第18話 空洞の名物
広場に戻ると、目覚めた酔っ払い共がせっせと掃除をしていた。
遅くまで……いや、一部は朝まで飲んでいたというのに、なんかもう元気いっぱいなのは流石ドワーフといったところだろうか……。
……ガワが猫耳幼女な姉さん方も、中身はしっかりドワーフらしいのだが、ヒゲ共のケツを蹴り飛ばしながらせっせと掃除をしている姿を見ると、マジなんだなあって思わされるぜ。
この分ならマルリさんも起きているだろうと、家に向かうと……ちょうど散歩に出ていたのだという彼女とばったり出会って、そのままおうちに招待された。
「いやあ、昨夜は楽しかったのう。あんなに美味しい食べ物があるなんて、ユウが住むところが羨ましいのう」
「そうは言いますがね、ここにも向こうの村にはない物が色々あるし、そこの連中が羨ましいなって思うものはいっぱいあると思いますよ」
「そういうものかの……ところで、ユウはよく『ムラ』と言っとるが、そのムラというのはなんなのじゃ? わしらの空洞みたいな感じのようじゃが」
流石はマルリさん、とってもジーニアスだぜ。
「そう、人が集まって暮らしてるという意味ではそうなのですが、実はですね――」
俺の家がある雪が無い土地には、森で獲物を狩り、畑で様々な野菜を作る人間たちが集まって暮らしているということ。
俺がテコ入れをして狩りの効率が上がったこと、うまい肉を求めて他所から人が集まってきたこと、物々交換を効率化するため通貨と言うものを作ったこと。
そして、より効率的に管理するために、村という集合体を作ったこと……。
俺が話すこと全てに、ほうほう、ふむふむと、興味深そうに食いついてくれるマルリさんめちゃきゃわわだぜ。
うまい肉や野菜の話にがっつり食いついたのは予想通りだったけど、村の仕組みや通貨にも目を輝かせて興味深そうにあれやこれや質問してくれたのには、流石と思ったし、嬉しかったわ。
ナーちゃんの通勤用にと、設置された転移門だが、それを住人たちに解放すりゃあ、春の大地と冬の大地の交易だってできてしまう。
……ダンジョンを使うわけなので、その辺のルールやら仕様やらをしっかり組まなきゃならねえけどな。
転移門ありきの交易ってのはアレだけれども、まあいずれはそれがなくても行き来できるようになるだろうし、その頃には転移門の利用料を徴収するようにすりゃあ、いい感じに利用者もバラけるようになるだろうし……。
……きっとどうにかなるはずさ。
そうなると、ここにも勿論、通貨を導入しないといけないし、それを含めた新たな仕組みを効率よく住人たちに浸透させるためにも『空洞』の村化は早めに実現しなければならないだろうな。
……と、言うような話を転移門の部分はボカして説明すると、マルリさんはとっても乗り気で。
「この大空洞には、ここ以外にもあちこちに人が住む空洞があっての、それぞれ坑道で繋がっておるんじゃが、ここが面白くなれば、バラけて暮らす連中も集まるじゃろな」
「あー、ここもそういう感じなんすか」
「うむ。そうしたら、ムラと言うものにしてもいいじゃろう。なんかないかのー? ユウならなにか人が集まる面白いものをここに作れそうなんじゃがのー。ムラにしたいんじゃがのー」
なんだこのへたくそな演技。
なんだこの、遠回しに見えてダイレクトなおねだり。
なんだこの、なんだこの……めっちゃ可愛い生き物は!
かーっ! しょうがねーなあ! マルリさんのためだしなあ! ここは俺がバシッと一肌脱ぐとしますかねえ!
皆さんは薄々……いや余裕でお気づきかと思いますけれども、わたくし、この地に温泉を作りたいと考えています!
熱くて臭くて役立たずの泉って、もはやテンプレじゃんね。
そんなもん、どう考えても一番の目玉に化けるじゃんよ!
「なあマルリさん。空洞のどっかに熱い泉があるって聞いたんだけどさ、それってどこにあるんです?」
「うん? ああ、あの臭い泉かの? そんなのどこにでもあるわい」
「どこにでも……そういやあちらこちらから湯気がたってんな、ここって。じゃあさ、冷たい泉ってあります? みんなが水汲んでるような場所なんですけど」
「ああ、そこら中にあるのじゃ。地下を通る川が顔を出す場所があちこちにあっての、そこから流れ込んだ水が溜まっている場所がいくつかあるんじゃよ」
いいぞいいぞ。バッチリだ。この様子ならすぐにでも作れちまうな。
「じゃあ、熱い泉の近くに池があるような場所ってないですか?」
「なんじゃ、質問ばかりじゃな? どうして水の事ばかり聞くんじゃ?」
「それはね、その二つが揃った場所になら、面白いものを作れるからです!」
「面白い物じゃと! なんじゃなんじゃ! 詳しく教えるのじゃ!」
ああ……のじゃろりがジッタバッタとして……結構なおばあちゃんなのはわかってっけどさあ……見た目は猫耳幼女じゃん?
ついつい頭をなでてしまうのは仕方がない話だよな。
「これ! 撫でるでない! それよりじゃ! 面白いものとはなんなんじゃ!?」
「熱い泉は臭いし不味いしで見向きもされてないですやん? でも、あれを上手に使うと、疲れが取れたり、お肌がすべすべになったりするんですわ」
見た目は猫耳幼女でも中身はおばあちゃんだ。疲れが取れる、お肌スベスベと聞いて俄然興味津々になる。
「あれで……疲れが取れる……お肌ピチピチじゃと? それはよいのう! よし、案内するからついてまいれ!」
「……ピチピチまではいってな……マルリさん!?」
「なにをしちょる! こっちじゃこっちーじゃー!」
まだ説明は終わってねーっつーのに、待ちきれんとばかりに家を飛び出し、こっちじゃこっちじゃと手招きをするマルリさん。
このキビキビとした動き……老人ってレベルじゃねえ。
もしかしてあれなんかな? 実は寿命が三百年とかで、この年でも若い方とかそういうアレかな……でも長老っぽい扱いされてたしな……わっかんねえ。
いやほんと、あの女神のパラメータ設定わけわっかんねええええええええってええええ。
ちっこい身体ですばしっこくチョロチョロ走るもんだから、油断すると見失っちまうんだが、定期的にぴょこぴょこ飛んで居場所を教えてくれてな……そのしぐさがまたこう、愛らしくってもう!
もうあれだ、わざと迷子になってみようかな?
『こっちじゃ』と振り向いたとき俺が居なかったらどんな顔すんだろな?
ありゃりゃ? ってキョロキョロすんのかな? チョコチョコ動いて探してくれんのかな? あああああ! 試してえ! 試してみてえ!
「ここじゃここじゃ! どうじゃ? 左に泉、右に池! ユウが探していたのはこんな所じゃろ?」
ちっ……残念ながら目的地についてしまったらしい。
しっかし、なんとまあ、絵に描いたように都合が良い地形だこと。
周囲に建物はねーから結構広く使えそうだし、これなら思う存分作れそうだ。
「さっすがマルリさん。この場所ならバッチリ作れそうですよ。ところで、ここって俺が好き勝手に弄りまわしていいんです?」
「勿論じゃ、そのつもりで案内してきたんじゃからの! 泉が近いせいか、ここの池はあんまりつかわれんからの。誰も文句は言わんし、好き勝手に使うとええ」
そういうことなら、さっそく使わせてもらおう。
お湯や水を引く工事をして、建物を建てて、魔導具を設置して……。
うーん、半日もあれば出来そうだな……。
それもこれもスマホ様のおかげじゃな……拝んでおこう……よし。
「じゃあ、さっそくだけど、取り掛からせてもらいますよ。ちょっと時間かかるし、見てて面白いもんでもないからさ、マルリさんはおうちで休んでていいっすよ」
「そうかの? 暇じゃし見ててもいいんじゃが、居ても邪魔になりそうじゃしそうさせてもらおうかの」
ピコピコと手を振って去っていくマルリさんを見てちょっと後悔。
作業に疲れたときの癒やし役として居てもらっても良かったかもしんねえ。
邪魔になるどころか『おお! 今のはなんじゃ!』『凄いのじゃ!』『流石ユウなのじゃー!』なんて、のじゃろりサスユウエールをたんまりもらえて最高だったのでは……。
くっそ、俺としたことが……
……過ぎたことはしょうがあんめえ。作業に集中しよう……。
さて、まずは上下水道工事といきてえところなんだが……ここには肝心要の、よく訓練されたモルモルが居ねえんだった。
しょうがない、とりあえず形だけ作って後から派遣してもらうことにするか。
まずは整地からっと。
ここって、洞窟の中なのに不思議な事に足元は土なんだよな。
洞窟の地面っていやあ、岩そのものか、砂やら粘土やらが堆積してて、土はねえし、植物も無いって感じの印象が強いんだが……そこはさすがはファンタジー世界というべきか。
この大空洞と呼ばれる土地は、どの空洞にも土があり、マサモを育てる畑があるらしい。
とうぜん、畑以外の場所もこうして土の地面があるわけなんだが……地球の洞窟を知る俺からすれば、なんだか違和感が半端ねえんだよな。
まあファンタジー世界であるリプラシルでそんなことを考えてもしょうがねえので、気にしないことにしよう……っと、こんなもんでいいか。
次は浄化処理用の穴を掘ってと……むむ、ちょっと深めに掘ったら岩盤が出て来たが、これはこれで都合がいいな。
えいえい、ゴリゴリっと……。
ツールで整えるだけで浄化槽の出来上がりだ。
近くを流れる川のおかげで地熱の影響もなさそうだし、モルモルが煮えちまうようなことはなさそうだ。
そんで排水先は……川でいいか。
水路を川まで伸ばしてっと……。
川の水は池に溜めて飲料水にもしてるらしいが、モルモル浄水は飲用可能レベルまで綺麗に浄化されるからオッケーだ。
何度か作ってるおかげか、流石にサクサクと出来るな……ようし、こんなもんか。
あとは上物、建物なんだけど、どうすっかな。
ここの建物は石造りだから木造は目立って良さそうだな。
ここは高温多湿だから傷みやすいような気もするが、そこはスマホの力で雑に何とか出来るはず……!
木造となりゃ方向性はやっぱ和風……そうさ、温泉旅館だ!
うっし、設計がんばるぞい!




