第4話 黒き魔獣
パンちゃんがスマホを持って行ってしまった……。
スマホに加護を与えるっつう、パワーワードは地味におもろいが、ちょっぴり気が気じゃないわ。
だってさ、さっきから俺のスマホがビカビカ白く光ってんだぜ? 加護の光なんだろうなあって思うけど、壊されないかちょっとヒヤヒヤするぜ。
あとさあ、純粋に自分のスマホを人に渡すのって、ちょっと嫌じゃね?
ヤベー画像とか保存してるわけじゃないんだけどさ、ロック外したスマホを弄らせるのって、なんかこう……そわそわしねえ?
……いやすいませんうそをつきました。鍵付きフォルダにヤベエのいっぱいです。さっきから変な汗が止まらねえぜ!
でもさ、スマホをそのまま使えるってのは、かなりの武器になると思うんよな。
スタート地点がどんな場所なのかわかんねーけど、どうせ森とか草原とかに降り立つと思うんだよ。
で、テンプレ通りに行けば、初日は民家とかまずみつけらんねーわけで、野営をする羽目になるわけじゃん。
野営と聞いて何が頭に浮かぶ? そう、焚き火だ。
それで、マッチもライターも無い状態で火を起こせるかい?
俺? 前に試してひどい目にあったよ。
でもさ、動画でやり方を見れれば、だいぶ違うじゃん。
動画のとおりの手順を辿ったら、火をつけられる可能性は大きく上がるだろ。
やっぱさ、生き抜くために必要なのは、力でもカリスマでも無くスマホなんだよ。
パンちゃんは普通に生活すりゃいいって言うけどさ、その普通レベルまで辿り着くまでがきっついんじゃん。
野山にぽいっと落とされて、一週間生き抜ける奴は一般人じゃねえのよ……と、どうやら終わったようだな。
「できましたよ……我ながら、いい仕事でした」
ふうといいながら、腕で額をぬぐうパンちゃん。
信用していい? いいんだよね? ウンウンと頷いているな……逆に不安になるぞそれ。
これ買ったばっかなんだよ? 壊れてたらマジで許さんからな……うん、大丈夫そうだな……ちゃんと動いてるわ。
さて、加護も貰ったことだし、次はいよいよ俺を異世界に送るシーンが――と思ったら……パンちゃんさんが屈んでクロベエと向き合っている……。
何やってんの?
「にゃあ にゃあ」
「にあー」
「んな んな」
「ぐぬー」
なんで「うなうな」言ってるんすかパンちゃんさん……。
女神だからネコと話ができるのかもしれんが、こうして見てると完全にお話ごっこなんだよな。
「んぬんぬ」
「ぬー ぬー!」
ふふ、ぬーぬーだって。女神が出していい声じゃねえだろそれ。
でも、マジで話せてんなら羨ましいよな。クロベエが普段俺のことどんな目で見てるのか、聞いてみたいんだわ……あ、どうやらお話が終わったようだ。
パンちゃんがクロベエと一緒に戻ってきた。ふふ、今の微笑ましいやりとり、しっかりと4Kで動画におさめておいたからな。
いつか、ここぞという時に見せてやるから、楽しみにしておけよ?
「……なにか私の顔についてます?」
「いえ、別に。どうぞ、イベントを進めてください」
「イベント言うな……それでは、貴方がたをリプラシルに降ろします……ユウさん……どうか、私の……幼き世界を育ててください……お願い……します……」
パンちゃんの声がとぎれとぎれになったと思ったら、来た時と同じ光に包まれグニャリと視界が歪んでい…て…意識が……途絶えて……い……た……。
◇◆
「ん……」
心地よい風がさわさわと頬を撫でている。
目を開けると、新緑が茂る木々が見え、やわらかな木漏れ日が差していた。
ふわふわの草原に、大きな木、もっふもふの毛布……。
きっと、よくある『異世界謎平原』に配置されたんだろうな。ここまでテンプレ通りだと逆に笑えて来るわ。
……って、これ毛布じゃねえな? なんだこれ!
嫌な予感がしたので、ゆっくりとその場を離れ、そのもふもふを改めて確認する……うっわ、マジかぁ……。
これはさっそくヤベえのに遭遇してしまったかもしれねえ。
それは、体長三メートル前後、ライオンのような鬣をなびかせながら、すやすやと眠る黒っぽい獣だった。
俺はそいつのふさふさとした尻尾をぎゅっと抱きしめて眠っていたようだ……。
寝てる魔獣のとこに転移するとか、どんな確率だよ? なんかそういうノベル読んだことあるな……ラッキーパンチでやっつけたり、なぜか気に入られてしまったり……。
大抵の場合は、俺TUEEE系主人公化フラグだったりするのだが、こいつはどうなんだろうな……見た感じフェンリルとかそういうのじゃねえし、なんか間抜けな顔してるし……どうも違うような……。
不思議と、怖いという感情が起こらない。
首を傾げながら、魔獣を観察していると、ふわりと一陣の風が魔獣の毛をなでていった。
その風が運んできたのは、めちゃくちゃ嗅ぎなれた香りだった。
この……なんとも言えない香り……もしかしたらって思ってたけど、マジかぁ。
「うわ……このでけえもふもふ、やっぱクロベエなのかよ……」
前に回り込んでじっくり顔を見てみると、すやすやと寝息を立てる魔獣は、やはりクロベエだった。
「……デカくなったな……小僧……」
いやマジでデカくなりすぎじゃね? なんでまたこんなことに……。
デカすぎる頭を両手でワシワシと撫でていると、クロベエがゆっくりと目を開けて大あくびをした。
「うおおおおお! 生臭ええええええ!」
クロベエは、むにゃむにゃと口を動かしながら辺りを見渡し、俺の姿を見つけると、ゆっくりと目を細めて――。
「あ ユウだ ねえねえ おれ ち~る食べたいなあ」
――と、さも当たり前のように喋った。
……マジかぁ……おしゃべりまでするんかぁ……。
いやさあ、たまにクロベエを撫でながらこんなこと言ってたんすよ。
『クロベエくん、でかくなってくれ。でかくなって俺を乗せてくれ』
『今ごは~んって言ったよな? そのノリでおしゃべりできるようにならね?』
ってね。
しょうもない妄想だったのに……まさかマジで叶うなんて……。
「なあ……クロベエ。お前なんで喋れるの? そもそも、どうしてそんなに大きくなってんの……」
「うんー? へんなこと言うよね いつも 喋ってたよ ごはんーとか さんぽーとか」
「え……マジ?」
「ユウ…… もしかして わかったふりして 適当にいってたの?」
「い、いやあ……ちょっとはわかってたよ? マジでマジで……」
いやマジかよ……。
クロベエくんをなめてたわ。まさか、発音できてねえだけでおしゃべりしてたとは……。
「おおきくなったのは ユウが おれに のりたいーっていつもいってたでしょ だから 女神におねがいしたんだよー」
クロベエ……!
俺の言葉がちゃんと届いていたのかよ……!
くっそ、目から色々と出ちまうわ……うおおん、お前いい猫だなあ! もふもふしちゃる! うほおお、ボリュームがあるのう、もっふもふだのう!
ふう……。
パンちゃんが「んなんな」言ってクロベエに授けたのが巨大化(仮定)の加護だと。
ということは、クロベエの言葉がわかるのは……パンちゃんが後で付与するとか言ってた、なぜか言葉がわかるアレのおかげか。
クロベエはもともと猫語? かなにかで喋っていたと。俺がそれを理解できるようになったと、そういうことなんだな。
……つうか、この【言葉の加護】はどこまで効果が適用されるんだろうな? なんでもかんでも言葉が通じるようになっちゃったら、なんも食えなくなっちゃうんだけど……!
◇◆
クロベエと話せるのが嬉しくて、楽しくて。
ついつい話し込んじゃったけど、このままじゃだめだよな。夜が来る前に、取りあえずの拠点をどうにかしねえと。
重い腰を上げ、ほっぽりだされた場所を見渡してみれば、異世界ファンタジーでぽいっとされるような、いつものアレだった。
某XPの壁紙みてえな、丘が見える草原という感じの場所で、見える範囲全てが大自然だ。
やったら広い草原を限界までガン見しても、見えるのは森と岩山くらいのもので、他にはなーんもない。ただひたすらに草原がどこまでも、どこまでも広がっている。
この様子だと、徒歩でサクッと行ける距離には誰も住んでなさそうだな。
「草すら生えねえ状況なのに、大草原とはこれいかに」
あーやべえ、ちょっと萎えてきた……こんだけ探してもなんもねえとか、よっぽどだぜ……。
つうか、今何時だろう……スマホを……っと、そうだ、パンちゃんがアプリ入れておきますね、って言ってたよなあ!
せっかくスマホを使えるようになるんだからと、なんかオススメのソシャゲでも入れてもらおーって、パンちゃんに頼んでたんじゃん。
誰かのオススメって、自分だとまず手に取らないようなのを挙げてきたりするからな。新ジャンル開拓できたりしておもしれーんだよな。
パンちゃんって女神様だろ? オススメされるアプリはきっと神アプリに違いない……なんつって!
と……これか? 他に増えてるのは無さそうだから……そうなんだろうけど……。
ホーム画面の一ページ目、あえて空けておいたスペースにどっしりと居座っている謎のアプリ、その名は――
【リパンニェル】
まさかのリパンニェルだぜ。
これ自作アプリ……っぽいよなあ。あの女神、アプリ開発とかしてんだなあ……。
つか、アプリに自分の名前つけるって……いやまあ、たまにいるけどさあ……まあ、どんなもんか立ち上げてみるか……。
『ログインボーナス! 今日はこれがもらえるよ!』
【食糧三日分】
『明日はこれがもらえるよ!』
【水三日分】
「唐突すぎてわろた」
アプリを立ち上げると、スプラッシュロゴやらタイトル画面やらをすっ飛ばして、いきなりパンちゃんの声が聞こえたかと思ったら、ログインボーナスが表示されやがった。
いかにも素人が作ったアプリっつうか、開発中アプリの匂いがプンプンするんだが?
「つうか、食料に水だあ? サバイバル中にサバイバルゲームとかシャレが効きすぎてんだけどぉ?」
ドサッ……
なんだ……今、後ろに何かが落ちたぞ……。
「お、おい、クロベエ……後ろ見てくれよ……」
「え やだよ ユウがみてよ……」
くっそ、そうだった。こいつはビビりだった。デカくなっても相変わらずとは泣けてくるぜ。
しゃあねえ……何かあっても死なないらしいし、ここは俺が見ておくか……ヘビとかだったら……やだな……ってなんじゃこりゃ?
恐る恐る後ろを振り向くと、そこには大きめの肩がけバッグが落ちていた。
……もしかして……いや、まさかな……。
そういうことだったら、マジで笑うんだけど……と、中を覗いてみると「食糧セット三日分」と雑に書かれた付箋が貼り付けられた紙袋が入っていた。
中身は……
うわぁ、マジか、マジでそういう方向だったか。
「思ったのと違ったけど、なんか便利なアプリで嬉しいよ。メシとかどうすっかなってちょっと思ってたしな。けどさ……普通は水もセットじゃね? 明日にわける意味 is 何」
なんとなーく、どっかで聞いてそうな気がするので、空に向かって独り言めいた愚痴を放っておく。
でもマジで助かったわ。自業自得だけど、俺がパンちゃんから得たのってスマホだけなわけじゃん。
メシの調達方法を調べられても、メシを取る道具がないわけだろ。
肉はクロベエくんが野生解放すれば、ワンチャン得られるかもしれんが、解体する道具がないから悲惨な食事になるのが目に見えている。
となると、木の実や野草を探すのが安定しそうだけど、それはそれで毒の心配があると……イモムシか? やっぱイモムシを食うしかねえのか? ってなるわけだろ?
それを、ひとまず三日は先延ばしにできたってわけじゃん……最高すぎるぜ。
マジでありがとうな、パンちゃん。
本日は5話まで投稿します。




