第26話 はじめての製作
……あいつら、五個目の肉を焼き始めたぞ。
まあいい、俺は俺でやることをやろう。
スマホを開くと、クラフトが終わった【製作】が増えて画面がだいぶ賑やかになっていた。
使い方は【建造】と概ね同じ感じのようで、検索画面から作りたいものを探すか、絵を読み込ませることによって、目当てのものを作れる仕様のようだ。
なるほどな、お絵かきはリストにないものを作る他にも、こだわりデザインで作りたい時に使うと。
そうだ、試しにヤカンでも作ってみっかな。見た目にこだわりはないし、今回は『ヤカン』で検索して作ってみよう。
ポチポチっとな。
検索欄に入力をして『検索』をぽちっと押すと、通販ショップの商品ページのような画面が表示された。
実家のような居心地の良さを感じる……探しやすくていいね。
あほほど並ぶヤカンのサムネの中から、無難な物を選んでタップすると『必要素材:金属類』と表示された。
鉄なあ……そう言われても、まだ俺は鉄器文明のアンロックをしてねえ……いやまてよ。あったわ鉄。
家を作る時に、あ、これ鉄っぽく使えるんだーってびっくりした素材があったわ。
うん、蝶番を作るのに使った魔鉄鋼。そう、俺んちのドアさ、蝶番が魔鉄鋼なのwww
ヒッグホッグの図鑑から一部抜粋をするとこうだ。
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その身についた泥は、魔力により性質が変わり、魔鉄鋼となる。
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魔鉄鋼だぜ、魔鉄鋼。いかにも強そうだよね。
これが普通の異世界ノベルならよ、ドワーフの親父の店に持ち込んで『こいつぁ……』とか唸らせたり『おめえさんにぴったりの武器を打たせてくれ』とか言われたりするんだろうが……。
ところがどっこい、蝶番www 我ながら勿体ねえ使い方してるよなあ。
「まあ、今は武器防具より生活用品だ。申し訳ないが、今度はヤカンになっていただく!」
今の俺に必要なのは魔物を斃す剣ではなく、お湯を沸かすヤカンだ。ミスリルだろうがオリハルコンだろうが、今の俺の前に現れちまった金属は等しく、容赦なくヤカンにしてやるからな!
「魔鉄鋼ではじめてつくるのがヤカンて」
「いや、はじめて作ったのはドアの蝶番だが?」
「チョッ……ぷくふぅ!」
パンちゃんが変な声を上げ、動かなくなってしまった……いや、よく見たら痙攣してるな……どうやらくっそツボに入ったらしい。
というわけで、レアなファンタジー素材感が強い魔鉄鋼を容赦なく生け贄にしてヤカンを選択すると……ピカっと光って黒光りするヤカンが現れた。
キッチンが二十秒だもんなあ……ヤカンなんてすぐできちゃうよなあ。
……と、電池の消費は二パーセントか。ヤカン十個で家一軒分と考えるとなかなかエグいが、気軽に魔石を手に入れられる今となっちゃあ屁でもないな。
「まっ魔鉄鋼色のヤカンwwww」
ヤカンを見てパンちゃんがまた動かなくなった。
まったく、人が作ったものを笑いやがってよお。
……俺だってちょっとおもしれーって思ってるから許すわ。
ようし、ヤカンができたことだし、ひとつ実験をしてみよう。
ヤカンができた、ということは、茶葉があればお茶もいれられるわけじゃん。
けどさ、俺には茶になる素材がわからないわけじゃん。歩くwikiに聞けばいいのだが、いつもそれだと面白くないじゃん。
じゃあどうするのか?
【製作】に「茶」と入れて検索ボタンを押すのさ。
ずらずらずらっと、様々な茶葉が出るのは予想通り。
問題は次だ。
取りあえず適当に『野草茶』というものを選んでみよう。
素材の用意なんてしていないので、画面には当然「素材が足りません」という表示が出ている。
「おお、やっぱりな。我ながらいいひらめきだったわ」
そして「必要素材:ショアの葉」と、画像付きで記載されていた。
やっぱりな。家を建てる時にさ、同じような表示を見てたから、もしかしてって思ったんだよな。
まさか画像付きで出るとは思わなかったけど、逆引き辞典みたいに使えて便利だわ。
「あ、それマジで感謝してね。画像付きがいいわよねって思いついてさ、昨夜急いで仕上げたんだから」
「おおまじか。パンチャンサンあざーっす!」
「ナントカチャンさんみたいにいわないで!」
ふふっ妙な小ネタはさむなっつーの。
ていうか、この葉っぱ見たことがあるな……って、泉の周りに茂ってるアシ的なやつじゃん!
泥と一緒にアホほど採取してたっけ……過去の俺、褒めて遣わす!
ええと【製作】を開いて、茶葉を作って……ああ、そうだ茶漉しも作らんと……これも魔鉄鋼でええか……。
さあ、早速異世界初のティータイムと洒落込もうじゃないか。
黒光りするヤカンに水を張り、かまどに乗せる。
こうやって湯が沸く時間すら愛おしい。ああ……これだよ、こういうのがスローライフってやつなんよ!
おっと湯が沸いたようだな。
茶漉しに野草茶をセットして……と。
あとはシェラカップにとぽりとぽりとお湯を注ぐだけ……おお、いいね。
ただの草じゃんってちょっと思ってたけど、なかなかいい香りを漂わせるじゃないの。
それではひとくち……ズズリ。
「おぉ……うめえ」
「あ、ずるい! 私にもちょうだいよ!」
どこからか出したマイカップをドンと置いて、おねだりをするパンちゃん。
全くしょうがない女神さまだ、俺が手ずから淹れてやろう。
トポリトポリ……
「はー、優しい味がするわねー……癒される……」
「なー? なんか知らんがすげーまったりするわ」
窓から空を眺め、流れる雲を何気なく目で追う。
ああ、なんてのんびりした時間だろうか。
時間に追われて暮らしていた日々が遠い過去のようだぜ……。
毎朝決まった時間にアラームで起きてさあ……ん、毎朝決まった時間といえば……。
「ねえねえ、そう言えばさ、ログボからカロリーなアレしか出なくなってね?」
「ああ、あれね。もういいかなって思ってさ、在庫限りで終わりにしようかなって」
「え……まじで?」
「自活できるようになったし、もういらないでしょ。わたしも毎日やるのめんどうだったしさあ」
「毎日……?」
「そうよ! あんたがスマホ開いたタイミングを見計らって「今日のログインボーナスはこちら!」とか言ってたのよ? あんた無駄に早起きするから大変だったのよね……」
うっそだろ、まさかの生音声だったのかよ。あほだわこいつ……。
「そ、そんな……無料石貯めて高レア美少女のじゃロリ女神とか引きたかったのに……」
「なに馬鹿なこといってんのよ、ガチャなんて実装すらされてないじゃないの! まったくもう……可愛い女神様ならここにいるじゃないのよ」
こいつ……! 体を張ってボケてきた……だと?
「おお……のじゃロリ女神様はここにいたのか……」
「……そうなのじゃ、ここにいるのじゃ……」
「えっ!! 今なんて!?」
「うっ……勘弁してちょうだい……なのじゃ……」
「……」
「……」
……そのまま続けても互いに得はしないので、ここは広い心で許すことにした。
つうか、ロリじゃねえパンちゃんがやったら、ただの「のじゃ女神」じゃん。
しかし、ログボ終わりはちょっと寂しいよな。散々文句は言ったけど、結構助かってたし、あのカロリー補給食品は朝飯にちょうどよかったからなあ。
ログボは終わっちまったが、拠点もできたし、アプリも一式揃った。
なんだかとってもチュートリアルが終わった感があるな。
「チュートリアルが終わったとおもったらさ、謎にやる気がわいて来たんだけど、なんでなんだろな?」
「チュートリアルて……いや、知らんがな! でも、やる気があるのはいいことじゃないの」
だよな、いいことだよな! うおおお! よっしゃ、今日はこのままクラフト三昧じゃ!




