第7話 水回りをなんとかしたい!
ダイニングキッチンを作ったら、シンクが欲しくなった。
これまで、調理をする前に泉に行き、水を張った大きな桶で材料を洗ってたんだけど、魔導コンロを導入して現代キッチンらしくなった今、その辺も改良したくなるのは当然のこと。
そして、シンクを作るなら、ついでに風呂や洗面所も作りたくなるし、今まで自分を誤魔化して考えないようにしていたトイレ問題もなんとかしたくなるわけじゃん。
水を引くのはそこまで難しくないと思うんだ。
水源は家の裏に清浄な泉があるし、ポンプやらパイプやら蛇口やらも【製作】を使えば作れるだろうし、それらの組み立てだって【建造】というか、建て増し機能でなんとかなりそうだ。
問題は汚水の処理だ。
トイレはもちろん、お風呂やキッチンからの排水だってそのまま自然に還すのは憚れるわけじゃん。
その辺も【製作】や【建造】で検索すれば、浄化槽あたりがあるかもしれん……が、せっかくだからファンタジー的な解決方法を試してみたいわけ。
というわけで、専門家の意見を聞いてみたいと思いまーす。
「なあなあパンちゃん様、パンちゃん様ー」
「……なによ。その呼び方、なんか嫌な予感がするんですけど?」
「別に変なこと聞いたりしねえよ。キッチン立派にしたら水回りも整備したくなったんだけどさ、浄化槽の設置でちょっと意見を聞きたいんだよ」
「それ、私も言おうと思ってたのよね。トイレとお風呂は必要だもの。浄化槽ならアプリで調べりゃレシピが出るんじゃないの?」
「俺もそう思ったんだけどさ、微生物的なアレじゃなくてこう……ファンタジー世界ならではのさ、なんでも消化吸収しちゃう、ゲル状の魔獣がいたりしねえのかなって……」
そうさ、数多くの異世界ノベルに登場するプルプルのあいつ。
あいつを利用した浄化設備を作ってみたい、そう思ったのさ。
「あー……そういう。把握したわ。モルモルとかいう奴がそうね。和ゲー的なかわいい感じの……まるまるした感じのが居るわよ」
「やっぱいるのか。そいつを浄化槽にいれると汚水が綺麗になったりする?」
「モルモルは掃除屋として実装した魔獣だから適役よ。あの子たちに手伝ってもらえば、下手な浄化槽よりも、早く浄化してくれるでしょうね……」
「そんなんモルモル一択ですやん。どこで捕まえられるんだ? まさか、ここから徒歩で二ヶ月先とか言わねえよな?」
「そんな遠くじゃないわよ。ここから集落と逆側に向かうとね、湿原があるんだけどそこにポップするみたいよ」
「近場に湿原なんかあったのか……見通しがいいのに全然気づかなかったわ」
「丘の向こうだから、気付けなかったのはしょうがないわよ。んー……せっかくだし、今から行きましょうか」
「え、今から? まあ、まだ昼前だしいいけど……改築やら終わってないんだが?」
「そんなのすぐにできるじゃない。設備があっても動かないんじゃ無意味だし、さっさと連れてきたほうが良いでしょ」
「……確かに」
「湿原の奥は沼があってね、そこには水生系の魔獣が色々住んでるけど、余計なイベントが起きても嫌だし、今回は近づかないようにしましょう」
イベントとかいうなよな。
しかし水生系の魔獣か……クソデカイ魚とか居るんかな? 釣り好きだから、ちょっと興味深い……が、確かに変なイベントとか発生したら、改築が終わる前に夜になっちまうわな。
うん……沼は色々落ち着いてから、ゆっくりと遊びに行ったほうがいいな。
◇
というわけで、さっそく湿原にやってまいりました。
集落と逆方向――南方向にクロベエタクシーで向かうこと一時間。
われわれモルモル捕獲部隊は広々とした湿原に到着した。
奥の方にはうっすらと霧がかかっていてよく見えないが、あっちまで行けばパンちゃんが言っていた沼があるんだろう。
足元はぬかるんでいて、大きな水たまりがあちらこちらに広がっている。
「うーん、こりゃ自力で見つけていても、奥まで行かなかったかもしれん」
俺の足を守っているのは、パンちゃんに攫われたときからずっと履いている、地球製のスニーカーだ。
ほんとは長靴を作りたかったんだけど、作るためにはモルモルの分泌液が必要とかでさ……そのモルモルを捕まえに行くんだよって、狩りゲーあるあるをリアルで体験して軽くイラっとしちゃったわ。
「ぬかるんでて嫌になるわね……モルモルはそこらにいるはずよ。ほら、ルーちゃんこっちおいでー」
パンちゃんは心底いやそうな顔をしてルーちゃんの手を引く……いや、あの表情……本当はそこまで嫌じゃねえな?
あの顔は……ルーちゃんにいいとこ見せてやるって、張り切っているのを隠している顔だ!
ほんとズルい女だよ……。
「クロベエ、俺らは俺らでのんびり行こうぜ」
「おー ねね ユウ 後で泥にごろごろしていい?」
「だめつってもやるんだろ? 後で洗うんならいいぞ」
「やったあ 洗うのは嫌だけど……泥には……あらがえないからな……」
クロベエタクシー……帰りは使えないかもしれんな……。
散歩気分で湿原を歩いていると、これまで見たことがない植物をたくさんみつけることができた。
女神の森もそうだったけどさ、明確に植生が違う場所っていうか、明らかに別のフィールドですよってとこに行くとワクワクするよな。
いくつか図鑑に収めたが、食べられる植物や薬になるものが結構あるのが嬉しい。せっかく来たんだし、採取していこっと。
「あら、あんたたちも花飾りを作ってたの?」
「るーね、おはな、とったのよー」
どうやら、先行した二人は花を集めながら進んでいたようで、あっさりと追いついちまった。
「おお、ルーちゃん。綺麗なお花だねー。良かったねー」
「うん、こえ、あげゆー」
「……ありがとう」
くっ……娘からのプレゼントってやつは……ここまで効くものだったとは……。
「ルーちゃん、ママにはー? ママにはないのー?」
「ママには、こえー」
「……ルーちゃあん!」
しばしの間、目的を忘れてお花摘みに興じてしまったが、仕方がないことだろう……。
遊んでいるうちにお昼になったので、パンちゃんとクロベエに肉を与え、ルーちゃんには温かいスープを食べさせた。
いつもと同じメニューだが、こうして食べていると、ピクニックみたいでとても美味しく感じるね。
「すぐ近くに魔獣が棲む沼があるんだろ? それにしては治安が良いよな」
「その沼のおかげなのよ。水生魔獣は湿原より沼を好むからね。いかにも魔獣って感じの子たちはみんなそっちに住んでるのよ」
つまり、この辺りに住んでいるのは、弱い魔獣だけってことだな。
「ここに残ってる子たちは弱いからね。クロベエちゃんを見てビビって隠れてるのよ」
おかげでこうして、無駄なエンカウントをせずに平和な探索ができているってことらしい。
ロップやクッカはクロベエにビビらずにポップしてたから、ここらの魔獣はよほど弱っちいんだろうな。
プッ……クロベエのやつ、すっげえドヤ顔してるわ。我王者ぞ!みたいな顔しててうける。
◇◆
昼食を終えた我々モルモル捕獲隊は、今ノリに乗っているクロベエ隊員を先頭に探索を再開した。
モルモルもビビって逃げてしまうのではという懸念もあったが、モルモルは割と図太いというか、マイペースな魔獣だから大丈夫らしい。
そして……十五分ほど歩いた頃。
「あ、いたあ」
緊張感が無い声で、パンちゃん隊員がターゲット発見の声を上げた。
パンちゃんが指す方向を見ると、十匹程度のモルモルがぴょんぴょこ、ぴょんぴょこと、まるで踊っているかのように飛び跳ねていた。
マイペースと聞いてはいたが、ここまで図太いとは。
俺たちが近くに寄っても逃げることはなく、そのままぴょんぴょこ、ぴょんぴょこと楽しそうに飛び跳ねている。
和ゲーでよく見るタイプの、水風船につぶらな瞳を付けたような容姿がとても愛らしい。
モルモルたちが楽しげに跳ね回るその姿に、俺たちはすっかり癒されていた。
「もるもる、ごはん、おいしいー?」
キャッキャと指をさすルーちゃん。
「あー、捕食中なのね。邪魔するのも悪いし少し待ちましょうか」
うん? ごはん? 捕食?
もう少しだけ近づいてよく観察してみると、水辺に厳つい顔をした大きな魚が横たわっていて、モルモルたちはそれを取り囲むようにぴょんぴょこしていた。
時折触手のように身体を伸ばし、そのたび魚の身が減っていく。
やがて、身がなくなると跳ねるのをやめて骨にぴったり張り付いた。
……うっわ……骨が消えていくぞ……溶かしてんのかこれ……。
骨をすっかり溶かしてしまったモルモルたちは、満足したかのように再びぴょんぴょこ跳ねだした。
「ね、凄いでしょ。こうやってなんでも吸収しちゃうのよー」
可愛い見た目に騙された冒険者が餌食になるやつだなこれ。
うーん、可愛さに騙されてだっこしなくてよかったわ……やってたら、今ごろスライム責めに遭ったR18ユウくんのできあがりだったわ。
そんなん誰も得しねえから、マジで良かったよ……。




