえから、念話的な何かで意思の疎通ができるルーちゃんじゃないと、言ってることがわからん、そういうこったな。
「要件から先に言うけどさ、俺たちと一緒に来て、向こうに棲み着いてくれないか?」
俺の言葉を聞き、ピョコピョコ跳ねるモルモル。これがルーちゃんには言葉として伝わってるらしいんだから不思議だわ。
「それはきいた、しょくのほしょうは、されているのか」
ショクノホショウ……食の保証か? なまいきな言葉を知ってるな……! こいつら、実は結構賢かったりする?
「るーちゃんには、うまく、つたえられなかった」
あっ……これもしかすると、ルーちゃんじゃわからんレベルの話したやつか。話にならんって文字通りの意味だったのかよ……。
「メシの心配はいらないぞ。浄化の仕事さえしてくれたら、ここらでは食えない物を色々と食わせてやる」
「ふむ……」
モルモルが揺れている……見た目もプルプルとしているが、心も揺れているようだ。
もうひと押しだな。
「お前は魔獣ならわかるだろ? このルーちゃんはダンジョンコアだ。うちの近所には、この子が管理する……まだどの魔獣も住んでいないダンジョンがあるんだ。うちで仕事をしてくれるなら、ダンジョンに住処を作っていいぞ」
「われらがいちばんのりか! しかし、そこのまじゅうにわるいな」
クロベエの方を見てピョコピョコはねている。こいつら気遣いまで出来るのかよ……。
「おれは ユウと一緒にくらしてるだけだ。あの洞窟を縄張りにする気はないぞ」
「ほほう! では! いやまて、これだけはきいておこう……そこはすみやすいのか?」
「それについては私から説明するわ。ルーちゃんは普通のコアと違って、あなた達、魔獣とお話ができるコアよ。つまり……あなたたちが望めば、湿原や沼だって作ってくれるでしょうね」
ぴょこぴょこと賑やかに跳ねていたモルモルたちが輪になって固まった。
これは……よく見ると小さく跳ねてるな……相談してるっぽい。
しばらく小ジャンプを繰り返していたが、結論が出たのか、ぴょこぴょことこちらに向かって跳んできた。
「わかった。われらは、るとさまにしたがう」
「急に様をつけて呼び出したぞ……」
「るとさま、だんじょんこあ。あらたなすみかをくれる、えらいそんざい。われら、なわばりふやしたい。るとさま、ついていく」
「ユウ、わたしえらいの?」
「ああ、偉い偉い」
頭をなでてやると腕をピョコピョコさせて喜んでいる。
……可愛すぎて脳が焼かれてしまうぜ!
いつの間にか、三十匹ほどに増えていたモルモルたちの中から、十匹がぴょこぴょこと前に出てきた。
どうやら、この十匹が代表としてルーちゃんと契約を結ぶようだ。
少なくねって思ったけど、こいつらは分裂して増えるからこれでいいらしい……大丈夫だよな? 俺んち、モルモルだらけになったりしねえよな?
「これで、るーちゃんとモルモル、なかよしねー」
ルーちゃんがモルモルの頭を撫でた瞬間、十匹のモルモルがまとめてパアッと輝いた。
「無事に契約出来たようね。モルモルとルーちゃんの鑑定してみなさい」
パンちゃんに促され、スマホを見てみると――
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名前:ルト
職業:ダンジョンコア
LV:5
体力:5900
魔力:5900
スキル:人化 ダンジョン管理 勧誘 使役
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なんとルーちゃんに【使役】が増えていた。
はじめて勧誘に成功したから、その実績で使役がアンロックされたんだろうか? なあパンちゃん……ああ、これわかってない顔だな……。
いいよ、今は聞かないでおいてやるよ……。
次にモルモルもみてみよう。
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名前:
職業:モルモル(塩のダンジョン(ユウの家))
LV:2
体力:128
魔力:150
スキル:溶解 吸収
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名無しなのはまあいいとして、職業モルモルの圧がやべえ……。
「図鑑の表示が普通と違うのは、使役されたからだってのはわかる、わかるが職業モルモルってなんだよ」
「……さあ」
「さあじゃねえんだよな……んで、カッコは何だよ? 住処が表示されてるかんじなん?」
「これは固有ポップポイントね」
「は? ……固有ポップポイント?」
「リプラシルの魔獣ってさ、死ぬとリスポーンして個体数を維持する仕様になってるのよ」
「え……なにそれ怖い。一度恨みを買ったら、永遠に付け回されるやつじゃん」
「大丈夫よ。最低限の記憶を引き継ぎはするけど、若返った上に別個体として放たれるから、恨みつらみは忘れる……はずよ」
「そこはハッキリと断定してくれよ……じゃあさ、ポップポイントってどういうことなんよ」
「んー……例えばさ、魚に足が生えた魔獣が居るとしましょう」
「気持ち悪い例を出すんじゃねえよ……」
「そいつが砂漠に迷い込んで力尽きたとしましょう。その場でリスポーンしたらどうなると思う?」
「砂漠がリスキル干物工場と化してしまうな」
「干物工場て……フフッ……まあ、そうなったらひどいでしょ?」
「元の体も残るんだろ? 生き返る度に自分の干物に囲まれて死ぬとか辛すぎる……」
「だから、そうならないように私も考えたの。死んだら産まれたところでリスポーンするようにすればいいじゃんって」
「やらかしたら強制的に帰省させられるわけか……」
「ラウベーラ倒したじゃん? あいつがあの場でリスポーンしなかったのは、この仕様のおかげってわけ」
「なるほどな……ガバい気配もするが、まあいい感じの仕様なんじゃないかなって思うわ」
「それで固有ポップポイントなんだけどさ、ここのモルモルは湿原にリスポーンするよう、システムに登録されているんだけど、この子たちはルーちゃんに使役されて住処が変わったわけよ」
「なるほど、住民票を書き換えた感じか……」
「ああ、うまいこと言うわね。そんな感じね。なにかあって死んじゃったら、塩のダンジョンでリスポーンするんじゃないかしら……」
「自信なさげだな……」
「ダンジョンの仕様は今勉強中なのよ」
「なるほど……あれ、かっこして『ユウの家』って書いてるのは?」
「……わからないわね。乙った所から近い場所にポップするんじゃないの?」
「あ、これぜってえ知らないやつだ……」
「ふしゅー ふしゅー……」
管理神もしらないネタとかマジで勘弁してくれ……。




