第10話 ユウ氏、父性を刺激される
リットちゃんのおうちはどこですかーと、適当にそこらを歩いていた人に聞くと、
「あそこの角を曲がったところが家だぞ、肉の人」
と、教えてくれた。つか、だれが肉の人やねん!
角っつうと……ここかな? ていうか、建物があんましねえから総当たりをしても直ぐ見つかったかもしんねえな。
コンコン
「はーい」
ノックをすると、可愛らしい声と共にリットちゃんが顔を出した。
「リットちゃん、さっきぶりだね。お母さんの様子はどうだい? 薬は飲ませたかい?」
「あ、お兄ちゃんいらっしゃい。あのね……私、薬草の使い方がわからなかったの」
「まあ、そりゃそうだよな……じゃあ、お薬はまだ?」
「ううん、あれね、薬師のオバアがいうにはね、そのままでもいけるらしいの」
「そ、そのまま?」
「うん。だからね、葉っぱをね、お口に押し込もうとしたんだけどね、お母さん『ちょ、ちょっとやめてよリット! いやー! 青臭い!』って飲んでくれなかったの……」
「おお……リットちゃん……そりゃあまた……」
「こんな時お父さんがいてくれたらな……ううん、だめだね。私がお父さんの代わりにしっかりしなきゃって、いつも思ってるのに」
この子……なかなかにスゲェな……。
薬師さんが言うんなら、まあ……そのまま飲ませて悪いこたないとおもうんだが、青臭いって、そらそうだろうよ。
しかし……お父さんが居ないとはな……それで、一人であんなとこまで来てたんだな。
頼れる大人が居ないって、辛かったろうな。
うーっし、ここは俺がなんとかしてやろうじゃないか。
スマホがあれば何でもできる! 知らんけど!
「なあ、リットちゃん。俺ならお母さんの病気、なんとかできるかもしれない。様子を見たいから会わせてくれないか」
「え? ほんと? おねがい、お母さんをたすけて! こっちだよ、お兄ちゃん!」
嬉しそうな顔をするリットちゃんに連れられ奥の部屋に入ると、薄手の布団をかけ、小さなベッドに横たわる女性の姿が見えた。
結構若いな……それに、なかなかに美人だ……って、そんな場合じゃねーよな。
思ったより重い病気ではなさそうだが、それでも顔色は少し悪い。
「失礼」
おでこに手を当てると、チカっと熱を感じた。この感じ、ざっくり三十八度はあるな。
発熱によって寒気がするのか、体を震わせている。とりあえず体を暖めなくっちゃと、ストレージから毛皮を出してかけてあげた。
なんとかできるかもって言ってはみたものの、医療知識があるわけじゃねえからな……。
とりあえず、発熱してるのはわかる。わかるが、断定できるのはそんくらいのもんだ。
熱が出る原因にいくつか心当たりはあるが、原因を特定できるほど俺は賢くない。
今できることと言ったら、民間療法くらいのもんだが、やらねえよりはマシだろう。
ストレージから木桶を取り出し、同じく取り出した水を注いでいく。
「リットちゃん、顔を拭けるような布はないかな?」
「えーと、これでいい?」
リットちゃんが差し出した布巾らしきものを水に浸して絞る。
「こうすると、熱にいいんだ。俺が帰ったあと、熱が下がるまでこうしてあげな」
布をお母さんの額に乗せると、リットちゃんはなるほどという顔で頷いた。
後は薬だけど……ワンチャン【製作】に薬がねえかな……と立ち上げて『薬品』と入力したところ『病状スキャン』などという、非常に都合がよいボタンが現れた。
これはワンチャンどころじゃなかったわ……と押してみると、案の定カメラが立ち上がった。
これってやっぱり。患者を写して症状をスキャンする奴だよな?
やったぜ、これで俺も聖女様だ! 女ってこたねえか。聖男? 聖人? しっくりこねえな……やっぱ賢者で。
試しにお母さんをスキャンしてみると『風邪だね、良い薬出しとくよ』と表示された。
知り合いの町医者みたいでちょっとイラっとしたが……まあ、治りそうでよかったよ。
というわけで、さっきからピカピカとうるさく光る【処方箋】ボタンをタップする。
名前からしてこれはきっと……やっぱりね。
症状スキャンは【製作】の機能だ。
つまり、薬を作るのにも当然、材料が必要なわけだ。
そうなんだろうなって思ってたし、足りない素材は探しに行こうと思ってたんだけど、幸いなことに、ストレージにあるもので十分作れそうだった。
パンちゃん、見てるか? お前が軽視していたウルッグの角、役にたったぞ。
どうやら同じ薬でも粉に錠剤にシロップと、色々作れるようだ。
ここはシロップかな? 粉や錠剤は飲むのに水が必要だけど、井戸水が清浄かどうかわからんからな。
病人には安全なものがええやろ……と、確定ボタンをタップすると、小瓶に入った薬が生成された。
ちょっぴりふざけたツールだが、なかなか便利じゃねーか。
リットちゃんを呼び寄せ、薬の説明をする。
「いいかい、薬はこの蓋になっている小さな器にいれて、こうやって飲ませるんだよ……うん、ちゃんと飲めたね。今日は食前に飲ませたけれど、本当は食事の後が良いからね」
「うん……わかった……でも、ごはんかあ。どうしよう……」
と、困った顔をしてうつむいた。
ああ……そうだよな、リットちゃんまだ幼いもの、料理なんてできねえよなあ。
でも大丈夫さ。
「俺はしばらくいるからさ、リットちゃんとお母さんの分のごはんを作りにくるよ」
稼ぎ頭を失い、苦労している母子を見捨てることなど俺には出来ない。
せめて、この集落にいる間は父親代わりに頑張ろうじゃないか。
「ほんと? お母さんが寝込んでからちゃんとご飯食べられてなかったの。うれしい!」
嬉しそうな顔をするリットちゃん。ああ、俺に全部任せてくれ!
「ゆうべなんてね、生のディンゴをバリボリ齧ったんだよ。辛くて苦かったけど、お腹が空いてたから頑張ったんだ」
……いっぱい美味しいご飯つくってやるからな!
お母さんが穏やかな寝息を立てているのを確認し、食事を作ることにした……のだが、どうもキッチン的な場所が家の中に見当たらない。
リットちゃんに聞いてみると、どうやら広場にある共同の炊事場でやるらしい。
「じゃ、ご飯を作りに行ってくるからお母さんを見ていてね」
「うん、行ってらっしゃい、お兄ちゃん」
ふふ、行ってらっしゃいか。可愛い子供にこうやって見送られるの、なんかいいよなあ。なんて、父性本能に目覚めかけながら歩いていると、もう炊事場についちまった。
この集落せめえから展開早くていいな。
既に何人かのお姉さん方が夕食の支度をしていて、俺の姿を見るとヒソヒソとこちらを見ながら何かを言っている。
なになに? もしかしてイケメンが来たとかそういう話?
「肉の人……」
「肉がきたわ……」
「肉ね……」
……ちくしょうすっかり肉呼ばわりだ。
「どうも、”ユウ”です。リットちゃんたちのご飯を作ることになったので、ちょっと借りますね」
名前を強調して挨拶をしておく。
お姉さん方が働く中で男が一人だ。
肉のこともあるし、変に目立たないよう、端っこの炊事場でコソコソと調理をする。
リットちゃんはともかく、お母さんにはまだ肉は無理だろうからなあ、ここは食べやすいムックルと山菜のスープでいいかな?
いや、まてよ。
リットちゃんはスープだけでは物足りないだろうな。ちっこいのにめっちゃ食ってたからなあ。
うっし、肉とジャンニの炒め物も作っちゃろう。
おお、この調理場、結構使いやすいじゃん! あ、すいません、そこ空いてたら貸してもらっていいっすか? あ、どうもどうも!
ジャンニを切って、肉を切って……そ、そんな目で見ないでくださいよ……しょうがないですね、他の人たちには内緒ですよ……あ! こら! 一人十切れまでですって!
お姉さん方と肉バトルを繰り広げつつ、ノリノリで調理をしちゃった結果、予定よりもちょっと多めに作ってしまった。
ま、多かったら明日の分に回してもらったらいいさ。いや、俺も食うし、こんくらいでちょうどいいかもしれん。
「おーい、見張りごくろうさーん。ごはんだぞー」
「おー ゆうー ありがとー」
「またちょっとリットちゃんとこに行ってくるよ。またなクロベエ」
「はーい またなー ゆうー」
広場で荷車の見張り番をしているクロベエにご飯をあげて、リットちゃんの所に向かう。
ポコン!
『え、わたしのご飯は?』
……今ちょっと忙しいんすよ。
リットちゃんの家に着いたのでノックを……する前に、夕食を出しておくか。スープ鍋と、フライパンを……出してっと……よし。
コンコン
「はーい、あ! 肉の人!」
驚いたことに、出迎えてくれたのはリットちゃんではなく、お母さんだった。
寝込んでて肉のこと知らねえだろ! どこで聞いたんだよ! リットちゃんか? リットちゃんが肉の人って教えたんか? だめだよお!
「どうも、わたくしユウです。もう起きて大丈夫なのですか?」
「お薬を下さったんですよね? おかげさまでこのとおりです!」
あれってそんな即効性あったんだな……異世界のお薬こええ……。
「楽になったようで良かったです。夕食を用意してきたので、良かったらどうぞ」
「いいんですか?」
「ええ、俺の分を作るついででしたし」
「そういうことなら……ほら、リットもお礼を言いなさい?」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
思ったより展開が早かったが、ハッピーエンドになったんならええやろ。
量はたっぷりあるし、お母さんどころか、もう何人か増えても大丈夫だよお! さあ、美味しい美味しい夕食をおあがりよ!
……
…
しっかし、ほんと世の中ってやつぁわかんねえもんだね。
お母さんにはスープでも飲ましてやってさ、今晩はリットちゃんと二人静かな夕食になるだろうと思ってたわけじゃん。
それが、こんなにも元気になってて。
それどころか……いやぁ、マジでびっくりしたわ。
「はっはっは、すいませんね、肉の人! マーサとリットがすっかり世話になっちゃって!」
言ってくれよな、お父さん生きてるって……ただ、仕事で出かけてて家に居ないだけだって……入ったら知らんおっさんが座ってるんだもん、びっくりしちゃったじゃねえかよ……。




