第19話 ぼくのかんがえたさいきょうのアレ
あれから時は流れて……つっても、夜になっただけなんですけれどもね。
いやあ、難産ですわ。
未だにいい感じに図面を引けてなくてですね……現場事務所でウンウン唸ってるのがわたくしユウなんですわ。
「まーだ図面書いてるの? 今回は珍しく手が遅くない?」
こいつ……誰のせいで余計な時間を浪費したと思ってんねん……。
パンさんがちょろちょろ、ぐだぐだ言うせいでぜんっぜん進まなかったんだろ!
いくらさ、スマホ先生が仕上げてくれると言ってもさ、ある程度は真面目に図面を引かないととんでもない物ができちまうじゃんか。
そうなると、やっぱり机と椅子が欲しいだろ? けど、オープンテラスみたいな感じで作業をするとさ、きっとヒゲやら猫耳やらが、なんだなんだと集まってきて集中できねえじゃん?
こういう時は現場事務所だよな、取りあえず四畳ワンルームの小さな小屋を作ってよ、机と椅子を置いて作業スペースを作ったんだよ。
小さいながらも落ち着く空間でさあがんばるぞ! って思ったところにドヤドヤやってきたのが、なぜかすっかり出来上がってたパンさんよ。
『こんなところに居たのね! 探したわよーって、なにこれ。犬小屋じゃないの。あんた建てるんならもっと立派なの建てなさいよ』
なんていうわけよ。
ほんと失礼な酔っ払いだよな。
『うるせーな、現場事務所だからこんなもんでいいんだよ』
『だめよ! これじゃ寝るスペースなんてどこにもないじゃないの! ほらほら、さっさと拡張しなさい! ツールでちょいちょいのちょいでしょ!』
寝るスペース? なんかおかしなこと言ってんなっておもったら、もうテント生活は飽きたからベッドで寝たいとかいうわけよ。
現場事務所じゃなくて別荘として建て直しなさいとかいうわけよ。
正直付き合ってらんねーし、転移門開通したんなら、家帰って寝たらええやろって思ったけど、パンさんの奴ずるいんだよ。
『はじめてのふかふかベッドにはしゃぐナーちゃん。家とは違う場所のお泊まりにはしゃぐルーちゃん。一緒にはしゃいで、そのまま二人は遊び疲れてぴったりとくっついて眠ってしまうの』
『なにそれクソきゃわなんすけど』
そんな感じで上手く思考誘導されてしまった俺は、パンさんにあれやこれやと囁かれ……気づいた時には拠点に建てた家とそう変わらんサイズの家を建ててしまっていたわけなのですよ……。
あいつ、女神じゃなくて悪魔なのかもしれねえ……。
まあ……パンさんが言った通りに子どもたちは大はしゃぎだったしさ、二人寄り添ってスヤリスヤリと眠ってるの見て、パンさんと二人で『計画通り』ってニヤついたしさあ……ああ、そうさ、結果的に滅茶苦茶癒されたとも!
けど、それはそれなんだよ。
俺もさ、パンさんとはまあまあ長くなってきてるからさ、ある程度は許せるようになってるわけよ。
でもさ、ラインってのは……あるよなあ?
こうしてさ、昼からずっと人が頑張ってるっつうのにさあ……パンさんのやつ、なにしてると思う?
冷えたビールをグビグビやっては、ヒカリに絡み、クロベエにも絡み。
それに飽きたのか、今度は俺にがっつり絡んでんだよ……。
家を建てさせられたのは……許す。けど、今こうやって絡みついて、作業を遅延させまくってんのは許さねえ……――
「ふぁあ……ちょっと眠くなってきたかも……ねえ、ユウ。寝る前にお風呂に入りたいー! 早く作りなさいよー! ほら、早く作って作って作ってえ!」
――はあ……お前ね、その風呂を今から作ろうとしてるんだろうがよ!
もう怒ったぞ……そんなに風呂に入りてえなら……その願い、良いように利用してくれよう!
「なあ、パンさんよお」
「んなあによお? 今ガールズトークに花を咲かせてんだから静かになさい! あはははは!」
くっ! こいつ、風呂をねだったことを忘れてヒカリに絡んでやがる。
つーか、何がガールズトークだ。
一方的にヒカリに絡んでるだけじゃねえか。
しかも、同僚の女神に対する愚痴だぞ? それを聞かされてるヒカリがかわいそうでしゃあないわ……。
「風呂に入りたいならよ、家に転移して入ってくりゃ良いじゃん」
「あっ!」
その手があったかと、直ぐに立ち上がって転移しようとしやがったが、まだいかせねーぞ!
お前には大事なお使いを頼みたいんだからな!
オルァ! 強制転移キャンセルじゃ!
「あいたた……頭掴まないでよ! なに? あんたもお風呂入りたいの? いやよあんたと二人で転移なんて友達に見られたら恥ずかしいし……っていうか、折角設置してあげたんだから転移門からいきなさいよ」
お前……恋愛ゲームのヒロインみたいなセリフ言うんじゃねえよ……。
「いや、俺は別にいかねえよ。そうじゃなくて、モル助に言づてを頼みてえんだ」
「言づてえ? いいけど、面倒だったらやらないわよ」
「上手く伝達できたら温泉に入れるぞ、温泉だぞ、お・ん・せ・ん」
「おんせん~?」
「ああ、そこの源泉をよ、ちらっと鑑定してみたのよ。そしたらびっくり! 腰痛、肩こり、切り傷の他にアンチエイジング効果ときたもんだ」
「え、なにそれ」
「ぽちゃんと浸かれば、お肌すべすべ髪はさらさら、おまけに魔力も回復するというエリクサーめいた名湯だったんだわ」
「早く言いなさいよ、そういう大事なことは!」
「どっかの誰かが酔っ払う前に手伝いに来てくれてたら言えてたし、たぶん温泉も完成してましたわ」
「ぐぬぬ……ぐ……ぐ……」
おーおー、グウの音も出ねえとはこのことだな。
「お前に頼みたいのは、モルモルのお迎えだ」
「お迎えぇ?」
「ああ、モル助に浄水用のモルモルを二~三匹選んでもらって、こっちに連れてきてほしいんだよ」
「連れてこなくても明日ルーちゃんに召喚させたらいいじゃない。話はつけてくるからさ」
まじか……結構距離が離れているけど、召喚できるのかよ。
やっぱルーちゃんって規格外なんだなあ。
「じゃあ、そんな感じで頼むわ。もう基礎工事は終わってるからさ、召喚するのはいつでもいいよ」
「りょ」
と、言った瞬間パンさんの姿は消え、再び部屋に静寂が訪れた。
ほんと自由なやつだよ……。
大きな大きなため息が横からひとつ……。
……。
ストレージから焼いた肉塊を取り出し、ヒカリにそっと差し出してやる。
「アレが迷惑をかけたな……クロベエと一緒に食べてきな……」
「親父殿……有難うございます……ありがたく頂きます……」
疲れた顔から一転し、嬉しそうにクロベエの元に向かっていった。
かわいいネコチャンたちにまで迷惑をかけるなんて、ほんとひでえ女神様だわ。
さて、馬鹿の居ぬ間になんとやらだ。
今のうちに作業を進めておこう!
参考にしてるのは、AIのシュロップにピックアップしてもらった老舗旅館たちだ。こういう時、普通の転生者とか転移者って大変だろうな。
自分がそういう仕事に関わってたり、勉強や研究をしてた、とか、趣味でやってたーとか無い限りはうろ覚えでやるしかねえじゃんか。
和風の温泉旅館がどんな建物なのか頭に浮かべてみろよ。
ふわっふわのディテールしか浮かばねえだろ?
誰だってそう。俺だってそう。
そいつを元にして建てろって言われても無理な話じゃんね。
一を聞いて億を理解する、脳がチートで出来てる異世界棟梁なんかと知り合うところから始める必要があるわ。
そんな都合がいい現地チートキャラなんてそうそう出て来ねーっつーの。
ま、その点俺にはスマホ先生が居ますからね。
中には賢いAIのシュロップくんも住んでいるわけなので、相談しながら、あちこちの建物のいい感じの箇所を拾ってキメラ建造物を描き進めていく。
ここはリプラシルだからな……どっかで見たような感じでも、怒るやつは居ないのさ……あ、この飾りいいね……借りさせていただきまーす。
……
…
ふう、結構描けたな……。
しっかし、大して上手くないながらもお絵描きできてほんと助かったわ。
趣味でウスイマンガホンを描いてるんだけど、背景白いの嫌だから、建物なんかもそれなりに頑張って描いてるわけ。
それがこうして実を結んでると思うと……やっぱ嬉しいわ。
っと、こんなもんか……うん、いい感じに描けたんじゃねえかな。
いやあ、ほんと、酔っぱらいのアホが居ないと作業が捗るな!
つっても、もう朝の三時……空洞内のヒカリゴケ的なアレが、微妙に光量を増してきている……。
ちくしょう……明るくなってから寝るって、マジでウスイホン描いてるみたいであれじゃねえかよ……。
後は図面をスマホ先生に送って建てていただくだけだが……モルモル召喚してもらってからでいいな……ふぁあ、今日はもう取りあえず寝よう。
流石に限界だわ。
もぞもぞと毛布に潜り込むと、直ぐに睡魔が襲ってきた。
(そう……言えば……パンさん帰って……こなかったけど……どうしたんだろ……まあいいか……スヤァ……)
睡魔に抗うこと無く、眠りの海に落ちていくのだった。




