第16話 肉に塩、そして。
はい、というわけで拠点に戻ってまいりました!
いやあ、なんかもう一生分塩掘った気がするわ。持ち帰った分だけでも、かなりの量だ。
いったい何年分あるのやら……。
はあ、めんどくさくなる前に、ストレージの整理をしておかねえとな。こういうのはさ、拠点に戻ったらやらねえとだめなんだ。
後回しにしてると、どんどん面倒になってさあ、ストレージをごっちゃごちゃのまま放置しちゃうんだよ。
んで、そのうち出先で満杯になって困る羽目になるんだわ。
いやまあ、これはゲームの話だけどさ、ストレージっつうものがある世界なんだ、実際に同じことが起こらないとは限らないだろ。
だからこうして、面倒になる目にこまめな整頓を心がけるってわけ。
スマホを拠点のアイテムボックスに向け、収納から岩塩をぶちこんでいく。
おーおー、ドサドサといい音たてて出てくるわい。
いやあ、マジでやべえ量だな。入れても入れても数が減らねえ……。
うーむ。
今入れている岩塩、これは俺たちだけでは使い切ることはできないだろうな。
けれど、誰かと出会い、そしてまた、別の誰かと出会い。そうして出会った人たちに塩を配っていけば……きっと、いつか、無くなり、補充に向かう日が来るはずだ。
再び塩の洞窟に向かうとき……俺はどれだけこの世界を変えられているんだろうな。
ふふ、なんだか楽しみになってきちゃったな。まあ、ゆっくり自分のペースで進めていこうじゃないか。
ポコン!
『ちょwwww あんたww な、なに語りながら……アホなことwww してんのwww 』
「くそがよ! な、何勝手に心読んでんだよ! 俺だってたまにはポエミーになるんだよ! べ、べつにいいだろうが!」
ポコン!
『ポエムをばかにしてるわけじゃないのよwww 自分がなにやってるか、冷静にか、かんがえて……ヒー、もうだめ、おなかいたいwww ほんとなにしてんのwwww』
草生え散らかしてうるせえなあ! 何してるって、アイテム整理だろうがよ! 探検から帰ったら、カバンのアイテムをチェストに入れる、常識だ……あっ……。
……スマホのストレージと……アイテムボックスは……中が繋がってる神仕様だったわ……。
ポコン!
『数が減らねえってぼやいてましたけど、減るわけないですよねwww』
ポコン!
『ちなみにストレージは無限じゃないですけど、それに近いほど入るんで、ニモパンにはならないですwwww』
俺はなんて無駄な時間を……くっ、顔がクソ熱いぜ!
……なんかムカついたので、スマホはポッケにないないしてやった。
ええいくそ、ヒッグホッグの肉でも焼いてすべて忘れてやる!
大きな石の上に肉を取り出し、ナイフでいい感じにカットする。
次に岩塩を……フンッ! フンッ! よし、……スマホの角で砕き、パラパラとお肉にかける。
あとは焼くだけだが……スキレットなんて気が利いたものは……ちっ、追加してくれなかったので、棒に刺して焼く。
ああそうさ。
今夜も遠火でじっくりさ。
……
…
遠火なのでアホほど時間がかかる……。
焼肉はよ……こうして焼くのを待ってる時間が一番キツいんだよな。
さっきからさ、ジュウジュウと脂が火に落ちていい香りをたてるんだぜ?
『俺死なねえし、少しくらい生でも平気くね?』って悪魔が囁くんよ……でも、天使ちゃんが『正直わたしもいけるくね? って思うけど、今コンプラとかうるさいから……ね?』って、世知辛いことを言うので、じっと耐えてるんよ……。
……いや、誰に怒られるわけじゃねえし、別によくね? そうだよ、ここでは俺が法だ!
ポコン!
『だめです。あと三分我慢しなさい』
ちぇ……管理神様に言われちゃあ、しょうがねえや。
……
…
うおおお! 三分経った! いただきます! ほれ、クロベエくんも! あっちいから気をつけろよう!
「うんめえええええええ!!!! あっづ! うっめ、あっづいけど、うっめ!」
「あちい! あちい! うまい! うまうま!」
とろけた顔でむしゃぶりつく我々。
いやあ、洒落にならん! マジで洒落にならん旨さだ。
もう少しワイルドな味を想像したけど、普段買ってる豚肉よりよっぽどうめえじゃんか。
いやあ、もうこれ優勝!
「ほら、ユウくん、ここみて! この脂身がすごいのよ! ああ凄く甘いわあ……」
「マジで? うおおお! マジだ! やばいなこれ! あーでも、胡椒とかありゃなー」
「あるわよ黒胡椒! ほら、お肉みせて? あたしがゴリゴリかけたげるから!」
「サンキュー! うおおおおお! 最強に旨い!」
胡椒のおかげで、僅かにくどかった脂身がめちゃくちゃ美味い! やべえ、胡椒最高!
「今度はこのレモンをかけて……んん~~~!!! 美味しい! 美味しい!」
「わ、レモン果汁あんの? 俺にもー! うっひょおおおうめえ! いやあ、塩レモン最高! ビールが欲しくなりますな!」
やばいやばい! 俺さ、塩レモンが一番好きなのよ! さっぱりしててうまいじゃん? うおおお、正直一枚でいいかなって思ったけど、これならもう一枚いけるわ!
……
…
ふう……堪能したぜ。ビールがあったら最高だったが、贅沢はいってらんねえからな。
……ていうか、そろそろつっこんだ方がいいよね?
「あのー、パンちゃんさん?」
「はい? あ、お茶ちょうだい」
「ああ、はいはい。茶はないので水ですが……って、そうではなくて! なんでちゃっかり居るんすか?」
「ほんとだ! 女神がさりげにまじってるー」
しれっと混じっていたパンちゃんが、呆れた顔をする。
「え? 今更? いやさー、様子を見てたらね、なんか美味しそうなの焼いてるじゃない?」
「そらね。これが我々のメシなわけだし、当然焼くよね」
「私の今夜のご飯さ……カップ麺だったわけよ。なんか、すごく悲しくなったわけ。頑張ってるのにな、ガチャ爆死したし、なんでいいこと無いのかなって、泣きそうになったの」
「ガチャ爆死はしらんがな」
「お肉いいなあ、そう言えば私、ロース予約してたなー、そうだ、食べなきゃなーって思ったら……ここにいたわけよ」
「いたわけよじゃないんよ。ぬらりひょんじゃねえんだから、ぬるっとくるんじゃありません!」
「誰が妖怪の総大将か!」
ていうかさあ……普通に喜んで使ってたけどさあ。
「つかさ、胡椒とかレモンとか出してくれたけどさ、普通は偶然見つけて興奮するような……こう、苦労して手に入れるようなもんじゃないですか? それを……こんなぽっと出しちゃっていいん?」
……しかもスーパーの値札ついてるし、使いかけだし……。
「あ……ごめん……異世界生活を楽しんでねと言ったのに、水を差しちゃったわね……」
しょんぼりとうなだれるパンちゃん。ああ、いやいやちゃうんよ!
「ああいや、ただ、つっこみたかっただけで、別に嫌じゃないんだよ。むしろさ、そういうのがアリなら、どんどんやってほしいなって」
「……マ? ユウくんって発見の楽しみとか考えないタイプ?」
「昔はそうだったよ……けどさ……最近、育成バフ系や消耗品系のDLCを買うようになったんよね……」
「あー、わかる! 遊びたいけど時間がってなると買っちゃうわよね」
「背に腹は代えられんのよ……つーわけで、その胡椒はそのまま頂戴ね」
「しょうがないわね……」
「また肉あげるからさ、今度は醤油持ってきてよ。醤油とか味噌とか自作すんのぜってーむりだし」
「えぇ……まあ、生活に必要なもんだしね。それでモチベ上げてくれるなら儲けものよ」
ほんと、話がわかるやつで助かるわ。
なんやかんや言っても、あれ欲しい、これ欲しいで結果的に全然スローじゃねえスローライフをやる羽目になるのかなーと思ってたんだけど、思った以上に適当に生活できそうで助かったわ。
ただ、パンちゃん経由でのお取り寄せは、基本的に俺たち用で、住人たちには使わせない。
それやっちゃったら本末転倒、技術の進歩にブレーキをかけちまうからね。
最終的な目標は、自分たちで世界を発展させられるようになることだ。
レモン塩で肉を食わせたら、それはかなりいい刺激になるだろうから、それはやるつもりだけど、そのとき使う果汁は、この世界にもあるレモン的な果物だ。
それも、できれば自分たちで採取した上で体験させてやりたい。
そういう、成功体験が巡りまわってくのが、パンちゃんが言うバグパッチが伝わっていくってことなんじゃないかなって。
「そう、そんな感じでいいのよ。あなたの役割は、人族と魔族に文化を与え広めることだからね。……魔族はちょっと難しいかもしれないけど……私も手伝ってあげるから、がんばってねー」
「まーた心を読みやがって……まあ、頼りにさせてもらいますよ、パンちゃん様」
「ふふ、期待してますよ、ユウくん……じゃ、ごちそうさまー」
肉を三枚たいらげ、パンちゃんは消えるように帰っていった。
……ユウくんとか、親以外に呼ばれたのいつ以来だろう……。
予想外の客が来やがったが、なかなか楽しい夕食だった。クロベエと二人の夜も悪くないけど、馬鹿話できる相手が居るのはいいよなあ。
小屋に横になり、明日のことを考える。
食料はまだたっぷりあるし、ヒッグホッグの魔石は4~5回満充電できるわよって、パンちゃんが言ってたので、狩りはお休みにしても大丈夫そうだ。
ああ、そうだ……すっかり忘れていたけど【開拓】のクラフトが終わってたんだ。
ようし、明日は開拓の日にしよう!




