第20話 謝肉祭
集落に戻るとだいぶ日が傾いていた。
「今日はもう遅せーし、解体したら解散な」
「おいおい……そりゃねえよユウ。俺達がどんだけ肉を楽しみにしてると思ってんだ」
「もうどこの家もメシの支度はじめちゃってるじゃねえか。明日だ、明日の昼、ここに集まって食おうぜ」
「言われてみりゃそうだ、さっすがユウさん!」
「明日が楽しみだな!」
「だなあ!」
盛り上がる狩人たち……おや、キンタがなにか言いたそうな顔をしているな。
「どうしたキンタ? 何か問題でもあったか?」
「いやな、もうすぐ夜になるだろ? 今からやっちまうと、終わる頃には暗くなるじゃねえか。だから解体も明日やりゃいいんじゃねえのって」
「なんだそんなことか。解体なんてすぐに終わるから見ててくれよ」
ストレージからシカの魔獣を取り出すと、狩人たちがずらっと取り囲んでキラキラした目を向けている。
「ユウさんの解体参考にさせてもらいます!」
「デカい魔獣の解体なんて初めてです!」
「どうやって解体するんだろうなあ……」
わりいお前たち……俺の解体方法はな~んも参考にできねえと思うぞ……。
お前たち用のテキストはそのうち用意してやっから、今日のところは許してくれ。
スマホを持ち、シカの魔獣をカメラに……おっとそうだ。先に図鑑を見ておかねえと。
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魔獣:リブッカ
体長3m~6mとされるが、10mを超す大型の個体もいるらしい。
あれよあれ、森のヌシ的なアレね。浅層のヌシなんだわ、きっと。
コホン。
リブッカは脂肪層に魔力を溜め込み、防御力を上げるという、身体強化のようなことをしている。
もしも狩ろうと考えているならば、魔鉄鋼で鍛え上げた槍か、強弓が必要となるだろう。
素材:毛皮 魔石 肉 角 蹄
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うーむ……今回は比較的まともな解説が出てきたな……。
なるほど、こいつはリブッカっていうのか。狩るのに強弓が必要とは、例のアレがまさにうってつけじゃねえかよ。
キンタたちにとって、良いベンチマーク役になってくれそうだ。
……っと、すっげえ見られてる。わかったわかった解体しますよっと……。
ピカーーーっとリブッカが光り輝き、ゴキキ……メキョキョと音が鳴る。
「おお……音がしてるな……」
「これが……解体……?」
まあそうなるよな。だから参考にならねえつったろうが。
「俺は解体も魔法でやっちまうからな……どうだ? 参考にならねえだろ」
「これってやっぱり、練習してもできねえやつか?」
「ああ、俺にしかできねえやつだ」
「そうかなって思ったけどよお……そっかあ……」
やっぱそうかと、しょんぼりするキンタ。
他の狩人たちも残念そうな顔をしているが、しゃあないねん……このスマホがなきゃできねえ幻の魔法だから、俺以外だれにもできねーのよ……。
「まあ、そうしょげるな。今日のところはお前らの獲物もやってやるからよ」
「うおおお、ありがとうユウ! 血抜きだけはしといたけどよ、実はめんどくせえなっておもってたんだ」
「俺もっす! ありがとうございます、ユウさん!」
途端に元気を取り戻す狩人たち。まったく現金で憎めねえ連中だぜ。
ポコン!
『肉だけに?』
うるさいですね……。
キンタたちが狩ってきた獲物をささっと解体すると、キンタがとてもいいことを言った。
「なあユウ。お前が狩った肉だけどよ……」
「ああ、リブッカがどうした」
「リブッカっつうのか。いやな、俺達だけで食うのもアレだろ? だからよ、みんな集めてよ、謝肉祭を開いたらどうかなって」
「そうだそうだ! 明日は肉の人の謝肉祭にしよう!」
「肉の人の祭にしよう!」
「肉祭りきたー」
「「「肉の人! 肉の人! 肉の人ーっ!」」」
なんだよ謝肉祭って! 祭りの概念はあんのかよ! まったくおめでてえ世界だなあ!
「肉の人って呼ぶなつってんだろうが……みんなを集めるのには賛成だが、リブッカだけじゃ飽きねえか?」
「初めて食う肉だからわからんが、たぶん平気じゃねえか? それによ、俺達が狩ったのも出すからよお、それも合わせてぱあっとやろうぜ!」
なるほどそういうことなら……。
キンタたちから肉を預かると『じゃあ、謝肉祭で』とかいってさっさと帰ろうとしやがった。
おい待てよ、忘れもんだぞ!
「なんだよ? 肉は預けたんだからもう良いだろ?」
「羽や毛皮があんだろうがよ……ちゃんと分けて持ってけよ。矢を作ったり、毛皮もなんかにつかうんじゃねえのか?」
「ああそうかそうか! 肉の事しか頭になかったぜ! わはは!」
キンタだけではなく、狩人たち全員が忘れてたわと笑っている。
ほんとこいつらはよ……。
◆◇
ざわざわ……ざわ……
にく……にくにく……にく……
「うわあああああ!!!!」
妙な気配に飛び起きて、テントから顔を出すと多くの人たちに取り囲まれていた。
「あ! 肉の人だ!」
「「「おはようございます!!!」」」
「おはようございます……」
また今日もかよ……つうかなんだよ……まだ七時前じゃねえかよ……昼からやろうぜって言ったじゃねえか……ああ、はいはいはいはい、今出ますから! だから肉コールすんのやめろ!
「……おうこらキンタ、随分早く来やがって、どういうこったよ」
「いやほら、準備っつうのがあるだろ? 今からやりゃあ、ちょうどいいだろ」
「くっ……そうだな」
考えてみりゃ会場の設営もあるし、肉だって焼かねえといけねえしな……そうか……俺が悪かったのか……。
配布の時と同じく板と葉っぱを出し、そこに解体した肉を並べていく。
こうしておくと、調理係がこっから持っていって焼いてくれるらしい。
まずは主役となるリブッカ肉を積み上げてっと……ううむ、なかなか圧迫感があるぜ。
あとは、その周りにキンタたちの成果を並べてっと……うーん……なかなかに肉肉しい画になったな……謝肉祭にふさわしいぜ。
「じゃあ、調理は任せますので、用意が出来たらここでみんな揃って食いましょう!」
「それはいいんだけど、できた料理はどこに並べればいいんだい…?」
うっ……言われてみればそうだ。祭りだから、みんなここで食うんだもんな。
地べたでってのはあれだから……しょうがねえ、行ってくるか!
「並べる場所は今から作るんで、気にしないで調理を始めちまってください!」
「ほ、ほんとうにだいじょうぶなんだよねえ?」
「まかせてくださいよ! んじゃ!」
と、駆け出そうとしたところで、ヒマそうなキンタの顔が見えた。
「おーいキンタ」
「どうした、肉になんかあったか!?」
「なんもねえよ! 俺はちょっくら木を取ってくっからよ、暇なら穴を掘っておいてくんねえ? これくらい幅の穴を三つ、体が半分埋まるくらいの深さで頼むわ」
腕を広げ直径五十センチくらいを示すと、キンタが眉間にシワを寄せる。
「いいけどよお……何に使うんだ、そんな穴……ま、まさか俺を埋めて肉を食わせねえように……」
「しねえから! つうか入らねえだろうがよ! じゃ、頼んだぜー!」
アホなキンタを置き去りに、クロベエを呼んで森まで急ぐ。
徒歩だとそこそこ時間がかかったが、クロベエの足ならあっという間だな!
「おっと、クロベエこの辺りでいいぞ」
「中までいかなくていいの?」
「ああ、木を何本か切るだけだからな。ここらで十分だよ」
ええと……手頃な枝はっと、こいつでいいか。
バットくらいの枝を拾い、木を叩いて強度を確かめる。
……いけそうだな。
スマホを先端に括り付け、木に向かって軽くスイングする。
ズン
ズズズズズン……
おっとあぶねえ!
やっぱこのやり方だと俺に倒れてくるか……まあいざとなったらスマホでガードできるし平気やな!
ポコポコ、ポコポコとメッセが届いてる音がするが、無視をしてどんどん木を切り倒していく。
いやあ、新武器【スマホアックス】もなかなかいいじゃないの。
ついつい楽しくなっちまって、森の入口にちょっとした広場ができちまったぜ……あ、そうだ。狩人たちのキャンプ地にすりゃいいじゃん。
どうせあいつら、今後はもっと奥に行くようになるんだし、森の近くにベースがあったら便利やろ。
そうだ、そういうことにしよう!
「うーし、こんだけありゃあ足りねえってこたねえだろ。じゃ、いくかクロベ……ってなんだ!?」
クロベエに跨り、さあ行くぞと思った瞬間、襟のあたりをぐいっと後ろに引っ張られた。
くっそ、新手の魔獣か? 浅層だからって油断しちまった……って……。
「もーー!!! なんでメッセみないの! 無視しないでよーー!」
涙目でぷんすこブチギレたパンちゃんが立っていた。
えぇ……?
「いや……どうせ『スマホで木を切るな』って書いてたんだろ? だから別に後でいいかなって」
「たしかにそれも送ったけど、別件の用事だってあったんだから!」
「ああ、そりゃ悪かった……って肉食べたいってスタンプ連打してるだけじゃねえかよ」
「リブッカよ! リブッカ! あんな美味しいお肉、あたしだって食べたいでしょう! 食べたい! 食べたい! 食べたい~~~!!」
地面に横たわりじたばたじたばたするパンちゃん。
おもちゃ売り場の子供かよ!
「まあ……世話になってっから、食わしてやりてえけどよ、連れてったら誰だってなるだろ? だから後で――」
「だめ!!!! 私も謝肉祭に出るからね! お肉のお祭りなんて最高じゃないの!」
「や、だからさ……」
「いくからね!」
「くっ……わーかったよ! 連れてったらいいんだろ!」
まいったな……これ、どうすりゃいいんだよ……。




