第5話 森での出会い
木々の間から差し込む木漏れ日……いいですよね、森の中のランチタイム。
小鳥たちは楽しげに鳴き、深く深呼吸をすると森の香りが……しねえ。
俺に届くのは、焼けた肉の香りだけだよ、ちくしょうめ!
「おらっ! たんと食え! まだまだあるぞ!」
「わあい! 肉! 肉! がるる!」
「わあい! ゆうありがとー」
現実は悲しいものだぜ。
ぜんぜん満足しやがらねえ連中のために、追加で肉を出してんの。
昨夜たくさん焼いといて良かったわ。
つか、パンちゃんさあ……クロベエより野性味を感じるのはどうなんよ。
がるるって言ったのパンちゃんなんだぜ……。
「……!」
「どうしたクロベエ?」
クロベエが食べるのを止め、すくっと、突然立ち上がった。
遠くをじっと睨みつけ、耳をピクピクとさせている。
「ゆう あっちになにかいる……」
ふこふこと口元を動かし警戒している。
これは……よくない反応だな。
女神ならなにか感じているのではと、パンちゃんを見ると……肉汁まみれの顔で、ニコニコと嬉しそうに微笑みながら大きな塊肉とやりあっていた。
……こいつはもうだめだ、ここに置いていこう。
「クロベエ、様子を見に行くぞ」
「うん……!」
クロベエを先頭に、慎重に歩いていく。音を立てないよう、ゆっくりとゆっくりと歩いていると――
「こっちくるなー! こないでー!」
――必死になにかに抗う、幼い声が耳に飛び込んだ。
「クロベエ!!」
「うん! たすけなきゃ!」
クロベエに飛び乗り、声が聞こえる方に急ぐ。
藪を飛び越え、枝を払って潜り抜け。
走って走って……まだまだ声の主までたどり着かない。
時折ミシミシという何かが倒れる音や、獣の咆哮、そして幼い悲鳴が聞こえてくる。
頼む間に合え! 間に合ってくれよ!
「きゃっ」
「ガロロロロロァ!!!」
声が近い! もうすぐだ……って、くそっ!
声が聞こえるのは、十五メートル程の急な斜面の下。
どう見てもここを下りるのは危険だし、普通に考えれば迂回をすべきだろうな。
けど、そうしている間にも状況は悪い方へと進んでいくだろ?
そんな暇はねえ……つうか、俺達って、だいぶ普通からかけ離れちまってんのよね!
「クロベエ、いけるよなあ!」
「まかせろー! にゅああおおおおおおお!!!」
勇ましい声を上げながら軽やかに斜面を駆け下りるクロベエ。
ヒャッホー! お前マジで最高だぜ!
一気に下まで駆け下り、その勢いのまま大きな茂みを抜けると、窪地にへたり込んで震えている女の子の姿が見えた。
女の子を追い詰めて遊んでいたのだろうか、周囲の木々が無駄になぎ倒されている。
そして、そのすぐ近くにクマのような大きな魔獣が立っていた。
魔獣は少女に向かって爪を振り上げていた……が、突然現れた俺達を見て、驚き固まっているようだ。
よっしゃあ、間に合ったあ!
「このままつっこめええええ!」
「にゃおろおおおおん!!」
クロベエが地を蹴り、魔獣に向かって突き進む。
魔獣は慌てて迎撃体制に入るが――
「遅いぜ」
キィン……
――魔獣は、誰に何をされたのか、ひとつも理解できないまま頭を貫かれ絶命した。
……スマホ槍で。
ズシンと倒れ、地面に嫌なシミを作り始めたクマはとりあえず置いといて……まずは女の子の様子を見に行こう。
「お嬢ちゃん、大丈夫か」
「ヒィ……」
……きゅう……ぱたり。
え……? この子……俺を見て気絶したんですけど……?
つよつよ冒険者のおじさんみたいにやったつもりだったけど……だめだった? ヒィって言われちゃったよ、ヒィって……。
「うぅ……クロベエ……ちょっとこの子みててくれ……俺は解体してくる……」
「うん、まかせて」
ショックを受けたので、クロベエに少女をまかせてクマの解体をすることにした。
まあ、アプリでやるから秒で終わってしまうけどな……。
……あ、そうだ、解体する前に図鑑に入れないとな……パシャリ。
=====
魔獣:ラウベーラ 可食 体長:3m~8m
マナを帯びた体毛は矢が通らない……そう、まさに狩人泣かせの魔獣だ。
恐れを知らない傲慢な巨体からは、巨木をも貫く強烈なパンチが繰り出されるぞ。
万が一……こいつと出逢ってしまったら……その時は神に祈るといい。
助かるためじゃない、無事天国に行けるようにだ!
肉はやや臭みがあるが、筆者はマトンみたいで美味いと思っています!
ああ、そうそう熊の胆ってあるじゃん?
こいつも似たようなノリで胆がお薬になりますよ。
素材:毛皮 魔石 肉 胆
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なんだこの説明文……まあ、相手はパンちゃんだからな……深く考えたら負けや。
図鑑に登録したので、さっくりと解体してしまう。
入手できた素材は、肉と毛皮、大きめの魔石に……なんだこのレバーみたいのグロっ……ああ、熊の胆か……。
熊の胆か……どうすっかな……うーん、干して使うんだっけ? なんかの素材になるかもだし、とりあえずストレージの肥やしにしとこう。
……さて。
女の子はまだ目覚める様子がないと。
「とりあえず、水場まで戻るか……」
女の子をお姫様抱っこして泉に連れ帰り、毛皮の寝袋を取り出して上に横たわらせた。
幸いなことに怪我をしている様子はなく、すぅすぅと穏やかな寝息をたてている。
ウェーブがかかった栗色の髪を後ろでまとめた、可愛らしい少女は体格的に七歳前後に見える。
服装はチュニックっていうのかな、ザ・村の子って感じの服を着ていて、ぱっと見た感じだと、とても健康そうだ。
食うに困ってる様子もないし、安定した生活はできてるんだろうな。
ギリギリ中世、むしろ縄文時代レベルに毛が生えた程度の集落だというから、どんなものかと思っていたけれど、この子を見る限りでは、そこまで酷いものではないかもしれん。
「……もしもし? ポリスマン? はい、そうです、不審者です! ええ、子供に! ええ、いまから!? はい!」
……真面目に考察してるっていうのに……この女神ときたらなにやってんだよ。
っつうか、それじゃまるで俺がガチでヤベえ奴みてえじゃねえか!
「こら! 誤解を招くようなこと言うんじゃねえ!」
「いま警察が来ますからね! 逃げても無駄なんだから!」
「……よーしわかった。次からはクロベエと俺の肉だけ焼くわ……」
「ジョーク! ファンタジージョークですやん!」
肉抜きを宣言した途端、涙目ですがってくる。
ほんとパンちゃんはさあ……マジで脳が肉にやられてんじゃねえの?
「肉だけは……肉だけはお許しを……」
「ええい! うるさい! 口を開けば肉、肉、肉と、お前はお肉星のお肉姫か!」
「な、なによお肉姫って! あはははは!」
「肉の星とか嫌すぎるよな」
「流石のあたしでもそれは嫌だわ」
「「あははははは」」
女神と二人ゲラゲラ笑っていると、それがうるさかったのか女の子が目を覚ました。
「うん……?」
「目が覚めたようだね、痛むところはないかい?」
今度こそ、旅するイケメン冒険者みたいにできたぞ。
何事もなかったかのようにしれっとやるのがコツね。
「ヒッ…」
小さく悲鳴を上げ、後ずさりをする女の子。
あれ……また怯えられてる? え、俺ってそんな厳つい顔してたっけ?
「大丈夫だよ、あの怖い魔獣は俺が倒したからな」
「ま、まだいるもん……ほら、そこに……いるもん! まじゅうが……いまにもわたしを食べようとしているよ……」
俺の後ろを指さしてそんな事をおっしゃる女の子。
後ろ……?
あっ……。
そこには、とても悲しそうな顔をしたクロベエがしょんぼりと立っていた……。




