第6話 モフモフだよお
怯えられていたのは俺ではなく、クロベエだった……。
申し訳ないが、すげえほっとした! 良かった、俺は少女にビビられるやべえおっさんじゃなかったんや……!
っと……このままじゃクロベエが可哀想だ。ちゃんと誤解を解いてやらねえとな。
「驚かせちゃったみたいで、ごめんね。こいつは悪い魔獣じゃないよ。俺はユウで、こっちが……」
「おれはクロベエだよ 猫の魔獣? なんだって」
「……クロ……ベエ……?」
「そう おれ クロベエ! よろしくね!」
女の子は、自己紹介をするクロベエをびっくりした顔でみつめている。
まあそうだよな……ふつう、こんなデケえ猫さんがおしゃべりしたらびっくりするって。
あれ……クロベエって……いや、それは後だ。とりあえず今はこの子を落ち着かせないと!
「ほらほら、フワフワだよお。少しくさいけど優しい生き物だよー。噛まないよー乗れるよー」
噛まないから撫でても平気だよーってセリフはよく聞くし、そら飼い主さんはそう思うやろけどさあ……なんて、よく思うけどさ、今のクロベエに関しちゃマジで平気なんよな。
なにせ、今はこいつの言葉がわかるっていうか……なんか喋れるみたいだからな。
「ほら、クロベエ、ごろんしな」
クロベエを横たわらせ、ばふっとフワフワの毛に埋もれながらアピールを続ける。
「ほらー気持ちいいよー……やっぱ少しくさいけどー」
「ゆう それ何度も言うと さすがのおれも傷つくぞ……」
「じゃあ水浴びしてくれよ……」
「水は…… ぬれるからな…… でもかんがえておく……」
「考えるだけでやめるからくっさいんだろうがよ!」
気づけば、女の子がくすくすと笑って見ていた。
「クロベエちゃんはおしゃべりが上手だね。お兄ちゃんと仲良しさんみたいだし、助けてくれたの信じるよ!」
安心したのかな? たどたどしかった口調がしっかりとしてきたぞ。
……おや? 何かをじっと見ている……ああ、いつの間にかしれっと天に帰ったパンちゃんが残した肉か。
もしかすると、お腹が空いてるのかもしれないな。
とりあえず食べやすいスープでも出してみよう。よいせっと……
……俺がスマホから鍋を出すのを見て不思議そうな顔をしている……。
あーやべえ、いつもの癖でナチュラルにやっちまった……まあ相手はちっちゃい子だしな。
なんか言われてもどうにか誤魔化せるだろう……。
「はいよ、少し熱いから気をつけて食べてね」
スープを差し出すと、疑うこともなく素直に口にしてくれた。ちょっとうれしい。
「わあ、なにこれ……おいし……!」
おいしい、おいしいとスープを飲む女の子……なんだか、目が、視線がちらちらと肉に向かっている。
そんなにお腹が空いてるのか……まあ、それくらい食えるなら肉も平気かな。
「はい、よかったらこれもどうぞ」
「やったあ! お肉だ! ありがとう、お兄ちゃん!」
よほどお腹が空いていたのだろうな。
肉を出してあげると、ハグハグと食い進め、あっというまに塊一個を食べきっちゃったよ。
スープを飲み、肉を齧って、水を飲み。たくさん食べて元気が出たのか、食事を終える頃には、穏やかな顔で笑うようになった。
どうやら落ち着いたみたいだし、どうしてあんなことになっていたのか事情を聞いてみよう。
「ところでさ、どうしてこんな森の中にひとりでいたんだい?」
そうたずねると、女の子は急に何かを思い出した顔をして話しはじめた。
「お母さんがね、病気になったの……だからね、薬草と……泉の水が欲しくて森まで来たの」
「ひとりで……? 誰か大人の人はついてこなかったの?」
女の子はきょとんとした顔で言う。
「どうして? お母さんのことだもん、私がやらなきゃ」
おお……なんと立派なお子様じゃ……。
「それに……この森は危ないからって、今は誰も近づかないよ」
「危ない?」
「強い魔獣が出るんだって。狩りができる人たちがやっつけに行ったんだけど……だめだったんだって」
そんな怖い魔獣がいる森に俺たちは居るのか……。
つか、バグってNPCみたいになってるって聞いてたけど、そこまで悪くないんじゃねえかこれ。
親が病気になった、それを解消したいから森に来た。
森にやべえのがいるから、やっつけにいった。
これって、どうみても現状をどうにかしようと足掻いているじゃん。もしかすると、謎にバグが治りつつあるんじゃないかこれ。
……つーか、そんな状態の森に一人で来るとは、この子なかなかにガッツがあるな。
将来大物になるかもしんねえな……。
ポコン!
『さっきあんたが変なのでやっつけたやつが、強い魔獣の正体よ』
変なの……? 一体何の話をしてるんだ?
ポヒュ!
『なにいってんすか、パンちゃん(困惑するネコのスタンプ)』
ポコン!
『ほら、ラウベーラよ、クマよクマ。本来ならこの森には居ないはずなんだけど、別の個体との争いに負けて元の生息地から逃げて来たんじゃないかな?』
ポヒュ!
『ああ、あれか。変なのってなんだよ! ありゃスマホランスって言ってなあ』
ポコン!
『……なるほど、あの棒、先端にスマホをつけてたのね! だからあんな威力に……ほんとやめなさいよね、スマホを変な使い方するの!』
しまった、せっかくバームクーヘンだって誤魔化したのにバレちまった。
ポコン!
『まあ……それがなかったら、倒せなかったろうから、今回は許すけどね』
許された!
「お兄ちゃん、ピカピカ光るそれはなあに?」
「うん? あっ……ああ、これはね、魔獣に当ててお肉を取る道具だよ」
「え、すごい! 私にも使えるかな?」
「う、うーん……これは俺しか使えない特別な道具だからな、無理かなあ」
「そっかあ……」
あっぶねえ……まさかスマホに興味を示すとは。これからはちょっと気をつけて使わねえとな。
しかし、よそから追いやられたクマさんか。まったく迷惑な話だね。
ここの森って結構穏やかな感じだったし、そんなんが急に現れたら……そら、誰も来なくなるわ。
ま、俺が退治しちゃったから、もう安心だけどな!
大人たちにその事を伝えれば、また安心してこの森に来られるようになることだろうさ。
討伐の証拠はストレージに入れてあるから、それを見せながら討伐報告でもすりゃ信じてくれるだろ。




