第8話 マモ爺を呼べ!
「あの毛皮の下に肉が……」
「いっぱい積まれてるぞ、ありゃ……」
「肉……肉う……」
集落の中央に案内された俺は、多くの人々に取り囲まれていた。
人気者だねって? ちげぇよ……みんな口々に肉、肉と囁いてんだよ……。
なんかもう、因習村系ホラーみてえな空気で嫌になっちまうよ。
ほら、みてみろよ。みんなさあ、目が血走ってるんだぜ? なに? 肉ウイルスか何かに感染してるの? うっわやっべえ、バイオハザード起きてんじゃん!
因習村よりやべえじゃん! 祠壊してる場合じゃねえわ!
まあ、冗談はさておきだ。
思ったよりだいぶクレイジーな方々だったが、しっかりと野菜との交換はしたいよね。
わざわざここまで苦労してやってきたんだぜ?
手ぶらで帰るってのはゴメンだわ。
しかし、このままだとどう考えてもまともに交渉なんてできねえよな。
完全に場が混乱しちまってて、どうにもならなくなってるもの……。
こういう時は……やっぱ、だれか代表の人を呼んでもらったほうが早いよな?
ただ集まって暮らしてるだけで、自治体みたいな概念はないってパンちゃんは言ってたけど、思ったよりマシそうだし、長老的な代表者くらいはいそうな気がするわ。
「あの、誰かここの代表者の方とかいらっしゃいませんか?」
尋ねると辺りがザワザワする。
言い方が悪かったんかな……あ、もしかして「代表者」って概念がないのかも知れん。
やっぱ通じてないくせえな……下方修正しとこ……ええと……なんて言えばいいんだ。
「その……なんだ、ああ、そうだ、一番偉い方って誰ですか?」
「偉い……じゃあマモ爺かな…」
「マモ爺は偉そうだから、そうだな!」
「偉そうな奴ならマモ爺だな!」
「そうだマモ爺を呼べ!」
「肉がマモ爺を呼んでるぞー! 連れてこーい!」
どうやらマモ爺とかいう偉そうな人がいるらしい……偉そうじゃなくて偉い人なんだけど……まあ……偉いの概念があってよかったわ……。
血走った目で俺を取り囲む住人たちが増えていく。
おっさんだけではなく、お姉さんたちもいるのだが……目がギラギラしてるから嬉しくも何ともねえ。
周囲の視線におびえていると、ヨボヨボとした老人が男に手を引かれてやってきた。
なるほど……仙人みたいに長いひげを生やしてて、確かに偉そうな顔してるな……。
「わしがマモ爺ですが……何かご用ですかな?」
自分でマモ爺っていっちゃうんだ……。
「ええと、肉がですね、やたらと沢山あるんですが……」
「ほほう! 肉ですか! 肉ね! あーー肉か! うん! いいね! 肉! 肉なー!」
ヨボヨボなのに肉と聞いたらこれだもんな。
今にも死にそうな感じだったのに、めっちゃ元気になってんじゃん。
やっぱパンちゃんって肉の女神なんじゃねえの? 肉の加護めっちゃ受けてるとかそういうアレなんじゃねえの、こいつら。
「はい。肉です」
「あなたが肉でしたか」
「そういう意味じゃねえよ! 肉と野菜を交換して欲しくて来たの!」
「野菜ならたくさんありますので良いでしょう……ところで、なんの肉をどれくらい出していただけるのでしょうか? 我々は肉にはちょいとうるさいですぞ?」
肉にうるさいと来たか。
まあ、あれだけ肉肉言ってるくらいだ、さぞ目が肥えてるんでしょうね。
そういや、狩人がどうのってリットちゃんが言ってたな。
狩猟と野菜の集落か、そりゃ肉にはうるさそうだ。
ちょっと不安になってきたが……ヒッグホッグがだめでもラウベーラがある。
ラウベーラは倒せなかったんだろ? その肉なら、交換品として満足してもらえるはずだ。
「あの荷車に積んでありますので、まずは見ていただければ」
と、言った瞬間……ババっとすげえ速さで荷車の方を向いた。
びっくりした、びっくりしたぁ! 因習村のジジイみてえだったあ!
つーか『荷車』って言葉が通じたな……そうか、荷車は存在してるのか……いや、リットちゃんも「これなあに」って言わなかったし、おっさん達も「なんだこれ!」って言わなかったもんな……。
だいぶ俺はこの世界をなめすぎていたようだ。
彼らの文化レベルを少し上方修正しておいてやろう。
「肉だ……」
「マモ爺と肉に向かっているぞ……」
「囲め……囲んで逃がすな……」
怖っ! ちょっとでも変な動きをしたら飛びかかってきそうなんですけど!
周囲を刺激しないよう、ゆっくりと荷車に歩み寄り……かけていた毛皮をばっと大げさに外し、山のように積まれたブロック肉たちを見せてやった。
わっ と大きな歓声が上がった。
「おおお…… これは……? ロップでも狩ってきたと思いきや……ずいぶんと食いでがありそうな肉……いや、大きな獲物を狩ったようですな!」
「すげえでっかい肉だ……」
「あの肉でけえな……ミーンなら畑一枚分必要だよな……」
「ミーンならいいよ……うちはジャモだぞ……畑が全部なくなっちまうよ……」
心配そうに言うマモ爺に、集落の人たちが同意するようにうつむいている。
なんかすげえこと言ってるな……肉のレートヤバ過ぎね? シャークトレードしにきたわけじゃねえんすよ?
あーもう、また場が混乱してきたぞ。ええい、落ち着け、落ち着けー!
「詳しくは後で話しますが、畑ひとつ分寄越せとかは言わないので安心してください」
「正気ですかな!? わしならこの肉ひとつでなんでもしちゃいますぞ!」
「正気じゃねえのはマモ爺なんよ……野菜以外に欲しいのもあるし、それに、これで終わりじゃないですから」
「終わりじゃない?」
「ええ、これからも仲良くしたいんですよ。だから、野菜でもなんでも、量が少なくたって必ずこの肉をひとつ渡します」
「おお……」
「ザルひとつのジャモでも、その肉貰えんのか?」
「ジャモは知らんけど、あげますよ!」
「うおおおお! さっそく用意しねえと!」
「こうしちゃいられねえ! 俺も行くわ!」
「今日は……このとおり、みんな忙しい。交換は明日でいいですかいの?」
「俺もそう思ってました。それと……相談したいこともありますし」
「ふむ……ならば、続きはわしの家でしましょうか。ここは少し騒がしいですしの」
そうだな……こんな肉、肉うるせえ広場じゃ打ち合わせなんて無理だわ。
……ていうかさ、一番うるせえの、マモ爺だからな。




