第1話 久々の我が家
住民たちに「宿題」を出しておこうと思いついたのは昨夜のことだった。
夜空でチルりつつ、女神の放屁を右から左に流している時に「そうだ、宿題を出そう」と、ぽっと思いついたんだ。
集落の連中は、もう既に止まっていた足を動かし始めている。だから、もう俺が手を貸さなくても大丈夫だとは思う。
けど、背中を押してやれば、歩みの速度があがって、もっともっと良い集落にしてくれるんじゃねえか、そう思ったんだ。
……だもんで、寝る前にあれやこれやと準備をしたわけじゃん? ぶっちゃけ寝不足で、ちょっぴりだるだるでさ。
みんなのとこ回るのめんどくせえなあってちょっと思ってたから、こうして見送りに来てくれたのは助かった……いや違うな。
めちゃくちゃ嬉しかったわ。
キンタ一家に狩人たち、ザックやシゲミチに、マモ爺まで……いや、つうかこれ、集落総出で来てくれてんじゃねえか……くっそ、目から汗が出ちまう。
一泊二日くらいの予定だったのに、思ったより長く居ちまったなあ。
人が多いとこってそこまで好きじゃなかったんだが……やっぱ人恋しかったのかも知れねえな。
名残惜しいが、いつまでもうだうだしても居られねえ。
じゃ、そろそろ行くかねー。
「みんな、見送ってくれてありがとうな」
「ありがとうはこっちのセリフだよ、なあみんな!」
「そうっすよ! ユウさん、次来た時、びっくりさせるよう頑張りますから!」
「俺もいっぱい描いて、立派な図鑑作ってびっくりさせまーす!」
「お兄ちゃーん、ありがとねー!」
「マモ爺も感謝ですぞーい!」
集落中の人らが俺の周りに集まって、やいのやいのと始まった。
くっそ、これじゃ帰れなくなっちまうだろうがよ……ええい、離せ離せ! 俺のケツを揉んでるのは誰だ……ってマモ爺じゃねえか! やめろばか!
「……じゃあなあ、みんな! またくっからなあ!」
「またなー みんなー」
「クロベエちゃーん、またねー!」
弾けるようなリットちゃんの声に背中を押されながら、集落を後にした。
……え? パンちゃん? ああ、あいつね……居ねえと思ったら、クロベエの背中に埋もれて気配を消してたよ……。
やるじゃねえか。
◇
……そうだった。
くっそ暇なんだった。
いやあ、帰り道、くっそ暇っすわ……。
森までの道中は良かったんだ。集落の余韻が残っていたしさ、賑やかになった森を歩くのは楽しかったからな。
パンちゃんを軽くいじりながら泉で休憩してよ、俺んち側に出たところで一泊だ。
天に帰ることを忘れたパンちゃんに肉を与え、テントでしょうもない話をしてるうちにぐっすりと眠りに落ちて。
んで、朝飯を食ってよ、後は家に向かうだけだってなったわけなんだが、クソ暇平原エリアに入った途端……。
『ちょっとリプラシルに居すぎたわね……アニメの消化もしたいし……ごほん、仕事もあるし、そろそろ帰るわね』
なんて、白々しいことを言ってパンちゃんが離脱。
あいつ、アニメ見たいがために俺を見捨てやがったんだ。
クロベエとの二人旅も悪くはねえよ? でもよ、パンちゃんが居たらよ、トークの幅が広がるし、いい暇つぶしになってたんだよ……。
いやあ……マジで暇だわ。
暇すぎてパンちゃんを恋しく思う始末。
あんまりにも退屈過ぎるので、行きにやった街道の整地の仕上げ……軽く採石をばらまき、転圧をしながら進んでいく。
「ユウー これやると歩きやすいけどさあ 帰るの遅くなるよねえ」
「……クッ……そうだった。これやるとスピードダウンすんだよな……」
けどな、あの集落はいいとこだったからな……またそのうち行くつもりだし、今のうちにやっとけば……うん、がんばるか。
クロベエの背中に揺られ、ひたすら家を目指して進んでいく。
はあ……せめて半日でつくようになりゃなあ……。
クロベエのおかげで一泊二日で済んでるんだから、贅沢は言えねえけどさ、もうちょっと気軽に行き来してえよなあ。
そして――
牧歌的過ぎる景色に心が折られそうになった頃、ようやく我が家が見えてきた。
いやあ……改めてみると、この堀エゲつなくて笑うわ。
おかげさまで、家の敷地内に魔獣が侵入した様子はない。
懐かしの我が家は当然健在だ。
強いて言えば……気持ち埃っぽくなってるくらいで、出発した時とまったく変わらない姿で俺たちを出迎えてくれたよ。
集落の皆もこれからに向けて頑張るんだ、俺も負けずにここを充実させていかないとな。
とはいってもだ。
今日は移動でかなり疲れちまったからな……。
もう……何もやる気がでねえ……ああ、ベッド様のぬくもりが心地良い……この……素朴な素材が絶妙に俺を包み込んで……あかん眠くなってきた。
スヤァ……
……
…
◇◆
ふふ……ふわっふわだわ……やめろよ、リットちゃん、それは肉じゃなくて、アホ女神のケツだよ……だから違うってば……叩いちゃダメ……。
「ユウ! 堀になんかおっこちてる!」
……うーん、ほら……叩くから……パンちゃんが転げ落ちちゃった……
「ユウ! 起きて! 大変だよ!」
「なんだよ……うるさいな……んあ……クロベエかよお……」
「起きてってば! ユウ! はやく!」
……にゃむにゃむ……まだ……朝の五時じゃねえかよ……ああ、すっかり寝ちゃってたんだな……。
「もー! 変なのがいるんだよ! 早く来てよ!」
うーん? うん……変なのとは……穏やかじゃねえな……。
帰って早々に事件かぁ? マジでやめてくれよ……。




