第8話 マサモやべえ
「うおおおお! なんじゃこれはうまいぞおおおお!!」
「ちょっと! それはあたしんだよ! あんたのはそっち!」
「お! おかわりもあるのか!?」
「この野菜、甘いぞ!」
「肉が! 肉が! ああ! 肉が! 肉が!」
いやあ、ただでさえムワっと暑いとこだっつうのに、興奮しまくった住人たちの熱気で広場の気温が急上昇! くっそ暑くて大変だわ!
なんだこれ、なんだこれ! どうしてこうなった!
はい、俺のせいですね。
最初はさ、何列かに分かれて並んでもらって、俺やパンさん、奥さん方でお振る舞い用の鍋を配ってたんだけど……食い終わったやつがまた並ぶわけじゃん。
無限ループじゃん。
いつまでたってもお振る舞いマシーンから解放されねーじゃん?
奥さん方だって食いてえだろうし、俺もめんどくさくなってきちゃって……『お前ら勝手に好きなだけ取って食え!』なんてセルフに変更した途端……騒ぎが大きくなってしまったんよ。
ほんとはさ、鍋を食べて貰いながら使われている素材とか、その入手法なんかを説明してさあ、始まりの村でやったみたいに、プレゼンの流れに持って行くつもりだったんだけど……もう、こいつらは完全に話を聞けるような状態じゃあないんだわ。
始まりの村でやった謝肉祭もさ、まあくっそ盛り上がったし熱気に包まれてはいたよ。
でもさ、俺が話し始めたらちゃーんと聞いてくれたし、肉を取り合うこともなく、それなりにお行儀よく盛り上がってくれてたわけよ。
だが、ここの連中ときたらどうだ。
大人しかったのは最初だけ……気付けば肉鍋を取り合ったり、肩を組んで騒ぎ始めたり、なにやら相撲のような力試しをはじめたり……。
もうね、俺がどうこうできるレベルを越えちまったんだ。
どうしてこいつらがこうなっちまったのか。
試食会が始まるまでは、まだ大人しかったのに、なぜこうなっちまったのか?
その答えはもうわかっている。
そう……それは、この土地『空洞』に、始まりの村には無いアレがあるからだ。
「そういやそうだったわ……」
なんか勝手にコンロと食材を使って料理を作りまくっている女たち……。
ご機嫌な顔でそれを受け取り、ムシャリとやったあと、腰の瓶をぐいっと口に運んでグビグビと旨そうに喉を鳴らす男たち……。
ドワーフの女性たちが作った料理は、妙に味が濃くて美味しくて……ああ、喉が渇くわこれ……うめえけど……喉が渇くわ……。
うん、しょうがないよなあ、みんなも始めちゃってるつうか、すっかりできあがってるもんなあ!
「ああもう、段取りなんて知るかばか! 俺も飲むぞおおおおお!」
そう、この空洞には酒の概念が存在しているのである。
うん、パンさんが言ってたよな……水の代わりに酒を飲むような奴らがいるって。
ぜってえ、ドワーフのことだわ……。
「お、ユウさんもはじめるのかい? はいよ、ぐいっとやっちまいな」
どう見ても少女にしか見えない女性から渡された器には、とろりとした濁りがある液体が入っている。
これがこの土地で飲まれている酒であり、鑑定先生によると「マサモ」という、どっからどうみてもサツマイモまんまの野菜から作られているらしい。
「どれ……いただきます……と」
クイっと一口……む、これは……知ってる味だな?
ああ、なるほど芋焼酎っぽいんだな。
口当たりは活性原酒のようだが、鼻に抜ける香りはまさしく芋焼酎。
……そっかぁ、イモかぁ……しかも、俺好みの匂いが強いやつじゃねえかよお……!
このままでも悪くねえが……どうせなら……スマホ様、スマホ様……お願いします……こいつを素材に……おお、できるんすか、流石は女神の力を得たスマホ様や!
クラフト時間は……おお、まさかの五秒? やるじゃないっすか!
……はい、できた! 外で回収しておいたアレを入れて……と……んん!
これは……!
「パンさん! パンさんちょっと……あ、こいつもう酔っぱらってやがる!」
「ああ、ユウも飲み始めたのねえ。ねね、おいしいよねえ、ここのマサモざけえ」
「そんなうめえ酒をよ……もっとツヨツヨにしたのを飲みたかねえか?」
「ええ……? つよつよぉ? どういうことよお……」
「まあ、まずはご賞味あれってね……スマホ様が加工したこいつを飲んでくれよ」
「えぇ……? なによこれ……グラスにツララが入ってるじゃ……んっ!? うっわ、イモのロックじゃん!」
「へへ、元のも美味いんだが、これはどうしてもロックでやりたくなってね。まさか蒸留めいたことまでできるとは、スマホ先生半端ねえわ」
「あー、マサモ酒を素材にしてマサモ焼酎を作ったのね……うーん、流石はあんたとリンクしてるだけあって、自由なアプリよねえ……」
「え、なんか怖いネタが聞こえたんだけど……リンク……?」
「ふしゅー……ぴゅふー……ピィー……あ! 吹けたわ! ねえ、ユウ、口笛が吹けたの! わあ、あたし口笛吹けたの初めてだわ!」
「おい、こら話を逸らしてんじゃ……うっわ、ガチで喜んでる……って、顔真っ赤じゃねえか! あー、マサモ焼酎一気にぐいっとやったのか? これ四十五度あるっつうのによお」
「えへへ……ねえ、ユウおかわりちょうらい……」
「ええ……? いいけどよお、ツララあんまし取ってねえから程々に――」
「ええ? ツララァ? なあにケチくさいこと言ってんのよ……氷くらい……あたしが……えい!」
ズゴーン!
「うっわ……マジかよお前……」
こいつ、広場のどまんなかに小さな氷山作りやがった……。
「おお、なんだ?」
「氷の山が出てきたぞ!」
「おい、ユウさんの奥さんが氷山を削って、酒に入れて飲んでるぞ!」
「おお、ありゃあうまそうだ!」
「うおおお、俺もやろ!」
……ここの奴らすげえな、特に気にせず受け入れてるわ……せっかくだから俺も……。
「うーむ……この氷で飲むと妙に美味いな……って、これ大丈夫なんか?」
ポヒュ!
『パンさん、この氷って加護的なアレ、だいじょぶそ?』
……既読がつかねえ!
「おい、パンさん、メッセ見てくれ!」
「うーん? なによお、隣にいるのに、メッセなんかおくったのお……ん……」
ポコン!
(冷や汗をかきながらグッジョブする猫のスタンプ)
……大丈夫じゃなさそうなんだが……。
ポコン!
『……ま、まあ……健康になって、ちょっぴり寿命が延びるくらいみたいだから……セーフ? みたいな?』
信用できねえ追撃が来たぞ……。
このちょっぴりが、どれくらいなのか怖いんだよなあ……。
まさか、ちょっぴり(60年)とかじゃねえだろうな……。
……まあ、マルリさんの寿命が延びると思えば……よし、良いことにしよう!
ええい、めんどくせえことは後だ後! 今日はもうお酒の時間なんじゃい!
マサモ焼酎のロックをぐびりとやって……野菜の煮物をパクり……ハァー! 最高だぜ!
住民たちが飲んでいるのは普通のマサモ酒だが、それのロックもなかなかにいけるらしく、ヒゲと猫耳がわらわらと氷山に群がっては、氷を削って酒に入れている。
ヒゲはともかく、猫耳の方はコンプラ的に不安になるのだが、スマホを通してみれば(四十八)(三十三)(五十九)(百)と見えてるから……まあ、大丈夫なんだろう。
百歳と十二歳の見た目がほぼ一緒なので、しれっと子どもが混じって飲んでやしないかと、一応チェックをしてみたのだが……どういうわけか、飲んでいるのは大人ばかり。
これはもしかすると、ワールドシステムになにか仕込みがあるのかもしれねえな……。
つまり、俺は細かいことを気にしてハラハラする必要がないってわけだ。
この、酔っ払い共と一緒に馬鹿騒ぎしても問題ないってわけだ!
ようし、こっからは本気で飲むぞ!
「よおし、お前ら注目だー! 特別にクッカのローストをお振る舞いだあ! 沢山あるから適当に分けて食え食え! そして飲め飲め! 今夜は宴会だあ!」
「「「うおおおおおおお!」」」




