第22話 この木なんの木
いやあ、パンちゃんのスッキリとした顔と言ったらどうだ。
マジで憑き物が落ちたような顔してるぜ。
俺にメッセを送ったり、肉につられて降りてきちゃったりしてたのも、実は結構気を遣いながらやってたのかもしれねえなあ。
あれだな、寄り道でもやもやするタイプだ。
ええ……コンビニ寄るの? 先生に怒られちゃうよ……みんなやってる? じゃあ……大丈夫なのかな……みたいな。
でも、大人になったら、そういうのは自己責任じゃん? 誰が怒られるって自分が怒られるだけなんだから、気楽に生きたらいいんだよ。
もっとホイホイと呼び出して、じゃんじゃん手伝わせて、いっぱい笑かして……もっと世の中は生きやすいんだぜって思わせてやらねえとな。
というわけで、下手すりゃ堕天だわとほくそ笑むわたくし、悪魔のユウですけれども……なんとパンちゃんと二人っきりで森を歩いているんです……。
クロベエに乗って行こうと思ったのにさ、あいつどっかに行っていねえでやんの。
またウルッグでも狩りに行ったのかね? あんま危ないことをしてほしくはないけど、あいつもかなり強くなってるからなあ。
過保護にしすぎないほうが、あいつにとってもいいかもしれんな。
……いやあ、クロベエがいねえのがこんなにもキツいなんて。
パンちゃんのやつ、集中して探してんのか知らんけど、一言も喋らねえからさあ、なんかこう……微妙に気まずいんだよ。
女神様とはいえ、見た目はタメくらいの女性じゃん? まあ気楽に話せる仲になったとは思うけどさ、二人っきりで森デートみたいのは違うじゃん。
せめて雑談でもしてりゃあ、変に意識しないで済むんだが……。
かといって、こっちから話しかけんのもなあ……む。
真面目な顔でスタスタと歩いていたパンちゃんが、大きな木の下で足を止めた。
「ほら、この木が杉っぽい木よ」
おお……思ったより普通の木だな……けど、どう見ても杉じゃねえわ。
=====
魔樹:サリサリル 樹高:15m~80m
杉に似た特性を持つが、見た目はどう見ても広葉樹である。
なんでそんなややこしいことになってんのよ!
……あたしのせいだったわ。
防虫・防臭効果があり、また腐食耐性も高いため、素材として優秀だ。
成長しすぎると、周囲の植物の成長を妨げるので、
大きめのものはどんどん伐採しよう。
大樹は世界遺産? でえじょーぶだ! この世界にはもっとでけえのがある!
=====
「相変わらずふざけた解説だなー」
「あ、ちょ、いま見ないでよ! なんか恥ずかしいじゃないの!」
だったら変なこと書かなきゃいいのに……。
「と、とりあえず、十本くらい伐採しましょう。それだけあれば、暫く大丈夫でしょうし」
「魔樹って書いてるのがすげえ気になるんだけど、まさかトレントめいてたりしねえよね?」
「ああ、ただ単にマナを栄養にしてるだけで、思考するタイプじゃないから気兼ね無く伐採していいわよ」
そういうことなら、遠慮はいらねえな。
「うっす。そいじゃさっそく……」
「……ちゃんとスマホでやりなさいよ?」
はいはい、わかってますってば……ええと、スマホを取り出して、っと。
「そしてそのままスマホでドーーーン!」
「そういうことじゃないでしょおおおおおおおお!!!」
なんかアプリ起動すんの面倒でそのままスマホで殴りつけてしまったが、いけるじゃないの。これならわざわざアプリを使わなくてもいいな。
「よっしゃーー! 盛り上がってまいりました! 続いてもういっぽんいくぞー!」
ズドドーーーン
「こらー! だからなんでアプリを使わないのよ! 【伐採】を使えばそのまま回収もしてくれるのに!」
「こっちのが手っ取り早かったし……それに、その、なんだか……気持ちいいんだ……」
「うっとりすんじゃないわよ! って、また!」
ズドドーーーン
「ちょ、スマ――」
ズドドーーーン!
……
…
いやあ、楽しかったですねえ、伐採作業!
気づいたら二十本ほど切り倒してしまいましてね、そんなにどうすんのよと、パンちゃんに怒られちゃったが、家以外にもなにかと使うだろうから許して欲しいぜ。
切り株は流石にスマホじゃどうにもできなかったので【伐採】で除去をした。
使い方はおなじみのカメラで写してタップでポーンだ。
なるほど、これもなかなかに楽しいじゃないの……。
「初めからそれを使いなさいよ!」
「スマホ殴りからしか得られない栄養もあるし……」
「真面目な顔でアホなこと言うな!」
だって本当なんだもん……スマホで破壊するとこう……胸の奥がスゥっとして……
「まったく……ほら、スマホ出してんなら、整地もしなさいよ。ぼっこぼこで酷いわよ」
「お、そうだな」
言われるままに【締固】を使う……ううむ、森の中にちょっとした広場ができてしまったな。
後でベンチとか作って置こうかな? なんかいい感じになりそうだし。
◇◆
サリサリルの木をたんまりと調達できたので、さっさと拠点に帰ってまいりました。
時刻はそろそろお昼。
腹も減ったし、メシにしようと支度をしてるのだが、パンちゃんがグズグズとうるせえの。
帰り道にさあ、なんか変なスイッチが入っちまったらしく、もうずっとなんよ。
こっちは刃物使ってるっつうのに、周りでちょろちょろグダグダとあぶねーったらもう。
「ねえ、聞いてる?」
「聞いてるし、わかったって言ってんだろ。ほら、危ないから……」
「あのアプリたちはさあ、結構苦労して作ったの! 神様的なアレでちょいちょいってわけにはいかないの! AI任せにできないし、ちゃんと自分でコード打たなきゃ無いわけ!」
「それもう三回聞いたってば……だから座ってなって」
「三回言ってもあんたが納得しないから言ってんの! だいたいさあ、便利なのわかってるくせに、あんたはすぐにスマホを……」
ジュウウウウゥ……
「……ゴクリ」
こいつ……肉を焼き始めたとたんに静かになったぞ。
いいライフハックを知ったな。
これからこいつがうるせー時は肉を焼くことにしよう。
「うめーけど、まいど串焼き肉っつーのも飽きてくるな……」
「いいじゃない。私は好きよ? ファンタジーっらしくてさ」
「それはそうだけどさあ、フライパンや鍋があればなって思うわけ」
「それなら明日になったら【製作】で作れるわ。ちなみに私はトロトロのシチューを食べたいわ」
「さり気なく催促すんじゃねーよ。俺も食いてーけどさ、現状むりじゃね?」
「お鍋があったらできるでしょ」
「パンちゃんが食いたいのはクリームシチューだろ? 材料が全然たらねーって」
「あー食材ねー……」
「野菜もそうだけど、肝心のバターや小麦がないんだぜ。今作れるのは、肉と謎果実の不思議スープくらいのもんよ」
なんかで見て、ホワイトソースから自作するシチューは作ったことがあるし、レシピサイト見れるんだから、やってやれねーことはないんだわ。
けど、材料がまったくないんじゃ流石に無理だわ。
「うーん、近所に牛乳的な物は……ないけど、穀物と野菜ならあるわね。わりと近場にある集落の人たちが畑をやってるから、分けてもらいに行きましょう」
「通貨がねーとか言ってたから物々交換だよね? 俺が出せるのって肉くらいしかねーっつうか、近場に集落があったんだ」
「うん、近場といっても徒歩だと少し遠いけどねー。お肉と、岩塩で交換してもらえるはずよ」
「あとは……バターだけど、これこそ無理じゃね? 」
「バターそのものはないわね……牛乳的なのは無くはないけど、この辺りには居ないわねえ」
「だめじゃねえかよ!」
「少し遠くにいるから、そのうち何匹か連れてきて牧場を作ればいいのよ。飲み放題、食べ放題よ」
「牧場からやるのかよ……クリームシチューが遠すぎる!」
「あ! ちなみに【製作】に野菜を種にする機能があるのよ」
「おっとにわかに牧場ゲーめいてきたぞ」
「そうよ、牧場ゲーよ! この余ってる土地に畑を作ったらいいのよ! わあ、なんだか楽しくなってきたわね! ねえ、ユウくん! 私カブを育てたいわ!」
パンちゃんがノリノリのウキウキで微笑ましいぜ。
……おっと、クワの素振りまで始めたぞ。ネタかと思ったらこいつ、ガチだわ。
しっかし、交易に、牧場に畑かあ。
なんか急にやることリストが増えてきたな。
誰のせいだって女神がシチュー食いてえとか言ったせいなんだけど……ごちゃごちゃしてきたし、スマホに予定をまとめておくか。
=====
明日 魔石の確保 午後からは生活雑貨などの作成
明後日 魔石の確保 午後からは集落へ行く下準備
明々後日 集落へ行き肉や塩と野菜を交換
=====
野菜がどのくらいもらえるかわからんが、せめて十日分くらいはもらえると嬉しいな。
種にして増やすのを優先するつもりだけど、普通に食材としても使いたいからな。
自分の畑で作った野菜はきっと美味しいんだろうな。こっちの野菜が収穫までどれだけかかるか知らんけど、待つ楽しみというのもあるからな。
なんだかちょっと楽しみになってきたわ。




