第1話 これよくあるやつだ
……ようやくだ、ようやくごほうび期間が始まった……。
ククク……休日全てを無駄に溶かし、最終日まで幸せにダラダラしてくれよう!
願わくば、この日々が永遠に……せめて一年くらい続かんことを……!
なんて、微妙な邪気眼ムーブをかましながらSNSを眺めていると、愛猫のクロベエが腹に乗ってきた。
「どしたん、クロベエ……って、いてえ!」
俺の顔を見つめながら、ペシペシと俺の額を叩いている……ああ、クッソ、わかったよ、散歩に行きてえんだな?
自発的に外に出ようとはしないくせに、なんでかリードをつけての散歩をちょいちょいせがんでくるんだよな。
「わーかったよ。まってろって。今リードだすからさあ」
猫のくせにリード付きの散歩をここまで好むって……ちょっと変だよな?
やっぱこいつ、猫じゃなくて犬……いや、タヌキかもしれん。
こげ茶色のメインクーン(もどき)と言ったら見た目が伝わるだろうか。ジャガイモじゃねえぞ、モッフモフの猫だ。
しっぽが太いから、タヌキにしか見えなくてさあ……いってえな!
アニマル的な勘で俺の心を読んだのか、クロベエが前足でベシベシと脛を叩いてくる。
はいはい、わかった、わかったからやめろって! ほら、玄関開けっから!
「うっわ……さっむいなあ……」
気づけばもう十一月。
冷たい風が頬をえぐるように吹いているというのに、クロベエはそれをものともせずに、のしのし、のしのしと散歩コースを進んでいく。
「ネコって寒さ嫌いなんじゃねえの? なあ、お前ほんとはタヌキの王様なんだろー?」
「にあ」
ジロリとこちらを睨みつけ、不機嫌そうに短く鳴いて歩みを強めるクロベエ。
こいつ、俺の言葉をわかってる気がするんだよな……。
◇◆
クッソ寒い田舎道を、クロベエに引かれながら嫌々と歩く。
なぁクロベエくん。もうええじゃないですか。俺ぁ、もう一刻も早く家に帰ってコタツで配信とか見てえんよ……。
ああ、今日は裏山コースか。
たまにこうして、うちの裏山に続く小道を通るルートに入ることがあるんだ。
市道ルートより若干遠回りだから、かんべんしてほしいのだが……しゃあねえ、ついでに畑の様子を見てくか。オカンが大根気にしてたしな……おや?
クロベエくんがぴたりと歩みを止めましたねえ……。
あれだけ元気に歩いていたのに、ぎゅっと体を伏せて動かなくなってしまった。
「あー、またかよ。しょうがねえなあ……」
こいつさ、苦手な野良猫と遭遇した時や、そいつのつけた匂いを見つけると、固まって動かなくなるんだよな。
図体でけえ癖にクッソビビリでさあ、立ち向かっていかねえから助かるんだが、これはこれで厄介なんよな……。
「どうした? またノラシマさんの匂いでもしたか?」
耳がイカのようにペタンコになっていて、尻尾が狸のように膨らんでいる。
ほらね、完全に怯えモードに入ってる。
こうなると、もうテコでも動かねえから大変なんだ。
抱っこしたらええやんって思うだろ?
興奮してる猫に、迂闊なことをするのはこじらせるだけだからだめなんよ。
まあ、こういう時の必勝パターンは見つけてあるから、大丈夫だけどな。
クロベエにはさ、静かな声で優しく囁き続けるってのが、なぜか効果的なんだよ。
「クロベエ……クロベエ……聞こえますか……あなたの耳に直接話しかけています……」
「ウゥー……」
「怯えるのをやめるのです……さあ……家に帰りましょう……おやつがありますよ……」
「ウ……ミャア……」
『人間よ……にんげ……あれ……あっ! ちょ、ちょっと! ネタかぶりとかやめなさいよ!』
「クロベエ……クロ……おい今の誰だ!」
なんか今……知らない女の人の声が聞こえたぞ……?
……辺りを見回してみたけれど、誰もいない。
近くにうちの旧墓所があんだよなあ……まさかご先祖様? いやいや……怪談の時期はとっくに終わってますんで、マジで勘弁して欲しいんですけど……
……って、なにこれ! 足元がなんかブワーって光ってんですけど!
UFO!? ……空はきれいなもんだ、ドローン一匹いやしねえ! じゃ、じゃああれか? もしかして、勇者として呼ばれた的な――
ええい、クソ眩しいんだから、やるならさっさとやれ……くっ、急に視界がグニャグニャと……。
やっぱそうだわ……ラノベ界隈でアホほど使い古されてるあれで間違いねえ……クッソ、なんで俺が……こん……な……ベタな……テンプレ……に……
……
…
◆◇
……巻き込まれなきゃならねえんだ……はっ!?
気がつくと、白っぽい神殿的な……ええと、アレだ、ナーロッパ移住者が行く例の場所としか思えない場所に立っていた。
そして、目の前には……
いかにも「お前をさらってきた女神様だぞ」って服装の女性が立っている。なんかこう……白いトーガっつうの? 神様ってこういう時にこれ着るような決まりでもあるんですかね。
そういうのが流行ってる、とかだったらうけるんだけど。
つうか、どうでもいいこと気にしちゃったせいで、すっかり話しかけるタイミング失っちまったわ。
いいや、黙っとこ。どうせ向こうからなんか言うやろ……
……
……言わねえし。
ようし、こうなったら根比べだ! なんか喋るまで黙って見つめ続けてやる……お、顔がじわじわ赤くなってきたぞ……。
「(くっ……なんか言いなさいよ)……こ、こほん。私の名前はリパンニェル……リプラシルをきゃんりする女神です……」
はは、俺の勝ちだな。しびれを切らして喋り始めたわ。
「きゃんりする女神様ですか」
「私の名前はリパンニェル。リプラシルを管理――」
「しれっとリテイクすんな」
「私の名前はリパンニェル――」
「またやり直しただと!? えっと……ルィプァnニュ……リゥィパ……なんかヒューマンの俺には発音しにくい名前みたいだから『パンちゃん』って呼んでいいですか?」
「日本語で話してるのに発音しにくいってこたないでしょう!?」
「そうかなあ……なあ、クロベエもそう思……って、お前も来ちゃったのかよ……」
「んなあ」
「その子はあなたと一緒に居た猫ちゃんね。ごめんね、召喚に巻き込んじゃったみたい」
「クロベエくん巻き込まれ枠かよ! チート確定じゃんか!」
「そういうのはないですから! ああもう、話を進めますよ!」
開幕からやらかしてんのに、必死に取り繕ってんのおもろいな。なんか悪い女神じゃないっぽいし、前向きに話を聞いてやるか。
「んんっ! ごほん! 実はですね、成瀬 悠さん。あなたにお願いがありまして、こちらにお呼びしました」
「お願いがあって? そんな軽いノリで召喚しちゃったの?」
「いやまあ……この手の召喚ってそんなもんじゃないですか」
それはそう……そうなんだけど、ぶっちゃけんじゃねえよ。
「ほ、ほらあれですよ、第一村人発見! みたいな? ダーツが当たったところに来たら最初にあなたがいたというか……そういうアレがコレでソレなんですよ」
「さてはお前、説明面倒になってきたな?」
「ま、まあとりあえず話だけでも聞いて行ってくださいよ! 今なら便利な特典もつけちゃうからさ!」
「あ、そういうのいいんで……」
「たーのーむーかーらー!」
いやまあ、聞いてやるけどさあ、もっとこう……うまくやってくんね? めっちゃグダグダで笑うんだけど。
※本日は5話まで順次投稿されます。




