第25話 泉場の女神とユウ
◇SIDE:リパンニェル◇
「あー! ほらほら! 先にそこで身体洗って!」
「おお……そうだったね、ごめんごめん」
「こらー! 飛び込まない! 静かに、静かに入るの! ていうか先に身体洗え!」
「あはは、悪いね、いつもこうしてるもんでさ!」
「ここは池やなんかとはちがうんだから、ちゃんとルールを守りなさい!」
はあ……もう疲れた。秒で疲れた。
なんでこんなにハイテンションなのよ、この猫耳たちは……この入浴指導、無理ゲー過ぎない?
子どもかと思って注意をすれば大人だし、そう思って諭すように説明をすれば、子どもだし。
大人なのか子どもなのかが見た目でわかればさあ! まださあ! やりようがあるのにさあ!
見た目でさあ! 区別がつかないって、ばっかじゃないの?
まったく誰よ! こんなアホみたいな仕様にしたの!
あたしですね……。
幸いなのは、あたしに優秀な子どもたちが居ることか……はあ、しょうがない手伝ってもらいましょう。
「ルーちゃん、ナーちゃん……お願い、手伝って」
「うん、いいよ! どうすればいい?」
「ルーちゃんは、あっちの人たちに教えてあげて。ナーちゃんは向こうの人たちをおねがいするわね」
「はーい!」
「わかりました母上! ……ああ! だめですよ! まだ湯に入ってはいけませぬ!」
はー、早くも疲れてきたわ……お風呂で疲れるとかどうなのよ……。
◆SIDE:ユウ◆
「こらこら! ヒゲ共! まだ入るんじゃねえ!!! 先にそこで身体を洗うんだよ、このバカたれどもが!!!」
ヒゲの群れがわちゃわちゃと大はしゃぎしている。
俺の目には全員おっさんにしかみえんのだが、子どもも混じってるはずなんだよなあ……っていうか、全員ヒゲが生えたキッズにしかみえねえわ。
全員総じて事前説明をガン無視してはしゃいじゃってるからな、このままじゃ男湯がぐっちゃぐちゃになっちまうだろう。
だが、俺には秘策……魔法の言葉があるんだ。
「よし、わかった。言うこと聞かねー奴には湯上がりの旨い酒は出さねえ!」
俺の言葉に男湯に戦慄が走る。
ギャアギャア、バシャバシャと聞こえていた騒音が消え去ったかと思えば、全裸のヒゲたちがシュバババっと、整列をはじめた。
「ユウさん、なにをしたらいいんすか!」
「俺たちにビシっと教えてくれ!」
「おら、お前たちも並べ並べ!」
「ユウさんを煩わせんな!」
酒をちらつかせた途端、これですわ……。
思った以上に効いちゃって軽く引いちゃった。
まあ、静かになったからいいか……うーん、流石に人数がアホほど多いな。
一人じゃ無理ゲーだし、ちょっと手伝ってもらおう。
「あー、モル…モル……ええと…」
「モル山です」「モル次郎です」「モルランです」
「ああ、そうだった。じゃあ、モル山はあっち、モル次郎はそっち、モルランはあそこのヒゲどもに風呂の使い方を教えてやってくれ」
「「「御意!!」」」
はあ、同じモフモフでもヒゲだから嬉しくも、ありがたくもねえわ。
ただただしんどい……。
いまごろあっちは……。
きっと、キャッキャウフフと楽しくやってるんだろうな……はぁ。
◇SIDE:リパンニェル◇
「だーーー!!! 泳いじゃだめ! だめだって言ったでしょ……って、こらあああああ! 石鹸で滑って遊んじゃだめ! もーーーーー! 大人しく入ってよー!」
まったくこのネコチャンたちは……。
落ち着くってことを知らないのかしらね?
はあ……同じモフモフでも、あっちはヒゲだから、ネコチャンみたいに暴れたりはしないんでしょうねえ。
きっと、のんびり湯に浸かりながら、ヒゲたちと一杯やってるんだわ……。
はあ、いいなあ……。
◆SIDE:ユウ◆
「こらこらこらーー!!!! おうこら、どっから持ってきたその酒!! そんな強いの飲みながら入っちゃだめ! だめったらだめ!!! どっかの駄女神みたいに湯船で寝ちゃうから! 次に起きたら転生先でバブーだぞ! だーから飲むなつってんだろが、このヒゲモジャどもが!!!!」
まったくこのヒゲどもめ、どこに酒を隠し持ってやがったんだ? ヒゲか? モジャモジャの中がストレージになってたりすんのかあ?
ったくよー、ほんとやってらんねえぜ。何が悲しくて酒くせえヒゲどもの躾しなきゃねーんだ。
はあ、何で俺……女の子に生まれてこなかったんだろ……。
俺もあっちに混ざってキャッキャウフフして、みんなで仲良くキラキラジャンプしたかったよ……。
……はあ、そろそろ上がってもいいか……つうか、疲れた。
こうなったら飲むしかねえ。
さっさと上がって湯上がりビールじゃ!
「おらおら、おっさんどもそろそろ上がるぞー! このまま入ってたらドワーフの煮込み料理になっちまう。ほらほら、上がった上がった! うまい酒が待ってるぞ!」
「うおおおおおお!」
「酒! 酒!」
「思う存分飲むぞおお!」
「「「うおおおおお!!!」」」
酒をちらつかせてヒゲたちを操っていると、キンタたちの顔がちらつくぜ。
あっちは肉だったから多少は健全だったな……元気にやってっかな、あいつら。
ほんのりと、センチメンタルになっちまったのは思った以上に風呂の指導がキツかったからだろうな……。
幸いなのは、湯上がりの行動が大人しかったことだな。
これから酒を飲めると言うのもあり、俺を怒らせないようにしようと、静かにしているのがよく分かる。
最初からこうだったら、どんだけ楽だったことか……。
着替えを終え、ロビーに向かうと女性たちも丁度上がり始めたところだったようで、ヒゲとミミが合流して感想を語り合っている。
うむうむ、おおむね好評のようだな。
湯上がりネコチャンたちが、微妙にぺっとりしているのが可愛らしい……ああ、そうかドライヤーなー。
うちはパンさんが魔法でやってくれるから気にしてなかったが、ドライヤーいるわな。
後で似たような魔導具を作れないか見ておくか。
さて、そのパンさんは……と、あれ……なんだかすっげえ疲れた顔をしてるな……。
てっきり、あっちはキラキラ空間が広がっていたとばかり思ってたが……冷静になって考えりゃ、ネコチャンたちも大概だったな……。
あれだなあ、隣の芝は青いってやつだなー。
「辛いのは俺だけだと思ってたが、お前も大変だったんだなあ……なあ、とりあえず飲もうぜ……」
「ユウのところも酷かったのね……うん、のもっか……」
事前の打ち合わせ通り、パンさんが秘蔵の無限ビールサーバーを出してくれたので、さっそく俺とパンさんの分を注いでグビグビと飲む。
うっめえ!
二人仲良くおかわりを注いでいると、香りで気づいたのかヒゲとミミがぶわわっと駆け寄ってきた。
「何だあの鉄で出来た樽は……」
「くんくん……酒の匂いがするわよ!」
「なに!? 酒だと!」
「はっはっはー、そうともよ! これは『ビール』って酒でな、これをこうしてこうすると! プシューっと出てくるんだ! そして……こうしてストップ。んでもって、なみなみと注がれたこいつを一気に……………んぐ……んぐ……………ぷっはあ……!!! むっちゃくちゃうめえ! ヒゲとミミに……乾杯!」
「うおおお! なんだか知らんがめちゃくちゃ旨そうだ!! ユウ! 俺達にも飲ませろ!」
「飲ませろー!」
「早く飲ませるんじゃー!」
「はいはい! 押すな押すな! こらチンチンつかんだの誰だ! おいくそ俺のケツを揉むんじゃねえ、やめろぉ! あーもう、めんどくせえから自分たちでやれよ!」
「あ! くれぐれも壊さないでよ! それあたしのなんだから!」
押すな押すなとドワーフが殺到する。注いだそばからその場で飲もうとするもんだから酷い有様だ。
「こらーー!!! 注いだらさっさとどっかいって座れ!! 次の人の邪魔になるだろ!」
度数が低いためか、さっさと飲んでまた直ぐ並んでやがる。
無限ビールサーバーvs無限ドワーフ!
終わるのかこのループ……!
おかわりレースの先頭をぶっちぎるのがパンさんだ。
シュッと注いでぐいっとのんで、タタタッと列に駆け込んでいる!
すごい、すごいぞ! ビールがどんどん体に吸い込まれていく! あの体のどこに入っているのか不思議でならない!
って、子どもたちも居るんだったな。
ええと……子どもたち用に買ってきてもらってたのがあったんだ……これこれ。
「おーい、酒を飲めない子どもたちはこっちにおいでー。代わりの飲み物があるぞー」
「おー、やったー!」
「大人たちだけずるいなって思ってたんだ」
「おれら、なぜか酒を飲めないからなあ」
「なんか飲んじゃダメって思っちゃうんだよねえ、不思議」
……おお。
ワールドシステムのセーフ機能、マジであるっぽいな。
ふむふむ……どうやら弾かれているのは十二歳未満のようだな。
リプラシルの基準なのか、ドワーフのなのかはしらんが、ずいぶんと成人年齢が低いな……いや、逆に考えれば、そこで成長が止まるから解禁されるってことか?
種族ごとに成人年齢を定めるか、リプラシル基準を設けるかは今後の課題になりそうだが、そう遠くない未来に、ここの住人たちだけで決められるようになりそうだな。
「ほれ、飲んでみろ。これも酒に負けないうまさだぞ!」
ストレージから冷えたフルーツ牛乳を取り出し、子どもたちに配っていく……あれ、気のせいかな……マルリさんが混じってたような……。
……まあ、マルリさんならいいか……。
「わあ、おいしい!」
「不思議な味だな、これ!」
「これ、ここでも作れる?」
「んー、今はまだ無理だな。でも、いつか作れるようになるかもしれないな」
空洞どころか、俺の家でも作れねえんだよな、これ。
なにせ、牛乳的なものを調達するすべがないんだもの。
これもはやくどうにかしてえが、パンさん次第だな……なにせ、どこに居るのか忘れちゃったとか言ってたからな。
ほんとしょうがねえやつだわ。
「そっか……じゃあさ、ここに来たら飲めるの?」
「んー……それはちょっとまだ決めてないんだ、ごめんな」
「そうなんだ……飲めるようになったらいいなあ」
そうだよなあ。
ビールは作れるから、ここで出してもいいが、フルーツ牛乳は地球産だから、ホイホイと仕入れて売るってのはどうなんだって思うところがあるんよな。
なにか子どもたち用の代替品を考えないといけないなー。
「凄いなこの樽! 飲んでも飲んでもなくならないぞ!」
「なあ、ここに住めばずっと飲めるのではないか?」
「「「おおお!」」」
はあ……。
この、お行儀が良い子どもたちと比べて、大人たちと来たら。
収拾つかなくなる前に釘を差しておくか。
「いいか、忘れてないよな? ビール飲み放題は今日だけだからな! 明日からは飲むのに特殊な物々交換が生じるからな! 住んでも対価がなけりゃ飲めねえぞっつうか、住もうとすんな!」
「そんな……」
「住ませてくれよお……」
「こんな旨い酒に、なに出したらいいのかわからねえよお……」
こいつら……。
これはさっさと村の整備を進めねーとだめだな。
なんでだめかって、パンさんが自分が飲むために、ドワーフたちを甘やかして飲みホ継続しそうだからだめだ。
「あはははは! ほら、あんたたち、もっと飲みなさいよ! あはははは!」
……みろよこれ、黙ってたら確実に明日も継続するぞ。
明日からはきちんと俺が見張って、グダグダにならねーようにしねえとな。
うん、そうだな、明日からだ。
今日はもう……いいな!
パンさんにグダグダ言うのは明日だ、明日!
だって俺もたくさん飲みたいんだもの!
めんどくせーこと考えるのは、今日はもうおしまいだ!
「おらおら! どいたどいた! 俺にもビールをよこせえ!!!」
「うおおお! ユウおめえ、割り込んでんじゃねえぞ!」
「うるせえ、俺がルールだ!」
「そりゃねえぜ!」
こうしてここに来てから二回めとなる大飲み会が始まったわけだが……明日ひでえことになろうとはこの時点の俺は……まあ、予想してますわ。
……明日はパンさんポーションのお世話になろっと。




