第28話 ごはん!
というわけで、料理のお時間です。
フライパンを熱し、ヒッグホッグの脂身を落とすと、ジュワーっといい音が鳴り響き、背後からごくりと唾をのむ音が聞こえた。
はい、パンちゃんですね。いいから座ってなさい!
じっくりと脂身を炒めると、たっぷり脂が広がり、ふわりと甘い香りが立ち上る。
背後からじゅるりと音が聞こえ、背中にずしっと重みが……クロベエ! あぶねえからあっち行ってろ!
まったくもう……。
いやあ、やっぱフライパンがあると違うよねえ。
これまで地面に染みを作るだけだった脂身が、こうして良い香りをたてられるんだぜ?
もうこれ最高かよ。
暴力的な香りを放つ脂に、刻んだジャンニの葉を入れ丁寧に炒めていく。
ああ、脂とガーリック的な香りがあわさって……背後から唸るように鳴る女神の腹の音が聞こえた……。
「あっ……ち、ちがうのよ!」
「なにー? 脂の音で全然聞こえねえ!」
「なんでもないわよー!!! ふう……良かった」
まあしゃあねえよな! この暴力的な香りで腹がならねえほうが嘘だもん!
聞かなかったことにしてやっから、黙って座って待っててくれい!
ったく、油断するとフラフラと様子を見に来やがるから困るぜ……クロベエ、おめえもだ! 次来たらやらねえからな!
脂身とジャンニをフライパンから取り出すと、ジャンニの香りがついた脂――いわゆるガーリックオイルの完成だ。
今度はこいつでヒッグホッグのバラ肉を炒めていく……おほほ、ジャージャーといい音が鳴ってるわい。
いいくらい火が通ったところで、ジャンニの茎を加えてさっと炒める。
ようし、そろそろいいだろう。ここでジャンニの葉を戻して塩、胡椒を振って味を調え……よし、これで一品完成だ!
うし、冷めないうちにストレージに収納と。
「あ……しまっちゃった……」
「冷めないようにしまったんだけど、だめだった?」
「べ、べつに……なんでもないわ……」
さてはこいつ、つまみ食いしようとしたな? しまったのは言った通り、全品出来上がるまでの保温目的だったが、どうやらコソ泥除けにも効果があったようだな。
さあ、続けていくぞ。次の一品はムックルのスープだ!
ありゃ、言ってみればめちゃくちゃデカいキノコじゃん。
だからかしらんが、解体したらちょうどいいくらいのブロックにしてくれてな……キノコのブロックて。
カテゴリ的には一応魔獣らしいから、これもブロック肉っつうのかね? そう考えるとちょっとだけ不気味だな……。
てわけで、ボックスから取り出したムックルのブロック肉を切り出し、さらに一口サイズにスライスしていく。
スライスしたムックルは水から茹でる。なんかこうすると良い出汁が出る……らしい(レシピサイトさんありがとう)
うおお……これもまた、やべえな。
水がお湯になり、湯気をあげ始めると、それにのってキノコの香りがふわりと広がった。
うん、背後からまた腹の音だ。いやあ、正直俺もだいぶ限界だ……どれ、味見を……。
うん、えぐみのない、いいダシがでているぜ。
これ……あんま弄らねえほうがいいよなあ……よし、塩だけでもっかい味見……うっわ、なんなんこのうまみ……もう完成でええやろ……。
さあ、いい加減しんどいが、もう一品だけいくぞ。
最後に作るのはサラダだ。
腹がグウグウうるせえからサクサクやっていきましょう!
まずはリーゼを軽く水で洗い、ザクザクと切り、ボウルに入れておく。
次にシラウだが、こいつは先に軽く湯通しをして……半分に切る。
見た目は……まんま半分に切ったタラの芽だけど、図鑑が言うことが本当なら……。
断面にスプーンを差し込むと……おお、まじでアボカドみたいだ。
くにゃりとした感触がして、ペースト状の中身が現れたぞ。
これ、生のままでも食えるらしいんだが、軽く湯通しすると青臭さが減るんだってさ。
どっからの情報かって? パンちゃんだよ。あいつ、図鑑に書いてねえことを後から言うんだよな。
大事なことなんだから、ちゃんと書いとけって話だよ。
取り出したシラウペーストに塩胡椒を加え、丁寧に練っていく。
うわー、すげえなこれ。ただ匙で練ってるだけなのに、トロットロのドレッシングみたいになってくわ。
指にとってペロリとなめてみたが、なるほど確かにこれはアボカドに近い……が、青臭さが無いせいか、卵黄のようにも感じる……やべえなこれ、日本で栽培したいレベルでうめえ。
そんなシラウペーストを……ドレッシングにしたらどうなるとおもう? シャッキシャキで爽やかなリーゼにかけたらどうなっちまうと思う?
……どれ一口。
やっべえ……飛ぶわこれ。ミームを使いたかったわけじゃねえぞ、マジで飛んじゃううまさだわこれ。
いやあ、制約ありまくりの材料で頑張ってみたけどさ、予想以上に美味い飯ができちゃったよ。
サラダとスープ、そしてメインの肉ジャンニ炒めができたので、今か今かとよだれを垂らしていた腹ペコどもに声をかけた。
「めしだぞーう」
その言葉を言った瞬間、椅子にパンちゃんがいた。
あんた……クロベエの腹をモッフモフとしていたじゃないっすか……ああ、転移したの?
まじかー……飯のためにすることじゃねえだろ……。
「ユウ……おれ げんかいだよお」
「うおおお! 重てえから椅子に座れって!」
クロベエは……転移じゃねえな、普通にジャンプして背中に降り立ったんだ。
その巨体でそれは洒落にならんから……まじでやめてくれよな。
今やライオンにのしかかられている様なもんなんだぜ? 重てえってレベルじゃねえ……。
パンちゃんとクロベエ、そして俺の分を配膳し、席につく。
「では、いただきます!」
「いただきまぁす!」
「いただきー!」
まずは肉野菜炒めをパクり。おお、ニンニクのような風味が効いてうめー。
ジャンニの茎がにんにくの芽のようで歯ごたえが楽しい。
いやあ、やっぱこれだよね。肉単体で食うのとは違って『ちゃんとした料理を食っている』感があって最高だわ。
お次はスープだが……味見をしたから知ってたが、マジでやべえな。シイタケの十倍の旨味だっけ、まじでこれはやばいわ。
出汁とって塩振っただけでこれなんだぜ……鶏の油とか、鰹節とかと合わせたらさあ……世界に平和が訪れちまうんじゃねえかな。
みろよ、パンちゃんとクロベエも夢中になって飲んでるよ。だよなあ、うめえよなあ、これ。
野菜が手に入ったら、鍋でも作るとよさそうだよなあ。
醤油や味噌はまあ……普通に作れないだろうから、パンちゃんに持ってきてもらうとして。いやあ、やべえ鍋ができちゃうだろうな。
クロベエの心配してたけど、日本に帰った俺も飯の味に悩むことになるかもしれねえな。
異世界食材、うますぎるわ。
うまいといえば、サラダもうまくてやばい。
シラウのペーストな、これが思った以上にリーゼと相性がよかったんだよ。
瑞々しく、爽やかな香りのリーゼをさ、濃厚でねっとりとしたシラウペーストが優しく包み込むんだよ……。
シラウってね、かなりこってりしてるわけ。
俺は好きなんだけど、人によってはくどく感じるだろうなあってレベルなんだけどさ、それがリーゼの香りでさっぱりするんだよな。
これがまた、説明が難しいんだけど、たしかに味わい的にはこってりしてんだわ。けど、リーゼのシャキシャキとした歯ざわりと、爽やかな香りで後味がスッキリするんだよな。
こってりとしたものを食ってるのに、スッキリするという不思議体験を味わえちまうんだ。
そんで、スッキリしたところで再び肉ジャンニ炒めをほおばると……うめえ!
けど、やっぱ白米かビールが欲しくなっちまうな……おかずだけでも美味いんだけど、なんかこう物足りねえわ。
「っかー! っめーわ、っぱこれよぉ! あっつあつのお肉にはビールがなくっちゃね!」
まさかなって横を見ると、黄金色をした発泡してるお酒を飲んでいる女神様のお姿が……!
まじかこいつ……
「……パンちゃん、後生だから俺にも一本くれねえか!」
「しょうがないわねえ……まあ、美味しいごはん作ってくれたし、今夜は無礼講よー」
「うおおお! ありがとう、パンちゃん……っかー! うめえ!」
「いけるじゃないの! ほれほれ、もう一杯!」
「へへ、どうもどうも!」
こうして……うまい飯とビールで宴の夜は更けていくのでありました。




