第22話 温泉、いいですよね
◇◆SIDE:リパンニェル◆◇
「はあ~、お風呂も良いけどやっぱり温泉よねえ……」
昨夜はほんと、我ながら酷かったわねえ……あそこまでのやらかしは久々かもしれないわ。
……いやまあ、お風呂で寝ちゃうことはちょいちょいあったのよ。
でも、神界の自宅のお風呂はあそこまで広くないから、沈むことはなかったし、こっちの自宅だと、ルーちゃんが起こしてくれるから、事故ることはないのよね……。
うーん……こっちのお風呂、ソロで入るのはヤバいかも。
広くて気持ちがいいから、スゥっと寝ちゃってゴボっと底まで行っちゃうのよねえ……そうね、こっちで入る時は、娘たちと一緒に入ることにしましょう。
二人がいれば、やらかす前に起こしてもらえる――
「きゃっ……って、なにしてるの、二人とも」
「ママごめんねー?」
「ごめんなさい母上!」
水しぶきをかけた犯人は、その娘たちだった。
どうやら広い湯船に喜んで、バシャバシャと盛大に水を散らしながら泳いでいたらしい。
温泉マナーとしては良くは無いけど、他に誰も居ないし、反省してるみたいだから今日くらいは許してあげよう……。
大丈夫よ、と手を振ると嬉しそうにまた泳ぎ去って行った。
しかしびっくりよねー……。
まさか、ユウとの間に二人目の子が出来るだなんて。
……おっと、言い方に酷く問題があったわね。
言い直し。
まさかダンジョンコアが二人も人化するなんて。
ルーちゃんは様々な偶然と奇跡の賜物で生まれた存在。
あの子にとって一番の奇跡は、ユウが描いたイラストデータに、私の神気が吸い寄せられたってところよね。
むかーし、某SNS見てたらユウが描いた漫画が流れてきたのよ。
弾幕シューティングのキャラクターの二次創作だったんだけど、当時はまだ元ネタを知らなかったのに、妙にハマっちゃってねえ。
あれよあれよという間に、同人誌の委託通販サイトでユウの本を買っちゃってさ、それからずっと密かにファンだったのよね……。
そんなユウが新作のために描いてた設定画よ? スマホに宿った加護が、ホイホイと吸い寄せられないわけがないじゃない……。
元の加護から分かれ、メモリーカードに宿った神気は、そのままでは何も成さなかったでしょう。
けれど、そのカードが落ちた場所はユウが作った洞窟で、滲み出る神気にマナが引き寄せられちゃって。
神気とマナがいい感じに結合して……奇跡的にこう……設定画をもとに受肉を果たした……と。
……我ながら何言ってるかまったくわかんねえ。
でも、シュロップちゃんがいってたから合ってるはずよ。
え? 聞いてもわからねーだろって?
ふふ、それが違うのよねえ。
ユウには内緒だけど、この間、シュロップちゃんの中身を最新の神界LLMに変えたのよ。
フィルタリングしながら地球のサーバーに流してたけど、やっぱよくないよねって変えたんだけど、パーソナルデータは据え置きだし、神界の情報にも詳しくなったから全く問題なし。
……どっかの誰かに似たような人格なのは引っかかるけど、元々そうだったみたいだし……偶然でしょうね。
とにかく、それを後付けで無理やり再現して生まれたのがナーちゃんってわけね。
……今思うと、あれだけじゃ受肉までできない筈なのよねえ。
そこはたぶん、ルーちゃんが手伝ってくれたのが影響してると思う……けど、そこまでは私もわからないし、シュロップちゃんも首を傾げていたから……ほんと謎よね。
いや……ワンチャン、ユウになんかスキルが生えてる可能性もあるか。
そう言えば、ユウのステータスってちゃんと見たことが無かったわね。
どうせそこらのモブに不老不死が生えた様な程度だろうけど、気になるし後で見てみましょう。
うーん……しかし、あのダンジョンがこうなってるとはね……。
こうなると他のダンジョンも気になってくるわね。
確か……海の近くと、どこかの草原にひとつずつ有ったはず。
後は細々としたのがあちこちにあって……もう一つくらい大きなダンジョンがあったような……。
ん……なんか暑くなってきたわね……はあ、ビール飲みた。
のぼせちゃう前に、さっさと上がって一杯やりますか!
「ルーちゃん、ナーちゃんそろそろ上がるわよー! フルーツ牛乳飲ませたげるから、いきましょ!」
「わーい! ルーちゃんフルーツ牛乳好きー!」
「ふるーつぎうぬう?」
「あのね、とっても美味しい飲み物だよ! いこう、ナーちゃん!」
「ほほう。姉上がそこまで言うのなら、さぞかし!」
ふふふ、ナーちゃんもきっと気に入るでしょうね。
さあ、あたしのビールが待っている! 行きましょ、行きましょ!
◇◆SIDE:ユウ◆◇
はあ~。
あっちはなんだか楽しそうな声がするなあ。
まあ、こうして静かにゆっくりと浸かるのも悪くは無いけどな。
「温泉という物は……風呂とはまた違った良さがありますな」
「うむう、ユウ殿は本当に素晴らしき物を創って下さる……」
「ユウ殿、この温泉! 命に代えても護り抜きますぞ!」
……モルモルたちと混浴ってのは、ちょっとアレだけどな。
しかし……パンさんまじかあ。
いくら頑丈な神族つってもよ、風呂の底で一晩明かすことは無いだろ……。
なんつうか、女としてというか、人として……いや人じゃねえのか。
女神として終わってるというか……。
そのまま命が終わらなくて本当に良かったねというか……。
……あ。
パンさんが一晩……風呂に……浸かったんだよな……。
すっげえたっぷりと出汁が……もとい、神力だか加護だかが湯に溶け出してんじゃね?
やべえ……家のモルモルたちが確実にヤベエ強化されてっぞ。
帰ったらステータスチェックしねえと……。
まったく、余計な仕事ばかり増やしやがってよー。
はあ、あいつって無意識に加護をばら蒔いてるから厄介なんだよなあ。
他にいくつダンジョンがあるかは知らないけどさ、絶対に他のダンジョンにも無意識にやべえ加護を与えてんだろうよ。
でさあ、どうせまた別のダンジョンに行く羽目になるだろ?
そしたら、きっとさ、ここと同じようなことが起こると思う……いや、確実に起きるだろうな。
俺はパンさんと何人娘を作ることになるんだろうな?
………と、言い方がまずいな。
俺は何人、ダンジョンコアを人化させることになるんだろうな?
うん、これでよいよい。
はあ、いらんこと考えたせいでのぼせちゃいそうだわ。
ビールビール! 上がってビールを飲もう!
あいつだってサボって飲んでたんだ! 俺だって湯上がりビールを決める権利はあるよな!
っつうか、問答無用で飲ませて貰う!
「おい! モルモルたち上がるぞ! 今日は特別にコーヒー牛乳飲ませてやる! 旨いから覚悟しておけよ!」
「こーひーぎゅ?」
「何やら分かりませぬがユウ殿が言うならさぞや……」
「我らこう見えても旨いものには目が無い故、楽しみでなりませんな!」
モルモルたちを連れてロビーに戻ると、丁度パンさんたちも上がったところだった。
「お、良いタイミングだったようだな! ヘイパンさん! 俺にビール! モルモルたちにコーヒー牛乳を出してくれよ!」
「はあ? なによそれ。私はあんたのAIエージェントじゃ無いんですけどー?」
「風呂の底に沈む女神……仕事を頼まれたのにドワーフと飲んだくれる女神……同僚だという女神様と会ったときに面白おかしく伝えたら……どんな顔をするかな……」
「あー! あーあー!! へい! 生一丁! コーヒー牛乳三丁おまち!」
「お、わりいね」
「くっ……g……g……g……」
ぐうの音も出ない……いや、それどころか『ぐ』の発音も出来なくなってるわ。
今回のやらかしは致命的だからな……あれはマジで恥ずかしすぎるやらかしだ。
まあ……反省してるようだし、あんまり擦らねえようにしてやろう……。
「ま、風呂ネタは今後の働き次第で忘れてやらあ。ほらほら、お前もビール飲め飲め。ルーちゃんたちにもなんか出してやるんだろ?」
「そ、そうだった! はい、ルーちゃん、ナーちゃんフルーツ牛乳よ」
素早くフルーツ牛乳を取り出し、さらに自分の分の生ビールを即座に取り出している。
どうやったらジョッキに入った状態の生を取り出せるのか不思議でならないが、とっても便利なのでつっこまないでおこう。
「はーーーー!! 旨いな!!!」
「旨いっ! やっぱ温泉の後はキンキンの生よね!」
「だなあ!!」
我々がビールのうまさを噛みしめている横で、娘たちとモルモルたちが牛乳談義をしている。
「ルーちゃんはフルーツ牛乳好きー」
「主よ、このコーヒー牛乳も中々ですぞ」
「姉上、今度は我らもこーひーぎゅうにうとやらを試してみましょう!」
「ユウ殿! 我らにも今度ふるーつぎゅうを頼みますぞ!」
「おう、モルモルたちには世話になってるからな。またごちそうしてやるよ」
「「「うおおお! 流石はユウ殿! 主の主だ!」」」
モルモルたちが、ぴょっこんぴょっこんと、大きく跳ね上がり、それにルーちゃんとナーちゃんも真似をするようにぴょこぴょこしている。
うーんかわよ。
しっかし、良い湯だったな。
使った感じ問題は無さそうだし、一休みしたらドワーフたちを招待してみるか。




