第9話 ここがマモ爺のハウスね
というわけで、やってきましたマモ爺ハウス。
いやあ、ハウスですよ、ハウス!
集落に来てびっくりしたのが、家ですわ。
質素だけれども、きちんとした木造家屋が建ち並んでてさあ、なんだよ、十分まともに生活できるレベルじゃんかよーってびっくりしちゃったよ。
こんなんさ、よくあるRPGの街並みって感じじゃんね。
洋ゲーのオープンワールドなRPGの農村そのまんまだよこれ。
家と畑しかないから、寂しい感じはするけどさ、人口が少ない村とかこんな感じだろうし、パンちゃんが言うほど低レベルなまま停滞してる感じではないよな。
まあ、代表者って言われて戸惑うあたり、テコ入れしなきゃならないポイントはいっぱいありそうだけど。
この集落には、これからその辺にざっくりとメスをいれることになるのだが、果たしてどんな反応をするんだろうな。
「さて、改めてこちらの要望をお伝えさせていただきますけれどもー」
「肉! 今更だめだとはいわせませんぞ、肉!」
「ちゃんと交換してやるから! ちょっと座って! ちょ、マモ爺、顔がちけえから!」
「肉ぅ……肉ぅ……」
やべえな。これマジで病気レベルの肉依存症じゃね?
「野菜の量を気にしてたみたいなんですけど、野菜以外にも欲しいものがあるんで、大丈夫っすわ」
「野菜以外? そうなると、毛皮や狩りや畑に使う道具でしょうかの? じゃが、それらは交換に出せるほど余っているわけでは……」
そういうと思ったよ。けど、俺が求めるのは違うんだよねー。
「欲しいのは、物じゃなくて知識なんですよ」
「知識……ですか?」
大丈夫だよな? 『知識』って概念あるよな? そこまでヤバくはないよな!?
いやさ、広場で『野菜と交換に』って話してた時にさ、何人か悲しげな顔をしているのが見えたんですわ。
あれってさ、農業以外の仕事をしている人たちなんだと思うんだ。
肉への執念はやべえが、それを除けば優しい感じの人たちだから、交換できない人たちにも少しは分けてあげるんだと思う。
けど、せっかくなら、自分もちゃんと交換したぞと、自分の力でお肉を得たぞと思わせてあげたいじゃん。
だからちょっと救済策を考えたんだ。
「狩りをする人や、道具を作ったりしている人たちが居ますよね? そんな人たちから話を聞かせてもらって、そのお礼としてお肉を渡そうと思っているんです」
「ふーん? あ……まあ、その、あれじゃ。あれだけの肉を持ってきてくださった貴方がおっしゃるのですからな。きっと何か意味があるのでしょうな。あれだけの肉ですからな!」
それらしい事を言ってうんうんと頷くマモ爺。
絶対にピンと来てないと思うぞ、この爺。肉にしか意識いってねえし!
マモ爺から集落内の職業について聞くと、農家に狩人、大工に鍛冶師に薬師。
思った以上に様々な職業が揃っていた。
特定の仕事をしていない人は農業を手伝ったり、また、家の仕事をしているのだという。
誰かの役に立つ行動は、それだけで仕事と言えるからな。
この世界のことは全然知らねえから、家事の話だって聞く価値は十分にあるよ。
そして、ひとつひとつ説明をしていたマモ爺が、ふうとため息をつき、語り始めたのが、集落に数人いるという、まともな仕事をしない連中の話だった。
「残念なことに、しょうもないガラクタを作ったり、食べられもせん花や虫を集めてる若者たちが居ましてなあ」
「ほほう、そんな人たちが」
「誰かの手伝いもしようとしない。本当に困った連中で……」
それってさ……バグから解放されかけてる人たちなんじゃねえかな?
ガラクタを作るってのは、技術者のタマゴかもしれんし、花や虫を集めてるってのは、研究職の香りがする。
この世界にとって、少しだけ早すぎた人たちってだけな気がする。
集落で役に立っているように見えないから、ろくでなしみたいな扱いされてんだろうけど、これから文明レベルを上げてやりゃあ、絶対に大化けするだろ。
今回一番の収穫は、もしかするとこの若者たちかもしれないぞ。
……聞きたいことはこれくらい……いや、これは聞いておかねえと!
「ところで、皆さんやたらと肉だ肉だと盛り上がってましたが……」
「そう! 肉です! ありがとう肉の人! 肉です! 肉! 肉!」
「誰が肉の人じゃい! こら、だから顔を寄せるな! 落ち着けよマモ爺! なんでこんなに肉に固執してんだよ! こら、やめろ落ち着け!」
「……かつてはここも肉に恵まれていました。そう、狩人たちが森で狩りをし、肉を持ち帰ってくれていたからです」
「……急に落ち着くじゃん! 森って、女神の泉だかなんだかがあるところでしょ?」
「さよう。そこでロップやクッカを狩っていたんですがの、その森にいつしか強大な魔獣が住み着いたようで……ありゃ無理じゃと、狩りに出るものが減りましてのう……」
「なるほど……まあ命は大事ですし……」
「ええ……ですが、肉が満足に食えない生活に耐えられるわしらではなかった。このままじゃダメだと、狩人たちが討伐に向かったのですが……その日……その者たちが帰ってくることはありませんでしたのじゃ……」
「ああ……お気の毒なことです……」
「まさか魔獣にビビり散らかし、朝まで樹上で震えて過ごしてたとは思いませんでしたじゃ……」
「……帰らなかったってそういう」
「そんな彼らも、今では元気にクワを振るっていますじゃ」
なんかのドキュメンタリーみたいに言うなよな。
ほんと、思わせぶりな言い方やめてほしいわ。でも良かった……クマにやられた狩人はいなかったんだね……。
聞けばロップは角が生えたうさぎ、クッカは目が怪しく光る鳥で、どちらも大人が抱っこできる程度の大きさであまり大きくはないらしい。
マモ爺に他の肉はと聞いてみたが、それら以外の肉を食べたことはないという。
つまり、この集落の連中は、もうずっと小型の魔獣だけを狩って生活してきたということだ。
もっと肉を食べたい。もっと大きな獲物を狩りたい。
本来なら、そこから狩りの腕を磨いたり、武器や罠を改良したり、仲間と連携する方法を考えたりするはずだ。
けれど、ここの狩人は小型の魔獣で満足し、大きな魔獣は危険なものとして避けてきた。
だから……ラウベーラ一匹で狩り場を失うことになってしまった。
これって、パンちゃんの言っていた「穏やかな滅び」に通じる話だよな。
肉問題の根本的解決……案外それがこの集落を生まれ変わらせる大きな一歩になるかもしれねえなあ。
なんて、一人納得をしてうんうん頷いていると、マモ爺がなかなかに鋭い質問をしてきた。
「ところで……貴方はどちらから来たんですかいの? 近くの集落であなたのような者をこれまで見かけたことがない。わしらが知らぬ、遠い地から来てくださったのかの?」
もしかしたら、そういう質問をされるかも! なんて、ファンタジーノベルにありがちな『出自のいいわけ』を色々考えていた俺に隙はない。
「生まれは遠い地ですが、ここからまあまあ近い所に越してきたんですよ」
「ほほう……近い場所と言うと?」
「それが、あの森の向こう側でして。この辺りに集落があると聞き、森を歩いていてリットちゃんと出会ったんです」
嘘は言ってないぞ。地球はだいぶ遠くにあるからな。
「森を越えて……なるほど、魔獣と出会わずこれたのですな……あなたもリットも運がいい」
「いえ、魔獣なら遭遇しましたし、ばっちり仕留めましたよ」
「仕留めた……? うっそっじゃー! 無理じゃって!」
安心させてやろうと、教えてあげたのに、この爺、ニヤニヤして信じようとしやがらねえ。
「いやいやいやマジだって! 盛ってんじゃねえぞーって顔で見るなって!」
「だって、凄く大きな魔獣って聞きましたぞ? あなたが? どう考えてもむりじゃろw」
「おいくそ、単芝生やしてんじゃねえぞ! 荷車みたろうが! 毛皮! あったでしょ、毛皮がさ!」
「毛皮……? 肉に夢中で見た記憶は……いーや、たしかに大きな肉しかなかったぞい! ははは、こいつめ、ぬかしおるわい」
「あー! もう、めんどくせえ! ほら、マモ爺ちょっと来て!」
「ははは、ロップの毛皮でも見せて騙そうったって……」
「いいから! ほら!」
「きゃっ! な、何をするんじゃ!」
「変な声出すな、照れてんじゃねえ!」
どうにもこうにも笑って信じてくれないため、広場に置いた荷車まで担いでいって毛皮を見せてやった。
「ピャッ」
ドヤ顔で、ラウベーラの物とわかる大きな毛皮を広げてやったら、変な声で鳴いて動かなくなってしまった。
なんかピクピクしてるな……大丈夫? 放っといて平気かな?
ポコン!
『マモ爺くさはえる。放っといても平気よ、ただ気絶してるだけだし』
……女神様からOKが出たから平気じゃろう……。
さて、マモ爺の事は忘れるとして……リットちゃんのおうちを探さないとな。
あの子、病気のお母さんのために一人で森に来たんだぜ?
ほっとけるわけないじゃんか。
薬の材料は手に入ったようだったけど……なんか嫌な予感がするんだよなあ。




