第20話 女神危機一髪
む……朝か……ええと、八時……もうちょい寝たいが、しかたねえ、起きるか……。
寝室から出て事務所に行くと、クロベエとヒカリがまったりとくつろいでいた。
「おはよ、クロベエ、ヒカリ」
「ユウ、おはよー」
「おはようございます、親父殿!」
む、クロベエがヒカリとぴったり寄り添ったまま離れねえ……。
吹っ切れたのか、何なのか知らんが、でっかい長毛のモフモフが二頭くっついてるのはゴージャスでいいね。
クソデカキャッツたちをひと撫でし、朝食を作る。
といっても、ストレージからスープが入った鍋を出して、トーストにサラダを添えただけなんで、料理らしい料理ってわけじゃねえけどな……む、スープが少し冷めてるな……何度か出し入れしてたし、しゃあねえか。
ちょっとだけ加熱して……よし完成っと。
クロベエたちには……んー、焼いたヒッグホッグ肉がまだいっぱいあるからこれでいいな……。
「クロベエ、ヒカリ。先に食っててくれ。あいつら起こしてくっからよ」
「わーい、ありがとうユウ。いただきまーす」
「いただきます、親父殿!」
ねぼすけさんたちを起こしに寝室に戻り、トントンとノックをしてからガチャリと開けてみれば……。
あら?
ベッドで眠っているのは天使がふたり。
ケツ丸出しガールの姿はどこにも見当たらなかった。
「おはよう、ルーちゃん、ナーちゃん。朝ご飯が出来たから起きな」
「ふあぁ……おはよ、ユウ」
「おはようございます……父上……」
ぽわぽわとした顔でぼんやりとする二人をつれて、事務所へ。
「なあ、クロベエ。パンさんがいねえんだけど、どこに行ったんだ?」
「うんー? 女神は昨日でてったまま帰ってきてないと思うよ」
「ああ、クロベエが言う通り、母上殿は戻っていないな」
ありゃ? そうなん?
言われてみれば、明け方になってもまだ帰ってきてなかったな。
……向こうで何か厄介ごとでも起きたんかな?
ああ見えて、あいつは責任感が強い女神だから、サボって遊び歩いてるってこたあないだろう。
まさか……女神のパンさんでも手に負えない程の何かに巻き込まれているんじゃ……?
ないな、ないない。
どうせしょうもない小さなやらかしでも発生して、帰るに帰れなくなってんだろ……。
ま、どうでもいいことだな。
今はかわいい娘二人との朝食を楽しもうじゃないか。
ルーちゃんとナーちゃんにおかわりのトーストを焼いてあげ、和気あいあいと朝ご飯を楽しんでいると……リビングの片隅がぐにゃりと歪んだ。
どうやら女神様のご帰還のようだ。
「おかえり。さては風呂に入ったあとにお布団直行したな……って、その割にはずいぶんと疲れた顔をしてるな? マジで何か起きちゃってた?」
向こうでくつろいだにしては、普段見ないレベルでしんどそうな顔をしている。
いつものように二日酔いかなとも思ったけど、酒の匂いがしないから違うだろう。
……つうかこいつ、なんだか様子が変だぞ?
「……別に……大丈夫だから……気にしないで……」
「あ、うん。ほらほら、ナーちゃんこぼしてるよ。ルーちゃんもここ、ついてるよー」
「いや、そこはもう少し食い下がって聞きなさいよ! ……まあ、聞かれても話さないけど」
そう思って突っ込んだ話は聞かなかったんだけど、ほんとめんどくせえ奴だな。
……うーん、それはそれとしてしんどそうだ。
食欲は……なさそうだな。とりあえずスープでも出してやるか。
「ほら、コンポタでも食ってゆっくり休みな」
「ん……ありがと……ねえ、私にもトーストちょうだい。二枚ね」
……食欲あるじゃねえかよ。
様子は妙だが、体調が悪いわけじゃなさそうだ。
何があったのか気になるけど、聞いたところでまともに答えてくれなさそうだし、ほっとくしかねえな。
……
…
朝食が終わると、パンさんのテンションはまあまあ戻っていた。
この様子なら、温泉施設の建造を進めても良さそうだ。
ガワだけなら俺だけでもどうとでもなるんだが、浄化設備を稼働させるとなればモルモルが必要だからな。
普通に召喚するだけならルーちゃんだけでもいいんだけど、今回はなんかちょっと特殊なことをするらしくてな。
朝食中に『ダルいなら寝てていいんだぞ』と言ったら『大丈夫よ、それにあたしがいないと召喚できないし』って言ってたんだ。
……っと、さっそくモルモルを喚び出すようだ。
「ルーちゃん、こっちに来てママとおてて繋いでね」
「はーい」
一見すると、お散歩に出かける母子のようで微笑ましくみえるが、実はああやって情報共有をしているらしい……。
カクカクシカジカがリアルで出来てしまうってのは中々便利だけど、俺がやったら余計な情報まで送っちまいそうだからなあ……。
「ふんふん、なるほど。この子たちを呼んだらいいんだね」
「うん、がんばってねルーちゃん」
なんでも、こうしてちゃんと情報を与えないと、モルモルはモルモルでも別のが来てしまう可能性があるらしい。
名付けがされてるネームドなら大丈夫らしいけど、モルモルはいっぱい居るっつうか、知らんうちに増えるから、名無しが多いからなあ。
あれだな、パンさんがロックオンしてルーちゃんが召喚するような感じだわ。
「よーし、出てこいモルモルたちー! 新たなしょくばだよー!」
もはやすっかり見慣れた、召喚の光柱が立ち上る。
ぽよんぽよんと弾みながら次々に現れるモルモルたち。
頼むぜ、モルモルの精鋭たちよ! これで、お楽しみの温泉が建造できる!
さあ、リプラシルがまた新たな一歩を踏み出す時が来たのだ――
「む……ここは? おお、ここが新たな現場か……」
「そのようだな、同胞よ。おお! そこにおわすは女神様! 昨夜は大変でしたな!」
「あれにはモル助教官も絶句していたからな……」
「うむ。流石は女神様と感心したものよ……」
――はい、ちょっと一時停止。
なんだか、面白そうな会話が聞こえてきたぞ。
「なになに? なにがあったんだ?」
「モルモル! しー! しー!」
モルモルたちの発言に顔色を変え、黙るようにジェスチャーをするパンさん。
しかし、それはモルモルたちには伝わらなかった。
なぜなら、その概念がまだリプラシルに無いのだから……。
人差し指を立て顔の前に出されたからと言ってその意味がわからない。
『シー』と言われたところで何も通じず、こてんと首を傾げるかのように、体の上半分を斜めに傾けている……なかなか器用なことをするな……。
「女神様が湯の底に沈んでいたのを見つけた時は驚きましたぞ」
「まさか湯の中で寝ているとは……流石ですなあ」
「あーー! しーってば! もう! もうもう! なんで言っちゃうの! しーって言ってんのにい!」
湯の底で……? 寝ていた……だと?
「おい、パンさんよ」
「よ、ようし! じゃ、ルーちゃん、ナーちゃんお仕事にいこっか! 今日は火のダンジョンと塩のダンジョンのシステムを――」
「おら、まてよ女神様。湯の底で寝ていた? どういうことかヒューマンの俺にもわかりやすく説明してくださいませんかね」
「べ、べつにい? よ、よくあることじゃない? お風呂で寝ちゃうとかさ」
まあ……良くある……いや、あってはいけないが……まあ珍しい話じゃあねえな。
浴槽で眠ってしまったがために、全身が湯に浸かり溺れてしまう……なんて、風呂でのあかん事故ケースとしてもあげられることは多いわな。
けど……パンさんのは、それとはちょっと違うっつうか、人にはできない感じのアレだよな……。
「我らの助けを要らぬとばかりに払いのけ、ごぼごぼと息を吐きながら丸くなっていたな」
「ああ、流石にそのうち起きるだろうと思ったが、まさか朝までそのまま寝てしまうとは……本当にお体は大丈夫なのですか?」
モルモルたちが凄まじいことを言っているんだよな……。
「なあ、モルモルがやべーことを言ってるんだが、これってお前が怠そうなのと関係あるよな?」
「うう……お風呂で寝ちゃうことあるでしょ? でね? そのままお湯にドボンしちゃうこともあるでしょう?」
「あるでしょって……お前、それまじで危ねーやつだからな」
「いや……さ、あたしさ、結構酔ってたじゃない? 酔うと思考が雑になるじゃない?」
「酔って風呂っつうとこからホントはダメなんだけどな」
「でさあ、湯船にどっぷり沈んじゃったんだけど……さ、まあ温かいしこのままでもいっか……って」
「良くねえんだよなあ……」
「ほ、ほら、私女神じゃない? 余程のことがないと消滅しないから……さ?」
「まあ……神様って頑丈そうだからな……そういうこともあるんだろう。でもさ、なんでそんなに怠そうなんだ?」
「うーん、流石にさ、八時間も湯船の中に居たからさ……少しのぼせちゃったし、呼吸もしにくかったでしょうから、安眠とは言えず……ね?」
「ね、じゃねんだわ……お前さ、ほんと女神でよかったよね……」
「はい……しみじみそう思います……」
こいつ、人族だったら長生きしねーと思うわ……。
成人そこそこで、やさぐれ系女性主人公にありがちな、缶チューハイ爆飲からの白いお部屋ご招待とかやらかしてたと思うぜ……。
神族とは言え、ちょっとこれはありえねえ。
用も済んだし、軽く戒めておくか……。
「無駄に心配させた罰として、パンさんは周辺の固有種について調査してこい」
「ええ……って、あんたあたしを心配してくれてたの?」
「当たり前だろ……朝帰りな上に、あんなひどい顔してさ、なんか起きたかと思うだろうがよ」
「ふ、ふうん、そうなんだ……へえ……」
「うるせえな、はよ行けって! あ、ああ、そうだ。ルーちゃんや、ナーちゃんに春の大地や塩のダンジョン、うちの辺りのお話をしておいてくれるかな」
「わかったー!」
「ねえねえ、ユウー、心配した? 心配した?」
「ああもう、うっせえな! あんまりしつこいと禁酒刑にすっぞ!」
「ヒェ……それだけはお許しを……い、いってきまーす!」
まったく……油断した頃に結構ヤバめのやらかしすっから、ほんと気が抜けねえぜ。
……温泉で同じことされないよう、モルモルやルーちゃんに言って監視してもらったほうがいいな……。




