第3話 ガラガラゴトゴト荷車は行く
ガラガラ ゴトゴト ガラガラ ゴトゴト
魔獣が一頭、荷車を引いて街道を走る。
って、この世界に街道なんて気の利いたもんはなかったわ……。
はい、おはようございまーす。
今朝は四時に目が覚めちまったので、五時っつうクソ早い時間に旅立ちをキメたユウでーす。
せっかくだからと、クロベエに荷車をつけましてね、それに乗って引いてもらったんです。
いやあ、わりと楽しかったですよ。
乗って走り出した瞬間、パンちゃんから『やっぱあんたが乗るんじゃないの!』ってつっこみのメッセが来たけど、しゃあないやん。こんなん乗ってみたくなるって。
でさあ、ファンタジーものの定番ネタでさ、クソほど馬車が揺れてケツが割れるってのがあるじゃん。
いやあ、話半分に読んでたけどマジだね。
楽しかったのは、走り出して二分くらいまで。そっから先は地獄だったわ。
街道なんてねえからさ、ぼっこぼこの草原を走るわけじゃん。
もうね、ガッタンゴットンガッタンゴットンよ。ケツが割れるってレベルじゃねえ、全身が割れちまうわ。
車輪がぶっ壊れる前に、俺のケツが破壊しつくされちまうよ。
だもんで、早々にギブアップしましてね、こうしてクロベエと一緒にまったり歩いてるわけなんですよ……いい加減うるせえし壊れそうだから荷車しまっとくか……はい、収納と。
……はっ! ひらめいた!
集落行ったらさあ、帰らなきゃなんねえじゃん?
帰り道を考えると、今から気が重いけど……もしも、ちゃんとした街道があったらどうよ?
クロベエ車に乗って、優雅に素早く帰れるわけじゃん?
また次に集落に行くときだって、ケツの心配しなくてよくなるわけじゃーん?
「クロベエ、ちょっと背中に乗せてくれ」
「疲れちゃったのー?」
「いいや違う。こうするんだ」
クロベエにまたがり、前方にスマホをかざす。
立ち上がっている【開拓】を……両手離すのはこええから、思念操作で……おお、いけるな。こうしてこうだ!
いいねえ。目の前の草原が、ズモモっと街道に変わったわ。
「おお すごいなユウ」
「そうだろそうだろ。俺が道を作っからさ、そのとおり歩いてくれ」
「りょうかーい」
砕石舗装までする余裕は無いから、雨降ったらぐちゃぐちゃになるだろうけど、ボッコボコの大草原よりだいぶマシになったな。
いやあ、最高だぜ! もっと早く気づくべきだったわ。
……
…
あれからどんくらい経ったんだろう……。
家を出たのは何年前じゃろうかってくらい、めちゃくちゃ進んだはずなのに、未だ代わり映えのしない景色が続いていて嫌になっちまう。
スマホを取り出し、時計を見れば午前十一時だった。
出発からかれこれ六時間か……なのに視界に映るのはどこまでも広がる大草原だけ。
そらさ、最初は楽しかったよ。こんな広い草原、日本じゃ見られないねーなんてさ、クロベエと話したりさあ、パンクとか好きそうなトカゲ見っけてキャッキャとはしゃいだりさあ……。
でも、二時間、三時間と続いたらさあ……嫌になっちゃうよねえ。
野営を挟まないと集落に着けないってのは聞いてはいるけど、せめて、あとどれくらいで着くのかくらいはわからないと心が折れちまうよ。
つーわけで、この辺りの地理に詳しい者を呼ぶ呪文を唱えよう。
「やっべ、なにこれ! このジューシーな肉ときたら!」
「ジューシーなお肉! あれ? どこどこ?」
マジで来てくさはえる。ちょっとこいつのこと心配になってきたわ。
「ねえ、移動飽きてきたんだけど、集落までどんくらいなん?」
「お肉は? お肉!」
「……後であげるから!」
「絶対だからね?……ほら、向こうに森が見えるでしょ? あそこを越えた先にあるわ」
森……?
もしかして、なだらかな丘をずーーーーーーっと下った先、ものすげー遠くにうっすらと見えるモヤモヤっとした黒っぽいなにかのことだろうか……?
いやー、遠いっすわ。そら野営道具無いと詰みますわ。
はあ……つうか、まだまだこの景色が続くってことか。
パンちゃんが言う森まで……ざっくり三~四時間くらい? それまでずっとこの景色かあ。
……。
「あーーーー!!!!! 帰りてえ! 拠点に帰ってクラフトしてえ!」
「はらっぱは もう いやだー!」
草原に一人と一匹の声がむなしく響いていく。
「お肉はーーーーーー!!!!?」
この女神はこればっかだな!?
そんなこんなで……特に盛り上がるイベントなんて発生することも無く。
長い草原地帯を抜け、森の入り口に着いたのは予想を大幅にオーバーして、日が暮れ始めた……十九時を過ぎたころだった。
もう今日は一歩も歩きたくねーし、何より腹がすげー減ってたので、森から少し離れた地点にテントを張ってそこをキャンプ地とした。
クッソ疲れたわ!
「おら! することねえし、肉祭りじゃ! 焼きまくるから、召し上がりまくるがいい!」
「わあい! ゆう ありがとう!」
「わあい! ユウ、いっぱいたべるわね!」
ストックはマジでアホほどあるからな、こうしてガンガン食っても、集落との交換には全然響かねえのよ。
焼いて焼いて、食わせて焼いて、たまに俺も食べて、また焼いて……。
顔中脂まみれにしたパンちゃんが天に帰ったのを見送ると、一気に疲れが飛び出してきたぜ……。
もうだめだ……と、寝袋に潜り込んだ瞬間どっぷりと眠りの海に飲み込まれ……。
……おやすみ……なさ……ぐぅ……。




