第1話 交換のために
明日、いよいよ集落に向かう。
パンちゃんが――
『お野菜には困らない土地だから、お肉を見せたら喜んで交換してくれると思うわよ。お肉を嫌いな人なんていないもの』
なんて、ホントなのかウソなのかわかりにくい情報をくれたので、交換自体は問題なくできると思う。
問題は、どれだけの量を用意すればいいのか、まったくわからんところだな。
集落の人口が二十人程度なら十分だろうけど、五十人、いや百人を超える人数がいるかもしれない。
自治体の概念がないっつうだけで、人口が少ないとは一言も言われてないからな……。
今回がはじめての取引だし、今後を考えれば、住人全員にニッコニコしてもらいたい。
それに、どうせ渡すなら、ケチケチせずにたっぷりと渡してやりてえよな。
……やっぱ、今ある在庫じゃ足らねえかもしれん。
「クロベエー、クロベエやーい」
「よんだ?」
おお、今日はまだ居てくれたぞ。
「お前最近よく出かけるよねー」
「森がね たのしくってさ」
「お、いいよな森! なあ、今日は俺と一緒に行かねえか? 集落に持ってく肉を狩るんだ!」
「いいねいいね! いこういこう!」
というわけで、もうひと頑張り。クロベエを引き連れて追加の仕入れに行ってきまーす!
◇◆
いやあ……狩った狩った! 狩りに狩って狩りまくったぜ!
はい、というわけでお昼になりましたので、さっさと帰宅してまいりました!
リザルトはヒッグホッグが四頭、ウルッグが十二頭と、なかなかの量になりました。
賢明な皆様は『なんでウルッグそんなに狩ってるの? 今更そいつの魔石要る?』って思ったんじゃないっすかね。
俺もさ、もうウルッグくんはそっとしておいてもいいよな……って思ってたんだよ。ランプ用の魔石も十分ストックされてるしね。
ところがだ。
森で遭遇した時にさあ、ああそういえばこいつ、図鑑登録してねえわって、ゲーマーの血が騒いだんだよ。
そんで、スマホを向けてパシャリとやって出てきたのがこれよ。
=====
魔獣:ウルッグ 一応可食 体長1.5m~2.5m程度
こいつめっちゃ美味しくないから、できれば食べないほうがいいわよ……。
……こほん。毛皮は衣類の素材として好まれ、角も薬の材料として重宝されている。
素材:毛皮 魔石 肉 角
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……毛皮と……角だと? ってなるわけじゃん。
ああ、そういやアプリで解体できるようになってから、こいつ狩ってなかったなって気づいたわけじゃん。
それで、ウルッグをアプリで解体したら、お肉の他にフワフワの毛皮と、立派な角がコロンって残ったわけじゃん……。
めっちゃ立派な素材がとれるやんけ!
もうね、びっくりして空に向かって怒っちゃったよね。
『おいこら! こいつそこそこ有益な素材がとれるじゃんかよ! 魔石取ってぽいとか、勿体ないことさせやがって!』
で、ポコンとメッセがきたわけですよ。
『あ、あの時はその、あ、ほら! アプリなしで皮を剥げますか? 角を外せますか? むりでしょ!? そうよ、状況が変わったのよ! 取れるようになってから知った、それでいいじゃない!』
もうね、勢いだけで誤魔化そうとしてんのがバレバレやんけ。
必死すぎて笑っちゃったから許してやったわ。
ウルッグのお肉? ああ、それなあ。
まあ、せっかく素材化したんだし、いつか罠や釣りの餌に使ったりしようかなって思ったんだけど、なんかクロベエもたまに喰いたいとかいうんよな。
なんでも、まずすぎて逆に癖になるらしい……まあ、わからんでもないが……。
ウルッグ肉はまあ……いいとして、ヒッグホッグ肉も四頭分となると、なかなかエグくてなあ。
百人どころか、二百人くらいに配っても余りそうだわ。
ま、まあ……これだけあれば、きっと住人みんなに満足してもらえんじゃないかな。
あとは……あれを作ったら準備はおしまいかな。
◆◇
「え……なんでわざわざそんなものを作ったのよ?」
パンちゃんが俺の秘密兵器を見て呆れた顔をする。
「それを言うためにわざわざ降臨したん? なんでって……物を運ぶためにきまってんじゃんか」
パンちゃんがアホ面で見ているのは荷車だ。
「ばかにしないでよ、そんくらいわかるわよ! ストレージがあるのに、なんでって……あ、わかった! クロベエちゃんに引かせてあんたが乗るつもりね!」
うっわ、なんなんこのドヤ顔! すっげえいい顔で言い切ったぞ。
絶対そうよ! ってニヤついてるけど……ちげえんだよなあ!
「ばかだなー! ほんとばかだなー! 乗るって発想がまた……お! ば! か! だ! な!」
「はあ? ばかじゃないですけど!? はあ?」
「ストレージってさあ……一般的に使えるものなん?」
「んなわけないでしょ……マナの使い方だってろくに理解できてないのに、時空間魔術なんて使える子なんて誰ひとりいないわよ」
こいつ……アホの子を見るような顔で俺を見やがって! 見てろ、すぐにそんな顔できなくしてやるからな!
「そんな世界でさ、スマホから次々と肉を取り出したらどうなると思う?」
「多分気持ち悪がられるか、拝まれるか、刺されるか……あっ」
「だよねー……え? 刺すの……? そんな物騒な感じなの?」
「刺すのは冗談だけど……なるほど、そういうことかあ」
アイタァってポーズでため息をつくパンちゃん。
やられたーじゃないんだよ、だれもやってねえんだよ。パンちゃんがまぬけなだけなんよ。
「それで、荷車をクロベエにつけて偽装しようと考えたわけ」
「なるほどねえ……でもクロベエちゃんを見て驚かれないかしら?」
「そこはまあ……ほうら、おとなしい魔獣ですよお、ヨオシヨオシってやってみせたら……ね?」
「うーん……まあ、単純な子たちだから……いけるかもしれない……」
「それはそれでちょっと不安になってくるな……」
あれ……そういえば、文明終わってるから、荷車なんて存在しないのでは?
『な、なんだその荷物を乗せているものは!』
とか言われたらどうしよう……?
『これは荷車、そしてこの部分を車輪といいます!(キリリッ)』
とかやらないとだめ?
『うおおおお! ものが軽々と運べるぞお!』
とか言われちゃうの?
うわあ……ちょっと気持ちよさそう……。




