第15話 肉の対価
野菜グループがようやく片付き、次は狩人たちの番だ。
普通に考えれば、狩人から対価で貰うのは肉になるわけだが、彼らは休猟中だし、シゲミチくんの話を聞く限りでは、俺に渡せるほどの肉を用意できそうにはない。
なので、彼らには『後で狩りの話を聞く』という約束をし、それを対価に肉を渡すことにした。
狩人は全部で八人居たが、その殆どが今は農家を手伝っていて、労働の対価として野菜を貰って暮らしてたそうだ。
他の住人より肉を食べる機会が多かったせいか、禁断症状が酷かったようでな……。
なんかもう、引くほど喜びながら肉を受け取っていくんだよ。
「おおぉお……こんなにでけぇ肉を……抱ける日が来るとは……」
肉を抱きしめ、涙を流す人も居た……まあキンタなんだが。
「気持ちわりぃことすんじゃねえよ……」
「いいだろ……俺にはこんな肉とれねえんだ、ほら、リットもやってみろ」
「……私はいいや。お兄ちゃんありがとう! 私ね、いっぱいお話するから!」
「ああ、楽しみにしてるよ」
リットもやってみろじゃねえよ。嫌がられてんじゃねえかよ……って、マーサさん……あんたは抱くんかい……。
狩人たちが終わると、次にやってきたのが生産職の方々だった。
鍛冶屋や大工、薬師などを営んでいて、もうずっと昔から代々その技術を受け継いでいるそうだ。
サラッとした話だけ聞いて、詳しい話はまた後で。ここで聞いちゃうといつまで経っても終わらねえからな。
そのうち聞きに行くのでよろしくねと行って帰すのだが――
「兄ちゃん! ありがとな! 今度来た時にクワでも作ってやるよ!」
――なんて、みんな揃ってなにかしらをくれようとするから嬉しいね。マモ爺もああいっていたし、ホント無理しなくて良いんだけど、その気持ちがとても嬉しいわ。
「ほいよ、次の方どうぞー。お話は後で、今日は肉を持ってってね……なんすか?」
「あんた顔色が悪いね。これを飲みな」
痩せぎすの婆ちゃんが、鋭い視線で俺を睨みつけながらピンポン玉くらいの玉を差し出している……。
「……これは?」
「大抵のことに効く丸薬だよ、ほら、遠慮はいらないから、今すぐ飲みな」
「え、ちょ、あ……うわあ! ちょ、押し込むな……青臭いぃいぃ!」
……うっぷ……これ、あれだろ……。
リットちゃんがマーサさんの口にねじ込んだ草だろ……。
薬師……? の婆さんが満足そうな顔で肉を担いで去っていった。
……くっそ、マジで青臭い。しばらく口の中が大草原になりそうだわ。
そして、最後に来たのが、マモ爺からろくでなし呼ばわりされている若者たちだった。
おいこら、そんな申し訳なさそうな顔してんじゃねえよ。
大丈夫だよ、俺がお前たちがやってることを仕事に変えてやっからさ!
「あの……俺らはなんも話せねえんすけど、マジで肉……いいんすか?」
「ああ、いいとも。だって君たちは、まだ誰も知らない、新しい仕事をしてるんだからな」
若者たちが「こいつ何言ってるんだ」という顔をした。
……自分で言ってて俺もちょっと思った。
いやー、どう言えばいいんだろうな?
「……後で、君たちが普段どんなことをしてるのか教えてくれ。俺がそれを仕事にしてやるからよ。もちろん、その仕事に対してのお礼はするぜ?」
「お礼って肉……ですか……?」
背が低い少年が、ゆっくりと顔を上げながら言った。
「なるべく、君が欲しいものを渡すつもりだが、肉が良いのかい……?」
「はい! 肉が……! 肉が欲しいですっ!」
「肉の人! 俺も……肉が欲しいっ! 俺の話も聞いてくれ!」
「俺もだー! 肉の人ぉ! 俺も一人前の肉にしてくれえ!」
……なんなん、この肉で描く青春ドラマみたいなノリ……一人前の肉ってなんだよ……なりてえんじゃなくて、欲しいの間違いだろうがよ。
なんか収拾がつかなくなりそうだったので、さっさと肉を渡して帰ってもらった。
「今ので全員来た感じ?」
「ええと……そうですね、全員です」
シゲミチくんのメモによれば、集落の人口はざっくり百人前後か……。
なんか思った以上に居たわ。
アホほど肉持ってきてよかったぜ……。
◇
交換会も無事終わったので、シゲミチくんに報酬を渡して帰らせた。
書記をやってくれたので、特別に五キロのお肉を渡してやると、ものすごいニッコニコで、スキップしながら帰っていった。
シゲミチメモを眺めつつ今後の予定を考える。
この集落に何が必要かって、やっぱ肉だろうが、ここには元々狩人が居るから、その点は楽だな。
素早い魔獣や、大型のを狩れないのは確実にバグのせいだろうが、俺が来たことでパラメータが書き換わり、俺の意見を取り入れてくれさえすれば事態が好転する所まで来ている。
ただ、何をすれば良いのか、何が効果的なのかはまだわからない。
だから、とりあえず狩人たちの話を聞いて、何が悪いかを知ることから始めよう。
……狩人の家を巡るってのもめんどくせえな。キンタに言って集めてもらうか。
つうか、実際に狩りをしてるところを見せてもらったほうがはええな。
というわけでリットちゃんの家にやってきました!
「ちわー キンタいるぅ?」
「おう! 来たか肉の人!」
良かったキンタ居たわ……つうかよ!
「誰が肉の人だよ!」
「いや……みんな言ってるし、そうなのかなって……」
「お、お前、俺のこと友達だって言ったろうが! ちゃんと名前で呼べよ」
「悪かったよ、ユウ! 冗談だってば!」
マジでやめろよ? 肉の人ってのが浸透してみろ、そのうち誰かが「肉神」とか言い出してよ、神格得たりしたら目も当てられねえんだからな!
「たくよお……まあ、それはいいや。畑に居るかと思ったが、居てよかったよ」
「いやあ……みんな今日は仕事どころじゃねえだろ」
「え……なんで?」
「ばっかお前、肉だぞ? ガチで夢にまで見た肉だ! 今頃みんな調理場に向かってるんじゃ無いか? マーサの奴もさっき肉抱えて走って行ったぞ!」
ああ……なるほど、そう言われてみりゃそうだ。
肉に飢えた人らに肉を配ったんだもんな……そら焼きにいきますわな。
しかし集落は空前の肉フィーバーか。
この様子だと今日はもう無理そうだな。
「あのさキンタ、明日でいいからさ、狩りの様子を見せてほしいんだよ」
「ああ、肉と交換のアレだな? そういうことならかまわねえよ。さっそく明日から狩りを再開しようと考えてたしな」
「おお、そうか! できれば、キンタだけじゃなくて、ほかの連中の狩りもみたいんだけど……」
「どうせみんな行くだろうし、声掛けとくわ。ユウの肉は最高だが、やっぱ自分らで狩りてえからなあ」
ユウの肉とかやめろ……。
「しかし、ユウが俺らの狩りをみておもしれえもんかね?」
「ほら、広場で言ってただろ、狩りのコツを教えてくれって」
「教えてくれるのか!?」
「ああ、ただし、先にお前らの狩りを見せてもらってからだぞ。じゃねえと、なにを教え――」
「ユウゥゥウ! あんたやっぱ肉の人だよ……! 俺たちの肉の人だ……」
くっそ、抱きつくな! つっか、マジでやめろ! なんとなく神力が上がった気がして来たろうがよ! ああー! 神格を得た気配がするぅ!
……恐ろしい冗談はこれくらいにしてと。
「ふう……じゃあ、明日になったら俺んとこ来てくれ」
「ああ、広場に寄ったらいいか?」
「そうだな、テントで寝てるからよ、声かけてくれよな」
「テント……ってなんだ?」
「……お前らが『肉の巣』とか気持ち悪い呼び方してたアレだよ」
「ああ、あれか! おう! 仲間にも伝えとくわ! 楽しみにしてるぜ!」
キンタと別れ広場に向かう途中……、スマホがポコンと音を立てた。
『ねえ、あんな約束して大丈夫なの? あんた戦闘系の特技とかないんでしょう?』
うん……まあね。でも、やりようがないわけじゃあないんよ。
ポポヒュ!
『元々アウトドアは好きだし、いつかやろうと思って狩猟のことは調べてたんだよ』
『まあ、最悪困ったらスマホでしらべりゃいいしよ』
ポコン!
『感心しかけたのに、結局はスマホ頼みなのね』
ポヒュ!
『なにせ、女神様の加護を受けてますからね、頼りにしてますわ』
ポコン!
『ふふん。まあね!』
ポヒュ!
『そうだ、感謝の印として広場に祠を建てて、肉の神リパンニェル様を祀ってあげますわ』
ポコン!
『それはマジでやめて!』
くさはえる。
きっと「慈愛の女神だが、肉の女神の側面も持つ」みたいになっちまうんだろうな。
……面白そうだな?
ポコン!
『やめなさいよ? マジでやめなさいよ? やったらバチを当てるからね! 振りじゃないわよ!』
さて、明日まで時間はたっぷりあるしちょっと狩りのネタについて下調べしておくかね。
ポコン!
『ほんとやめてね?』
やらねーよ!




