第24話 スマホ狩り
ちゃんとした壁がある生活……いいですよね。
隙間風がないだけで、こうも快適だとは思わなかったぜ。
壁のおかげでぐっすり眠れ、疲れもバッチリ取れた……気がする。
竪穴式住居も悪いもんじゃなかったが、やっぱありゃ秘密基地よね。雑な作りだったし、長く暮らすのには向いてねえわ。
チートなしの自力で作ったから愛着はあるが、あれはだめですわ……愛だけじゃ人は満足できねえ悲しい生き物なんだよ……。
しっかし、よく寝たせいかな、めっちゃ腹減ったわ。
……焼くか? いや、今日はまだやめておこう。
焼いたら確実に来るからな……。
色々教えてくれるのは助かるし、賑やかしになって楽しいんだけど……朝の静けさっていうの? この空気感って大切だと思うんよね。
つーわけで、手早くカロリーが取れる例の携帯食を食べる。
ログボに飽きつつあるのかしらんが、昨日も今日もこれが降ってきたから、食わないと減らんのよ……。
まあ、朝食用として便利なのは確かだからな、ありがたいっちゃありがたい。
でも、この様子だといつログボが止まるかわからんからな……そうなる前に朝食向けの食料をみっけておかないとな……っとごちそうさん、と。
さて、ひとり寂しく森に向かうとするか……ん? クロベエくんはどうしたって?
アイツなら起きたらもういなかったよ……ほんとまじでなにやってんだろうな。
◆◇
森に向かって歩く中、頭に浮かぶのは今後の予定だ。
明後日は、いよいよ集落に向かうことになる。
現地人との初対面、そして野菜調達の交渉と、陰寄りの俺にはなかなか荷が重いイベントだけど、やらねーとどうしようもねえからな。
現地人が住んでいる集落は、徒歩だとちょっと遠い場所にあるらしいが、パンちゃんってそういう数値周り適当なとこあるからな……。
徒歩で十日の距離を「ちょっと」って言ってる可能性は大いにある。
流石にそこまで遠いとは思いたくねえが、万が一を考えて支度をしたほうがいいかもしれん。具体的に言うと、肉以外の食料、山菜や果実なんかを調達しておきたいところだな。
でも、魔石の確保もしなきゃねーんだよなあ。
スマホがない俺はただのクソザコナメクジだからな。スマホ様のごはんはなによりも優先しないといけない。
となると魔獣を狩る必要があるのだが、いまさらウルッグ狩りはやってられん。アイツの魔石はひとつ二十パーセントしか充電できねえし、なにより他の素材がしょぼいからな。
肉を食えねえってのはほんといただけねえよ。
だから、狙いたいのはヒッグホッグだ。
あいつの魔石なら、ひとつで数回は満充電できちゃうし、お肉もたんまりと調達できる。俺とクロベエの食事には勿論、まだ見ぬ現地人との交換にも使えるからな。肉はいくつあっても困らない。
なになに? あんなバケモン、お前に狩れるのかって? ご心配どーも!
あの時の俺はさ、まだなにも知らない弱き存在だった……。
だが、今の俺は違う。塩の洞窟での厳しい修行を乗り越えて、スマホ投げという必殺技を身につけた。
……ヒッグホッグ、あいつは強かった。けれど、もはや俺の敵では無い。
いまのあいつは肉と魔石をくれる優しい豚さんだ!
そんなわけで、森の深部に向かったわけですけども、早々に無防備なヒッグホッグを見つけてさっくりと狩猟完了だ。
ん? 戦闘描写スキップすんなって? いやだって……ねえ? スマホ投げただけですし……。
いやあ……マジでスマホ投げヤベエっすわ。
『あ! ヒッグホッグだ!』って、シュッと投げたら、スコーンと当たって、そのままバターンで終わりだよ。
「フグルルルァ!」
おっと、おかわりの登場だ! シュッと投げて……はいスコーン! からの、バターン!
ね? 簡単でしょ?
……うーん、あまりにも狩りがカジュアル過ぎて、俺の中の罪悪感さんが息しなくなっちまった。
まあ、気にしたら負けだから切り替えていこう。
さて、お肉と魔石はこれでいいとして……食えそうな植物さんはどこかいなと。
お、ラッツじゃん。またいくつか採取しとくか。こいつはオヤツみたいな感じだけど、口寂しい時にちょうどいいのよね。
ラッツを採りながら森を歩いていると、朽ち木の周りに生えまくっているキノコが見えた。
キノコなあ……毒が怖くてなかなか手が出せない……いや、スマホで鑑定したらええやんな。
どれどれ……うっわ。
=====
【イドウダケ】食べるとびっくりするほど胃が震えるぞ。半日くらいは寝込む羽目になる。
【モッグダケ】触っただけで手がパンパンに腫れて二~三日そのままだぞ。
【フルフル】 踏むな危険! 吸うと酩酊状態になる胞子を出すぞ。二時間くらいぐでんぐでんだ。
=====
あぶねー! モッグダケ、すっげえうまそうなんだもん。
どっからどうみてもシイタケだからさ、ワンチャンいけんじゃね? 採るだけただじゃねって手を伸ばしかけてたわ。
キノコってこれだから怖いよな。食べる以前に触っただけでアウトっての、地球にもっていうか、日本にも実在してるからね。
いやあ、触る前に図鑑登録してマジで良かったわ……これも日頃から危険予知を心がけているおかげだなー。
「ほんと危なっかしいわねえ……」
「ゲエ! 出たな妖怪教えたがり!」
「ゲエってなにさ!」
呼んでないのに下りてきてくさはえる。暇だったんだろうなあ……。
「マジで暇なんやろ。今日もサクっとカジュアルに降臨しちゃってさあ」
「あ、いいのかなあ? そんなこと言っちゃってさ……私、おいしいキノコと山菜……知ってるんだけどなあ……」
「え、まじかよ」
「でもなあ、いらないみたいだしなあ、私を邪魔にするもんなあ……」
「ぐっ ぐぐ……」
「あらあら♥ ぐうの音も出ないってやつぅ?(ぐう)」
その時俺は奇跡の音を聞いた。
「わはは、自分でぐうと鳴らしてたら世話ねーわ」
「あーーーーー! もーーーーー! しょうがないじゃない! お昼のこと考えたらおなかがすいたんだから!」
真っ赤になって照れてんじゃねえよ。くっそ、ちょっと可愛く見えるからくやしいぜ。
……しょうがねえ、俺は紳士だからな、耳まで真っ赤な顔に免じて話題を変えてやるよ。
「で、食えるキノコを知ってるんだろ? うまい飯作ってやるから教えてくれよ」
「あ、ああ! ちょっと待ってね…… ええと……うん! みつけた! こっちよ!」
こっちよ! と、言った瞬間、ピューッと駆け出していきよった。
ほんとやめろよな、そんな照れ隠しムーブみたいなん、俺に刺さって仕方がねえじゃん!
って、思ったが、どうも違うようだ。
よくわからんが、ガチでキノコのために走ってるようで「向こうに見えたわ! 急ぐわよ!」なんて、何やらすげえ必死だ。
「嬢ちゃぁん、そんなに走らなくてもキノコは逃げないヨォー」
「なに田舎のばあちゃんムーブかましてんのよ! 逃げるのよ! ほら! あそこ見て! 歩いてるでしょ! はい! いつものやって!」
はあ? 何言ってんだこいつ……と……指す方向を見てみると、スタスタとキノコが歩いていた。
「え、キノコが歩いてる……」
「言ったじゃないの! あ、こっちに気づいた! 逃げるから、はやく! やって!」
やって! って。女神のくせに物騒だなこいつ。
「もー! なにやってんの! はやく得意のアレをやりなさいよ! さっきもやってたじゃない……あー! 逃げたじゃないのお!」
キッズくらいの背丈の、不気味なキノコが、トコトコと走って逃げていく……。
あれ食うのぉ? なんか嫌なんだけど……でも、食い意地がはったパンさんオススメのキノコってのは気になるな。
しょうがねえ、ソォイ!
俺の手から放たれたスマホが、シューと、風切り音を奏でながら飛んでいく。
そのまま吸い込まれるようにキノコの後頭部に当たると、スパァンといい音を立てて哀れキノコは真っ二つ。
「こんなに簡単にモンスターを倒せていいものだろうか……」
「うわ……スマホ投げるの上手すぎて引くわ……どこの蛮族よ……」
「おいこらお前がやれっていったんだろがい!」
「やーい蛮族蛮族ー」
両手をパンパンと鳴らしながらウソウザステップを踏んで煽るパンちゃん。
……お前のほうがよほど蛮族だよ……。
さて、アホな女神はガン無視するとして……さっそくキノコを鑑定してみよう。
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魔獣:ムックル 可食 体長:0.8m~1.5m
いわゆるキノコ系モンスターってやつね。
朽木を食べ、お花に肥料代わりの胞子をあげるなど、穏やかな性格の魔獣……
キノコなのになんで魔獣カテゴリなんだろね?
……まあいいわ。それでね、これがまたとても美味しいの。
だからね、他の魔獣から襲われることが多くて警戒心が強いの。
人族に保護させろ? だめだめ。きっと食べられてしまうわ。
だってキノコだもん。
誰よりも優しいのに、何処に行っても敵しか居ない可哀想な子……。
めっちゃ美味いから仕方ないわよね……
素材:魔石 キノコ
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「なんだよこの説明文……罪悪感煽るじゃん……」
「実際に優しい魔獣だから……でもね、あいつめっちゃ美味しいのよ?」
「でもさあ……優しい子なんでしょう?」
「あの子の旨味成分はね……しいたけの十倍なのよ……」
そういわれて喉がゴクリと鳴った。
けどよお……同族以外心を許せる者が居ない孤独な種族……ってさあ……。
やっぱ可哀想じゃねえかよ……なあ、みんなもそう思うだろお?
「あ! ほらほら! あっちにもいるわよ! はやくやって! もー! 逃げちゃうからはやく! 焼いてお醤油つけたらほっぺた落ちちゃうんだから!」
……時に、神は人以上に愚かで無情な存在となる。
すまん、ムックル! 俺は……神の名においてお前たちを食わねばならぬ!




