第7話 肉、それは
さて……この子の家族が心配しているだろうし、そろそろ集落に向かわねえとな。
「俺たちさ、肉と野菜を交換してもらおうと思ってここまで来たんだよ。良かったら大人たちがいるとこまで案内してくれないかな? 薬を作る材料もあるし、どう?」
「薬と……お肉!? すごいすごい! みせて! お肉みせて!」
みせてと言われて荷車を収納していたのを思い出した。
「ちょ、ちょっとまっててね」
と、少し離れたところに行き、ストレージから荷車を出して、さも元から積んでありましたよと言わんばかりに肉やキノコ、角などを雑に出し、上からヒッグホッグの毛皮をかけた。
「クロベエ、ちょっときて」
クロベエに荷車を引かせ、女の子のところまで運んで中を見せると……。
「わあぁ! すごいすごい! 大きい肉だ! すごいすごい! さっき食べたのよりずっと大きいお肉だ!」
と、すごいを連呼してぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。
「ほら、この角は薬の材料になるんだって」
「……そうなんだ。わ、こっちのお肉もすごいすごい! すっごくおっきいお肉だね! すごいすごい! すごいお肉だー!」
なんかもう『肉! 凄い!』ばっかだな。つか、薬の反応が塩すぎねえ? お母さんのお薬になるかもしれんのよ?
つか、異常なほど肉に固執してねえ?
もしかして、パンちゃん……肉が好きだからって……住人たちに変な特性つけたんじゃ……。
ポコン!
『そ、そんなことはないからね!?』
ほんとかな……俺は訝しんだ。
◇◆
女の子をクロベエの背に乗せ、ゆっくりと集落を目指す。
「あたしね、リットっていうの」
「リットちゃんか。改めてよろしくね、リットちゃん」
「よろしくなー リットー」
あれだけ怖がっていたのに、もうすっかりクロベエに慣れ、モフモフの背中を満喫している。
「うふふ、クロベエちゃんふわふわだねえ」
やはりモフモフか? モフモフこそが異世界を制すのか?
クロベエをモフるリットちゃんに癒やされていると、あっという間に森を抜けた。どうやら泉は、集落側からみれば浅いところにあったようだ。
眩いばかりの日差しと青空、そして高く立ち上る煙が見えた。
おお、文明じゃ、文明の狼煙が見えるぞい!
思ったよりかはだいぶ近かったけど……ここまで地味に遠かったなあ……。
それから、草原を三十分程歩いたところで、集落を囲む木製の壁が見えてきた。
おお、ちゃんと丸太で防壁っぽいの作ってんじゃん。またしても住民の評価が上方修正されたわ。
簡単な作りの門の前には見張り番らしい男が立っていて、ああ、ナーロッパの開拓村っぽい光景だわと、なんだかとってもウキウキとしてしまった。
「おーい、帰ったよー」
「おー……ってうわああっ!? 大変だあああ!!!」
リットちゃんが挨拶をすると、見張りの兄ちゃんはにこやかに手を……いや、悲鳴を上げて集落に向かって走り去ってしまった。
あれれ、ぼくなにかやっちゃいました?
……いや心当たりありまくりなんだけどな。
流石にこのまま入るのは……だめだよな。
どうせすぐ戻ってくるだろうし、このままここで待つとしよう。
しばしの間、リットちゃんと一緒にクロベエをモフっていると、ザッザカザッザカと駆け寄る音が聞こえてきた。
どうやら戻ってきたようだな。
先程の男を先頭に、弓で武装した男たちがずらりと現れた。
うーん、あまりにも予想通りの展開すぎて笑っちまうぜ。
「リ、リット! そ、そそその、お前が乗っている魔獣はなんだ!」
「クロベエちゃんですよー ムートさーん。この子ふわふわなんだよー 賢くて優しい魔獣さんなんだよー」
リットちゃんがクロベエをモフりつつ顔だけ向けて言うと、男たちがびっくりした顔でざわめいている。
「キンタを呼んできた方がよくないか?」
「いや、あいつは今収穫で忙しい……それにリットを乗せているくらいだし……大丈夫じゃないか?」
「だが、見たことない魔獣だぞ? それに、すごく大きい……」
「おれー? クロベエだよー 猫の魔獣? だよー ふわふわで怖くないよー!」
クロベエが自己紹介をすると、ますますざわめきが大きくなった。
「うわあ! なんだあの魔獣! 喋ったぞ!」
「ふわふわか……悪くないな……」
「でもデカいぞ……」
「けどよ、喋れるってことは、大丈夫じゃないか?」
「あの腹……気持ちよさそう……だな」
おや、なんだかあっさり雰囲気が和らいできたな。
いくらなんでもクロベエを受け入れるのが早すぎる……こいつら、さてはめちゃくちゃちょれーな?
よっしゃ、この流れ逃すわけにはいかねえ! 俺もぬるっと受け入れてもらうぞ!
「おれユウだよー お肉をもってきたよー」
「なんだあいつ! 居たのか!?」
「おかしいな……こいつ、喋るぞ!?」
「そりゃ喋るよ!? 泣いちゃうぞこのやろう!」
なんだよこいつら! しっつれいだな!
「おい! 待て! 今あいつ肉っていったぞ!」
「肉だ!」
「肉?」
「マジかよ……肉?」
「肉を持ってきた……だと!?」
「うおおおお! 肉!」
「にーく! にーく! にーく!」
え……なにこいつら……肉って言葉を聞いた途端に盛り上がり始めたんだけど……。
リットちゃんの反応といい……これは。
ねえ、パンちゃんさん……やっぱり、肉関係のバグとか――
ポコン!
『わたしはかんけいないわよ!』
怪しいな……。
肉が効いたのか、リットちゃんの言葉が通じたのか……いや、肉だろうな。
とにかく、男たちの緊張は完全に無くなり……なぜか取り囲まれたままではあるけれど、集落の中に入れてもらえることになった。
……これさ、肉を逃さないように取り囲んでるんだろうな。
だって、リットちゃんが『ここにお肉がたくさんあるの!』って荷車を指さした瞬間、素早く俺を取り囲んだんだぜ?
やはり肉、肉が全てを解決してしまうのか……。




