第2話 さて何をさせる気なんです?
パンちゃんが女神っぽい声で長々と語ってるのを、適当に聞いているわたくし、ユウでございます。
あ、睨まれた。さーせんww はいはい、ちゃんと聞いてますってば。
「――で、私が管理をしているリプラシルには、人族と魔族が住んでいるんですけども……」
ふむふむ……うん? 人族と魔族の二種族だけ? ファンタジー世界ならもっと色々いるもんじゃね?
「え、そのふたつしか種族ないんすか? ファンタジー世界にしては少なくね?」
「あー、厳密に言うと違うんですよ。どちらも多種多様な種族がいるのですが、魔族は魔臓という魔力生成器官があって、それが有るか無いかでわけてるんです」
人族にはない、魔族ならではの臓器か。あれかな、同じ先祖じゃあなくて、最初の先祖からして違うってやつなんかな?
まあ、お約束っちゃお約束よね。
「あー、テンプレによくある感じで、魔石があったりするんかな?」
「確かに魔石はありますが、人族にもありますよ」
「え、そういう感じなんだ……」
人にも魔石あるんだ……まじか……となると、違うのは顔色とか角とかの外見的特徴くらいなんかな。
「つまり、違うのは魔臓の有り無しと見た目だけってことか……」
「見た目はあてになりませんねえ……」
「えっ?」
「同じ見た目でも、魔臓があれば魔族ですし、無ければ人族……なんかそういう感じになっちゃいまして」
「マジかよ……なんてめんどくせえ世界なんだ……あ、すんません」
「くっ……何も言えねえ……そのとおり、私がやらかしてしまって、めんどくせえ世界になってしまってるのをなんとかして欲しいっていうのが、本題でしてね……」
「あっ……帰りたくなってきた」
なんだかすげえ嫌な予感がする……。
この女神、ちょいちょい本性が透けてみえるというか、地がこぼれてんじゃん? どうもポンコツの香りがして……。
そんな女神がやらかしたくせえ世界とか、厄ネタすぎる……。
「実はその、ユリカゴ――管理世界に異常が発生してまして……その……わかりやすい例を挙げると、国という概念が誕生しないまま停滞してるっていうか……」
「なにその原始時代」
「そ、そこまで悪くはないですよ? 人族にも魔族にも長老みたいなのはいますし、村みたいのもありますから」
「……うーん縄文時代かな?」
長老て。
もしかして、みんなでどんぐり拾ったり、狩りしたりして生活してるレベルなんじゃね?
そんな世界で生き残れる気がしねえんだけどwww
「世界に知的生命体を放ってからかれこれ五千年……住人たちは、世代を交代しながら、ほぼほぼ変わらぬ生活を続けているんです」
そりゃやべえ……って思ったけど、なんか地球の人類もそんなもんじゃねっけ。
「五千年って聞くとアレだけど、実際そんなもんなんじゃねえの?」
「それがその……アセット使って促成栽培みたいなことやってるんで、そんだけあれば優秀なユリカゴは宇宙進出を果たせちゃうんですよ……」
「アセットって……あれか? ナーロッパ文明セットみたいのがあって、それをインストールしたとかそういう?」
「それに近いですね。ある程度の文明レベルを持った状態からスタートしてるはずなんですが、初期レベルからちょろっと毛が生えて、そっからまったく育たないんですよ……」
なんかゲームみたいなこと言ってるが、ユリカゴっつうのを神々がやるワールドシミュレーションゲームのようなものだと思えば……うん……。
「なるほどなあ、そりゃやっぱ異常だわな」
「それでも人族はまだマシで、微妙に進化してはいるんですよ。まあ、魔族さんたちは……うん、がっつりテコ入れが必要ですけれども」
中でもわかりやすい異常が「争いが起こらない」ということらしい。
同種族同士はもちろん、本来の仕様ならば、水と油のように争うはずの人族と魔族ですら遭遇しても争うことがないそうだ。
多少の小競り合いというか、子どもの喧嘩のようなものはあるらしいのだが、それもすぐに沈静化し、日々平穏でホワホワした退屈な生活を五千年続けていると。
うーん、優しい世界だ。
だが、そんな世界はいつか必ず滅びを迎える事になる。
パンちゃんは難しい顔をして語った。
「たとえば、世界に何か大きな災厄が発生したとしましょう。統べる者はおらず、立ち向かう知識も武器もない。何もできないまま、おろおろとして最後の時を迎えるだけ……私の世界は、いつ滅亡するかわからない状態なんです」
「ほわほわした絵本の世界に、侵略者が降り立ったらって考えるとすげえしっくり来ますわ。あああ……コグマチャンの村が……スペース密猟者にビーム撃たれて滅ぼされちゃったぁ……」
「胸がすっごい痛むからやめて……まあ、それに近い状況なんですよ……そもそもですね――」
パンちゃんが語った現状ってのは、思った以上にヤバいというか、どうしようもなかった。
この世界の住人には、向上心というものがないらしい。
例えばさ『肉ってうめえのな!』って、知ったらさ『もっと食いたいな』『簡単に手に入ったらいいのにな』と、考えるじゃんか。
ところが、この世界の住人はそうはならない。いつもの同じ日々をひたすら繰り返すだけ。
そう、まるでRPGのNPCのような存在になってしまっているらしい。
「私がどう調整しても、現状から何も変わらないんです。せめて、多少の欲が芽生えて、小さな戦争くらいは起こしてほしかったんですけど……」
文明を発達させるには……欲望は必要だし、それに伴う戦闘行為も時には必要だ。
「牧歌的で平和な世界なのはすげーいいと思うけど……それで停滞しちゃってんのは、確かにまずいわな」
「そ・こ・で! あなたの出番です! 停滞した世界にあなたという劇薬を送り込むんですよ!」
「だから、マジで選択ミスってっから。普通のあんちゃん捕まえてなにいってんだ」
「ほんのちょっと、ドヤって見せたらいいんです。そのちょっとの揺らぎで治ることなんで!」
「ほんのちょっとのドヤり?」
「そこ拾うんだ……えと、同僚に調査してもらったところ、ちょっとしたバグがみつかりましてね……」
「バグ……だと?」
おい、なんか流れ変わってきたぞ?
「アセットに自作MODれて魔改造したんですけど、相性問題かなんかで……その、住民のパラメータが一部おかしくなるバグが発生しちゃったみたいなんです」
「自業自得すぎませんかねえ……」
「それはそのとおりなんですけどぉ……より良いユリカゴを作るためにみんなやってるんでぇ……」
「その結果がバグってぶっ壊れてたらダメじゃん」
「ですよねえ……なんか満足値の上限が極端に低くなっちゃってて……生きてるだけで簡単に上限まで埋まるみたいなんですよね……それで私も気づくのが遅れたんですよ……」
不満という感情、もっと良くしたいと思う感情は大切だ。それがあるからこそ、人は新たなものを開発し、より良い生活を求めて進化してこれたわけじゃん。
リア友のカズくんは、親にバレずに叡智なグッズを二階のお部屋に運ぶため、しょぼいクレーンを自作したからな。
人は欲のためなら思いがけない発想をし、それを応用することによって世界がよりよく発展していくんだ。
カズくんのクレーンは即バレてたし、めちゃ怒られてたけど、お母さんがプランター運ぶのに重宝してたから結果オーライだった。
……話がズレた。
「やべえバグがあるのはわかった。それで俺はどうすればいいんだ」
「えっとですね、異世界由来の刺激がバグパッチとして働くことが判明しましてね」
「……あーはいはい……よくあるやつだ……」
「多分ご想像通りかと……あなたが引っ掻き回せば世界が動き出すって感じのアレです……」
「やっぱりかよ。ありがちな設定過ぎて笑っちまうぜ」
何もしなくていい、ただ暮らすだけで世界が調律される、とかなんとかさ、魔王とか倒さなくていいよ系のスローライフものでめっちゃ言われる奴やん。
「実際そのとおりで、あなたの行動がいい刺激になって、人族や魔族のパラメータが修正されるんですよ。それが住民から住民に伝達して、最終的には世界規模で修正されるみたいなんですよね」
「思考読むな。つうか、俺を擬人化されたパンデミックみたいに言うなや」
うーん……。
アホほど肉を狩って食わせてやれば……
『肉をもっと! もっと肉を! 先生! 肉を狩りたいです……』
って、ハートに炎が灯ってバグが取れたりするんかね?
「ふふっ、なによそれ……でも方向性としてはあってますね」
「おいこらだから心読むんじゃねえつってんだろ」
「さーせんw ま、そこまでしっかりしなくてもいいんです。あなたと一緒に行動するだけでも、ゆっくりと改善していくでしょうから」
「そんな簡単なのでいいのかよ……もっと難しく考えてたわ」
「うちの子達の知能レベルは高い方なんですよ。ただ、向上心が終わってるから持ち腐れですけど……」
できる範囲でレクチャーをしたり、ただやってみせるだけでもいいと。
まあ、そういうことなら、なおさら行ってもいいかなって思えるわ。
はじめからお願いは聞いてやろうと思ってたけどさ、どう考えても無理な感じだったら、ストレスマッハな生活を続ける羽目になるわけじゃん。
それはちょっと嫌だなあって思ったんだよね。
だって、世界の未来が俺の背中に乗っかってくるとも言えるじゃん?
そんな状態で何年……そうだよ、どんだけ俺はリプラシルにいればいいんだ?
任期の話だけはちゃんと聞いて確約取っとかねえと、無限に働かされたらたまらんわ。
「えっと、それで任期なんですけど、どうなんです?」
「任期ですか?」
「達成するまでがんばれー♥ とかだったらキツいじゃないっすか。今年で五億年……未だこの世界はクソのままじゃ……とかマジで無理なんすけど」
「流石にそうはならんやろ……ごほん。そういうことなら区切りを設けましょう」
「区切りっすか」
「こちらの世界で二年。そこを区切りとして、二年目の終わりにあなたが望めば任期満了ということで元の世界に帰します」
「二年……まあ……長期……ではないか? 留守中の処理なんかはどうなるんです?」
「大丈夫です。終わったら召喚した瞬間に戻しますし、こちらの世界の法則に合わせて体を最適化します。死ぬことも老いることもなくなりますので、安心して活動できますよ」
なるほど、すべて終われば元の姿のまま、来た時間に戻れるってわけか。
しばらく仕事から離れて、のんびりとした世界でだらだら暮らせると思えば悪くないのかもしれないな。
「報酬も出しますよ。しかも今なら二つ」
「二つ!?」
「一つは私の世界で困らないよう、好きな加護をこの後すぐにあげちゃいます! もう一つは、帰る前にあげましょう。そこで、お礼としてあなたの望みを一つ叶える……どうでしょうか?」
「ようし、わかったよ。じゃあまず日本に転移できる加護ちょーだい! 一度帰って作戦を練って、後はこれたら来る感じでがんばるから!」
「はい……それがあなたの望み……って! あっぶな! だめよ! 無しなーし! それはむーりー! てかそれ絶対来ないやつでしょう!?」
ふふ、こいつちょっと揺さぶると地が出るからおもしれーな。
「あはは、冗談だよ。ちゃんと仕事はするから安心しろって!」
「ほんと!? やったあ! ありがとう! 助かったあ! これでブーケニュールからあれこれ……あ! んんっ! こほん……快諾して下さって良かったです!」
時折出る素が気になる。ブーケニュールって誰やねん……きっと女神様なんだろうなあ……怖いから聞かんとこ……。
「では……あなたに加護を与えようと思います……」
「急に切り替えるじゃん……」
……加護なー。
たぶん、パンちゃんはなにかチートスキル的なものをくれようとしてるんだろうけど、そういうのはいらねえっつうか、実は何をもらうか、もう考えてるんだよなあ。
俺ってオタクのおっさんなんでね「ぼくが異世界にいったら」ってネタは常々考えてたのさ。
ずっと温め続けていたネタ、今ここで叶えてもらうぞ!
※本日は5話まで順次投稿されます。




