第24話 温泉宿お披露目
「はいはい! 通して通してー」
ヒゲモジャとネコ耳の群れをかき分け、施設の前に出る。
マルリさんにも並んでもらい、今回の経緯を話した。
カクカクシカジカと、なぜこの空洞に来たのかを改めて説明し、その流れでこの施設――温泉の説明に入る。
「でな、マルリさんに話したらさ、空洞にも何か面白いのを作ってくれないかって言われてね、思いついたのがこの温泉なんだ」
「おんせんってなんだ?」
「ほら、臭くて熱くて飲めない泉があるだろ? それに手を加えて、中に浸かれるようにしたのが温泉なんだよ」
「浸かれるほど冷ましたってのか? 確かにそうすりゃ体くらいは洗えるだろうがよ……くせえ水にわざわざ入ってどうするってんだ?」
「それがよ、温泉ってやつは浸かるだけで疲れが取れたり、肌が綺麗になったり……それはそれは色々といいことが起こる不思議な泉なんだぜ?」
「疲れが取れる?」
「肌が綺麗になるだって?」
「ざわわ……ざわわ……」
モジャや猫たちがざわめいている……期待半分、うそじゃろ半分……ふふ、温泉の良さはよ、効能だけじゃねえのよ。
熱い湯に浸かるという文化がないお前たちに……風呂の……いや、温泉の魅力を一つ教えてやろう。
「ちなみに……温泉から出たあとに飲むと、驚くほどに美味い酒がある」
「マサモをどうにかしたやつに氷入れたやつだろ!」
「ふふふ……違うね! お前らがまだ知らない、新たな酒だ!」
ヒゲとミミたちが目を見開いて固まっている……あ、騒ぎ始めた。
新しい酒ときいて、キャパオーバーしたな?
なんだか、始まりの村の連中を思い出すよな、このノリも。
あっちは肉だったが、こっちは酒かよ。肉は肉でアレだが、酒だと一気にダメ人間感増すから困るわ。
「その酒を……なんと今日だけ対価を無しで飲ませてやる!」
うおおお! と、我先に温泉に向かおうとするドワーフたちに待ったをかける。
「こらこら! 止まれ止まれ! 説明はまだ終わってねーぞ!」
ドワーフたちがピタリと止まり、ギロリと睨みつけてくる……どんだけ飲みてえんだよ。
「酒と温泉は今日は対価無しで飲めるし入れる。明日以降は対価を貰うことになるが、それについてはまた後で詳しく説明をする……って、まだ行くんじゃねえ!」
ほんと、こまったヒゲとミミたちだわ。
「この温泉には色々と守ってもらいたいことがある! それを聞いてからじゃないとだめだ!」
ったく、油断も隙もねーな……はあ、酒の話は最後にするべきだったわ。
このまま行かせちまったら、確実に男女混じって服を着たまま湯にドボンだぞ。
つうか、その前に靴を脱いでもらわねえと困るっつうの。
「まず、ここは靴を脱がないと入れな……って、こらこら! ここで靴を脱ぐんじゃねえ! 後から! あーとーかーら!」
皆一斉に靴を脱ごうとしやがって……素直すぎんだろ。
「まずはここから中にはいって……靴を脱いだら、この板に乗る……そしたら、この中に靴を入れて、扉をしめて……そうそう、その札を抜くんだよ。やればできるじゃん」
「この小さな板はなんなのだ?」
「ああ、それは靴を入れる棚の鍵……ってわからねえか。扉をしめて札を抜くと、開かなくなるんだよ」
「へえ、おもしれえな。けどよ、これじゃ靴が取れないじゃないか」
そうくるか……鍵を知らねえような奴らなんだ、盗難防止とかそういう話をしても『なんで?』ってなりそうだな。
うーん……しょうがねえ、ちょっと違うがとりあえずこう言っとくか。
「例えばよ、あいつがお前の靴を間違えて履いたらどう思う?」
「うげ……あいつ足が臭えんだよ……最悪だ」
「うるせえぞ! お前だって臭えじゃねえかよ!」
「喧嘩すんなって。人に履かれるの嫌だろ? だから間違えてもってかれないように、こういう仕組みを作ったのさ」
「「「なるほど……」」」
「札に数字が書いてあるだろ? 扉にも同じのが書いてるから、わからなくなることもない。札を持って先に進んでもらうが、無くしたら帰りは裸足だからな!」
興味深そうに札を見たり下駄箱を見ているな……分解しようとしてねえよな? 大丈夫だよな? 壊すなよ……。
何人かのドワーフが名残惜しそうにしていたが、声をかけて先に進む。
板張りのロビーには、ゆったりと座れる椅子が並んでいるのだが……案の定、何人かのドワーフが駆け寄ってまったりとしはじめた。
「こらこら、そこに座ってたら旨い酒を飲めなくなっちま――」
まだ喋ってる途中だと言うのに、シュバっと戻ってきやがった……ほんとこいつらよ。
ロビーを抜け、細い通路に入って少し歩くと……はい、目的地に到着だ。
「はい注目。こっから先に温泉……例の熱い泉がある。俺たち男は青い布がかかっている方に、女はパンさんと一緒に赤い布の方にはいってくれ」
「なあ、なんでここで分かれなきゃないんだよ?」
「温泉はな、服を脱いで入るんだよ。裸の男女を一緒にするわけには行かないだろうがよ」
「は? 裸くらいなんだよ。水浴びだって一緒にやるじゃねえかよ」
「え、もしかしてユウのとこってわざわざ分かれんの?」
「男女にわかれて水浴びするとか、ずいぶん変わった風習があるんだなあ、お前んとこは」
なん……だと……?
夢の混浴チャンスを……俺は……俺はむざむざ逃してしまったと言うのか……?
ちくしょう……俺はなんてことを!
ドワーフの女性たちは……ギリストライクゾーンに入るか入らないかの方々が多いから……そこまで悔しくはないが……。
なし崩し的に、パンさんとご一緒するラッキースケベ的なイベントは嬉しくないのかと言われれば、正直嬉しい。
あいつ、黙ってりゃかわいいからな。
そりゃ、合法的に混浴できるチャンスがあったら活かしてえよ……なのに、俺と来たら……!
「こ、このスケベ! にゃにゃにゃ、にゃん、なんてことをかんがえてんのよ!」
「あ、やべ……パンさん、違うんだよ……ほら、文化は大切にしなきゃ……だろ?」
「誤魔化し方下手くそか! あのね、いずれあっちこっちから人が来るようになるのよ? 始まりの村の子たちは、男女分かれるのが普通って感じだったでしょ!」
「そうだっけ……そういえば、そうかも……」
「だから混浴はダメよ! お風呂は男女別! それがリプラシル基準なの! いいわね!?」
「はぁい……」
悔しいが正論だわな……。
つうか、ドワーフたちがおおらかすぎんだよ……見ろ、俺まで引っ張られてパンさんとお風呂とか……やっべえこと考えて……パンさんが真っ赤な顔で睨みつけている。
あいつ、また俺の心を……あ、顔反らした。
くっそ……パンさんのくせに……まあいいや。
「ま、まあ、そんなわけでな。温泉ってのは、基本的に男女別に入ってもらう決まりになったからよ、気をつけて入ってくれ」
「それじゃあ、なんだい。息子とも入れないっていうのかい?」
「基本的に、って言っただろ。小さな子どもは関係ないし、家族で入れる小さな家族風呂ってのもあるからさ、一緒に入りてえ奴らはそっちを使ってくれ」
「そういうことなら仕方ねえか……」
「その割にユウのやつ残念そうにしてねえか?」
「女の裸見て何がおもしれえんだかなー」
うるせえな! 終わった話を蒸し返すんじゃねえよ!
ミミの方々の裸は俺だってそこまで興味がないわい! 俺が見たかったのは――
「ユウ……あたしがあたしでいられるうちに話を進めなさい……」
「お前また俺の心を読みやがって……」
「ろ、ろくでもないことを考えるからでしょうが! ほら、いいから進めて!」
くっそ、今日はもういらんことを考えるのはやめよう……なんかこいつ、さっきから俺の心を常時読んでる気がするわ……ほら、目をそらした。
「話を戻すぞー、布をくぐった先に服を脱ぐ部屋があっからよ、靴を入れた棚と同じようなのがあるから、脱いだ服はそこに入れてくれ。棚に書いてある番号と同じ所を使うんだぞ」
後は入浴のお作法だが……それは俺とパンさんがそれぞれ中で説明すれば良しと。
「うっし、というわけで、男は俺についてこーい」
「「「「おおお!!」」」」
俺はヒゲ共を、パンさんと子どもたちはミミたちを連れてそれぞれ浴室の中へと向かうのでありました。




